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豆粒ほどの小さな使い魔-6




木でできた家なら、節穴を削って出入り口を作れるんだけど、ここの壁は石だから。
窓の隙間から、壁を蹴りながら地面に飛び降りる。
夜の探索は、どんな獣がいるか分からないうちは危なくてできない。だからルイズが起きる前のこの時間を選んだ。草の間を縫って、ガッコウの敷地を走り回った。
使い魔になった獣は、主人と同じ部屋に住むものと外に住むものがいるって聞いた。野生と見分けがつかないけど、彼らの目は、主人である人間と繋がってると思っておいた方がいい。
このことに、早くに気がついてよかった。
人間の目のあるところでは、動きに気をつけないと。
一息に隣の塔の下まで走り抜けて、石の影で呼吸を整える。だけど、こういう緊張は、きらいじゃない。初めて狩りをした頃を思い出す。
ルイズが許してくれれば、とりすてぃんの国中を回ってみたい。
沢山の動物の気配。覗いてみたら……なるほど、使い魔の見分け方が一つ分かった。
お互いに食い合うことなく、身体を休めている。獣としての性が、薄まってるみたい。
視界にだけ気をつけていれば、襲われる心配はなさそう。
地球にはいないはずの動物たち。でも、地球にもいる動物も普通に混じってるし。矢印の先っぽの国から、どれくらい遠くなのか、さっぱり分からない。
試しに、呼犬の笛を小さく吹いてみたら、ぴくりと耳を震わせたのが何匹か。中でも一番大きなどらごんがこっちに顔を向けたので慌てて逃げ出した。

それから、茂みを走り回って、草の実や毛虫の糸を少し集めた。持ってきた蜘蛛の糸ほど質はよくないけど、手持ちが切れたときのことを考えると、贅沢は言ってられない。
頭の中で、ガッコウの図を広げる。三分の一くらいはざっと見たかな。
続きは明日にしよう。

* *


「――ず、るいずっ」
ぺちぺちと、まぶたに軽い感触。やさしいんだけどくすぐったい。
寝返りをうって、毛布にもぐりこんだ。
「起キテ、るいず」
こんどは耳たぶをつままれた。
「ん……ゃ……」
ああでも頭が眠りから勝手に起きようとしてる。あー、ハヤテだ。
「オハヨ」
「ん、おはよう」
朝から元気ね。寝起きがいいのって羨ましいわ。
「マメイヌ隊ニ入隊スルト、ミンナスグ起キレルヨウニナルヨ」
寝坊すると耳に水を入れられたり池の中に放り込まれたりって、楽しそうに話してくれるハヤテ。
「お願いだから、私にはそういうことはしないで頂戴ね」
「分カッテル。るいずハマメイヌ隊ジャナイシ、ソレニココハ、危ナクナイモノ」
ハヤテくらい小さいと、私たちにはなんでもないことでも危なかったりするんだろうな。

着替えていて、ふとハヤテの着替えが気になったんだけど、昨日あげたハンカチから簡単なものを作ってみるつもりだと言っていた。
「オマツリノ時、布ヲ巻キツケル服ヲ着ルノ。アレナラ簡単ダカラ、スグデキル」
何でもできる完璧なハヤテよりも、こんな風に苦手なことがあっても笑ってるハヤテの方がいいなって、ぼんやり思った。

ハヤテが起こしてくれたお陰で、少し時間に余裕がある。
そうだ、
「ねぇ、ハヤテ。昨日見せて貰おうと思ってたんだけど、その剣を見せてもらってもいい?」
お人形のおもちゃにしか見えないそれだけど、ハヤテたちが野生の獣や鳥と戦う、ちゃんとした武器。その二つが上手く私の中でかみ合わない。
「イイヨ、怪我シナイヨウ、気ヲツケテネ」
ハヤテはあっさりと帯から鞘ごと剣を抜くと、するりと音もなく抜き放って、私の掌の上に乗せてくれた。
息をつめて目を凝らす。
刃は磨かれた鏡のように光を弾いて、鞘と柄には、細かい装飾が施されている。すごい。すごくて、
「ありがとう。もういいわ」
本当は、もっと見ていたかったけど、これはハヤテにとってとても大事なものだというのが分かっちゃったから。
「ごめんね、我侭言っちゃって」
これは、メイジの杖と同じ。私が毎日杖を振ってきたように、ハヤテもこの剣を振ってきたんだと思う。
帯にぐって差し込んで立つ姿も自然。


「ハヤテたちも、やっぱり剣の練習をするの?」
軍人の訓練を説明したら、ハヤテは『いいえ』の指笛を吹いた。肩に座ってるのに、時々こういう冗談をする。
「ソウイウノハ、シナイ。クマンバチ隊ヤマメイヌ隊ノ相手ハ、コロボックルジャナイカラ。サイショハ、虫ヲ相手ニ練習スルノ」
いきなり生々しくなった。さっき食べた朝食が、お腹の中で跳ねる。だけど、
「殺サズニ追イ返スノガ、私タチノ役目」
さらりとそう言われて、何だか私たちのほうが野蛮なような気がした。
大きな戦争こそ最近は起こっていないけど、領土間では小さな紛争もあるし、外国に行けば未だに荒れている地域もある。そこで流されているのは、同じ人間の血だ。
貴族なら、誇りを守るために戦いに赴くことだってある。だからもし私が……これは簡単に答えがでることでも、答えを出していいことでもない。
ギーシュやキュルケは、悩まないんだろうか。こんなこと人には聞けない。
内ポケットの杖が、鉛みたいに重くなった。


授業が終わって、クラスメイトたちが寮に戻るのとは道を違えて空き地に向かう。
そこが、今ではもう見物人もいない私の練習場。
ハヤテが来てから休んでたけど、魔法を諦めるつもりはないのだから。
「ハヤテの指笛って、結構遠くまで響く気がするんだけど。あそこの木人……って分かるかしら、あそこから、笛を三種類吹いてみてくれる?」
いつも魔法の的に使ってるあそこまで10メイルほど。待つほどもなくハヤテの指笛が聞こえた。
「聞こえたわ! じゃあ次はもう少し離れてみるから」
結果、静かなところなら、20メイルくらい離れてても聞こえることが分かった。
雑踏の中でも、10メイルくらいなら聞こえそう。
「段々種類を増やしていきましょうか。それに私も口笛を覚えたら、暗号みたいに内緒でお話できるかもしれないわ」
学院でこんなにわくわくすることがあるなんて思わなかった。
だけど、
「さて……ハヤテは危ないから、離れててね」
ここでもっぱら練習してるのは、火か風の魔法だ。ぶっ飛ばしたい奴のことを考えると、威力が冴える気がする。
今日はちょっと違うけど。
「ハヤテは魔法については知らないだろうけど、それでも何か気がついたことがあったら後で教えてね」
教科書は暗記するくらい読んでる。落ち着いてれば、こんなに鮮明に思い出せるんだ。
私は、空にかざした杖を、木人に向けて振り下ろした。


木人の周り、地面が抉れてぐちゃぐちゃになってる。
いつもはむきになって至近距離で撃ちまくるから怪我も沢山してたんだけど、観察するならこうやって距離を置いた方がいいなんて分かりきってる。
……自分の拙さが丸分かりだから、見たくないから、自分ごと吹き飛ばしてたんだ。
汗で髪の毛が貼り付いてるのを払って、空を見上げたら、陽もかなり傾いてた。
マントと上着を引っ掛けた杭。ハヤテはそこで見ててくれたはず。
錬金とファイヤーボールだと命中精度が違った。相当集中したのに、狙った場所に全然当たらない。それでも自暴自棄にならずに済んだのは、ハヤテが見ててくれたからだと思う。
今日は、体の隅々まで意識することを念頭に置いたから、30発も撃ってないのに、全身くたくただし、時間もいつもと同じくらい掛かった。
だけど、これが本当の『練習』なんだ。
「つっかれたぁ。ハヤテ、付き合ってくれてありがとう」
失敗魔法を延々見させられたら、私だってうんざりするだろうな。
まだ火照りが収まらないから、マントと上着は手に持って寮に向かう。
一発失敗するたびに恥ずかしくて悔しくて泣きそうになったけど、それでも目を逸らさずにいられた。
何かが噛み合ってないんだけど、その何かが分からない。
「ハヤテは、何か気がついたことってある?」
「……るいずハ、ドノクライ、小サナ爆発ヲ起コセルノ?」
「え?」
「サクラノ技師ガ、前ニ言ッテタ。爆発スルノハ、力ガ大キスギルカラダッテ。モシカシタラ、るいずハ魔法ニ必要ナヨリモ、ズット沢山ノ魔力ヲ入レテルノカナッテ」
ゆっくりと、一言ずつ考えながら話してくれるハヤテ。
風が、急に冷たく感じた。
それは、考えたことがなかった。
私はいつも、足りないからとだけ。だから……多過ぎるなんて……そんなことがあるんだろうか。
「今日ハ、モウダメ。るいず疲レテル。明日ニシヨウ」
足を止めていた私を、ハヤテが現実に戻してくれた。
「ちょ、ちょっと待って! そんなの聞いたことないわっ」
ああでも確かに他の人の失敗と私の失敗は全然違う。
私の爆発は、そうだ、威力だけなら、キュルケのフレイムボールにだって負けないんじゃないだろうか。


意識が半分ぼうっとしたまま、ハヤテに言われるまま夕食を食べてそれからノートにめちゃくちゃ書き殴ってそれでも整理がつかなくて頭がくらくらしたままベッドに倒れこんだ。




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