あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

最速の使い魔-4

雷光と共に、それは降り立つ。

七色の光を纏い、それは顕現する。

黒の体に灰色の骨格。

右腕は白く、左腕は黒く。

心の臓があるべき場所に赤い玉を。

額に金色の玉を。

人の姿を取っているだけの他の何か。

己の知らぬもの。

否、人知を超えた、正しくして彼にとっての力の象徴となったのだ。

それを見た時から彼の心は決まった。

それが凶悪なる力であろうとも。

それが滅びの具現であろうとも。

憧れてしまった。欲しいと思ってしまった。


――ああ、だから。

だから彼は目の前に差し出された手を喜んで受け入れたのだ。



最速の使い魔 第四話 クロスロード



「体調が悪かったのなら言ってくださいよ」

「……もう、アンタのアレには乗らないっ!絶対!ぜぇえええええったい!」

気遣うようなクーガーの声に、不機嫌と不満と、怒りをこめた叫びをルイズは返した。
トリスタニア、城門。クーガーの作り出したラディカル・グッドスピードの速度はすさまじく、馬に乗って三時間という距離を30分を切ろうかという勢いで駆け抜けた。

「いくら速いっていっても限度があるでしょう……!どこが特等席!?あれならゴーレムに捕まれて投げ飛ばされるほうがマシよ!」

「そうですかぁ?」

「そ・う・よ!」

ラディカル・グッドスピード・車形態。ストレイト・クーガーの持つアルター能力の中で最も使用頻度が高く――多くの悲鳴を運んだ能力でもある。
最大の被害者は彼が思いを寄せていた令嬢だが……。

このアルターの恐ろしさは単純に速いということと、大地を走るということ。この二点である。

前者については今更語る必要も無いだろう。時速200kmを越える乗り物などハルケギニアにはまず存在しない。
後者は――実はこれこそが一番の恐怖だ。空を飛ぶのならまた感覚も違ったのかもしれない。しかし、時速100kmで舗装された道路を走ってすら、その揺れは相当なもの。
人、馬、馬車などが普段利用するハルケギニアの道路は当然それなりに凸凹があり。高速で走った場合死ぬほど揺れる。そりゃもうジェットコースターなど及びもつかないほどの恐怖である。

それを特等席で味わった。むしろ気絶しなかっただけでもルイズは十分クーガーの助手席に乗る資格はあるだろう。

「なんで買い物をする前からこんなに疲れなくちゃいけないのよ……」

ため息と共に出たルイズの言葉は、首都の喧騒にあっさりと流されていった。

土くれのフーケことマチルダ・オブ・サウスゴータは、トリスタニアの通りで知っている男の姿を見つけた。フーケの側からの一方的な知り合いではあったが。

特徴的な髪型に服に色眼鏡。その隣には人ごみにまぎれてしまってあまり見えないが、時折ちらちらと見える桃色の髪。とくればその特定はたやすい。

(……?何の用だろうね?)

観察するフーケの目が細められる。と。クーガーの隣を歩いていた男が突然倒れた。そのまま足を押さえて動かない。

(……)

また、別の男が倒れる。先に倒れた男も、今の男も一見普通の平民だが――

(スリ……?)

“フーケ”としての目で見ればわかる。どこかしら探るような目つき。その目は獲物を狙う目だった。

“貴族”とその従者。下手に手を出せば確実に首が飛ぶ組み合わせではあるが、成功すれば一生金に困らない可能性もある。このような博打に出る者が何人かいてもおかしくは無いだろう。しかし――

『そういえばクーガー。貴方、体は大丈夫なの?―――を使っても』
『問題ないですなぁ。脚部限定……あのときに使ったタイプと、さっきのタイプは体への負担がかなり小さいので』
『そう。ならいいわ。……帰りもアレだと考えるとちっともよくないけど』

危機感の無いルイズだけならともかくクーガーがいる以上、その試みは瞬時に打ち砕かれる。

(脚払い。しかも――)

また一人、倒れる。引っ掛ける、というレベルではない。食らえばしばらく立ち上がれないような強烈な脚払いを、隣にいるルイズに気づかれることなく放っているのだ。
倒れたスリたちも何が起こったのか分からない、といった顔つき。だが、クーガーが何かをしたということだけは分かったのだろう。何人かのスリらしき人影が二人から離れていく。

(ま、当然だろうね。アレはメイジでさえ殺せる奴だ。その辺のチンピラじゃ相手にもならない)

肩をすくめると主従から目を離す。少しばかり興味はあるがあの使い魔にはあまりかかわりたくは無い。

(それに、酒場で仕入れた情報だとアルビオンがきな臭くなっているらしいし……。もう一稼ぎしたかったけど、それは諦めるか)

フーケにとって盗賊稼業は、貴族たちの慌てふためく顔が見れるという一種の復讐と実益をまとめたようなもの。学院でたまったストレスを晴らしたかった、というのが彼女の本音である。

(ま、適当に土産でも買って早めに戻るとするかねえ。髪飾り?腕輪?……装飾品で喜ぶ子じゃないしね……)

悩みながら市場に差し掛かる。各地から新鮮な野菜や果物など食料を中心として庶民がごった返す場所だ。地面に置かれた品書きにフーケの目が止まる。

「“東方”原産の作物……?」

見たことの無いモノが山積みにされている。果物なのか、野菜なのかもさっぱりわからない、そんなモノ。立ち止まった彼女に向けて売り手の男が声をかける。

「よっ!そこの美人の姉さん!一つ買わないかい?」
「いくらだい?」
「15スウさ!」

フーケが眉をひそめる。食べ物一つの値段にしてはかなり高値だからだ。

「ちょっと高すぎじゃないのかい?」
「い~や。これはうちの村でしか作れない!それに美味いんだ!口に広がる爽やかな甘さ!こんな味はこのハルケギニア広しといえども滅多に味わえないよ!」

そう言いながら小皿にとったそのモノの一部を突き出す。

「ほれ!姉さんは美人だからちと食わせてやる!」
「そ、そうかい……じゃあ……」

と、威勢のいい売込みに引きずられるように皿に手を伸ばし。

――口を付ける前にフーケは顔を上げる。

「っと……肝心なことを聞き忘れてたよ。これの名前、なんていうんだい?」


「はい、そのお方達なら先ほどこちらから城下に入られたようですよ。貴族のお方は体調を崩されていたようですが……」

「……どこに行ったかは分かる?」
「いえ、それは流石に……」
「……」

再び視点はトリスタニアの城門。タバサの使い魔はシルフィード。風韻竜というこの世界最速クラスの使い魔。だからトリスタニアに着くまでに追いつけるとタバサたちは考えたのだが――

「どうするの?城の中まで探すのはちょっと……」
「……」

実際は追いつけなかった。ルイズとクーガーの凸凹コンビはかなり目立つが、この城門のように衛兵が見ており、覚えているという可能性はまずない。

「ここで待つ」
「ん~。まぁいいんだけどねぇ……」

“微熱”のキュルケ。その性格上、退屈――待ちという行為は苦手な分類になる。

「……」
「って……タバサ?」

タバサの目線は駅に置かれているモノに向かっていた。興味深そうに――もっとも、キュルケにしか分からない程度だが――観察を続ける。

「何なのかしらねえ、これ」

ピンク色。四つの車輪のようなもので支えられている。流線型とでも言うべきだろうか。どことなく攻撃的なデザイン。ガラス窓のようなものから中をのぞくと座席がある。

「タバサはわかる?」
「わからない。どうやって動くのかも不明」

呟きながらタバサは杖をかざす。次いでルーンが紡がれ、光の粉がそのモノに広がる。
ディテクトマジック。魔法がかかっているかどうかを調べる魔法。対象の物体が魔法で動くマジックアイテムの類ならば、反応がある。だが、何も感知されない。

「――やっぱり、違う」
「マジックアイテムでもないってわけね……」

マジックアイテムを用いて動くものの代表例としては船がある。空に浮かび、商業的な働きをするものもあれば、軍事的な働きをする戦艦もある。
そのようにマジックアイテムと考えれば、シルフィードで追いつけなかったのも納得できなくも無いのだが。

「ねぇ、いい加減これがなんなのか教えてくれてもいいんじゃない?」
「多分、アルター」
「だからそのアルターって何よ」

キュルケをタバサは見上げる。その目の中には躊躇いが揺れる。それを真剣な目でキュルケは迎えて。タバサの目が大きく開かれる。

「!」
「……?」

その目が見たのはキュルケではない。その背後に浮かぶ小さな鳥。
何処にでもいるような黒の鳥、カラス。だが、その目は真紅の宝石で出来ていた。

「あら?ガーゴイル?」

振り向いたキュルケがその正体を言い当てる。ハルケギニアでは珍しくない魔法で動く人形だ。人間の姿をとるものから鳥のような姿をとるものまでその種類は多岐に及ぶ。

「別に驚くほどのものじゃ……タバサ?」

タバサの雰囲気が変化していた。それは、怯え。外に出すまいと、キュルケに悟られるまいとしているが、動揺していることははっきりとしていた。

「いったい、何が……」
『おいたはいけませんよ、“タバサ様”』
「……しゃべった?」

ガーゴイルが小馬鹿にしたような口調でタバサに話しかける。それだけで、タバサの肩がびくりと震える。

「別に、何もしてない」
『そうですか?……まあいいでしょう。思わぬ収穫もありましたしねェ』

ガーゴイルの視線が――視線といえるモノかどうかは分からないが――つい先ほどまで彼女たちが見ていた物体に注がれる。

『クク……いいですね、“タバサ様”』
「……わかってる」
「ちょっとタバサ……」
「なんでもない!」

悲鳴のようにキュルケの言葉をさえぎる声。

「あなた……」
『そうでしょう、そうでしょうとも。何も無い。貴女は何も無い!』
「……」

キュルケの瞳の奥に一瞬で怒りの炎がともる。杖を引き抜き、一瞬で詠唱を完成させ。ガーゴイルに向け解き放つ。
“ファイヤーボール”小さな火の玉だが、人形程度を焼き尽くすのは造作も無い威力を持つ。だが、それは彼女の傍らから放たれた氷の矢により撃墜された。

「……ダメ」
「……」
『クククククク。いいご友人がお出来になったようで!また今のような魔法をぶつけられてはかないません。今日のところはこれで失礼させていただきますよ』

ばさり、と羽を動かしガーゴイルは飛ぶ。その姿を確認することをやめ、キュルケはタバサを見る。視線は合わない。

(あれが、タバサの事情みたいね……)

キュルケはタバサの実力を知っている。仮にも一度手を合わせた間柄であり、自らもトライアングルクラスのメイジ。この小さな少女は、一流と言っても遜色ない魔法の使い手なのだ。だが――

(怯えてる、のよね)

ため息が漏れる。彼女とてそこまで人生経験が多いわけでもない。色恋沙汰ならば相当自信はあるが、このような時、一体どうすればいいのか。

「で、どうするの?」

すっぱりと切り替える。聞きたいことはたくさんある。言いたいこともたくさんある。
しかし、タバサの様子からすると話す可能性はかなり低い。ここについてきて、さっきのガーゴイルを見て、かなり事情を知って。さらに怯えている友人を問い詰めることはキュルケには出来なかった。

「……」

少しだけ考えるそぶりを見せたものの、タバサは呟く。

「戻る」
「そう」
「……」

あっさりとその言葉に頷くキュルケ。それが不思議だったのかタバサの頭に疑問符が浮かぶ。

「あたしが勝手についてきただけだし、あなたが帰るなら帰るわよ」

タバサは俯く。その頭にぽん、と手が乗せられ、次いで少しだけ乱暴に撫でられた。

「さ、行くわよ」
「……借り、二つ目」

少しだけ、いつもの調子を取り戻して。少しだけ、いつもよりやわらかい表情になって。そして、またタバサとキュルケの絆は深くなった。

一時であろうとも、雪風は暖められた。――再び凍えるのか。それとも微熱が勝るのか。それはまだ、わからない。


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