あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

T-0 13


 窓から見える、小さく切り取られた空がうっすらと闇を帯びてきた。そこには、灰色に染まった雲がいくつか漂っている。
 たまたま視界に入った遠くの雲に、想いを寄せる。「雲のように何の悩みもなく漂えたら、毎日はどれだけ楽か」と。
 口の端々からこぼれるため息は、空に静かに溶け込んでいくのに。

「あ~、頭いたい……」

 ルイズは嗄れたような声で呟いて、ベッドに身を預けた。どうにも気分が悪い。
 これもすべて、先程外に出させたターミネーターから聞いた、彼のいた世界の話の所為だ。 



 『かがく』というものが、魔法の代わりに発展した世界。平民も貴族もいない、たぶん混沌とした世界。
 しかし、あるとき戦争が巻き起こる。敵は、行き過ぎた『かがく』とやらによって生み出された、機械。人類が身を守るために造った兵器で自ら滅びかけ、朝と昼がなくなってしまった世界。
 【すかいねっと】、【審判の日】、【かく戦争】、【サラ・コナー】、【ジョン・コナー】――――。
 そして、自分――ターミネーター――はその機械、【すかいねっと】に作られた、人間暗殺のための一機械兵士にしか過ぎないのだと言った。

「…………は?」

 『いったい、どこの国のお伽噺なの? よくもまぁ、そんな妄想が真面目な顔して吐けるものね』
 否定はした、彼の存在を疑った――が、やや頭が混乱していたせいか、なぜかすぐ言葉にできなかった。
 初めて聞く言葉、嘘にしか聞こえない科白、迷妄もここまでくれば病気じゃないの? なんてバカよ!
 考えたら頭がズキリと痛くなって、咄嗟に抱えた。走りぬける痛みに参り、聞かなきゃよかったと、思った。
 詰まっていた否定の言葉がようやく口から出ると、あの馬鹿は、まだ持っていた羽根突きナイフを腕に突き立てようとする。
 腕に飛びついて何とか止めたけど、心臓に悪い気がしてならない。ほんと、一々頭が締め付けられる。

 ……しかし、一方で心の底から嬉々とした感情も湧き出ていた。  
 【審判の日】など、もろもろの妄想もしくは狂言はともかく、あの使い魔自体は、思っていたより遥かに凄い。
 ものすごく硬い金属製の体を持つにも拘らず、見た目は完全に人間と相違ない――――いや、見た目だけではない。
 彼は筋肉、皮膚、体毛から血まで、それらの質感や手触りなど細部にいたるまでがかなり精巧に造られている。今の魔法技術を駆使しても、ここまで人間そっくりなゴーレムはできるはずがない。
 となれば、彼は高名なメイジだとか、あるいは凄腕の錬金術師だとかが、極秘に造り出した可能性があるのでは、と考えた。
 戦いにおける強さも、先のギーシュとの決闘で目の当たりにした限り、少なくとも並のメイジ相手に不覚を取ることはなさそうに思える。
 しかも、彼は自分(ルイズ)に絶対服従だ。当たり前なのだが、命令したことは顔色一つ変えずに取り組んでくれる。現に今、彼はこの部屋にいない。 

「……よくよく考えてみれば、大当たりかも……?」

 言ってみると、否定的な意見が脳内でかき消され、思わず口元が綻んだ。唇の端が自然とつりあがり、三日月を模る。
 そしてあくびを洩らした。ぼんやりと瞳が天井を見上げていると、ふとまぶたが重くなってきたからだ。
 まだ就寝するような時間ではないが、ルイズは逆らうことなく目を閉じた。その日は、少しだけ気持ちよく眠れる気がしたからだった。



 ルイズがいつもより早い就寝を迎えたとき、ターミネーターは部屋のすぐ前に立っていた。顔の傷はもうふさがり始めている。
 彼は顔を若干うつむかせ気味にし、悩ましげに顔をしかめているが、体は背にある扉を死守するためにしっかりと使命を全うしている最中だ。
 頭脳では、思案を巡らせていた。先の戦闘での妙な体験は、いざというときのためにも完璧に理解しておく必要がある。
 それ以外にもこの世界のことについて、知っておくべきことは山ほどあるのだが、ターミネーターの頭脳は一つずつ、確実に処理を進めていた。

 まず、“妙な負荷”のことだが、これはすでに何度も計算して「理解不能」という結論が出ている。
 尤も、これについては論理的な結論に到るまでの可能性も情報も少なさ過ぎるため、
 ターミネーターのCPUが自分に解読できない以上この世界の何かが関係しているのだろうと判断し、情報がつかめるまでは保留にしているだけではあるが。
 今ターミネーターが考えていること――もちろん、その最中でもルイズの見張りは忘れない――がもう一つ、それはターミネーターの対熱センサーが戦闘中に捕らえた、熱反応のことだった。
 熱自体が何であるかは識別出来なかったが、それはどうでもよかった。問題は、熱を感じ取った距離だった。
 危うく逃してしまいそうに微々たる熱は、本来内蔵されている対センサーの限界より、遥かに遠いところから現れていたのだ。
 通常だったらどんな障害があろうとそれを無視し、あるいは破壊して使命を遂行するのが彼なのだが、さすがに想定外のことには一瞬思考と視界を奪われた。
 隙を突かれ、まともに攻撃を食らったのはこのためで、仕方がないことだった。
 現行で全センサーに検査・確認を行っているが、次々と前方表記に映る結果は「問題無」の一言のみで、故障の類ではない事だけが解った。

「…………」

 ターミネーターは左手を持ち上げ、甲に刻まれている文字列を食い入るようにじっと見つめた。
 夜風が何度か通り過ぎて、彼は左手を下ろし目線を戻し、「そうだ」と思った。
 熱反応を発見したときもそうだった、あの妙な負荷を感じているときは必ず左手が熱を帯びている。 
 左手を握り締めると、そこにはやはり、微かな熱が生まれていた。 

 数時間後。朝日が昇り始めてうっすらと部屋の中に日がさしてきたころに、ターミネーターはルイズを起こしに向かう。



「うなされていた」

 朝っぱら、低血圧気味にまだ目が半分しか開いていないルイズが今日はじめて聞いた声は、自らの使い魔の太く低い声だった。

「あー……そう」 

 ルイズは疲れた声で返すと、起床したばかりの猫みたいに大きなあくびをしながら、んーっ、と背伸びをした。
 うなされていたそうだが、言われてみれば体が重い。でも、どんな夢を見たかはっきり覚えていなかった。
 目をこすりながら思ったことは、「少しばかり寝すぎたから体が重いのかな?」だけだった。
 いそいそと体を動かし、服を脱ぎ始める。と、もう少しで脱ぎ終わるところで手を止めた。少しの間の後、何かに気づいたようにターミネーターの方をちらりと見る。
 ターミネーターは顔色一つ変えずに、むしろぜんぜん関心無いといった感じの冷ややかな目で、こちらを一挙手一挙動を見つめていた。

 ぼっ、と音がして、ルイズの顔が一気に赤くなった。鼻先がつんと冷えたように痛み、上気した頬から煙が出ている気がする。

「ち、ちょっと外に出てて。わ、わたしの着替えがお、終わるまで……」

 ターミネーターは浅く頷くと、命令通り部屋から出て行き、部屋に静寂が訪れた。

「はぁ~……」

 少しだけ広くなった部屋の中で、ルイズはたまっていた熱を吐き出す。それでもまだ、頬の熱はだいぶ残っている。 
 だめ。と強く思った。
 あの使い魔は、わかってる。人間じゃなくて、ゴーレムの類だってわかってる。うん、わかってるけど、だめよ。
 目を閉じ、赤の他人が見たら速攻で「なにが?」と問いたくなるような自問自答を繰り返して、ルイズは気持ちを落ち着けた。
 はっと気がついたら着替え終わってて、でもシャツのボタンは一つずつずれ、スカートはくしゃくしゃなまま履きこんでいた。
 再び顔を赤く染め、恥ずかしい考えに浸っていた自分を、恥ずかしく思った。ぐちぐち文句をたれながら着なおしを始めると、
 今度は、なにやら外が騒がしいことに気づく。

「もう、すこしは休ませてよ!」

 急いで格好を整えると、早足で扉を開けに向かう。近づいてみてわかったが、騒がしい音は男の声で、その誰かさんは扉の向こうでターミネーターに突っかかっているらしい。
 ルイズの顔がむっとゆがんだ。朝一番にこんなところまで来て騒ぐだけでも無礼だし、言うまでも無くかなり迷惑だ。
 だいたい昨日ギーシュとの決闘を見て彼の強さはわかった筈なのに、わざわざその翌日、早速突っかかっているなんてどんな知慮に欠けた馬鹿だろう。
 考えるとイラッとしてきて、出て行ったら開口一番に文句を言ってやると決めて扉に手を掛ける。

「ちょっと! こんな時間に部屋の前でさわがないで……って、ギーシュ!?」

 勢いよく開けた視界の先に、よく見覚えのある男の姿があった。
 真っ赤に膨れたもみじを両頬に貼り付けていていささか輪郭がおかしいが、そこにいるのは紛れも無く、先日の決闘相手ギーシュ・ド・グラモン本人だった。
 昨日あんな目にあってもまだ、わざわざ喧嘩を売りに来たのだろうか? 
 というより、ここ女子寮なんだけど……
 もうもうと思いを巡らせ頭を傾けるルイズに反応し、ターミネーターから視線を外したギーシュは、呆けたルイズの顔をきっと睨んだ。



「!? な、なによ!?」
「昨日の決闘は確かに僕の負けだった」 

 気迫の篭った睨みつけに、ルイズは思わず半歩後ずさった。がしかし、持ち前のプライドで体勢を立て直すと、
 負けじと剣幕激しくギーシュに言い寄った。
 もったいぶって口をもごもごさせるギーシュは、意を決したように息を吸って、それからようやく口を開いた。
 ギーシュとルイズの目から火花が出ている様子を、ターミネーターはぼーっと見守っていた。

「落とした香水にしても、まぁ、ゴホン! その、ゴホゴホ、もともと僕が……ゴホッ! していたせいだし、君は悪くない。
 だからまず、それを謝りに来た」
「…………」
「はっきり言いな――……わかった、言わなくていいわ」

 ギーシュは途中意図的にせき混じりに声を曇らせたが、ルイズが何か突っ込もうとするとなぜか目に涙を浮かべた。
 ルイズは見事に膨れた頬と目を見比べ、ギーシュの感情を読み取った。どうせ女がらみでこうなったんだろう、
 自業自得だ。まぁここは聞き流すことにしてやろう。
 ふうっとため息をついてやると、ギーシュはありがとうと言わんばかりに頭を下げ、
 ぷっくらと赤く腫れたもみじ(頬)を愛しそうにさすった。 
 ちなみに、ターミネーターは興味なさそう(実際無いのだろう)に遠くを見つめ、無言であった。

「しかし、その香水を割ったのは誰でもない、君だ! 理不尽と思って貰って構わないけど、僕は君を完全に許せない。
 一つ覚えておいてくれ、僕はいつか、必ず君を負かせてみせる! 今日はそれを言いに来た」

 言うと同時に人差し指でびしっとターミネーターを指し示すと、かっこつけるようにばっとマントを翻し、ギーシュは立ち去った。
 頬にもみじを貼り付けていてはかっこいいも何も無いのだが、まぁ、黙っておこう。どうでもいいし。
 ふぁっと気の抜けたあくびをした後さっさと部屋に戻り、ルイズは身だしなみの整えを再開した。

 後々、聞き覚えのある女子生徒の怒りの叫びと、ギーシュの悲痛な叫びが聞こえた気がしたが……まぁ、気のせいでしょ。



 生徒たちの部屋に使用されるものより一回り大きく、彩色良い扉がゆっくりと開いた。
 部屋の中にいた一人の老人は、木造の扉が開く独特の音に気づき、そちらに視線を送る。

「おお、来たかね」

 老人は明るい声を掛けると、現れた二人ににこやかな笑顔を見せた。蓄えられた白髭がふらふらと揺れている。
 ややこわばった声で「失礼します」とちっちゃい方が言うと、部屋の中心にしてその最奥の机にいる老人。
 われらがオールド・オスマンに一礼を贈り、部屋へと入った。
 後ろに立っている大柄な使い魔は、黙ってちっちゃい方の後をついてきている。体に反し、律儀でまじめな男であるようだ。
 オスマンは二人を前にして、ふぅとため息をつくと、だらんとやる気の無い動きで小さな杖を軽く振った。
 直後、開けっ放しになっていた扉が一人でに閉じた。

「ミス・ヴァリェールとその使い魔よ。わざわざ『虚無の曜日』に呼びだしてすまんのぉ」
「いえ、謝られるほどではありません。……ほら、あんたもなんか言いなさい」
「……」

 ルイズはターミネーターに小声で促してみたが、ターミネーターは沈黙を続けており、完全に無視されていた。
 ちょっとだけ頭にきたものの、ここは学院長室だし、オールド・オスマンの前であるから堂々と叱るわけにもいかず、
 「部屋に戻ったら覚えてなさいよ」的な事を思いながら横目で睨み、ルイズは気持ちを抑えた。


 ところで、なぜルイズが今、わざわざ学園長室にいるのかというと、それは唐突な呼び出しがあったからである。
 身だしなみを整え終わり、時間的にもジャストフィットでさあ朝食へGOと扉を開けたとき、目の前に映りこんだものは廊下ではなく、
 ついこの間の授業でルイズが気絶させた教師、ミセス・シュヴルーズだった。
 彼女はまだ完全に目覚めていないらしく、格好はいつもどおりシャキッとしているが、いかんせん目が半分死んでいる。
 彼女は小声でぶつぶつ言いながら、ルイズが疑問をはさむ暇も無くオスマンからの呼び出しを伝えると、すばやく踵を返し、
 見ていて危なっかしい足取りでふらふらと立ち去った。 
 当然だが虚無の曜日とは休みのことなので授業は無く、おそらく今日は彼女も非番だったのだろう。
 それでぐっすり眠りたかったところを伝言なんか任されて、きっといい気分ではないハズだ。
 「おだいじにー……」とのルイズのつぶやきは聞こえたか聞こえていないか、たぶん後者だとルイズは思った。

 とまぁ、こんなことがあって朝食もすっ飛ばしたルイズたちは学院長室にいた。



「あー、ちょっと。ミス・ヴァリエール?」 
「あ、はい。……なんでしょう?」 
「ちーと席を外してくれ」
「え!?」

 オスマンの言葉にルイズの肩ががくっと下がった。拍子抜けしたのだ、思いっきり。
 てっきり昨日の決闘のことで何らかの処分を下される――片付けとか、弁償とか――と思っていたからだった。
 それまで、正直ルイズは内心ハラハラしていたし、お腹が空いていることで少しイライラともしていた。でも今ので全て、吹っ飛んだ。

「用件って、わたしにじゃないんですか!?」
「うん」
「じゃあ、こいつにですか?」
「そうじゃ」

 ターミネーターを指しながら詰め寄ると、オスマンはあまりにあっさりと首を縦に振った。ルイズは急に力が抜けた気になった。
 なんだか、さっきまで緊張していたのが馬鹿らしく思えてくる。

「で、でもわたしはターミネーターの主人です。主人を差し置いて使い魔にしか話せないことって……」

 ――――なんなの……?
 こいつが、実はものすごいゴーレム(の類)だと知っているのは、直に話を聞いた私以外にいるはず無い。あの狂言じみた妄想も、聞いたのは私だけ。
 ルイズが深刻そうに思い浸っていると、オスマンは苦笑いを貼り付けて、むず痒そうな声で顔で言った。

「――あ、いや、ミス・ヴァリエール。別に聞いてもたぶん、話が理解できるならいいんじゃが……うーむ」
「わ、わたしに解らないことが、ターミネーターには解ると?」
「別にそう言うことじゃないわい。ただ、これは……」

 オスマンはしきりに頭をかき、逃げるように目線をルイズから外している。 

「……わかりました、失礼します」

 ルイズは突然、丁寧な動きで頭を下げ、オスマンに背を向けた。
 声色が悔しそうに歪んでいるわけでもなく、悔しげに顔を俯かせる事もせず、淡々とした足取りで出口に向かって歩を進めた。
 途中、ターミネーターにすれ違う一瞬目を合わせたが、特に何をするでもなく、ルイズは部屋を後にした。
「なんじゃ? らしくもなく物分りがいいの?」
 あまりにも大人し過ぎるルイズの行動に、オスマンは首を傾かせながらぼやいた。
 意地っ張りで強情な『あの』ミス・ヴァリエールのこと。てっきり、しつこく迫ってくるのかと思っていたら、
 なんてことの無い引き際の良さに、今度はこっちが拍子抜けしてしまった。あまりの潔さに、なにか引っ掛かりがある気がするけれど、今はおいておく。

「まぁ、いいじゃろう」とオスマンはつぶやくと、ターミネーターへと目線を変えた。

「え……と、ターミネーター君じゃったな。君にいくつか質問がある――――というか君、わしのこと覚えとる?」


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