あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズさんとハヤテくんよ-6

自転車で飛ばし、時折何度か休憩を挟んで、ヴァリエール邸への到着は休息を含め丸一日かかった。
「あんた、ホント色々と無茶苦茶よね」
「流石に、強行軍は疲れました……」
疲労が溜まった身体に鞭打ち、荷台にルイズを乗せたまま自転車を牽く。
そんな二人を、朝焼けの光に照らされた、学院に勝るとも劣らない広大さを持つ巨大な洋館―――いや、城と呼ぶべきだろう―――が待ち受けていた。
「……どこの国でしょうか?」
「国じゃないわ。私達ヴァリエール公爵家の、本邸よ」


「お帰りなさいませ、ルイズさま」
玄関に着くや否や、急な帰還に慌てて使用人やメイドが集まって来た。彼等は自転車を奇妙奇天烈な金属の馬かと勘違いしたものの、ルイズの仕舞うよう言った指示に素直に従う。
「あの、ルイズさま?」
「何かしら?」
扉を開こうとして呼び止められたルイズが振り向き、あちゃーと顔を手で押さえた。
後ろをついて来ようとしたハヤテが縄でグルグル巻きにされ、複数人に拘束されている。「HELP!HELP!」と、どうすればいいか目で訴えていた。
「このボロ着を着た平民、ルイズさまの後ろを着いてこようとしてましたが」
「あー……それは私の使い魔よ。人間だけど、私の使い魔。だから、解放して」
「は? ……は、はい、了解しました」

「で、ちいねえさまの容態はどうなの?」
「そ、それは……私どもの口からは何とも。カトレアさまに、直接お会いいただければ」
尋常で無い口のつぐみ方に、よもや最悪の事態、もしくはそれに順ずる事が起きたのかと、二人は身を硬直させる。
「お嬢さま」
「行くわよ。行くしか、無いじゃない」
僅かな安心でも手に入れたかったか、ルイズは無意識のうちにしもべの手を握り、先導するように引っ張って行った。


『果たして、カトレアの部屋の扉を開けた二人を待ち受けたのは、衝撃の事実だった!』

「あら、ルイズ! 小さなルイズ! どうしてここにいるの?」
例えるなら蹴破れそうな勢いで開いた扉に、部屋の住人は一瞬驚きに身を竦ませたが、相手が親しい人間と分かって双眸を崩す。
病弱で一刻の猶予も無いと言われていた女性は、そんな気配を微塵も見せずに元気に立ち上がっていた。
その様子に、驚きを隠せないルイズ。
「ち、ちいねえさま! 眠ってなくていいの!?」
「?」
最初は思い当たる節も無く、歳に似合わず可愛いらしく首を傾げるだけだが、言葉ももどかしく妹が手に掴んだ手紙を見てようやく納得した。
「なるほど、ね。大丈夫よ、いつもよりちょっと苦しくなったのを、使用人の方が大袈裟に書いたみたいなの。お陰で小さなルイズに遭えたんだから、感謝しなきゃいけないわね」
「よ、よかったぁ……」
実際の姉の声と姿を確認し、安堵したのか、ルイズは腰を抜かしたようにへなへなと絨毯に座り込む。
そこでやっと、カトレアは不自然に浮き上がった腕から繋がれた手と手、そしてその先の少年に気がついた。
「あら、あなたはだあれ?」
「―――えっ! あ、いや、その」
カトレアにうっかり見とれていたハヤテは、突然話を振られてうろたえる。

『何を隠そうこの綾崎ハヤテ、某ハムスター曰く、大人っぽい女性―――特に頼りがいがあって綺麗で優しい人がタイプであるからして。
 カトレアはまさに、ど真ん中に近いストライクゾーンっ! そういえばコミックスゾーンって洋ゲーがあったよね? ってぐらいどんぴしゃりなのであったぁ!』

(ちょ、何勝手に人の心を暴いてるんですか!)

「まあ、もしかしてルイズの恋人?」
「ち、違います!」
勝手に空想する姉から今度は自分に矛先を向けられ、全力で否定するルイズ。
「そう? さっきからずっと手を繋いで、仲いいわねって思ってたのに」
指摘されて初めて気付く事実に、ルイズは振り払うように手を離した。
「~っ! これはただの使い魔だもの!」
「グサッ、ただの……」
自分が使い魔だと弁えているとはいえ、ただのと強調されると結構クルものがあった。
「使い魔? 本当かしらぁ?」
「召喚した時に出て来たの。好きなんかじゃないんだから!」
「好きじゃない……!」
必死で抗弁するルイズにカトレアは母親のようにほほえましく笑みを浮かべ、
「ルイズったら悪い子ね。その子、落ち込んでるわよ」
振り向いた先には、僕なんか僕なんかと呟きながら屈み込み、頭の上に暗闇を浮かべながら「の」の字を書き続けていた少年が一人。
「ああもう、最近見ないと思ったら! 言葉のあやでしょ、いちいちへこまない!」
「素直じゃないわね、ルイズ」
「ちいねえさまー!」


カトレアが容態急変と聞き、ルイズより先に父母ならびにもう一人の姉が駆け付けたが、前述のオチを聞き、父は急ぎの貴族の集いに、母は珍しい外出の用事に、姉は一日カトレアの様子を見てから使用人に後を任せてアカデミーへと、それぞれ外出した。
それから僅かも経たずして、偶然ルイズ達が到着した、との事だ。
寄しくも珍しくヴァリエール家がみんな出掛けてしまい、カトレアが再び大事を取って眠ったので、ルイズ達はのんびりとした一日を過ごしていた。
今日は休み、明日の早朝に自転車で発つ予定。
とは言えど、今日した事と言えばカトレアの看病をし、ルイズの金持ち具合に改めて度肝を抜かされ、一日中自転車を走らせた疲れを癒しただけで日中が終わった。
そして夜もふけ、夕食を終わらせた頃……。


ハヤテは、屋敷の中庭の池のそばで、背中にデルフを縛り付けたまま一人たたずんでいた。
池の周りには季節の花が咲き、池の真ん中にある小島には木の橋がかかっている。あまり人が立ち寄っていなさそうな雰囲気ではあったが、雑草が見当たらない事から手入れはされていると分かる。
そんなうらぶれた場所を右へ左へうろうろしているハヤテは、ただ単に人を待っているだけだった。

夕食後、ルイズの部屋で睡眠前の準備をしていた時の事。姉ゆずりのふわふわした長髪をブラシですいていると、唐突に主が思い出したように告げる。
「……そういえば、昨晩は『ブリッグの舞踏会』だったのね」
「舞踏会……ですか?」
「説明、いる?」
ハヤテは、自分の想像とそう違いは無い筈だと予想する。
男女とも外行きの金をかけた派手な服装を用意し、山ほどの高級料理を食べ、談笑に花を咲かせ、二人一組で踊る。
そのイメージを主に告げると、彼女は「大体その通りよ」と肯定し、突然の提案を繰り出す。
「ねぇ……何なら、踊ってみる?」
「どこで、ですか?」

この家。月の下。中庭で。その提案に、戸惑いを隠せない。
何故そんな事を、言い出すのだろう? 舞踏会に出たかったのだろうか……とは何故か思えなかった。そんな事を尋ねてみると、
「い、いいじゃない、別に。それとも、私とは嫌なのかしら?」
「と、とんでもありません! むしろ、僕なんかがお嬢さまと……はい、ブラシ終わりました」
「私が構わないって言ってるんだから、いいのよ」

それは、本当に気まぐれだった。月を見ていたら、考えるより先に口から滑り落ちた言葉。
慌てて動揺を隠し、後付けの理由を考えてみたものの、どうもしっくり来ない。
舞踏会で踊りたかった……という訳では無い。どうせ自分に寄る相手も踊りたい相手もいない。
ハヤテのいつもの労をねぎらう……というのもいまいちだ。確かに我が儘も言わないしきびきび働くし優しいしまあ顔も悪くないが、これでも平民にしては優しくしているつもりだし、何かそうする決定打が足りない気がする。
あれやこれやと考えたが、どれも据わりが悪い。そこで開き直り、いっそ理由なんか無い事にした。理由なんて、後で考える。
そうして、半ば強引にハヤテに約束を取り付けさせた。


その結果として、ハヤテは中庭にいた。
ルイズを待ちながら更に5分程待ちぼうけを食らっていると、沈黙に耐えられなかったか、ただお喋りなだけか、デルフが口を開いた。
「しっかし、いきなり踊ろうだなんて、青天の霹靂だな、娘っ子は」
「まあ、唐突ではありましたが」
「ありゃ、娘っ子は相棒に少しは気があると見たね。俺様の目に狂いはねえ」
「目なんてどこにあるんですか」
どこか見当違いのツッコミを入れながらハヤテは嘆息し、
「大体、そんな事ある筈ないでしょうに」
「いいや、自信を持ちな。
 只でさえ使い魔、しかも平民が貴族のダンスの相手を務めるってぇだけでもおでれーたのに、二人きりだぜ?
 晴れた夜空の下、二つの月が照らし、星ぼしだけが観客の劇場。ロマンチックな光景に甘い言葉の一つでも囁けば、ふらふらっと来る事間違い無しだね、これがな」
「二人きりって、デルフがいるじゃないですか」
「俺様は空気読みのプロだぜ? 外しはしないさ。
 おっと、それより来たみたいだな」

誰かが駆け寄ってくる足音と息遣いを聞き取り、ハヤテは振り向いて、
「…………」
「…………」
二人、もとい一人と一本は我が目を疑った。
目を擦り、眠気にやられたかと頬を叩き、もう一度『ルイズ』を見て、
「…………黒の組織?」
そう疑うのも無理は無かった。

『まあ普通に言えばろりぃな体型だった主人の身体が、ブートキャンプもびっくりのダイエットで、ペドぉな感じに縮んでいたのだったぁ!』

つまり、伏線も無く突然に、ルイズの体躯が小さくなっていた。
その癖、貴族の誇り満々な目の輝きと特徴的なピンク色のふわり髪は代わりはしない。
余りに唐突な事に口をパクパクと金魚みたいにしか出来なかったが、「落ち着け……素数を数えるんだ……」と自己暗示をかけ、ようやくハヤテは一言だけ捻り出した。

「……体、縮みましたね。お嬢さま」


若きルイズの脳裏に浮かぶ言葉はは困惑の一言につきた。
今夜もまた母からは魔法の出来が悪いと叱られ、自分を捜す召使から逃げていた。
そして彼女自身が『秘密の場所』と呼ぶ、中庭の池に向かう。
屋敷の敷地内の中でも忘れ去られた場所であり、ましてや池に浮く小船一つを気に留める者は誰もいなかった。
今日も船の中で、毛布に潜り込んでやり過ごそうと思っていたが、しかし今回は勝手が違っていた。
池の側に立っている青髪の、背中に剣を背負う男を認め、先回りされたかと立ち止まる。
が、よくみれば服は平民でも見ないほどみすぼらしく、大体剣を持たされている召使なんていたかしらと考え、
(最近お父様は狩猟に興味があるらしいから、その付添人かしら)
と結論づける。

広い公爵領、いちいち召使の顔ひとつ覚えていられないのだ。

やはり向こうもこちらを知っているらしく、反応は驚きを隠していなかった。
が、沈黙のまま何もしてこないのを疑問に思った矢先、男は失礼な言葉を吐いた。

「……体、縮みましたね。お嬢さま」


ハヤテは早打ちの勢いで爆破された。弁解の隙も無かった。
最近は鳴りを潜めたものの、最初はよく突っ込まれた事もあり、身体が勝手にデルフを楯にしたお陰で被害は軽微だったが。
「いや相棒、容赦無くね? まあ、俺様は武器だからしゃあねぇけど。しかし、いま何か思い出せそうな……」
というデルフの呟きは、続いてルイズらしき幼女とやり取りをしていたハヤテには届かなかったが。

「め、召使の分際で、このルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールに何て失礼な事を言うのよ!」
「……え?」
一瞬聞き間違いかと思った。続いて耳の穴をかっぽじってから、もう一度と促す。
「何? だから、召使の分際でこのルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールに―――」
「じゃあ、お嬢さまなんですか?」
「それ以外に何があるのよ」
怒りながら胸を張る幼女はルイズと名乗っている。
確か事前の家族説明にも妹の存在は無かったから、誰かが謀っている説は少なそうだ。
(僕を騙して特に利点なんて無いし)
まさか本気でそういう薬か魔法があるのかというのも考えながら、次の質問に移る。
「お嬢さまは……何歳でしたか?」
「6歳よ?」
何言ってるの? とジト目で睨む幼女。一方、相棒の軽い狼狽を察知したか、デルフが口を開いた。
「相棒。何だか周りがぼろっちいってえか、急に荒れてないか?」
その言葉に、初めて周囲の草木があからさまに違う事に気付いた。

『ハヤテ達は知るよしも無いが、この頃の池は誰も寄り付く事なく、結果として雑草が生い茂り、ルイズの隠れ場となっていた。草木は大切にね?』

しかし向こうに見えるヴァリエール邸や、大まかな景色は変わらない。これらの材料から、ハヤテの脳裏に一つの、突拍子もない推理が浮かび、呟く。
(まさか……これは過去?)
クリスマスイブに全財産を失い、バスに轢かれてなお生存し、おまけに某針ポタもびっくりの魔法世界に喚ばれるという非常識三連打を一日で達成する程何でもありだったが、いきなり過去に飛ばされるのはアリなのだろうか?
その辺りの疑問を解くべく、最後に一つ尋ねた。

「あの、確認なのですが、今は何年でしょうか?」
「変な質問ね?」
決まってるじゃない、と言われた年は、以前教えて貰ったものから十年は前だった。やはり、予想は正しかったらしい。
ならば、僕のすべき事はなんだろうか?
言うまでもない、一刻も早く現代に戻る事。そして、過去に出来るだけ干渉しない事。
うっかり影響させて過去を変えてしまえば、何が起こるか分からない。
最悪、帰るべき未来―――自分の世界ではなくルイズの世界のと言うのは皮肉だが―――が消滅してしまうと、デロリアンの偉い博士も言っていた気がする。
ここは、何事も無かったかのようにごまかして、やり過ごすしか……

「相棒! つーことは、此処は過去か! 俺様達は昔に飛んじまったって事か!
 こいつぁおでれーた!始祖ブリミルもびっくりだ!」
(ちょ、空気読め―――!)



さっき空気読みのプロだとか言ったのを一瞬にして撤回する所業に、ハヤテは頭を抱えて絶望した。
ちびルイズの方は目前の平民が持つ剣が喋り出した事に驚きはしたものの、その話の中身の方に興味が移っていく。
その二人の反応も、おでれーたおでれーたと連呼する今のデルフには関係なかった。
「しっかしそれを考えると、昔から娘っ子はちっこいままなんだなぁ。牛乳ちゃんと飲んでるのか?
 ああ、未来でもちびっこいし胸無いし怒りっぽいから飲んでないだろうなあ」

「―――ねぇあんた、その剣貸してくれない? ちょっと暴言吐きすぎのそれの頭冷やすのに、池に浸けたいから。
 具体的には池の底まで」
「奇遇ですね、僕も喋りすぎでノットエアリーダーなこれを放り投げたいなあとか思ってたんです。
 具体的には池の底まで」
「うぉい、ちび娘っ子! 両手で俺様を持ち上げて、何する気よ!
 相棒も邪悪な笑い方しないで助けてくれよ!」



結局喋ったものは仕方が無いと、ハヤテはちびルイズに自身が未来から来た事、そもそもルイズに召喚された事を白状した。
が、それを聞いてちびルイズは初めは疑い、次にルーンや未来ルイズの特徴を挙げるにつれ、酷くがっかりした様子を見せた。
「使い魔が単なる人間で、おまけに10年経ってもまともな魔法一つ、使えないのね……」
「お嬢、さま……」
「私、これからもずっと、まともなメイジになれないんだ……」
未来がちびルイズを打ちのめし、悲しみにうなだれる。そんな主の顔を、ハヤテはいつか見た事があった。
それは、喚ばれてから初めての授業。爆発を起こした後の、落ち込みに……

「―――っ」

回想に浸るのもつかの間、小さな主の瞳から生まれた雫に、ハヤテの思考は焦躁に加速せざるを得なかった。
何せ無限の未来がある若者に、貴方の将来はダメダメですと言われて悲しまない少年少女はいない。
まして貴族なのに魔法が使えないコンプレックス持ちの少女相手、普通ならホラ話と一蹴すべきものにさえ、縋り付きたかった。
一生このままではとの不安を振り払い、将来は普通に魔法が使えているだろうという希望を持ちたかったから。

小さくとも少女の流すそんな涙に男は弱く、ハヤテもまた例外では無い。
(どうするよ僕、どうする、ライフカード……ってボケてる場合かっ!)
何かを言わなければならない、だが何を言えばいい?
ここで選択肢を間違えれば即バッドエンドだが、生憎選択肢は無限にある。
失敗したら時を戻せるキッ○お得意の選択肢で強制クイックセーブは、現実には存在しないのだ。
落ち着け……落ち着けよハヤテ……

(そうだ、話題……じゃなくて、考え方を変えよう!)

さっきまで思い付かなかったアイデアが閃く。
(この小さなお嬢さまの性格を過去から変えて、もっと社交的にしてしまおう!)
自分が見た範囲の学院でのルイズの友人……に近い知人は、知る限りシエスタとタバサとキュルケのみ。しかも前二人に至っては、ハヤテが召喚されてから付き合いが開始したような感じだ。
きっと、魔法を使えない負い目や周囲からの嘲りや憐憫、ならびにそれに伴う、それでも貴族たろうとする苦労からの性格のキツさかもしれない。

ならば、とハヤテは決意する。
小さい頃から魔法を使えない苦しみや悲しみから主を守れば、そんなコンプレックスが薄くなり、もっと友人が出来るのでは無いだろうか?

(やろう! 大丈夫、僕なら出来る! 僕の力で、お嬢さまを変えて見せる!
 ホームページに乗せなきゃいけないぐらい誤字があっても『大丈夫! ファ○通の攻略本だよ!』って言ってる所もあるぐらいだし!)
そんな暴走一直線の結論に則り、ハヤテはちびルイズの手を取った。

「大丈夫です!」
「……何がよ?」
「僕が、君を守るから。どんな苦しみや悲しみからも、過去でも未来でも、僕が君を守るから……」
「か、悲しみって何よ?」
「お嬢さまを全力でサポートします。
 魔法の練習が必要なら、僕が練習台になります。
 使えない理由があるなら、僕が調べます。
 お嬢さまが魔法が使えないなんて笑う者がいたら、そんな声から僕が守ります」

一息に言い切ったハヤテに対して、ちびルイズは俯いたまま動こうとはしない。その均衡が続きに続き、沈黙に耐え切れず先にハヤテが身じろぎした時、

「よくも……!」
「は、はい、何でしょう?」
「よくも簡単にそんな事言えるわね! 魔法も使えない平民の癖に!」
「おい娘っ子、幾ら昔のだからって言っていい事と―――相棒?」
反論しようとする剣の刃に手を置き、ハヤテはデルフを制する。
「練習なんて無駄よ! 何の魔法を使っても、何回やっても、爆発、爆発、爆発ばかり!
 調べたって無駄! うちは公爵家よ、大概の書物はすぐに集まるわ! けどどんな文献にも爆発して失敗する魔法なんて書いてない!
 どうせあんたも、他の召使みたいに陰で噂してるんじゃないの! ヴァリエールの三女は貴族の癖に魔法一つ使えないって―――!」

頭を振り、夜の闇に吸い込まれてなお苦しさの滲んだ大声は、ハヤテが胸にルイズの顔を押さえ付ける事で終わりを告げる。
「無責任ですけど、僕にはそんなのは関係ないです」
目を丸く見開くルイズの顔を見る事なく、ハヤテは本気の心をぶつけた。

あの日全てを失い、命さえ失いかけた自分に、新たなモノをくれた人。
これまでも―――これからもろくに魔法が使えなくとも、どれだけ他人から悪く言われようとも、
「あの日あなたに助けられた時から、僕はあなたのお役に立つ事を決めましたから」


先程よりもずっと、ずっと長い沈黙。二人とも身動き一つせず、デルフすらも一言も話さない。
やがて月が進み、冷たい風が体温を奪う頃、ようやくルイズが先に身体を離した。
「本当に、私の役に立ちたいの?」
「勿論です」
「私、魔法を使えるようになるかしら?」
「必ず、見つけます」
「もしもの時には、命をかける?」
「命は勘弁して欲しいかなぁ、なんて……冗談です」
「こっちこそ冗談よ。そうね……あんた、いえ、ハヤテが私の使い魔だってこと、認めるわ。
 これから、私の為に働きなさい。そして、私を守って」
ええ、と頷く。二人は、静かに約束の握手を交わした。


「いや、相棒も結構甲斐性あったんだなあ」
と、そこで終わればよかったのだが、生憎出歯亀がもう一人いた事を忘れていた。
「いやはや、大胆な事で。あー若いねえ」
「な、な、な、何が言いたいのよ! もう一回池に捨てるわよ!」

「おー怖い、それは勘弁な」
さっきまでされた事を正気に返って恥ずかしくなったちびルイズを、おどけてかわすデルフ。しかし、ハヤテはそれの意味が思い当たらない。
「何か、おかしいところでも?」
「……ああ、相棒はそんな感じなんだよなあ。
 なあに、よくそんな甘い―――もとい、ズバッとした言葉を照れもせず言えるなあって言う事さ」
「簡単ですよ? 僕は、お嬢さまが好きですから」

沈黙。一番長い沈黙。羊達の沈黙とは、全く関係がない。
二人の呼吸が止まった。風の音も止まった。草木のざわめきの音さえも、聞こえなくなった。
誰もが動かず、誰もが動けない。
ハヤテは「何かまずい事でも言ったか? 補足したらやぶ蛇になりそうな気がする」と、
ルイズは「素直に喜んでいいの? 聞くとやぶ蛇な気がする。それに、私には婚約者がいるし……でも、遠くの家族より近くの他人っていう言葉もあるし」と、
デルフは「どういうつもりだ? からかっていいのか? 本当は全部分かってるんじゃねえのか?」との三すくみが完成し、身動き一つしない。
それにしてもこのルイズ、内心はノリノリである。

とりあえずこんな状況で、二人と一本に出来た事は、余計な事を言わないように黙っているだけだった。

『何やかんやでわだかまりというか違うようなものを残しつつ、次回こそロリコンと戦い……ます予定ですよ?』

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