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Mr.0の使い魔 第二十七話

 ルイズが『水のルビー』を懐に仕舞い込むのと、空賊共が船室に押し
入って来るのはほとんど同時だった。人数は二人、それぞれ曲刀と短銃
を持っている。
 一瞬指輪を見られたかと冷や汗をかいたが、幸いな事に心配は杞憂に
終わった。二人は扉を開けた位置で武器を構えたまま、それ以上入ろう
とはしない。いきなり身ぐるみを剥がれなかったのは幸運だと言えよう。

「船長の言う通りだな。積み荷以外に乗客が三人」
「そら、大人しくついて来い。ヘタに騒ぐとフネごと空の藻屑だぞ」
「わかった……あまり手荒な事はしないでくれよ」

 両手を上げて降参の意を表すワルドに、曲刀を持つ男は豪快に笑った。

「貴族のお相手なら任せときな。これまで何人も歓待してきたんだからよ」


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第二十七話


 甲板に引き出された三人は、そこで始めて空賊のフネを視界に収めた。
黒塗りの船体は『マリー・ガラント』号よりも一回り大きい。舷側から
覗く大砲の数々は、明らかに勝ち目がない事を示している。空の向こう
にはアルビオン大陸も見えたが、久方ぶりの『白の国』に気を回す余裕
などルイズにはなかった。甲板に居並ぶ空賊達と、震えている船員達。
ワルドのグリフォンの姿もある。大人しく横たわっているのを見ると、
どうやら魔法で眠らされているらしい。
 周囲を見回すルイズの目が、空賊の中でも一際目立つ格好の男とかち
合った。にやりと笑う彼が頭目のようだ。

「お出ましだな、貴族さん」
「わたし達をどうするつもり?」

 質問というよりは尋問するような調子で、ルイズが頭を睨みつけた。
 頭は大仰に驚いた仕草を見せるも、顔には笑みが浮かんだまま。所詮
小娘だと見くびっているのだろう。

「そうだな。嬢ちゃんは別嬪だから、ウチのフネで酌でもしてもらおうか」

 思わず怒鳴り散らしそうになったルイズだが、拳を握りしめて何とか
堪えた。ひと呼吸おいて、逆に好都合だと考え直す。油断が大きいほど、
いざ反撃された時の痛手は深刻になるのだから。
 それでも、僅かに漏れた怒りが、ルイズの口から飛び出した。

「冗談じゃないわ。あんた達みたいな下郎の相手なんてまっぴらよ」
「驚いた、下郎ときたか!」

 一頻り笑った頭は、視線をルイズからワルド、クロコダイルと順々に
巡らせる。ざっと見聞を終え、彼は後ろに控えた手下に声をかけた。

「てめぇら、こいつらも連れて行け。身代金をたっぷり頂けるだろう」


 ルイズ達三人は、杖とデルフリンガーを没収された上で黒船の船倉に
放り込まれた。杖のないメイジはそこらの平民と大差ない。同様に、剣
を持たない剣士もメイジと戦うには力不足。これらはハルケギニアでの
一般常識である。
 空賊達もそう考えていたのだろう。最初に大人しく武器を差し出すと、
後はろくな身体検査もせずに三人をそのまま船倉へ閉じ込めたのだ。枷
を嵌める事も、見張り番を立てる事もなく、である。
 海賊ならば三流以下のやり口に、クロコダイルなど嘲笑を堪えるのに
一苦労であった。仮にこちらがナイフの一本、予備の杖一振りでも隠し
持っていたら、とは考えなかったのか。もっとも、そんな物より遥かに
危険な“者”がいるのだから、するだけ無駄な警戒かもしれないが。

「まずは下の砲列甲板を潰して、脱出に使う商船の安全確保。杖とデル公の回収はそれからだ」
「場所がわかれば先に行きたいですが、仕方ないですね。後は……頭の身柄確保、でしょうか。
 貴族派のフネを襲うような連中だ、これまでに何度も襲撃を繰り返している可能性は高い」
「憲兵に突き出して信頼を得るにはまたとない獲物だ。利用しない手はないな」

 クロコダイルとワルドは、これからの行動を照らし合わせて頷いた。
 ルイズは会話には参加せずに扉に張り付いていたが、足音が聞こえた
のを確認すると二人の方を振り向く。

「来たわ」
「では、手筈通り」
「ああ」

 言うが早いか、外套を脱いだクロコダイルの体が砂に変わる。場違い
な砂の山が扉の脇まで這い寄ってすぐ、扉が半分ほど開いて二人の男が
顔を見せた。『マリー・ガラント』号からルイズ達を連行した二人組だ。
 あの時と同じく、曲刀を構えた男が前に出る。

「よう。てめぇら、こんな御時世にアルビオンに何しに行く気だ?」
「あんた達なんかに答える義務はないわ」
「気位は人一倍ってか。だがな、立場ってモノを少しは考えた方が——」
「待て」

 一歩踏み込もうとした彼を、後ろの男が引き止めた。切れ長の鋭い目
がルイズと、そしてワルドを睨む。

「あの剣士の男はどこに隠れた」
「彼なら、そこにいるだろう」

 ワルドが何気なく指差したのは、部屋の隅に積まれた大きな樽の山。
そのすぐそばに、見覚えのある外套がある。うずくまっているようにも
見えたが、銃を持つ男は警戒を解かない。

「どうだかな。樽にコートだけ被せているのではないか?」
「そんなに疑うなら、見ていたまえ」

 やれやれと肩をすくめたワルドは、外套のそばに歩み寄ると裾に手を
かけた。自然と外の男達もそちらを目で追う。

 その僅かな隙が、命取りだった。

「まずは二人」
「「ッ!?」」

 声は後ろから。
 振り向こうとした二人の体に、大量の砂がまとわりついた。逃げる暇
もなく、肉体が水分を失っていく。あっという間に骨と皮だけになった
男達の手から、剣と銃が力なく落下した。
 ともすれば凄惨極まりない光景に顔を顰めたルイズを気遣い、ワルド
が優しく声をかける。

「ルイズ、すまないが敵に情けをかける事は——」
「わかってる、わかってるわ。これは、殺し合いだもの」

 ルイズは自分に言い聞かせるように呟いた。相手が犯罪者とはいえ、
騙し討ちで相手を殺すというのは嫌悪感を掻き立てる行為だった。だが、
こちらにも譲れない物がある。こんな所で空賊などに捕まっていては、
自分を信頼してくれたアンリエッタ姫に申し訳が立たない。
 ならば、今はあえて汚名を被ろう。卑怯と蔑まれても、非道と罵られ
ても構わない。与えられた任務を果たし、見事凱旋してみせる。服の上
から懐の書簡と指輪を押さえ、ルイズは決意を新たにした。

「そう、相手は空賊。遠慮する必要なんて、これっぽっちもないのよ」
「ルイズ……」

 ワルドはそれ以上かける言葉がなかった。無理をしているというのは
傍目にもわかる。そうでもしなければ、この可愛い妹分の心は保たない
だろう。冷静なまま人殺しの算段をするには、ルイズはまだ幼すぎる。

(絶対に、彼女を巻き込みはしない)

 自分にできるのは精々そのくらいだ。己は“貴族派に潜入した密偵”で
あり続けなければならない。目的のために“鞍替えした事”を、万が一に
でも気取られてはならないのだ。自分が裏切ったと知れば、今のルイズ
の精神では耐えられまい。
 同時に、ワルドはクロコダイルに対して危機感を募らせた。あの男は、
間違いなくこの裏切り行為に気づいている。インテリジェンスソードの
存在を黙っていた事だけではない。街道でグリフォンを疾駆させた事、
宿のロビーでのやりとりなど、今思い返せば不自然な行動を取り過ぎた。
一つ一つは大した事ではないかもしれないが、これらを関連づけて考え
られては厄介だ。
 これから赴くアルビオンでは、ワルド自身が貴族派として動く場面も
多いだろう。それら全てを“潜入している事に気づかれないための演技”
とルイズが捉えてくれるとは限らない。まして僕であるクロコダイルに
裏切りの可能性を示唆されればどうなるか。

(そうなる前に……何とかして決着をつける)


(次は大砲か)

 甲板から船倉までの順路を脳裏に描きながら、クロコダイルはこの先
侵攻すべきルートを考えた。途中で一度階段を下りたから、甲板を一階
だと考えれば現在地は地下一階。砲列甲板の船縁からの高さを考えれば
もう一つ下の階だ。通って来た階段はまだ下へ続いていたから、あそこ
から行けるだろう。ついでに略奪品の保管場所、それと船長の居所まで
聞き出せれば万々歳である。

「さっさと片付けて、デル公を回収しねェとな」

 ワルドとルイズがそれぞれ剣と銃を拾う間に、クロコダイルは船倉に
目を向けた。二つのミイラは樽の隙間、一見してわからないような場所
へと押し込めてある。ついでに大きな樽を二つ、小さな樽を一つ並べて
手近な布で包んでおいた。薄暗い船倉であるから、軽く覗くだけならば
怯えた三人が身を寄せ合っているように見えるだろう。人質管理の杜撰
な空賊が、そうそう注意深く見る事もあるまい。いぶかしんで踏み込む
にしても、物陰からの不意打ちを警戒して自然と足の進みは遅れる筈。
脱走発覚までの時間を、ほんの一秒であっても引き延ばせさえすれば、
この粗末な工作はそれだけで意味を持つのだ。
 新しく武器を手にしたルイズ達が廊下に出て来ると、クロコダイルは
奪った鍵を鍵穴に差し込んだ。軽く回して船倉を施錠すれば、もうこの
場所に用はない。

「さて、行くか」
「はい」
「ええ」

 三人は、次の標的を目指して船内を歩き出した。


「ふぅ」

 船長室で、頭は僅かにため息を零した。犯罪者には不似合いの豪華な
椅子に腰掛け、物憂げに窓の外を眺める。誰も見ていない場所である故
に、内心の憂鬱を外に出す事ができるのだ。
 と、その耳にノックの音が届く。入室を許可する彼の顔は、一瞬前の
疲れを微塵も残していなかった。入って来たのは、少し腹の出た中年の
男。見張りの一人、トマスだとすぐに思い至る。元より規定の員数以下、
総勢四十七人しか乗っていないフネであるから、全員の顔と名を覚える
のも楽なものだ。

「どうした、トマス」
「ちょっと人探しを」
「人探し?」
「ええ。エドワードの奴が交代の時間になっても現れないもんで。
 ちょうどアーサーが近くにいたんで、ローテーションを繰り上げて交代したんですが」

 彼が言うには、エドワードはもう一人、よくつるんでいるブライアン
と一緒に人質の様子を見に行ったまま戻っていないらしい。一応船倉も
見に行ったが、鍵がかかっており、表にも姿が見えないので引き返して
来たのだとか。それからしらみつぶしに探してまわって、残る船長室に
お邪魔したとの事である。
 エドワードはよく言えば豪快、悪く言えばがさつな男で、今までにも
何度か遅刻した事があった。いずれも自室で仮眠を取り過ぎたのが原因
だが、そこを探して見つからないのでは頭にも心当たりがない。

「どこかで入れ違いになったんじゃないか? もし見かけたら伝えておこう」
「なんだか申し訳ないですな。お手を煩わせてしまって」
「気にしないでくれ。船長などと言ってはいるが、同じフネに乗る仲間なのだから」
「ありがとうございます。では、俺はこれで」

 一礼したトマスが部屋から出て行くと、頭は再び小さく息を吐いた。
こんな狭い船内で入れ違いとは、全く運の悪い事だ。もっとも、そんな
笑い話を言っていられるのも今のうちだろう。このフネがアルビオンに
到着すれば、後はもう……。
 そこまで考えが及んだ所で、頭は窓際の棚に右手を伸ばした。そこに
鎮座する大きな水晶のついた杖——ではなく、隣の小箱を優しく撫でる。
杖以外で唯一、ここに至るまで手放せなかった品。

「どうかもう少しだけ、最期の時までそばにいておくれ」

 薬指に嵌めた指輪が、悲しげに輝いた。


   ...TO BE CONTINUED

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