あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の王-12-1


 タバサは図書館の常連だ。
 “ヌシ”と言っても良い。
 30mの高さを誇り、レビテーションの使用を強要する本棚。
 大抵の女生徒は、足下に陣取ろうとする男子生徒との争いに疲れ果て、やがて使用を断念する。
 女子生徒の姿が無くなると、男子生徒の姿も見られなくなる。一部、真面目な男子も、有らぬ疑いをかけられては叶わじと、近寄らない。
 だから、図書館は半ば、青髪の少女の独占物だ。
 いや、独占物だった、と言うべきか――――
 図書館に入ると、タバサは真っ先にいつもの閲覧席へ向かう。鞄で席を確保すると、今日読む本を纏めて調達する。
 読書を始める前に、辺りを見回す。
 良し。空の姿は無い。タバサは安心して本を開く。
 何故だろう。
 あの異世界人は、図書館に自分を見付ける度に、ちょっかいを出して来る。もう、読み書きは完璧であるにも拘わらず、だ。
 と、出入り口の扉が開いた。
 入って来たのは、車椅子では無かった。タバサは無表情に杖を取る。松葉杖の音が近付いて来る。

「よっ、チビっ子」

 空は馴れ馴れしく話かけて来る。呼称もさり気なく格下げしている。一瞬、杖を握る手に力が篭もる。
 タバサは無視する事にした。場所を慮った訳では無い。
 一度、あまりにしつこいのて、ウィンド・ブレイクで吹き飛ばそうとした事が有る。
 空が掌を翳すと、不可視の一撃はあっさり逸れて、たまたま通りすがったコルベールを直撃したのだ。
 そう言えば、あの技術は未だ教わっていない。いつ、約束を守ってくれるのだろう。

「ワイな、これからコッパゲの案内でフェニアのライブラリーを覗いて来るんや」

 無視無視。
 そのつもりだった。空の言葉に、決意が崩れた。貝殻の樣な耳たぶが、ぴくりと動く。
 フェニアのライブラリー。教師だけが入室を許される区画だ。当然、タバサも入った事が無い。

「珍しい本がぎょうさん有るやろなあ。へへー。羨ましいかい?」
「別に」
「いいやろーっ」
「別に」
「なんや。素直やないなあ」
「別に」

 どうやら、自慢する為に話しかけて来たらしい。タバサは相も変わらず、抑揚の無い声で答える。
 出入りしたい場所ではあるが、羨やむ気持ちが無いのも確かだった。他人は他人。自分には関係無い。
 と、空が横から覗き込んで来た。

「何?」
「んー、お前のそう言う所、少し心配やわ」

 お節介な口調に、お節介な言い種だった。タバサは今度こそ無視する事に決めた。

「お前、この学校が、本来の居場所やない、思うとるやろ。そう言う面しとるわ」
「……」
「どんな目標有るんか知らへんけどな。一人で出来る事なんて、高が知れとるで」
「……」
「どうせ、自分だけの問題、とでも考えとるんやろ」
「貴方には関係無い」
「阿呆」

 空が軽く小突いた。

「関係有るも無いも、損か得かも、ええ事か悪い事かかて、どうでもええ。一生懸命な奴見たら、誰だって応援したくなるし、手助けだってしたくなる物や。でっかい目標有るなら、仲間作らんでどうする」

 タバサは本に向き直る。
 仲間は要らない。空の言う通り、手助けしてくれる人間は居るかも知れないが、そんな人間を、巻き込みたくはない。

「ま、お前には世話んなったさかい。なんか有ったら、言いや。なんぼでも手貸したる」

 空は立ち去る。
 タバサは本を閉じて考える。
 誰も危険な事には巻き込みたくない。だが、危険を伴わない範囲なら?
 学院の教師には頼み難い事も、ハルケギニアの貴族社会に疎い空が相手なら、大丈夫なのでは?

「……待って」

 小さな決心を固めると、空を呼び止めた。


   * * *


「諸ぉ君っ、最強の系統は知っているかね――――?」

 授業中。
 教壇ではミスタ・ギトーが熱弁を振るっている。生徒達は半ばうんざりとした顔で、聞き流す。
 ギーシュは一人、考え込んでいる。
 車椅子を練金したのは、大きなヒントになった。早速、ワルキューレの改良を思案する。
 だが、ギーシュは機械に疎い。練金した車椅子も、辛うじて使用に耐える、と言う程度に過ぎなかった。
 そこで、シエスタに相談する。
 平民に決闘で勝つ為、平民に相談する。一月前には、想像もつかなかった出来事だ。
 全く、人生は驚きに満ちている。

「それは“風”だ!私は、とある人物との出会いにより、一っ層、その確信を深めた!」

 相談と言っても、軽い気持ちだった。
 “飛翔の靴”同様、車輪を使う物だから、ちょっとしたアトバイスが欲しい――――その程度のつもりでいた。
 シエスタはそう受け取らなかった。
 目の前で車椅子に乗ったワルキューレを練金して見せた時こそ、大げさに驚いて見せたが、気を取り直すや、各所の分解を要求。
 微に入り、細を穿ち分析、欠点を指摘し、改変を提案する。
 二人のミーティングは毎日の様に続いた。数日して、高速型ワルキューレは車椅子に乗ったゴーレムから、精緻な魔法機械へと化けた。
 自分は空を倒そうとしている。シエスタと同じ平民を、だ。
 なのに、何故、彼女はあそこまで自分に協力してくれるのだろう?
 それは判らない。
 だが、一つだけ判る事が有る。
 シエスタはいい娘だ――――

「では、風の系統が最強たる所以を証明しよう。ミス・マンシーニ、それにミス・モンタレー、ミス・ベルヌアン、ミス・ブリエンヌもだ。前に出給え」

 ワルキューレは遠隔操作が出来ない。コントロール出来るのは、目に見える範囲だ。
 その為、高速型には、ギーシュが搭乗出来る様、踏み台を用意した。
 試験走行。ワルキューレの力に、レビテーションをプラス。
 高速型は恐るべき速さを見せた。本当に恐ろしかった。命の危険を覚えた。
 シエスタは自分の助言が招いた結果を目の当たりにして、真っ青になった。
 本気で自分の身を案じてくれた。決闘など止めて欲しい、と。
 本当にいい娘だ――――

「見たかね、諸君っ!これこそ、風が最強たる――――ぎにゃあぁあっっ!」

 恐ろしい悲鳴が、ギーシュの思考の断ち切った。
 なんだ、なんだ、何が有った?
 ミスタ・ギトーが燃えている。文字通りに燃えている。
 男子生徒が必死になって鎮火している。
 何があった?

「君は見ていなかったのか!?」

 言ったのは、隣席のレイナールだった。
 空に敗れた後も、変わらぬ態度で接してくれる、数少ない一人だ。
 物事が巧く行かない時こそ、本当の友人が誰か判る。

「何が有ったんだ?」
「ミスタ・ギトーが“風”こそ最強である事を証明されたのだ!」
「何だって?君は本気で言っているのか?」
「本気だとも!悔しいが、火の系統であれは出来ない!本当に、君は見ていなかったのか!?」

 教壇が燃えている。なかなか鎮火しない。女子生徒が妨害所か、延焼を目論む為だ。
 そして、教壇の隅、スカートを抑えて頬を染める、清楚可憐なミス・ブリエンヌを発見した時、ギーシュはミスタ・ギトーが如何にして、最強の系統を明かにしたのかを理解した。

「畜生〈ブリミル〉!」

 ギーシュは生まれて初めて、始祖を呪う言葉を叫んでいた。
 教師に聞かれたら、鞭打ちでは済まされないが、当のギトーはそれ所では無かった。

「見逃した!完全に見逃した!何と言う事だ!」

 教壇の騒乱は何とか収まりつつあった。
 女子生徒達が僅かばかりの慈悲と自制心とを働かせたのは間違いない。
 どうして、あんなのが教師になったのかしら、全く!――――どこかから悪態が聞こえた。

「それは実に興味深い」

 耳聡く聞きつけたレイナールが言った。復活したギトーに、早速質問する。

「ミスタ・ギトーはどの様な理由で、教職を志されたのですか?」
「うむ。いい質問だ。実に本質的かつ、核心をついた質問だな、ミスタ・レイナール」

 アフロのキトーは、大げさに頷いて見せた。

「時に、君は最強の“属性”はなんだと思う?」
「最強の……“属性”?……ですかっ?……??」
「うむ。これは永遠の命題だ。無理に答えを出そうとしても、不幸な、哀しむべき争いの元になるだけだろう。だが、諸君は幸福だ!何故なら、我が学院に国中の貴族令嬢が集まる以上、殆ど全てを網羅出来るのだから!」
「で、でも、ミスタ・ギトー。例えば、妹系は……」
「馬鹿者!ミスタ・レイナール!君は何の為、二年生になったのだ!」

 この時、レイナールの体に、雷の様な衝撃が走った。

「それは、一年生女子にセンパイと呼んで貰う為ではなかったのか!?先輩では無い!セ・ン・パ・イ、だっ!そして、ああ!諸君は何と幸福なのだっ!畜生!死ね!諸君には後輩と先輩とが、同時に存在するのだっ!」
「ミ、ミスタ・ギトーっ!!」
「だが、良いか!よく覚えておくがいいっ!二年生でいられるのは、たった一年!たった一年しか無いのだっ!いいか!悔いの無い一年を過ごすのだっ!決して第二の私になるなっ!」

 その言葉に、男子生徒達は一斉に立ち上がった。目からはらはらと涙が零れ落ちる。

「ミスタッ!」
「ミスタ・ギトーっ!」
「僕達、ミスタを誤解していましたっ!」
「な、なのにミスタは、そんなにも僕らの事を考えていてくれたなんてっ!――――」
「ご、誤解するんじゃないっ!諸君はさっさと消えろ!退学しろ!死ね!そうすれば、代わりに可愛い貴族令嬢が入学して来るかも知れんからなっ!」
「ミスタっ!!」

 男子生徒は教壇に殺到する。胴上げが始まった。

「良いか、諸君っ!人と言う字は前屈みだっ!」
「ミスタっ!」

 その光景に、女子生徒達は黙って教室を後にした。揃って杖を取る。
 この日、教室の一つが、中身ごと全焼した。


   * * *


 放課後――――
 空とルイズは何時もの様に、特訓に励んでいた。
 スペルと爆発の関連については、ほぼ調査を終了。杖の構え方による変化も、概ね掴んだ。
 当面、目標物を確実に捉える訓練を行いながら、同時に、杖の形状が爆発に与える影響も調べる事にする。
 とは言え、杖はコロコロ気軽に変えられる物では無いので、外装品で変化を付ける。
 何時も通りの光景。
 だが、最近は少しばかり変化が生じている。

「こいつは、おでれーた」

 まずはインテリジェンスソード、デルフリンガーの存在だ。
 鞘に収められると喋れないので、抜き身のまま、空が乗る車椅子の後に括られている。

「いいじゃない。しゃべらない方が」
「せやかて、喋らんデル公はただのクズ鉄やで」
「ひでえっ!」

 クズ鉄、と空が断言するのには根拠が有る。
 砥いでも砥いでも錆が落ちない。それ所か、途中、痛い痛いと喚き散らす。握りを交換しようにも分解出来ない。
 結局、デルフリンガーは今も錆びたポロ剣のままだ。

「本当、ダメな剣よねー」
「けっ。魔法一つ満足に使えねえ小娘が何言ってやがるっ。それで貴族?おでれーたっ。笑わせんなっ!」
「空、その剣貸して。的にするわ」
「冗談じゃねーっ!」
「好きにせい」
「あ、相棒!俺を見捨てんのか!?」
「砥いでも駄目、て事は削れてへんからやろ。お前の頑丈な所、見せてみい」
「相棒ーっ!」

 地面に突き立てられたデルフリンガー目がけて、ルイズは爆発を連発する。同じ数だけ悲鳴が上がる。
 空は満足そうに眺めている。
 魔法の狙いは正確さを増して来ているし、口汚いインテリジェンスソードは無傷だった。

「キュルケ。参加し」
「ふふ。全てを焼き尽くす情熱の炎。とくと御覧になって」

 二つ目の変化。
 二人の特訓を嗅ぎ付けたキュルケが、見学と称して顔を見せる事だ。
 彼女の動き一つで、ルイズの爆発は威力を増し、相対的に精度は下がる。
 これも、今後研究した方が良いかも知れない。
 キュルケが火炎の魔法を放り込む。ルイズがムキになって対抗する。デルフリンガーの悲鳴は爆音に紛れて聞こえない。
 剣が倒れた。
 無傷を確認して、空は立て直す。

「チビッ子。お前もやったれ」

 三つ目の変化。
 今日はタバサも居た。軽やかに着地すると杖を振るう。風と氷の魔法が哀れなインテリジェンスソードを直撃する。
 それでも無傷だ。
 いや、寧ろ魔法を幾分、吸収しているかの様にすら映る。

「お前、盾に生まれた方が良かったんと違うか?」
「うるせーっ!俺の勝手だっ!」

 デルフは震えながら悪態を吐く。
 タバサは元の場所に戻って、本を開いた。

「あ、そうそうチビッ子。例の薬やけどな」
「何?」
「ワイ、例のライブラリー、自由に出入り出来る事なったさかい、調べてやれると思う」
「そう。お願い」
「せやけど、端から端まで調べとったら、キリ無いわ。もう少し、条件絞ってくれんか?」
「判った」

 と、小声で囁き合う二人を、ルイズが見咎めた。

「誰よ、その子?」
「誰、て。私の友達だけど」

 答えたのはキュルケだ。

「なんでアンタの友達が、ここに居るのよ」
「いいじゃない、別に」
「よくないわよっ。なんで、そ、そんな所で本読んでるの?」
「定位置」

 タバサは短く答えた。

「て、定位置?ててて、定位置、てっ――――それに薬、て何?人の使い魔を変な事に巻き込んでないでしょうね?」
「あー、心配要らへん。大した物や無い」

 薬の件が聞かれた事を、空は大して気に止めていない。
 最も肝心な部分が知られなければ大丈夫。そう言うタイプなのだろう。
 タバサは今後の、情報公開の判断材料として記憶する。

「チビっ子はまあ、ルイズと同じ様な悩み持っとる。それでな」

 空は適当な事を言った。
 その内容が、引っ掛かった。
 同じ?聞き捨てならない一言だ。

「違う。同じじゃない」

 タバサはきっぱりと否定した。

「私は“ゼロ”じゃない」
「!……何が言いたいのかしら?」

 ルイズはタバサを睨み据える。
 訓練の成果がそこそこ出ている御陰で、以前より態度に余裕が有るが、それでも腸が煮えくり返っている事には変わりが無い。

「……そりゃ、あんたは魔法得意だけど――――」

 キュルケは怪訝な顔した。タバサがこうした言い方をするのは、あまりに意外だ。

「違う」

 と、タバサは再び否定した。

「魔法じゃない」

 この時、キュルケは咄嗟に友人の元へと駆け寄った。

「私は生え――――」

 慌てて、その口を塞ぐ。

「ほ、……ほほ……何、言い出すのかしら、この子は」

 全く。本当に何を言い出すのだろう。
 ひきつった笑みを浮かべながらも、タバサを解放。

「ちょろ――――」

 即座に黙らせる。

「“ゼロ”じゃない」

 ルイズの表情が、大魔神の鮮やかさと迫力で変わる。
 キュルケの御陰で半ば聞き取れなかったが、それでもタバサが何を言わんとしたかは明白だ。
 タバサはどんな表情も浮かべていない。それがルイズには、勝ち誇っているかの様に見えた。
 魔法ならいい。努力次第だ。実力も証明出来る。
 だが――――
 ルイズの顔が真っ青になり、続いて真っ赤になる。こめかみが痙攣する。

「決闘よー――――っ!」

 そして、ルイズはキレた。


   * * *


 ギーシュが三度、空に決闘を挑むに当たり、最も頭を悩ませたのが、相手を見付ける手段だった。
 何しろ、空は神出鬼没。はっきりと居場所が分かるのは、食事の時間くらいと来ている。
 その上、最近はそれも怪しくなって来た。どうやら、活発に学院の内外を動き回っているらしい。
 一体、何をしているのだろう。
 その悩みは、思わぬ所で解決した。
 風上のマリコルヌ。空に敗れて以来、寧ろより親密になった友人が、教えてくれたのだ。

「この時間、師匠は決まって、学院から少し離れた岩場に居る」

 と。

「師匠?」
「うむ」

 平民相手に躍起で決闘を挑む自分も自分だが、師匠と崇め奉るマリコルヌの態度も、極めて異常な物だ。
 一体、何が有った?

「最初、僕は師匠をただの平民と侮っていた。間違いだった。そして、師匠を極めて恐ろしい人物と考える様になった。間違ってはいないが、完全では無い。
そして、或る日だ。師匠の大変有り難い話を聞いて、僕はすっかり心酔してしまったのだ。ああ、この人になら、一生着いてゆける!」
「それはどんな話だったんだ?」

 ギーシュを空の元に案内しながら、マリコルヌは得意気に話し始めた。
 息が荒い。目が血走っている。
 二人は空の居る岩場に向かう。
 前屈みで向かう。

「な、なるほど……しかし、その内容は……その……色々と問題が無いかね?」
「安心しろよ。少女等の表現はあったけれど、登場人物の全員が18歳以上である事は想像に難くない」

 爆音が聞こえた。
 なんでも、マリコルヌが言うには、ルイズがあちこちを爆破しているらしい。憂さ晴らしか?

「しかし、ミス・ヴァリエールも居るのか。さすがに、この姿勢で行くのは……」
「素数を数えて落ち着こうか」
「1……2……3……5……7……」
「11……13……17……19……23……」
「沢山……沢山……沢山――――」
「おい、ギーシュ。何、手抜きしてんだ」
「僕は教養諸科の類は苦手なのだ」
「それで大丈夫なのか?土のメイジ」
「……魔法だ!貴族は魔法が出来れば良いのだ!さあ行こうか」

 二人は背筋を伸ばして歩き出す。
 この時、彼等は七面倒な数学の授業に初めて感謝した。
 目的の岩場には、ルイズばかりでは無く、二人の女生徒が居たからだ。



 ルイズが杖を構える。
 タバサは車椅子から降り立つと、ゆっくりと杖を回す。
 どちらも、やる気は十分だ。

「る~い~ず~っ。あんなあ……」
「空、止めないでっ!女にはやらなければならない時が有るのっ!」
「同意」

 空は両拳へ交互に息を吐きかけ――――
 声にならない悲鳴が上がった。二つだ。
 ルイズもタバサも、頭を押さえて蹲る。

「ダーリン?」
「なんか、こーせんとアカン気がしてな」
「こいつは、おでれーた」

 デルフリンガーが呆れた声を上げる。

「俺も長い事生きてるがね。こんな下らねー理由での決闘なんざ、初めてだ」
「正に毛っ闘……あら、御免なさい。外したわね」

 おほほ……空に睨まれて、キュルケは誤魔化す様に笑う。

「うーっ……何するのよお」
「っ……」

 ルイズは涙混じりの声を上げる。

「やかましいわっ、全く」
「まあまあ、そんなに怒らなくてもいいじゃない」
「はあー。ま、ワイかてガキンチョ同士のキャットファイトなんぞ見とうも無い。ルール、こっちで仕切るで。ええな」
「あら、結局やらせるの?」
「ちょーど、ええ機会や」
「誰にとって?」
「パーツ・ウォウFランク“ダッシュ”~」

 キュルケの問いに答える代わりに、空はやる気の無い声を出した。

「……パーツ・ウォウ?」
「ダッシュ?……」
「あら、この前の?」
「飛び道具持ちのメイジ同士や。ちょい、ルール弄ろか」

  • 先に目標を手に入れた者の勝ち。
  • 戦闘不能、コースアウトで負け。
  • 後退禁止。背後に向かって移動も禁止。
  • 停止状態で相手を攻撃してはならない。

 目標は“創世神〈ジェネシス〉”のエムブレム。
 空は二人によく見せると、離れた所に先端を覗かせる、一際大きな岩へと貼りに行く。

「師匠!」

 戻って来た時、人数が二人増えていた。

「おう、ピザ!なんや、ボーズも一緒かい」
「ああ。貴方に勝つ算段が出来たのでね。また、決闘を挑みに来たのだよ」
「は。偉い自信やないか」
「ああ……だが、何が起きているんだ?」

 ルイズとタバサが睨み合っている。ただならぬ雰囲気だ。

「ああ、決闘や」
「決闘!?何故?」
「聞かん方がええ」
「はあ?……まあ、女の子同士だ。色々有るのだろうな」

 ギーシュは薔薇の花びらを一枚落とす。
 練金――――

「へえ」

 キュルケは感歎の息を漏らした。
 新型のワルキューレ。腰から上は、今までと変わらない。
 著るしい変化を見せているのは下半身だ。前一輪、後二輪の三輪で、長いホイールベース。
 キュルケもギーシュ当人も知らない事だが、トラック競技用の車椅子にそっくりだった。

「ほお……」

 空はあちこちを覗き込む。
 極めて精巧な作りだ。コルベールが見たら、仰天するだろう。

「やるやん」
「脚が無いのね」
「車輪で移動するからね。必要無い」
「それ言うたら、腕も要らんのと違うか?」
「それでは、どうやって車輪を回すのだね?」
「こうやって」

 空はモーターホイールを回すと、片輪を持ち上げて見せた。
 空転する中輪に、ギーシュは腕を組み、続いて首を傾げる。
 どうも、車輪が単独で回る、と言うイメージは作り難いらしい。

「んー?……まあいいっ。これなら、貴方とも互角の勝負が出来ると思う。さあ、勝負の方法を」
「じゃ、Eランク“ハードル”」

 ん?――――
 空の言葉に、ギーシュは内心で首を傾げた。
 ハードル?どんな競技だ?――――ダッシュではないのか?

「キュルケ。そっちの立会、任せてええか?」
「それは構わないけど、そちらも是非拝見したいわね」
「そか。ほなら、そっち済んでからにしよか。ボーズ、ちょい待ちや」
「あ、はあ……」

 ギーシュはすっかり戸惑っていた。
 ダッシュでの勝負ばかりを考えていて、他の可能性を考えていなかった。
 高速走行に特化したワルキューレ。これで対応出来る競技なのかどうか。

「じゃ、そろそろ始めるか。立会人はワイとキュルケ――――どっちかが反則こいたら、ウェルダンな」

 空がキュルケに物騒な指示を出している。その間も、ギーシュは悩み続けた。

「見付けたっ!」

 と、突然の声に、ギーシュは振り向いた。

「あんた、こんな所で何してるのよっ!」

 それはこちらの科白だ。
 何故、こんな所に居る?何をしに来た?

「モンモランシーっ!」


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