あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

とある魔術の使い魔と主-49


 アンリエッタはもうわからなかった。
 何が正しいのか、何が間違いなのか。
 自分が今やっている事は一体なんなのであろうか?
 己の国の魔法学院にいる生徒や、自分にとってかけがえのない親友にその使い魔。
 彼らに杖を向けて、魔法を放つまで欲しい未来とは果たしてどれだけのものだろうか。
 もちろん、ウェールズと一緒になれる。自分がいつも抱いていた夢。これ以上の幸福は存在しないとも思う。

 はずだった。

『あんたがどうしようがよ、それに誰かが傷ついたり! 悲しんだら幸せでもなんでもねえんだよッ!!』
 少年の言葉が何度も何度も頭の中で繰り返される。
 もしかしたら本当の幸福は別にあるのかもしれない。
 自分が愛しているウェールズと、一緒に暮らすよりも大事なものがあるのかもしれない。
 それが、わからない。
 答えが、見つからない。
 自分の隣にはウェールズがいる。
 一緒に詠唱しているウェールズがいる。
 そして目の前には、ウェールズの味方である人と赤髪の子が戦っている。さらにその後方でルイズが詠唱していた。
 だから、賭けてみる事にした。
 勝った方が正しいのだと。
 わかりやすい、至って単純な結論。
 本当に、少年が自分の取り巻く幻想を殺すと言うのならば。 
 きっと、彼は主人公(ヒーロー)のように現れてくるはずだ。
 きっと、この状況を覆すはずだ。
 ふと、隣を見る。それに気付いたウェールズがニコッと笑ってくれた。
 優しい笑み。まやかしであったとしても失いたくない。
 少年の姿は見えない。この魔法を放てばおそらく自分の勝ちであろう。ウェールズと一緒に幸せを迎えることができる。
 勝った方が正義。
 だからこちらの方が正しいはず。はずに違いないのだ。
 しかし、

 なぜか胸が締めつけられるような感覚を覚えた。

 自分が正しいはずなのに。何度もそう言っているのに。
 どうして躊躇われるのだろう。
 どうして自分が悪いと思うのだろう。
 おかしい。疑問に感じる自分が、おかしい。
 と、そんなアンリエッタの傍にウェールズが近寄った。心配してくれたのか、そっとアンリエッタの肩に手を置く。
 後は一緒に最後のワンフレーズを口にするだけ。それだけで、この巨大な水の竜巻は敵を切り裂くであろう。
 気持ちが幾分か楽になる。
 彼女に纏わり付く疑問を振り払い、ウェールズに笑みを返す。

 問題ないのだ。これで終わらせばいいのだ。
 気持ちでは否定してるが、アンリエッタの思い通りに口は動いてくれる。だから、最後のフレーズをウェールズと共に言い切れた。
 轟ッ!! と音を立てながら、巨大な渦の塊が動き出す。
 城でさえ一撃で破壊できるであろう水流の渦は風を切りながら、
 この状況に気付かず、未だ詠唱を続けている少女のもとへと迫る。

 が、

 その時だった。
 まるでこれでもかという絶妙なタイミングで、使い魔が主の背後から現れたのだ。
 少年はその巨大な魔法に対して恐怖する様子はなかった。
 それは主を守る使い魔としての義務感か、大切な人を助けに行かなければならないという勇気からだと考えるのが普通だ。
 だけど、

 自分を救うための救世主。
 アンリエッタには、上条当麻の行動がそう感じられた。



(……違う)
 当麻はそう断言した。
 自分はアンリエッタの幻想を殺すと言ったが、それは正しくない。
 アンリエッタの幻想を殺すのは自分ではないと、当麻は気付いたのだ。
 何が正しいのか、何が間違いなのかはわからない。
 それでも、それでも当麻は前へと進む。
 その判断を任せるため。
 その決め手を任せるため。
 拳を握る。
 迫り来る巨大な水の竜巻に怯えもせずに。
 それは、
 主を守る使い魔としてなのかもしれない。
 あるいは、大切な者を守る人間としてなのかもしれない。
 はたまたは、アンリエッタを救う救世主としてのかもしれない。
 しかし、元を辿れば答えなどたった一つだけである。

 道を作ってあげる。

 それだけだ。
 それ以上考えるのがめんどくさいからか、当麻は叫ぶ。
「後はテメェの仕事だ! お前自身の手で、あいつを救ってやれ!」



 ルイズの体内で何かが終わりを告げたと同時、つむっていた瞼をゆっくりと開いた。
 開けた視界の先に当麻がいる。目の前の巨大な竜巻に立ち向かっていた。
 不思議な事に、ルイズ本人は焦る事なく冷静でいられた。
 なぜなら、あの当麻なら守ってくれるから。そう、思っていたからである。
 バシャーン! と水の竜巻が当麻の拳に触れた瞬間、四方に弾けて滝のように降り注いだ。
 その姿に、ルイズは違和感を覚えた。
 いつもは守ってくれるそれ。しかし、今回はそのような感じを与えてくれない。

 まるで、自分が歩く道の障害物をどかしたかのように、
 この先は自分に任されたかのように感じた。

「後はテメェの仕事だ! お前自身の手で、あいつを救ってやれ!」

 その感触は正しかった。今回は使い魔ではなく、主の力で救え、と。
 実をいうと、ルイズもわからなかった。
 本当は自分が行っているのが間違いで、アンリエッタを行かせるのが正しいのであるかもしれない。
 しかし、今の当麻の発言がルイズを後押しする。
 そうだ。アンリエッタが去るという事はもう会えなくなるのだ。
 自分の国の女王。
 幼い頃をともに過ごしてきた親友。
 そして、

 たとえ自分が何を失ったとしても守る、大切な、かけがえのない人。

 それは、アンリエッタがウェールズへの恋と比べたらちっぽけな理由である。
 だが、それがなんだというのだ。
 たった一つの理由があれば十分ではないのか?
 それだけで相手と真っ正面から戦う少年を知り、憧れていたというなら、
 同じように振る舞ってもいいのではないのか?
 その少年が自分に託してくれた。
 その少年が自分のために道を作ってくれた。
 ルイズは、ようやく決心がつく。何が正しくて、何が間違いなのかなんて考えなくていい。

 自分が信じた道を歩く。

 いいではないか、憧れた行為を自分がやったとしても。
 最後に皆が笑って暮らせる世界を目指して、
 ルイズは魔法を放つ。
虚無の魔法、『ディスペル・マジック』を。
 瞬間、ウェールズが崩れた。



 呆気ない幕切れとはこの事を言うのかもしれない。
 防ぐ術がない虚無の魔法をウェールズは身に浴びて、そのまま倒れ込む。一方のアンリエッタも精神力が底を尽きたのか、被さるように倒れ込んだ。
「姫さま!」
 呆然としていたルイズが慌てて駆け寄った。
 一方の当麻は勝利の余韻に浸っている場合ではない。
(まだ……早くいかねえと!)
 今度は自分の番である。
 当麻はすばやく体を半回転し、疲れきっている体に鞭を入れる。ズキズキと背中が燃えるように痛みだすが、気にかける余裕はない。
 と、その時だった。

「あんたにあいつの所にはいかせないよ!!」

 ドバン! と当麻の右側面から無数の矢が発射された。
 終始キュルケを圧倒していたフーケなら、合間を縫って呪文の詠唱を放つことなど動作ではない。

 アンリエッタが気絶したにも関わらず、水の盾は消えていない。おそらく、雨が常に強化し続けているのだろう。
「ッ……!」
 当麻は舌打ちする。もとより何分持つかわからないギーシュの下にたどり着きたい状況に、この時間ロスは痛いからだ。
 短時間であいつを倒せるか!? などと普段は使わないし、期待できない思考を巡らせながらも右手で構えようとした時、
 轟ッ! と風の渦が当麻の前に立ち塞がり、矢の行く手を阻めた。
「行って」
 それはタバサであった。当麻は知らないが、先のゴーレムのせい攻撃により頬が赤く腫れている。
 しかし、当麻は気にかけない。
 気にかけることでタバサが勝つというならいくらでもかける。
 タバサがそれを望んでいるというならいくらでもかける。
 が、当然のようにそんなことはありえないことだ。
 ならばやるべきことは一つ。
 タバサの思いを実現するだけ。
「わりい、頼んだぜ」
 ただ、それだけを言うと当麻は走り去る。
 自分が倒さなければならない幻想を持つ主にへと……。

「しぶといわね。あのまま吹っ飛ばされてた方がよかったのにね」
 言いながらフーケは距離を離した。何か意図があるのだろうか、その間にキュルケはタバサへと近寄る。
「あなたにこの先へは行かせない」
「はん、ならあんたらを倒して行かしてもらうよ!」
 三者は再び、激突した。



「まさかこの『閃光』に速さで挑んでくるとは」
 まるで興ざめたかのように呆れて、ワルキューレの突きを体を捻って避ける。
「いささか無謀ではないか?」
 瞬、っとワルキューレを一刀両断した。
 もとよりドットメイジが作り上げたゴーレム。身体能力も高いワルドにとっては造作もない敵だ。
 さてと……と、ワルドは多少距離が離れた当麻を追おうとする。
 こちらはフライという魔法がある。だから、多少の差などいくらでも埋めるだろう。
 しかし、

 ワルドが足を一歩進めた瞬間、今度は二体のゴーレムに襲いかかった。

 一体は空から、一体は地上から攻めかかる。
 が、このような奇襲をかけられても、ワルドは冷静という状態を崩さなかった。
「ふん」
 杖に収束した風の刃をそのまま持続させる。相手が近接戦を狙っている以上、こちらも合わせた方が幾分有利だからである。

 ワルドは空中にいるゴーレムの方へとゆったりと数歩移動する。その間にも、地上から全力で駆けていたゴーレムがワルドへと間合いを縮めた。
 その瞬間、ドン! とワルドの足が爆発したかのように駆ける。雨によって泥となったのが辺りに飛び散り、自分の衣服にもかかるが気にしない。
 敵は数的優位を狙うとするのならば、一体が空中にいる間に倒せばよいのだ。
 防御、回避など考えず、ただ攻撃のみに集中した最速の突き。
 魔法が使えない分、他のでカバーする兵士達でさえも勝てるかどうかというスピード。敵もこちらに迫っている以上、接触するまでの時間は一秒を五等分するぐらいだ。
 ザク、とワルドの杖が簡単にゴーレムの喉を突き刺した。
 と、もう一体が地面に足をつけるや否や、ワルドにへと突っ込んできた。
 が、ワルドは敵の斬撃を余裕でさけ横一閃、真っ二つにする。
 奇襲を仕掛けた二体のゴーレムを一瞬で倒したワルドに、未だ余裕の表情が浮かべられた。 辺りが静寂に支配されようとしたその時、ガサゴソッと草むらの方から音がした。
「!」
 特に考えもせず、ワルドはそちらの方へと体を動かす。
 このタイミングでの音の発生源となるのなんて一つしかない。
 近づくにつれて人となる影が見えてくる。敵も気付いたのか、慌てて逃げようとするが……
「遅い!」
 間に合わず、ワルドの杖の餌食となった。
 上半身と下半身が別れて、ボサッと変な音を立てる。生死の判別など確認するまでもない。
 これで邪魔者は潰した。そう思い、本命の当麻へと足を進めようとした瞬間、

「いやはや、僕のゴーレムも騙せるものだね」

 と、ついさっき殺したはずのメイジが再びワルドの目の前に現れた。その姿にチッと舌打ちする。
こちらが本物、ならば先程のは――
「なるほど、自分自身のゴーレムを作ったのか」
「これが始めてさ。まあ深夜のおかげというのもあったろうけど。あ、ちなみに僕は本物だよ?」
 ニヤリと口の端をあげるギーシュ。まだ何か手札を隠しているのだろうかと、ワルドは突っ込むのを僅かばかり躊躇った。
 しかし、何もしなければ始まらない。よって突撃。それが一番わかりやすい攻め方であった。
「それでは……」
 ドン! と数歩でギーシュに近寄り、
「試そうか?」
 杖を振り上げた。
 同時、ドゴッ、と地面の中から剣が突き出て来た。

 轟ッ! と風をきりながらせまりくる刃に、ワルドは対応をワンテンポ遅らせる。
「くっ……」
 ザシュ、と水っぽいような音がすると、ワルドの左肩を掠めた。
 もちろんそれだけでない。
 いつの間にかギーシュの背後で控えていたもう一体のワルキューレが一緒に攻めに転ずる。
「今度は二対一になってくれたまえ」
 余裕の表情を浮かべてギーシュは事の成り行きを見守る。
 目的は勝利。が、相手は元魔法衛士隊隊長、自分が作り上げたゴーレムじゃ勝てるはずがないと理解していた。
 ゆえにギーシュができるのは相手の裏をとること。自分が目の前に現れたのも、少しでも疑心を与えるため。
 作ったゴーレムはワルキューレ六体に自分型、そして六本の剣。残された精神力を考えるとワルキューレはもう精製できない。
 これが最後である。
 この間に自分は安全を確保するべきだ。こちらの攻撃に警戒するなら向こうに行かせる時間も僅かばかし延ばすことができる。
 しかし、

「ワルドぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!」

 そんな考えなど知らない少年が、駆けてきた。
 何も武器を持っていないのに、
 一目見て体は疲れているとわかるのに、
 どうしてこんなにも力強く感じられるのだろう。
「って向こうは大丈夫なのか!?」
 思わずツッコミ口調になったギーシュの問いかけに少年は答えず、そのままワルドへと走り去る。
 ワルドがようやく二体の攻撃の合間を縫って倒した瞬間、
 彼の目の前には拳が迫っていた。
 ゴッ! という肉と肉がぶつかり合う音が、ワルドという巨体を数メートル無理矢理後退させる。
 その際にワルドの杖が宙を舞った。どうやら打撃によって意識が飛んでいたせいであるからだろう。
 その杖を拾った当麻は、特に意識せずギーシュに手渡した。
「わりぃ、とりあえず持ってくれ。あとタバサ達の援護に行ってくれ」
「いいのか……、一人で?」
「あぁ、こういうときは一人の方が戦いやすいしな」
 あぁ、後。と当麻は続ける。
「帰ったら、みんなでワイワイギャーギャー宴会でもしようぜ」
 場違いな台詞にギーシュは思わず吹き出してしまった。

 獰猛な笑みでギーシュを見送ると、当麻は立ち上がるワルドに視線を変え、呼吸を整えようとする。
 一回、二回と深呼吸をしている間にワルドはこちらを睨んできた。
「……セコいとは言わせないぜ」
 言いながら、気付く。このまま時間をかけるのはまずいと。
 自分からは見えないが、背中の出血がおそらく酷い。どんどん自分の体内から血が抜けていく感覚。
 もっとも、彼は倒れる気などまったくないが。
「別に決闘ではない。が、我らレコンキスタの目標を達成するまでは俺は絶対に負けられないがな」
 ピクッと、当麻はワルドの発言に苛立ちを覚えた。
 以前にも同じような事はあったような気がするが、気にせず口を開いた。
「テメエがそこまでする理由はなんだ?」
「何度も言わせるな。『聖地奪還』それが我らがレコンキスタの――」
「それが……この国を傷つけなきゃいけない理由なのかよ!?」
 一歩、足を踏み込む。
「そうだ! ハルケギニアを一つにして聖地を奪還する。それが俺の目指す未来だ!!」
 対するワルドも一歩、足を踏み込んだ。
「わかるか! 貴様に! 聖地を奪還する必然性を! 聖地にしか救いを見いだせない俺の気持ちを!!」
 さらにもう一歩、ワルドは大きく踏み込む。
 残る距離は後数歩近づくだけで体がぶつかりそうなぐらい。
 それだけ近いのに、ワルドは叫ぶ。まるで自分の揺るぎない気持ちをはっきしと伝えるためかのように。
 が、
「だからなんだよ」
 当麻はそれを否定する。
 同じような人達を見たからこそ、反論する。
「過去にどれだけ辛いことがあったかはしらねえけどよ、少なくともその辛い気持ちを味わってるんだろ! だったらその矛先を他の人達に向けるんじゃねえ!」
「くださん、そのような事を言ったとして俺の考えが変わると思うか幻想殺し!」
「だったら、考えさせるまで叫び続けてやるよ!!」
 ドン! と当麻は拳を握り泥をはねながらも踏み出す。
「テメエが! 九十九回考えなかったら百回叫んでやる! 九百九十九回考えなかったら千回叫んでやる!!」
開いてる左手を水平に薙ぎ払う。
「何回でも叫んでやる! 何回でもテメエの幻想をぶち壊してやる!」
 当麻は知っているから。
 アウレオス=イザードという人間を知っているから。
 主人公になれず、不幸な結末を迎えた人間を知っているから。

 だからワルドを止めたい。
 だって、昔のワルドがどんな人かを聞いたから。
 ルイズの許婚になって、魔法衛士隊の隊長になった時のワルドの目指してた未来があったから。
 昔に戻れとは言わない。彼を変えた出来事がどれだけ辛い思いを知らないからこそ言えるわけがない。
 ただ、

「テメエが悪であり続ける必要なんかねえんだよ!!」

 気付いてほしい。
 その行為は間違っている、と。
 誰かを傷つけなければならない未来など、
 救いとは言わせない。
 それが、幻想殺しという能力を持っている少年なのだ。
 しかし、これ以上会話を交えたくないのか、ワルドは黙って拳を握る。
 距離は互いに一歩進めばぶつかるほど。
「「!!」」
 そんな中、互いの息が合ったのか同時に飛び出した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」
 小細工無用の拳での対決。最大の一撃を放つために当麻は叫ぶ。
 しかし、

 ワルドは冷静に当麻の動きを見ていた。

「なっ……!?」
 ビュッ! と当麻の拳は空をきった。
 瞬間、ワルドの拳が当麻の顎に襲いかかった。『ぐ、がぁ!?』と当麻の口から声が漏れて、後ろへと吹っ飛ばされる。
 意識が揺らぐ。
 ブリッジを描きながら、そのまま仰向けに転がった。
 しかし、その後の行動は早い。追い討ちをかけようとしたワルドに待ったをかけるように、バッ、と当麻は片手を杖代わりにして立ち上がる。
「まだ、遅いな」
 が、それでもワルドの足の方が早かった。
 横に薙ぎ払われるように放った中段回し蹴りが当麻の脇腹に直撃する……
 かのように思われた。
 今までの経験や勘が当麻に咄嗟の行動を行わせる。
 立ち上がった瞬間と言ってもよいタイミングで放たれた蹴り。それを予期していたかのように、
 当麻はもう片方の腕を小さく畳んでクッション代わりにした。
 ゴン! という拳の衝撃で運動エネルギーを発生させた当麻の体が僅かばかり浮く。
 横へと直線運動をしながら、地面に足をつかせる。
 そのエネルギーとベクトルの方向を自分で調節するため、土に足をめり込ませるように踏ん張る。
 垂直効力、運動摩擦エネルギー、空気抵抗といった様々な力が当麻の動きを止めようとした。
 そのかいあってか、速度が見る見るうちに遅くなっていく。
 視線はワルドから外さない。外してはならないのだが、
「!?」
 空白の時間が生まれる。

 どうやら、出血多量により知らずうちに意識が飛んでしまったようだ。
 体中の至るところが血液を求めてくる。
 しかし、できるわけがない。今背中の出血を押さえている暇はない。ならばやれることは一つ。
(次で……終わらせる……!)
 ワルドもトドメを刺しにこちらへと走ってくる。
 同時、当麻の体が静止した。
「オ、――――」
 終わらせる。今まで溜め込んでいた空気を! 力を! 全て吐き出すかのように上条当麻は叫ぶ!!
「――――、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
 ドン! と足に自分の持てる全てを溜め込んでいた力を爆発させる。
 その力を、臑、肘、腿、腰、腹、胸、肩、腕、手、と流れるように移動していく。
 対するワルドもこれで全てを決めるのか、避ける様子も何もない。
 そして、

 両者の拳が、互いの顔面に直撃した。

 無能力者(レベルゼロ)とメイジ(スクエアクラス)の意識が文字通り吹っ飛んだ。
(が…………!?)
 当麻の視界が左右にぶれる。
 言うことをきかない足が後ろに下がりながらもふらつく。
 ワルドも同じようになっている。しかし、トドメにしては不十分だったのか、倒れるようには見えない。
 一方の当麻の体は休息を求めていた。
 これ以上の戦闘はしたくないと言っているかのように、
 ゆっくりと当麻の体が後ろに倒れ込もうとした。
 真っ黒な空が視界に入る。
(違う……)

 こんな所で終わっていいのか?
 こんな所で諦めていいのか?
 今自分が倒れたらどうなる?
 ワルドに負けたらどうなる?
 わかる未来。わかる結末。
 それだけは見たくない、と。
 そう思えたからこそ、

 当麻はまだ諦めない。

(倒れるなら……)
 ビタッと当麻の体が止まる。その体を一気に持ち上げた。
 空一面の視界から、大地を支える足によってワルドが中央に位置した。
 もとより力は殆ど残っていない。今から爆発するような力など残っていない。
 それでも、と。
(……前のめりだっ!!)
 残っている全てを総動員させて体を前へと動かす。
 その拳を、もう爪が皮膚に食い込むほど強く握った拳を、
 解かない。
 絶対に、解かない。
 足は動く。
 ぐらぐらに揺れる視界はしかしはっきりとワルドを捉えられている。
 向こうも気付いたのか、当麻の方へと構えた。
 ワルドはあまりダメージも疲労も蓄積されてないため、少しだけ余裕があった。
 ゆえに当麻より早く、拳が射出された。
 ゴッ、と当麻の首が真横に向く。
 しかし、
 ギロリと、睨みつけるかのように当麻の視線はワルドから離さない。
 そして、
 握った拳は絶対に開かない。
「ァァァァァァァァあああああああああああああああああああああああッ!!」
「な……んだと!?」
 何十回、何百回と放った拳の軌道は体が染みついている。
 無意識に放たれた拳はしかし、

 メイジの体を吹っ飛ばした。

そして今度こそ、

少年は前のめりに倒れた。


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