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エデンの林檎 十六話

十六話 『蛇はイヴに林檎を差し出す』


 ルイズは夢を見ていた。
 以前にも見た夢だ。
 湖の中の小島に一人、ルイズは立っていた。
 眼前には悪魔が一人。
 小島には壊れた船が一隻。

『よう、何か吹っ切れた感じだなあ』
「久しぶりね、海の悪魔」
『海の悪魔ねぇ。そんなもんいねえよ』

 全身が爆発の閃光でできている中、そこだけ実態を持った牙の生えそろった口がにやりとゆがむ。

『俺らはあくまで植物だぜ? そこまでやる能力はねえし、そもそも自意識なんてねえ』
「じゃああなたは何?」
『俺か? 俺は……』

 グネグネと体の形が変わる。
 それは次第にサイズを買え、ルイズの前にふわりと降り立った。
 長い髪、まっ平らな胸。

『俺はお前だよルイズ。もう一人のお前、抑圧されたお前』
「わた、し?」
『ゼロといわれ屈折したお前、平民に笑われ涙をこらえたお前、俺はお前の反対側、俺はお前の裏側さ』
「わ、私は……」
『何だ、悪魔の実に意思があるとでも思ってたのか? ただの寄生植物に? ありえねえって』

 けけけとルイズと違って牙がのぞく口を大きく開けて笑う。

『悪魔の実ってのは種だ。人間を苗床にして育つ種』
「種?」
『そう、悪魔の実は人間を一本の草に変える。その草はおかしな花をつける。凍る花、爆発する花、それこそが能力』
「私が花に?」
『まあ抽象的な表現ってやつだな。当然植物なんだから海水には弱い。おかげで泳げないのさ』
「へえ……」
『お前さんは無理をした。二本の花の茎を縦に裂いて無理やりくっつけた。本来は無理なんだけどな、この世界に散らばるなんだ、お前らが精神力と呼ぶあれ、あのよくわからないエネルギーがその無理を修正しちまった』
「……」
『おかげで俺が生まれたわけだ。余剰エネルギーが自意識を構成できるくらい余ったんだ』

 やれやれと悪魔は首を横に振る。

『この世界は本当にむちゃくちゃだ。本来悪魔の木は茂らないはずなんだ。必要な要素が一つ抜けてるからな。わかるか?』

 ルイズは自分の姿の悪魔と視線を重ねた。

「能力者、でしょう? 私の血で育ったんだもの」
『ビンゴ! 本来の悪魔の木は、まあいろいろ条件はあるが能力者の肉体を苗床に育つ』
「ならどうして私の木は育ったの?」
『言ったろ? このよくわからない魔法のエネルギーだ。不思議すぎるわな』
「魔法、魔法か……」
『お前さんは今一つの仮定を想定してる』

 唐突に悪魔は会話を切り替える。


「……ええ。でも希望的観測に過ぎないわ」
『だが他にないのも事実だ。さて、お前はどうする?』
「決まってるじゃない」

 転がっていた損壊した船にかじりつく。
 喰らい尽くされた船の残骸は再構築され、何本かの筒をはやした船に生まれ変わった。
 その船に飛び乗りルイズは筒に杖を差し込む。

「手に入れるわ。欲しいものは全部」
『グッド!』

 筒から爆炎が噴き出し船を小島から放していく。
 向こう岸は見えず、気づけばそこは海の上。

『Bon Voyage!(良い旅を!)』

 悪魔は笑って手を振った。


 目を覚ますと天井が視界に入る。自分の部屋の天井だ。
 コルベール謹製自動時計『止まらない蛇君・試作16号』を見、時間を確認する。

「三時!? 寝よ寝よ」

 頭を支える柔らかな物体、具体的にはフーケの胸に頭をうずめ、ルイズはゆっくりと眠りに落ちた。

 再度起きたとき二人とも薄着だったせいで起こしに来たキュルケにへんな誤解をされたのはあくまで余談だ。

「だって暑かったのよ!」


 食堂で朝食をつつきながらルイズは左手を見ていた。
 中指にはまった指輪、アンドバリの指輪。
 始末に困るマジックアイテムをどうしようかぼんやりと考えていた。

「しっかしルイズ、あんたまだ一人で寝れないの?」
「ううううるさいわね! まだちょっとだめなのよ……」
「まあ良いけど。熱いからってあんな格好はだめよ?」
「わかってるわよ」

 ぼやきながらルイズはその指輪を外す。

「どうするのそれ? 仕舞っとくわけにもいかなでしょうし」
「こうするの」

 それをそのまま口の中に放り込んだ。
 ゴクリと丸ごと飲み込んでしまう。

「……まあ確かに安全ね」
「これのおかげでいろいろ面白いことがわかるのよ」
「面白いこと?」

 ぐっと握った手のなかに再度アンドバリの指輪が生成される。
 ただし指輪に乗っていた石だけ。

「これ加工できないのよ」
「これ精霊のかけらとかとそっくりね」
「魔法を固めたもの、らしいわ」
「魔法を固める!?」


 現状世界を席巻する四大の魔法、そのどれにも魔法そのものを物質化する手段は無い。

「先住魔法って反則ね。魔法そのものに形を与える、か」
「僕のゴーレムもあくまで魔法で動く銅像だしね。魔法の人形ってわけじゃないし」
「魔法に手は加えられないのね」
「ま、ね」

 もう一度その宝石を飲み込み、ルイズは食事に手を伸ばした。

「ねえルイズ、今食べてるのとさっき飲んだ宝石は別なのよね? どこに行ってるの?」
「わからないわ。なんとなく別の場所に行くのよ」
「……もしかして食べ物も作り直せるの?」
「今食べたローストチキン元に戻して出しましょうか?」
「止めて、気持ち悪いから」
「私もやりたくないわ」

 ゴリゴリと骨までかじりながら、ルイズは菜っ葉の和え物を手に取る。

「この能力の最高の利点はね、キュルケ」

 その菜っ葉、ハシバミ草をがっつりと口に放り込む。

「何食べてもおいしいの」

 タバサが目を輝かせた。


 小屋の中、ルイズは頭をひねっていた。
 何故にこんなにたくさん?

 ルイズはそこに並ぶ三十個をこえるブタブタの実と二十個くらいのウシウシの実に○| ̄|_のポーズをとった。。

「せめて飛べるやつ……」

 トリトリの実は鶏や鴨ばかり。

「でも何でこんなのまであるのかしら?」

 発生条件がどうしてもわからないロギア系以外の悪魔の実。
 何で牛とブタばっかりとうんうんうなりながら、その少し種類の違う実を手に取る。
 それは“ドルドルの実”、パラミシア系の実はロギア系ほどではないにしろ生成されにくい。

「せっかくのゴロゴロの実もメラメラの実もあれ以上大きくならないのに、何でこんなのが?」
「条件がわかりゃあね。ところでいつものメイドのお嬢ちゃんは?」

 ゴーレムに小屋の改修をさせながら、フーケは竹筒から水をあおる。

「里帰り。おかげで作業効率が悪いわ。まあデルフを一緒にやったから危険は減るでしょ」
「なら良いけどね。しっかし喉が渇くね。だんだん量は減ってるけど乾いて乾いて」
「スナスナの実のせいでしょうね。体に定着しきってないから軽く暴走してるんだと思うわ」
「あたしを乾かしてどうしろってんだよ、ねえ。ああ水水、水が足りない」

 がぶがぶと桶から直接水をあおっていく。

「……ちょうど良いわ、井戸を作っちゃいましょう」
「まあいちいち水引っ張ってくるのは面倒だしね。手伝うよ」


 地下水を探すのはそう難しくは無い。
 水のメイジなら少々探るだけで事足りるし、フーケくらいの実力者ともなれば属性は関係ない。
 さらにはスナスナの実にとって土石は自分の延長とも言えた。

「……ここだね、ここが一番近い。といっても何枚か分厚い岩盤があるみたいだけど」
「面倒ねぇ」
「まあ任せな。岩盤以外は錬金かけて押しのけりゃあいいのさ」

 ゴリゴリと地面の砂がブロック上にえぐれていく。
 上から下へ土砂をレンガに作り変えながらフーケの錬金魔法は井戸を形成していった。

「詠唱、してないわよね?」
「実のおかげだと思うけどね、土と砂を操る場合だけそのままいけるのさ」
「便利ねぇ……」

 ゴリっと音を立ててその侵食が止まる。

「その代わりこういう石とかは無理でねぇ」
「ちょっと離れて」

 手で筒を作り岩盤めがけてフッと息を吹く。
 小さな爆発音が響き岩の層は粉々に砕け散った。

「そっちのが反則じゃないかねえ?」
「活用範囲が狭いのよ」


 出来上がった井戸からゴーレムに水を汲ませ、フーケはがぶがぶと水を飲み続けている。
 その横でゴーレムたちが井戸の覆いを作っていた。

 ルイズは悪魔の木の根元を掘り返し、ハアとため息をついた。

「通りでブタと牛と鶏ばっかり出るはずだわ」
「どうしたのさ?」
「ほら」

 掘り返すとゴロゴロと出てくる骨。
 干からびた肉片が付いているところを見ると食堂から出たゴミにも見える。
 不思議なことにそれには木の細い根が絡みつき、一部は侵食していた。

「木の栄養になるようにシエスタが埋めたんでしょうね」
「死骸を喰らって実を作るのかい?」
「というより現象そのものを、かしら。それならあのゴロゴロとメラメラも予想が付くわ。雷ね」
「火ぃつけても燃えるだけだったろ?」
「“自然の”でしょうね、条件は多分」
「……どおりで希少なはずだよ」

 やれやれと頭を振って頭上にできた実を見上げる。
 あれも絶対にブタブタだ。

「この前のドルドルの実は?」
「多分だけど地下にあると思うのよ、死?(蝋)化した何かの死骸が」
「……ファンタスティックだねそりゃ」

 骨を埋めなおしながらルイズはぼやく。

「結局ダイアルも武器に加工できるレベルのものは無いし、微妙ねぇ。せっかくこんな便利な能力を手に入れたってのに」
「まあ良いんじゃないかい? あたしとしちゃ稼ぎに困らなくて便利だと思うがねえ。水水」
「ここじゃ育ちそうに無い実もあるのよ。ヴァリエール領に戻っても同じでしょうし、ねえ」


 日々はつつがなく過ぎ、それは何の変化も無くも今日も回る。


 翌日、レコン・キスタ貴族派は、ラ・ロシェールを占領した。

 一応亡命とわめいてはいるが国としての形も無い集団、完全にただの夜盗と同じだった。
 だがことは非常に面倒な問題になっている。
 反逆者とはいえ相手はアルビオン正規軍の敵、トリステイン側で排除してしまって良いものか。
 さらにはアルビオンとの外交の結果、王党派が派兵を用意しているとのこと。
 トリステインの官僚たちにとって、自国の兵力が傷つかない終わり方は歓迎すべきものだった。

 たとえそれでラ・ロシェールとその周りに被害が出たとしても平民くらいならいいか、と。


 ワルドは義手の様子を確かめていた。
 魔法で動くそれを握ったり開いたりしながら後ろを振り返る。
 眼帯に覆われた右の義眼にものを見ることはできないが、それでもそこにいる兵士達は居住まいを正したままだった。

「諸君、これより我らはラ・ロシェールに進軍、そこを拠点に軍を展開しているアルビオン貴族派を叩く!」
「隊長! 上の許可がありませんがよろしいのですか?」
「あんな誇りも忘れたようなクズどものことなど気にしなくていい! 我らは何だ!」
「ほ、誇り高きトリステインの軍人であります!」
「ならばその誇り高き軍人とやらは自国の国民が苦しんでいても放っておくのか!」
「No Sir! 我らは祖国を守る杖であり剣であります!」
「ならば準備が整い次第出撃する! 恥知らずどもをこの国から追い出すぞ!」

 なにやら妙な夢を見たらしく、ワルドは熱血軍人になっていた。
 夢の中で白い肌のナイスミドルに「このブタ野郎!」とののしられたとか。

「隊長、グリフォン隊全分隊、すぐにでも戦闘行為に移れます!」
「隊長! マンティコア第二・第三小隊、参加するとの通達がありました!」
「同じくヒポグリフ隊、王都防衛以外の者出撃準備完了とのことです!」

 ワルドは感動を禁じえなかった。
 大丈夫だ、トリステインにはまだこんなにも、誇りを持つものがいる。
 何をあせっていたのだろう、まだまだ何とかなりそうじゃないか。

「諸君、あの恥知らずのクソッたれどもの会議が終わり次第進軍を開始する! 上がどう言おうが知ったことか! 正義と大義は我らにあり!」

 後ろで声がする。アンリエッタの怒りの声。
 ワルドは少し微笑んだ。
 大丈夫だ、あの王女もまだまだ戦える。

「副長! 陛下のユニコーンと鎧を用意しておけ!」
「S、Sir! Yes Sir!」

 数分後、アンリエッタの下トリステイン王軍が動き出した。


 戦況は苛烈であったといっていい。
 ワルドたちが弱かったわけでもトリステイン軍の士気が低かったわけでもない。
 むしろメイジの戦闘力は上だったし、士気は最高潮といってよかった。

 場所が、悪かったのである。

 歴史ある町並みを持つラ・ロシェール、トリステインは文字通り町そのものを人質に取られていた。
 町とそこに住む住人を楯にされて爆撃ができず、歩兵と騎兵のみで立ち向かうしかなかったのだ。
 軍は防戦を強いられていた。


「くそお! 土のメイジはどうした! 防壁が崩れるぞ!」
「負傷者多発により維持できません! 向こうの大砲がどうやら新型のようです!」
「なら治療用の水のメイジは!」
「もう手一杯です!」

 飛来する新型の砲弾。

「やらせるかあ!」

 遍在を使って風の障壁を多重に展開する。
 砲弾は風の渦に砕かれ、それでもある程度の熱量をばら撒き四散する。

「隊長!」

 解除した瞬間、目の前に見える次の砲弾。
 遍在を楯にすれば爆風と破片はどうにかなるが、砲弾そのものを防げない。

 死んだ。

 死を覚悟し、それでも部下を守るために風の障壁を広げる。

 目の前の砲弾が、黒い液体でできた鳥にぶつかり爆発して消えた。

「……何?」

 視線を向けるとそこには一人の男、コートをまとい見栄を切る。


 その男は治療を受けた後、すべてを失ってぼんやりとしていた。
 犯人はわかっている。が、いろいろまずい証拠を押さえられているため文句を言うことはできない。
 しかも相手の地位は自分よりも上、どうしようもない。

 彼女は使い魔を召喚してから変わったという、まるで生まれ変わったように。

 彼はそれに習ってみた。
 召喚を、行ったのである。

 大き目の鏡の中から出てきたのは、珍妙な格好の男だった。
 その珍妙な格好の男は傷だらけで、自分がくぐった鏡を振り返り、それが消えるのを確認して倒れた。


 水のトライアングル・メイジである彼にとって傷の治療はお手の物だった。
 失ったものは再生できないが傷をふさぐくらいはわけは無い。
 男の回復を待って彼は話を聞こうと思っていた。

 ――ついでに契約を避けるために自分が召喚したことは隠して。


 使い魔は治療に礼をいい、敵に追い立てられているときに出現した鏡に飲み込まれたのだと説明した。
 なんだかよくわからないが助かったと、使い魔は彼に頭を下げた。

 聞くと使い魔は友を逃がすためにたった一人で艦隊に立ち向かったのだという。
 なんと無謀な、と呆れる彼に使い魔は何の迷いも無く言い放つ。

 友のために命を懸けるのに、理由など必要無い。

 その言葉は彼の心を打ち抜いた。


 一ヶ月ほどの滞在の間、使い魔は彼に自分の持ちうる戦い方を教えていた。
 健全な精神は健全な肉体に宿るとばかりに某ブートキャンプのごとく鍛えられる。
 その甲斐もあってか彼はだんだんマッシヴな体になっていった。

 数日後再び唐突にあわられた鏡に帰れるかも! と飛び込んだ使い魔を見送り、彼は少しだけ建設的に行動してみることにした。
 今までとまったく反対のことをしてみたのである。

 自分が切り捨てた平民たちに謝罪と保障と賠償を行い(その額は平民ではとても手に入れられない額だった)同類の貴族たちと手を切る。
 自分の領地の平民たちの税率を下げ、孤児たちを養う施設を作ってみる。

 それは彼にとって革命だった。
 人から感謝されることがこれほど幸せになれることだったなんて!

 彼は文字通り生まれ変わったのだ。


 彼は今戦場にいた。
 自分の領地の端に作った施設が戦争に巻き込まれたから。
 誇りも何も無い共和国を名乗るものに焼き払われたその孤児院は、子供の世話をさせていた没落メイジともども孤児たちの半数を失った。
 彼は生まれて初めて、身内と自分以外のために泣いた。
 自分に笑顔を向ける子供たちの顔が一つ一つ思い出される。
 ぬくもりを与えてくれたその笑顔を、彼は一瞬で失った。
 魔法がいかに危険で、何故平民たちの革命が起きないかを証明するにふさわしいその悲劇。
 彼は自分の屋敷の中で、ゆっくりと装備を整えていた。

 報いを、くれてやらねばならない。

 丁寧に洗浄修復し飾っていたそのマントを、使い魔が残していったそのマントを、彼は鎧の上から羽織る。
 マントに刺繍された文字が風にはためく。

 それは使い魔の生き様を示す言葉。

 その意味を理解できるものはトリステインにはいない。
 だがそれでもその文字は、彼の心の支えになった。

「あなたは……」
「私のことなど後で構わん! それよりも進軍を! 私達は治療後すぐに向かう!」
「……感謝を!」

 ワルドは彼に一声叫ぶとすぐさま隊のものを引き連れて飛び去る。
 それを確認し、彼は部下に振り返る。

「ドットとラインは治療を! ラインは治療が済み次第、それ以外は今すぐ私に続け!」

 彼はその一歩を踏み出した。
 それは小さな、しかし彼には大きな一歩。

 風に羽ばたくマントには、使い魔の残した一つの言葉。
 それは使い魔の生き様、生きる道そのもの。
 肩の飾りは失えど、その言葉の意味に貴賎はあらず。
 彼はその誇りを背に、戦場で声を張り上げる。

「我が名はモット! ジュール・ド・モット! 誉れ高きトリステインがメイジ!」

 モット伯に道を教えた、意味もわからぬその言葉。

 その背に輝く『オ カ マ ウェ イ』

「“波濤”のモット、これより参戦仕る!!」

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