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薔薇乙女も使い魔 第八話    『月夜に踊るは』




 土くれのフーケは逮捕された。
 学院へ駆けつけた城の衛士に即刻引き渡された。

 その後の学院はお祭り騒ぎだった。
 キュルケやルイズはもとより、教員達も自分の活躍をこれでもかと吹聴し回っていた。
生徒達も魔法学院の勝利だと大喜びだ。今夜は『フリッグの舞踏会』が予定通り行われる
ので、さぞや賑やかになるだろう。
 フーケは学院の教師と生徒が総掛かりで逮捕したと報告されるため、王宮からの報償は
学院宛に来ることになっている。

 学院長室には、オールド・オスマンとコルベール、ルイズ・ジュン・真紅・翠星石がソ
ファーに座っていた。彼らの間には、テーブルの上に置かれたバズーカ砲がある。デルフ
リンガーは、ジュンの後ろに鞘に入れられ立てかけられていた。


 ジュンがオスマンの話に熱中していた。
「へぇ…それでこれが『破壊の杖』になったんですか」
「うむ、30年前に私を救ってくれた恩人じゃ。この残ったばずぅかほうを、せめて形見
にと思ってのぉ」

 オスマン氏は、このバズーカ砲の由来を語っていた。30年前、ワイバーンに襲われて
いた自分をもう一本のバズーカ砲で助けてくれたが、そのまま帰らぬ人となった異世界の
兵士の事を。

「そうですか…ちょっと触って良いですか?」
「ん?ああ良いよ」
 ジュンは、バズーカ砲に触れてみた。
 同時に左手の包帯の隙間から、光が漏れだした

「これは・・・!」
 ジュンは、まるで魅入られたように、バズーカ砲を触り続けた。

 その様子に、他の者が不審がる。
「ちょっと、ジュン。一体どうしたの?」
 尋ねた真紅に、ジュンはうわごとのようにつぶやいた。
「これは・・・正しくはバズーカ砲じゃない・・・ロケットランチャーだ。
 M72 LAW、Light Anti-Tankの略だよ。使い捨て個人携帯対戦車弾。 弾薬は成形炸薬弾
で、信管と弾道を安定させる6枚の翼がある固定弾だ。翼は弾底部にあって、折り畳まれ
た状態で装填されてる。多分、30cm以上の鋼鉄の装甲を貫通できる。ええっと、使用方
法は・・・」

 淀みなく『破壊の杖』の使用方法を解説するジュンに、皆あっけに取られていた。

 まるで呪文の様にロケットランチャーの解説を終えた所で、ジュンはようやく周囲の視
線に気付いた。
「す…すごいですね、これがルーンの力だなんて。ほとんどサイコメトリーだ…」
 オスマン氏も、ヒゲをなでながら大きな息をついた。
「うむ…これがガンダールヴの力か。『全ての武器を自在に操る』というわけじゃな」
 コルベールも目を輝かせている。
「すごい、すごいですぞ!いや全くなんと興味深い!さすが始祖のルーンですな!!」
「すっごい・・・これがジュンだなんて、信じられない・・・」
 ルイズも驚きのあまり目を見開いたままだ。

「ジュン・・・」
 翠星石が不安げにジュンを見上げている事に、ジュンも気付いた。
「・・・大丈夫、分かってるよ翠星石。僕は僕だ。ルーンの力に惑わされるなって言いた
いんだろ?」
 真紅も心配そうにジュンを見上げた。
「そうよ、ジュン。人の心はもろくて迷いやすいものよ。頭で分かっていても、知らず知
らずのうちに力に溺れてしまうこともあるのよ」
 コルベールも大きく頷いた。
「うん、君はまだ子供だからね。大きな力を手に入れて我を失う事もあるでしょうぞ。だ
けど、心して下さい。力は諸刃の刃、大きな炎は自分も焼くということを」

 コルベールの言葉を受けて、オスマン氏もジュンに忠告する。
「うむ、ミスタ・コルベールの言う通りじゃよ。
 まぁそれより前に、君の力を王宮が知れば、もう国を挙げて君たちを捕まえに来る事は
間違いない。伝説のガンダールヴに、あのフーケを易々と捕える魔力を持つ人形達。おま
けに!あんな混乱した状況でも冷静に、ミス・ロングビルの報告からフーケの正体を割り
出す高度な知性の持ち主達じゃ!
 王宮の暇人共がおぬしらを狙う事は疑いないわい。いや、他国も君たちの力をつけねら
う。そうなれば、もうヴァリエール家だけではジュン君達を守り切れんぞ」
 オスマン氏の言葉を受け、ルイズも顔を引き締めて頷いた。
「分かってます。主として、必ず彼らを守ります」
 ジュンも頷く。
「分かりました。この力、みだりに使わない事を約束します」
 ジュンは、左手を見つめながら、固く誓った。

「…それにしても、まさか『くんくん探偵』見てたのが役に立つなんてなぁ」
 ふと、ジュンはつぶやいた。

 ピシィ!
 真紅の髪がジュンをひっぱたいた。

「まさか、とはなぁに?くんくんの教えを学んだ者として、当然でしょう」
「ですねぇ、ジュンはまだ修行がたらんですねぇ。もっぺん第一話から見直すですぅ」
 翠星石も鼻高々でエッヘンだ。

 実のところ、ミス・ロングビルの朝の報告を聞いた時点でジュンも真紅も翠星石も、お
かしいとは思っていた。だがエレオノールの一件があったので、余計な事は言わないでお
こうと黙っていた。
 その後エレオノールの件を全部話したので、遠慮無く彼女の報告の矛盾点と導かれた推
測を告げたのだ。あとは『フーケは取り逃がした』と装って、フーケを学院に連れ戻して
捕える作戦をコルベールが立案・指揮した。使い魔達の活躍を伏せておきたいルイズと使
い魔達も、これに賛同した。

 今度はオスマン氏が、思い出したように口を開いた。
「ところでのう、君の国から召喚されたモノなんじゃが…もしかして、まだまだあちこち
にあるのではないかな」
「ええ、キュルケさんも」
 と言った時点でジュンは口を塞いだが、もう遅かった。ルイズも真紅も翠星石も『あ~
あ』という感じで呆れていた。
 もちろんコルベールは聞き逃さなかった。
「ほほう!ミス・ツェルプストーもお持ちとは!それはどのようなものですかな?」

 しょうがなく、ジュンは左右からの白い目に耐えながら、『召喚されし書物』(エロ凡
パンチ・'75年4月号)を話した。
 コルベールはウンウンウンッと激しく興味深そうに聞いていた。

「いやぁ素晴らしいですぞ!こんな身近にこれだけ沢山の異世界からの召喚物があったと
は!どうやら、探せばまだまだあるかもしれませんな!
 学院長!どうかこのコルベールに、異世界召喚物の捜索と研究をお許し下さい!」
「どうせダメだと言ってもやるんじゃろ?とても興味深い事じゃ、やりたまえ」
「はいっ!ありがとうございます!!」
 と叫んだコルベールは、グリンッとジュンに向け身を乗り出した。
「と言うわけで、私の研究に是非是非協力して頂きたい!」

 いきなり頼まれたジュンは、コルベールの勢いにタジタジだ。

「あ、あの、だってさっき、ご自分でルーンの力を使うなって…」
「いやいや!使うなとは言っておりませんぞ!破壊を司る炎の系統とて、使いようによっ
ては素晴らしいモノを生み出す事が出来る。そう信じて20年研究を続けてきたのです!
君のルーンとて同じ事。ただ武器を振るだけの戦争の道具となるのは、君も不本意でしょ
う!
 さぁ!さささぁっ!!ともに真理の探究へ踏み出しましょうぞ!!」
「し、真理の探究って言われても・・・」

 ジュンは助けを求めてルイズを見たが、ニヤニヤ笑っているだけだった。
 真紅と翠星石も、ニヤニヤ笑っていた。
 そうこうしている間に、満面の笑みでコルベールが顔を近づけてくる。

「は・・・はぁ、分かりました。僕でよければ…」
「そーです!そーですぞっ!いやーやはり君は見所のある少年だ!ありがとう、本当にあ
りがとう!」
 コルベールに両手をわっしと捕まれ、思いっきり体ごと上下に振り回されてしまう。
 ジュンは、こんな流されてていいのかなー?と疑問はもったが、コルベールの喜びよう
に『やっぱりいやです』とは言えなかった。





 夜
 アルヴィーズの食堂の上の階がホールになっている。『フリッグの舞踏会』も、そこで
開かれていた。
 会場内では大きな笑い声が響いている。特に教員達は得意満面だ。あんな報告最初から
おかしいと思っていただの、私の風魔法がフーケにトドメをだの、何言ってるの私の土が
あの泥棒猫の足をだの、もう一体何度同じ話をしていることだか。
 キュルケはキュルケで、取り巻きの男子達に囲まれている。ダンスは何人待ちになって
いるのやら。
 タバサは黙って料理と格闘していた。
ジュンと真紅と翠星石は、バルコニーで料理のおこぼれに預かっていた。やはり使い魔
という身分上、中に入るのは場違いな気がしていた。




「さぁみなさん、ワインをどうぞ」
 といってシエスタがワインを持ってきてくれた。でもジュンは少し困ってしまった。
「あ、あの、僕は未成年ですから」
「未成年?」
 言われたシエスタはキョトンとした。それを見てジュンも『ああ、この国では未成年で
もお酒を飲んで良いのか』と気がついた。
 真紅もそんなジュンの姿を可笑しそうに微笑んだ。
「ハルケギニアでは別にいいようね。それにヨーロッパでは、子供でもワインは普通に飲
んでいたのよ」
「へぇ~」
「うーんと、するとジュンさんのお国では、子供はお酒を飲んではいけないって言われて
たんですか。それじゃダメかな?」
 ちょっと残念そうなシエスタに、ジュンが思い切って告げた。
「いえ、僕はハルケギニアにいるんですから、飲みますよ」
 と言ってジュンはシエスタからグラスを受け取った。
「おお~、頑張るですよジュン!ファイトですよぉー♪」
 翠星石も、楽しげに応援する。

 ジュンはジッとグラスの紅い液体を見つめ、目を閉じ、一気にグラスを飲み干した

 ぶふぉっ!
 思いっきりバルコニーの外へ吹き出した。

「ぐふあっ!ごふぅ!ずっすいばぜんっ!」
「あらあらっ!ごめんなさい、やっぱりいきなりは無理でしたね」
 と言ってシエスタは慌ててハンカチでジュンの口元を拭いた。
 真紅も翠星石も、やれやれと言う風に顔を合わせて肩をすくめた。

「やっぱりフーケのゴーレムに立ち向かう剣士でも、まだまだ子供なんですねぇ」
「え?僕はそんな、なんにも」
 シエスタに顔を拭かれながら、ジュンは慌てて訂正した。
「まぁご謙遜を!ミス・ヴァリエールが今日の事を自慢して回ってましたよ。ミス・ツェ
ルプストーは、ミス・ヴァリエールの使い魔達にゴーレムを足止めさせて、自分がトドメ
をさしたとおっしゃられてましたけど。ミス・ヴァリエールは、自分の使い魔達がほとん
ど倒していたって。
 どちらにしても、そちらのお人形さん達だけじゃなく、ジュンさんもゴーレムに立ち向
かっていたんですよね!?それも、剣で巨大ゴーレムを一刀両断!
 本当に凄いですわ!ただの平民が、こんな小さな体で、そんなに勇敢で強いなんて!」
「え、えと、む~」

 顔を拭かれながら、シエスタのキラキラとした瞳に見つめられ、ジュンは頭を抱えそう
になった。
 翠星石も、あんのちんちくりんは困ったヤツですねぇ、と真紅とささやきあっていた。

「へへっ!まぁ怒るなッて。使い魔の手柄は主の手柄だ、自慢の一つもさせてやれや。
 …ところで、いつまで拭いてンだ?」
「あ、あら!ごめんなさいっ」
 慌ててシエスタはジュンから離れた。頬を赤く染めながら。
 ジュン達をたしなめたのは、ベルト付きの皮布に包まれたデルフリンガー。バルコニー
に立てかけられている。



 今のデルフリンガーは輝くほどの刀身を持つ見事な片刃剣だ。鞘に入れないと危なくて
しょうがない。だが、鞘にいれるとデルフリンガーがしゃべれないし、彼も寂しがる。そ
れに、鞘に入れてジュンが担ぐと、抜けない。
 というわけで、今デルフリンガーは留め金つきの皮布にくるまれた状態になっている。
抜くのではなく、留め金を外し皮布をほどいて使うようにした。
 そして、この状態だと『鞘に入ってる』わけではないようで、デルフリンガーは自由に
会話が出来るようになった。


「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエー
ル嬢の、おな~~り~~~」
 門に控えた呼び出しの衛士が、ルイズの到着を告げた。
「あらいけない!それじゃ私は仕事に戻りますね。皆様お楽しみ下さいね♪」
 そう言ってシエスタは会場へ戻っていった。

 ルイズは長い桃色掛かった髪をバレッタでまとめ、ホワイトのパーティードレスに身を
包んでいる。肘までの白い手袋が、ルイズの高貴さをいやになるぐらい演出し、胸元の開
いたドレスがつくりの小さい顔を、宝石のように輝かせている。
主役が全員揃ったことを確認した楽師たちが、小さく、流れるように音楽を奏で始めた。

 ルイズの周りには、その姿と美貌に驚いた男達が集まり、盛んにダンスを申し込んでい
た。今までゼロのルイズとからかっていたノーマークの女の子の美貌に気付き、いち早く
唾を付けておこうというのだろう。
 ホールでは貴族達が優雅にダンスを踊り始めた。しかし、ルイズは誰の誘いも断ると、
バルコニーにたたずむ使い魔達に近寄ってきた。

「どーしたのよ、みんなこんな隅っこで」
 ルイズに聞かれてジュンと真紅と翠星石は顔を見合わせた。答えたのはデルフリンガー
だ。
「こいつら、自分達が使い魔で平民で人形だからって気を使ってんのさ。全くおめぇさん
は良い使い魔をもってやがんなぁ」
 聞いたルイズは、はぁ~、とため息をついた。
「そんなこったろーと思ったわよ。まーったく、あんた等は良い子過ぎるのよ。ほら、と
にかく来なさい!」
 ルイズは強引にジュンの手を引っ張った。
「ちょっちょっとルイズさん!僕はダンスなんかした事無いですよ!」
「いーのいーの、私が教えてあげるから!」
 ジュンは無理矢理ホールへ連れて行かれた。残ったモノ達の暖かい微笑みに送られて。



 ルイズはジュンのぎこちないステップに文句を言わず付き合っていた。だが、その顔は
浮かないものだった。
「そう・・・。ジュンも、学校が始まるの・・・」
「うん・・・」
 ジュンも、申し訳なさそうにうつむいていた。
「…こっちの学校だけでも、いいんじゃない?」
「そうもいかないよ。魔法だけじゃ、多分、ダメなんだ」


 ジュンは、とうとう地球での夏休みが終わり、二学期が始まる時期になってしまった。
学校への復帰を決意した以上、必ず初日から出席する覚悟だった。それに、ローゼンが薔
薇乙女を生み出した技は錬金術、と彼は予想していた。錬金術は現代科学の基礎にもなっ
た技だ。つまり、蒼星石と雛苺を復活させるには、魔法だけでなく科学も勉強しなければ
いけないということ。だから、地球でも勉強しなくてはいけない。
 ハルケギニアと地球を往復し、魔法と科学を両立させる。その困難な道を、あえて彼は
選んだ。


 二人はしばらくの間、何も言わなかった。ジュンのヘタなダンスに、ルイズは黙って合
わせていた。
 彼らの周りでは、楽団のバロック音楽に似た演奏に合わせて、きらびやかに着飾った若
い貴族達が、優雅に手を取り合って踊っていた。その顔は皆、笑みをたたえていた。
 そんな中、ジュンとルイズだけは、沈んだ顔でうつむいたまま、ただ淡々とステップを
踏んでいた。


「・・・行きなさいよ・・・」
「・・・え?」
 先に重苦しく口を開いたのはルイズだった。うつむいたまま、僅かに震える声だった。
「行きなさいよ…勝手に帰りなさいよ!」

 パチンッ!
 ルイズの平手が、ジュンの頬を打った。
 彼女はジュンを突き放し、扉から飛び出ていった。

「ま、待ってっ!ルイズさん!!」
 頬を押さえてしばし呆然としていたジュンだったが、すぐ我にかえりルイズを追って扉
を出た。
 だが、廊下の暗闇の中に、彼女の姿はもう無かった。
「ルイズ、さん・・・」


 いきなりな事に、楽団は一瞬演奏を止めたが、すぐに演奏を再開した。
 貴族達も何事かと、ジュンに顔を向けてはいたが、すぐ目の前のダンス相手に微笑みを
向けた。
 扉の向こうで立ちつくすジュンを気にすることなく、舞踏会は続いていた。


 ジュンは、赤く腫れた頬を押さえ、立ち続けていた。
「ふふん。レディを泣かすとは、やっぱり君は子供だねぇ」

 ジュンの背後から、聞き覚えのあるキザッたらしい声がした。
 振り返ると、やっぱりキザったらしく扉にもたれかかったギーシュがいた。


 ギーシュとの決闘以来、ジュンはギーシュとまともに話した事はない。ジュンはいつも
真紅・翠星石と共に、ルイズと動き回っていた。他の貴族達も、ギーシュとの決闘を見て
『謎の魔法人形で常に守られた平民』に、ちょっかいをかけることは無かった。
 シエスタやマルトーなど、学院の平民達がジュンに親しげに接してくれたので、ジュン
も貴族達に無理に関わろうとはしていなかった。
 そのため、ギーシュが舞踏会を抜けてまで、決闘で大恥をかかされたはずのジュンに声
をかけに来たのは、彼にとって意外だった。だからといって、今ギーシュに声をかけられ
るのは、ジュンにとってあまり嬉しくはなかったが。


「ミスタ・グラモン・・・」
 声を返されたギーシュは、薔薇の杖を手に、思いっきりわざとらしく腕を広げた。
「おやおや、このギーシュ・ド・グラモンを覚えていてくれたのかい?光栄だねぇ」
「皮肉は、よしてください・・・」
 ジュンは力なくつぶやき、うなだれた。
 そんなジュンを、ギーシュは不思議そうに眺めていた。
「本当に君は不思議な子だねぇ。フーケのゴーレムと切り結べる程の剣技を持ちながら、
僕のワルキューレには殴られっぱなし。使い魔のクセに主人とダンスするかと思えば、い
きなりケンカしてひっぱたかれる。
 一体君は何者なんだ?何を考えているんだい?」



 尋ねられたジュンだったが、何も言わず黙ってうつむいていた。
 だがギーシュも黙ったまま、ただじっとジュンを見つめ続けた。


 演奏されていた曲が終わり、パートナーが入れ替わる頃、やっとジュンが口を開いた。

「僕は・・・僕は、タダの子供です。
 ローゼンメイデンとか、ルーンとか、すごい力を手に入れて、まるで自分の力のように
勘違いして、浮かれて周りが見えなくなっていただけの、何の力もないバカです」
 うつむいて語るジュンの肩は、小刻みに震えていた。

「そうか…バカな子供、か」
 ギーシュは、やっぱり格好を付けながら腕組みして虚空を見上げた。

「で…君は、嘘つきでもあるのかい?」
「・・・え?」
 問われたジュンは、ギーシュを見上げた。
「ほら、君は言ってたじゃないか。ブルブル震えて逃げ出すのはイヤだとか、格好悪い自
分から目を逸らさないとか」
「あ…」
「あれは、ウソなのかい?」

 ギーシュは、真顔でまっすぐジュンの目を見た。
 ジュンは、一瞬、目を逸らしそうになった。だが、拳を握りしめ、ギーシュの目を見返
した。

「ウソじゃ…ウソなんかじゃ、ないです。僕は、逃げる気なんかないです」
「ふむ。それじゃ君は、今の自分がやるべき事から逃げない、と言う事だね?」
「…!」

 ジュンは、真顔で見下ろすギーシュの言いたい事を理解した。ジュンの持っていたギー
シュに対するイメージからは想像出来ない意図に、口をあんぐり開けて驚いてしまった。
 ダンスが続くホールをバックに、目を丸くしたジュンへギーシュが微笑んだ。

「さぁ、早く行きたまえ」
 促されたジュンは、ようやく我に返った。
「ありがとうございます!ギーシュさん!」
 慌ててギーシュに一礼して、ジュンは走り去った。


「姿が見えないから、どこいったかと思ったら…」
「やあ、モンモランシー。わざわざ探しに来てくれたのかい?嬉しいねぇ」
 ジュンを見送るギーシュに、見事な巻き毛の少女が声をかけた。腕組みして、少しすね
ているようだ。
「見てたわよ・・・どういうつもり?」
「どういうつもりって、なにがだい?」
「あんな平民の子供にわざわざ声をかけるなんて、意外ね。しかも自分が恥をかかされた
相手なのに」
「恥、か」

 ギーシュはわざとらしく目を閉じて、顔を上げた。

「ホントにヘンな子供だよ。彼は僕に、わざわざ素手で向かってきた。はいつくばって嘔
吐して、大恥をかきそうになった。
 そう、彼は恥をかいていたはずなんだ。でも、彼は真剣だった。どうしてだろうね?」

 ギーシュはモンモランシーに問いかけたが、彼女はフルフルと顔を横に振った。
 彼は、再び虚空を見上げた。

「僕は思うんだ。彼は他人に対してじゃなく、自分に対しての名誉を守ったんだって。本
当の自分で戦いたかったんだ、とね。それは、貴族の名誉とは違うけど、とても大事な名
誉なんじゃないか、そう思うんだ」
「・・・全然分かんないわよ」
 彼女は呆れたようにため息をついた。
「そうだね、僕にもよく分からないよ」
 彼も呆れたようにため息をついた。

「ただね、モンモランシー。これだけは間違いないと思うんだ」
「なあに?」
「子供を見守るのは大人の義務」
 イタズラっぽくウィンクするギーシュに、彼女はちょっとあっけにとられた。
 そして、プッと吹き出した。
「やぁねぇ、全然似合わないわよ」
 照れ隠しのようにギーシュも笑い出す。二人はクスクスと笑いながら、ホールへ戻って
いった。




 広場に、桃色の髪の少女がポツンと立っていた。
 何をするでもなく、ただ立っていた。

 二つの月に照らされた彼女は、おぼろげで、今にも消え入りそうだった。


「なんだか懐かしいですね。まだたいして前の事でもないのに」
 彼女の背に、少年の声が届いた。


「向こうの原っぱ、僕と真紅が召喚された場所でしたね。あの時は、本当にビックリしま
したよ」
 少年は、遠くを眺めながらノンビリ彼女の後ろに歩いてきた。

「そしてここは、ギーシュさんと決闘した場所でしたっけ。ほら、そこ」
 少年が指さした先には、掘り返されて土がむき出しになったままの地面があった。ちら
ほらと草が芽を出している。
「翠星石が大木を生やした跡ですよ。あれ、片付けるの大仕事だったそうです。マルトー
さんも、ああ、厨房のコック長ですけどね、その人まで手伝わされてたそうですよ」


 少女は、何も言わず、身じろぎもしない。
 彼女の長い桃色の髪だけが風にサラサラと踊っていた。
 月明かりに照らされた彼女の髪は、息を呑むほどの輝きだった。


「それに、あのお姉さんと戦っちゃいましたっけ。あの時は本当にとんでも無い事しちゃ
いました。へへ、何にも考えず、勢いで首にナイフ突きつけちゃって。3つ数え終わった
らどうしようかと、冷や汗かきましたよ」
 ポリポリと頭をかく少年だった。


「・・・渡さないって・・・言ったっけ」


 ルイズが、ぽつりとつぶやいた。

「うん、ルイズさんは、絶対渡さないって言ってくれました」
 ジュンも彼女の流れる髪を見ながら答えた。

「そう、あたしは、渡さないって言ったわ」
 ルイズは、ジュンを振り向いた。

「ええ、あの時はホントに嬉しかったです」
 ジュンは、ルイズに微笑んだ。

「ええ、だって私はあなた達の主だもの。使い魔を守るのは主の義務よ」
 ルイズの瞳は鋭さを帯びる。
 そして、懐から杖を取り出した。

「それが主の義務だから。だから・・・帰さない」
 そう言いながら、ルイズは、杖をジュンに向けた。


「帰さない。地球になんか、行かせない!」


 ルイズは、杖をジュンに向けた。その顔に、一片の曇りも迷いもなかった。あるのは、
刃のような眼光。

「さあ、ナイフを抜きなさい」
「ルイズさん…」
 ジュンは、自分を睨み付けるルイズに、哀しげにつぶやいた。ベルトにつけたナイフに
手を伸ばす事もなく、ただ立ったままだ。


 動こうとしないジュンを、ルイズは杖を向けたまま睨み続ける。


「どうしたのガンダールヴ。ナイフを抜かないと、大怪我するわよ。あたしの魔法が爆発
したら、ただじゃ済まないのは知ってるでしょ」
 それでもジュンは、おびえも怒りもせず、ルイズを見つめるだけだ。


「ああ、その方が好都合ね。もう地球に帰るどころじゃなくなるでしょうから」
 ジュンは、ただ哀しそうにルイズを見つめ続けた。


「さぁ早く抜きなさい!これは決闘よ。あたしが勝てば、あなたは、あなた達は正真正銘
私の使い魔になるのよ。
 後の事は安心して良いわ。すべてヴァリエール家が保証する。姉さまは必ず説得するか
ら安心して。ちい姉さまは、きっとあなた達を気に入るわ。父さまも、母さまにだって、
何も言わせない。
 あなた達は、絶対に私が守る!あんた達はあたしのモノよ。だからどこにも、どこにも
行かせないっ!!」

 ルイズは、肩で息をしながら、一気に叫んだ。
 ジュンは、ただルイズの言葉を聞いていた。

 そして、言った。
「抜きません」

 瞬間、ルイズの顔は、もはや憎悪に歪んでいた。

「あんた、あんたまで・・・あんたも私をバカにするのね・・・
 私が魔法が使えないから、大貴族のクセにゼロだからって、ヴァリエールの名前だけし
かない無能な、使い魔すらろくに喚べない出来損ないだっていいたいのね!?」
「違います」
「何が違うって言うのよっ!?あんただってホントはそう思ってるんでしょうが!!」
「違うっ!」

 バチンッ!

 ジュンの平手が、ルイズの頬を打っていた。

 打ったジュンは一瞬ハッとしたが、すぐに真剣な表情でルイズを見つめた。
 ルイズは黙って、打たれた頬を手で押さえていた


「僕は、確かにルイズさんの使い魔とは言えない。でも、でも、その、僕にとってルイズ
さんは、その、だ、大事な人だから」
 言いながらジュンは、だんだん赤くなってうつむいてしまった。

 ルイズは、杖を落としていた。
 赤くなった頬を押さえる手は、大粒の涙で濡れていた。

「・・・嘘つき」
「嘘なんかじゃ、ないよ。ルイズさんは僕にとって、とても大事な人なんだ」
「…どう、大事だって、言うのよ」
「え?えと、それは、その…」
 問われたジュンはさらに真っ赤になり、思わずキョロキョロしてしまう。
「なによ、答えられないの?ホラやっぱり嘘じゃないの!」
「う、嘘じゃないっ!!僕にとって、ルイズさんは・・・」

 ジュンは、真っ赤になりながらも、しっかりとルイズの瞳をみつめた。

「あの、えと・・・大事な、と、友達だと」
「・・・はい?」

 ルイズは、怪訝な顔でジュンを見つめ返した。

「その、僕はルイズさんを、いえ、きっと真紅も翠星石も、ルイズさんを、とっても大事
な、あの、友達だと、思ってるから、と」
「・・・ともだち?」
「はい、友達・・・じゃ、ダメ?」


 さっきまでの勢いはどこへやら。ジュンは、しどろもどろで目が泳いでいた。
 ルイズはルイズで、キョトンとしていた。
「とも・・・だち・・・」
「うん、ともだち」


 ルイズは、しばらく呆然とした後、
「ぷっ・・・ぷくくく・・・あは、あははは、きゃはははぁっはははっ!!」
 腹を抱えて泣きながら大爆笑した。
 今度はジュンがあっけにとられた。

「ははははっははは…はぁはぁはぁ、ふぅはぁ~・・・」

 ようやく笑いが収まったルイズは、トコトコとジュンの前に来た。
 そして
 自分の頭をポスッと、ジュンの胸に預けた。

 ジュンは、どうしたら良いか分からず、困った顔で胸に押しつけられたルイズの髪を見
続けた。
 すると、ルイズの腰がすぅっと沈んで

 ボカッ!
「ふぐぉっ!」

 ジュンは思いっきりのけぞった。
 ルイズの頭突きが、彼のアゴにクリーンヒットしていた。

「ふん!さっきのお返しよ!」
 と言ってルイズは、アゴを押さえるジュンの背後に回り
「なぁ~に生意気言ってンのよ!こんのぉクソガキはぁ~」
 ぎりぎりぎりぃ~っと、チョークスリーパーをかけた。
「ぐぅえぇぇえええあにすんですかあああああ」
「なーにが友達よバカバカしい!あんたなんかね!あんた達なんかね・・・」

 ふっと、ジュンの首を絞める力が抜けた。

「ぼ、僕たちなんか…なんです?」
「…う、うっう!うっさーーーーーーーいっっ!!!」
 渾身の力を込めたチョークスリーパーがジュンの首を締め上げるっ!
「やあべえれええええじぬじずじううううう」
 ジュンが必死に首に巻き付くルイズの腕をタッピングした。
「ふ、ふんだ!今日はこれくらいにしてあげるわよっ」

 ジュンに、ルイズはすっと手を伸ばした。
 彼はゲホゲホいいながら、その手を見つめた。

「何してんのよ。舞踏会はまだ始まったばかりなんだからね、さっさと戻るわよ。今度は
しっかり踊りなさいよね!」
「あ``、あ、・・・あんた鬼だぁ~」
「ゴチャゴチャ言ってンじゃ無いわよ!さっさと来なさい!!」
「ふぁ~い・・・」

 ルイズはジュンを助け起こし、そのまま二人は手をつないで会場に戻っていた。


 そんな二人の姿を、バルコニーから人形達と片刃剣が見つめていた。
「はぁ~あ、もう見てられないですよぉ。やっぱりあのチビは相変わらず、ダメダメなチ
ビ人間ですねぇ」
「ふふふ♪そうね。レディの扱いが全くなってないわ。あれじゃあとても紳士とは言えな
いわね」
「おいおい、あのボウズはそれなりに頑張ってンじゃねえかよ。そこまで求めるのは酷っ
てやつだろ。ほんっと!女は欲張りだねぇ」
 彼女らの体には不釣り合いな、人間用ワイングラスを両手で支えながら、真紅と翠星石
彼らのミーディアムを眺め続けていたのだった。デルフリンガーの口調は、半ば呆れてい
る。
 そんな人形達を、ワインを注ぎに来たシエスタとローラが、まるでボールにじゃれる子
犬でも見るかのようなキラキラした目で見つめていた。




 そのころアカデミーでは、トリステイン魔法学院宝物庫修理費用請求書を送りつけられ
たエレオノールが、ヤクザキックで壁に八つ当たりしていた




「へぇ~!かなりの近道みつけたんだぁ!」
「ええ、まだ力は、吸われちゃう、けど、これまでより、も、ずっと楽に、何度も、往復
できるように、なりま、したよ」

 ホールに戻ってきたジュンとルイズは、再び一緒に踊っていた。こんどはちょっとアッ
プテンポな演奏にのって、ジュンは相変わらずヘタだけど、なんとかルイズのステップに
についてくる。

「それと、僕らがみんな、帰ってる時は、ホーリエと、スィドリームを、こっちに残しま
す、ね。人工、精霊達は、しゃべれないけど、結構役に立つと、思いま、すよ」
 慣れないダンスに、ジュンはもう息が切れだしている。
「…ふん、それくらいは当然よ」
 さすがにルイズは淑女の嗜みとして身につけているのだろう。つんとおすまししたまま
で、楽々とステップを踏み続けている。

 ぽすっ
「こらー!なに二人だけでいつまでも楽しそうに踊ってるですかっ!」
 そう言ってジュンの頭にのっかったのは、翠星石。

 とすっ
「そうね。そろそろあたし達のエスコートもするべきじゃなくって?」
 と言ってルイズの右肩に腰掛けたのは、真紅だった。

「え~?つったって、お前等とじゃ、体の大きさ、が」
「あら、それじゃ、みんなで踊りましょうよ!」
「それはいいわね。やはりパーティーはみんなで楽しむものよ」
「そーれはいいアイデアですねぇ!んじゃチビ人間、このまま踊れ踊れですぅー♪」
「お、お前等、まとめて悪魔か…」
 そんなわけで、ジュンはヒーヒー言いながら、慣れないダンスをさせられ続けた。

 そんな様子をバルコニーから眺めていたデルフリンガーが、こそっと呟いた。
「あ~あ、みてらんねぇなぁ」
 二つの月がホールに月明かりを送り、幻想的な雰囲気を作り上げている。
 翠星石を頭に乗せて踊らされるジュン、真紅を右肩に乗せて軽やかに舞うルイズ。彼ら
を見つめながら、デルフリンガーは、ため息混じりにつぶやいた。

「あれじゃあガンダールヴつーよか、出来のわりぃ弟だなぁ。こりゃ、先がおもいやられ
るぜ。
 ここまで使い魔らしくないと、かえってホントてーしたもんだわなぁ!」


  第八話     月夜に踊るは     END

                    第2部     終  


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