あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

エンジェリック・ゼロ-2


少女を医務室へ送り届けたコルベールは、その足で学院長室へ向かっていた。
初めは自分の判断のみでルイズに契約させようと考えていたが、少女の顔を見ているうちにその考えが揺らいできていた。
使い魔は呼び出され、契約した瞬間から主の忠実な僕となる。それは我々メイジにとっての常識だ。
だが、使い魔の気持ちを考えるとどうなるだろう。
行き成り呼び出され、元の場所に帰る事も出来ないまま一方的に主従関係を結ばされる。その関係はどちらかが死ぬまで
続くのだ。
我々に生活があるように、あの少女にも自身の生活がある。今頃家族が心配しているかもしれない。
散々やってきておいて、今更そんな事を考えるのはエゴだと言われても仕方が無いだろう。
だが、それでも自分の判断だけで、あの少女の行末を決める事に疑問を持ったのだ。
そこで彼は学院長に最終的な判断を仰ぐ事にした。
普段は昼行灯な学院長だが、いざとなれば王室や貴族の連中に対して一歩も退かない気迫を見せてくれる。
あのお方なら旨く導いてくれるだろう。

学院長室の扉の前まで来たコルベールは扉を軽くノックする。今の時間なら部屋の中に居る筈だ。
だが、何時まで経っても返事が返ってこない。
変だなと思っていると、扉の向こうから「痛っ! 年寄り相手に何て乱暴な!」「そんなんじゃから、君は婚期を逃すんじゃ……
いや! なんでもないです! ごめんなさぁぁい!」等の悲鳴が聞こえてきたので思わず頭を抱え込んだ。
またか…と思いつつも、暫くしてから再度扉をノックすると「あ、開いとるよ」と返事が返ってきた。
中に入ると、部屋の中央に備え付けられた席に腰掛けたローブ姿の老人と目が合った。
その姿はまるで御伽噺に登場する如何にもな魔法使いそのものであった。
彼こそがトリステイン魔法学院の最高責任者、オスマンである。何故か額にできたこぶを痛そうに撫でている。

「オールド・オスマン。御相談したい事があるのですが。」
「行き成り改まってどうしたんじゃね、コルベール君。」
「実はですね…」
「皆まで言うな。君の言いたい事は判っておる。じゃが、金なら貸せん。君には十分な給料を払っとるじゃろう。
未だ一人身だからといって遊んでばかりなのは関心せんのう。見合いの相手ぐらいならわしが紹介してやるぞ。」
「私が言いたいのはそんな事ではありませんし、それに私はそんな遊びはしません!」

そもそもコルベールに変な噂が立っているのは、その様な遊びを全くしない事も原因の一つなのだが。

「私が言いたいのはミス・ヴァリエールが召喚した使い魔の事です!」
「何じゃ、あの例の少女の事か。そんならわしの耳にも届いておるよ。」
「もうご存知でしたか。」
「当然じゃ。わしには優秀な秘書が居るからのう。なあ…」

その言葉を秘書席で聞いていたロングビルが、期待に満ちた顔をオスマンに向ける。

「…我が使い魔、モートソグニルよ。」

落胆したロングビルは自分の仕事に戻っていった。。

「それで例の少女の件ですが、ミス・ヴァリエールにこのまま契約させて良いものか、私一人では判断しかねる状態でして…
そこでオールド・オスマンの力をお借りしたのです。」
「ふむ、平民の、しかも少女を召喚したのは初めてじゃからな。非常に繊細な問題じゃのう。」

オスマンは顎ひげを弄りながら、しばらく考え込む。そして再び口を開いた。

「よし、わしが直接、話をしてみよう。もう少ししたらわしもそっちへ向かうから、先に戻っていてくれんか。」
「ありがとうございます。それでは失礼します。」

コルベールは一礼すると急いで部屋を後にした。

コルベールが医務室に戻ると、少女は医師による診察を受ていた。その結果、気を失っている以外に目立った異常は無く
直ぐに目を覚ますとの事だった。
ルイズは医務室のベッドに横たわる少女の顔を見つめていた。
誇り高き貴族が平民の使い魔を召喚してしまった事は確かに恥だが、この少女に対してはそのような負の感情が
持てないでいた。
それどころか優しい気持ちすら芽生えてきて、貴族だの平民だのと言った事が下らなく思えてくる。
そんな事を考えていると、程無く少女が目を覚ました。

改めて少女の顔を見直したルイズは微かな違和感を覚える。
その違和感は瞳にあった。左右の瞳の色が異なるオッドアイという奴だ。
右の瞳は燃える炎の様な赤、左の瞳は青みがかった紫を湛えており、少女の表情をより神秘的に魅せていた。
ルイズは以前、オッドアイを持つ人間の存在をアカデミーに勤務する姉から聞いた事があったが
実際に見るのはこれが初めてだった。
隣のコルベールもルイズ同様、オッドアイを見るのが初めてだったらしく、新しいおもちゃを買い与えられた時の子供の様に
顔を輝かせていた。
多分、これは研究好きな彼の純粋な好奇心から来るものであって、決してやましい気持ちでは無いのだろうと
己に強く言い聞かせ、生暖かい目で見守る事にした。
そのうち、少女が此方に助けを求める様な表情を見せたので、コルベールの熱い眼差しを遮る様に話しかけた。

「気が付いて良かった。気分はどう?」
「……………」
「名前を教えてくれない?」
「……………」

少女は今にも泣き出しそうな表情で怯えるだけで何も答えない。見ず知らずの人間にいきなり話し掛けられて
怖いのだろうか。

(私は隣で熱い眼差しを送り続けてるオッサンと違って、怖くないのに…)

ルイズはそう思ったが、変に強気に出てこれ以上怖がらせても後味が悪い。さて、どうしたものか…
その後、何とか少女の緊張を解そうと、二人で悪戦苦闘していた所、医務室にオスマンが入ってきた。

「いや、遅くなってすまんのう。なかなか仕事が片付かなくてな。だいぶ待たせてしまったかのう。バルトール君。」
「…私の名前はコルベールです。」
「おお、確かそんな名前じゃったな。すまんすまん。じゃが、ウォン重工業には要注意じゃ。
……所でお前さん達は何をしとるんじゃね?」

オスマンの目には上半身裸のコルベールと、そのコルベールに対して杖を向けているルイズの姿が映っていた。

「い、いえ、これには深い訳がありまして…」

コルベールは上着を着ながら、気まずそうに答えた。
ルイズはそんな禿頭教師を相変わらず生暖かい目で見続けていた。

「判っておる。大方、ミス・ヴァリエールが召喚した少女が目を覚ましたはいいが、何を聞いても怯えるだけで
答えてくれんから、彼女の緊張を解そうと上着を脱いで十八番の宴会芸の筋肉ダンスを披露していたんじゃろ。
ミス・ヴァリエールの方はそんなハゲベール君の魔の手から少女を守ろうと魔法で攻撃しようとしてたんじゃろ。どうじゃ?」
「その通りです! さすがはオールド・オスマンですなあ。」
「なあに、伊達にこの学院の長をやっとらんよ。カッカッカッ!」

この学院長、普段は抜けている様に見えるが、こういう所は実に鋭い。
そんな二人のやり取りに呆れていたルイズは、失敗魔法で二人を吹き飛ばしたい衝動を抑えつつ、口を開く。

「あ、あの、コルベール先生。今はそんな下らない事をやってる場合じゃないと思うんですけど……」
「ああ、そうだったね。すまない。今は例の少女の件が先だ。では、後の事は貴方に託します。オールド・オスマン。」
「うむ、しかと受け取ったぞ、コルベール君。」

オスマンは少女に向き直ると優しく語り掛ける。

「お嬢ちゃん。わしはこのトリステイン魔法学院の学院長をしとるオスマンという者じゃ。いきなりこんな所に連れてこられて
不安じゃろうが、お前さんに危害を加えるつもりは全く無い。じゃからまずは安心して落ち着いて欲しいんじゃが。」

少女は頷く。その表情は平静を取り戻していた。オスマンは満足気に頷いてから言葉を続ける。

「先ずは名前を教えてもらえんかの。でないと何と呼べばいいの判らんからな。」

少女は唇を動かした。だが、唇が動くだけで声が出ていない。その異変に気付いたオスマンは彼女に尋ねた。

「お前さん。もしかして喋ることが出来んのか?」

少女は再び頷く。

「それはすまん事をしたのう… そうじゃ、お前さんの唇の動きをわしが読むから、もう一度名前を言ってみてくれんかの。」

少女は再び唇を動かす。オスマンは彼女の唇の動きから言葉を読み取る。

「…ラスティ…ファースン…か。」

彼女の名前を知った瞬間、オスマンは一瞬驚いた様な表情を見せるが、直ぐに元の冷静な顔に戻った。

「では、ミス・ファースン、いや、ラスティと呼ばせてもらおう。先ずは何から話そうかのう。」

それから、オスマンはこの世界『ハルケギニア』の事、魔法の事、ここは貴族が魔法を学ぶ学校である事、
ラスティがルイズの使い魔として召喚された事等を説明した。
途中、ラスティに『トリステイン』『ゲルマニア』等の地名を幾つか尋ねてみたが、どれも知らないと答えてきた。
次にラスティが自分は『フォンティーユ』という街に住んでいる事、自分の所にも魔法はあり、日常生活に浸透している事
母親が心配するから早く返して欲しい事を告げた。

「ふむ、フォンティーユという名前は初めて聞くのう… 別の世界からという可能性もあるが、コルベール君はどう思うかね?」
「今の時点では何とも言えません。ですが、平民も魔法を使う事が出来るのは興味深いですな。」

「あの、それでラスティはどうなるんですか?」

ルイズは恐る恐るオスマンに尋ねた。

「問題はそこなんじゃが。ラスティ、さっきお前さんは元の場所に帰りたいと言っとったじゃろ?
残念じゃが、今の所その方法は無いんじゃよ。」

オスマンの言葉にラスティの表情が曇った。

「確かにこのままミス・ヴァリエールの使い魔として一生を過ごせというのも酷な話じゃ。そこで提案なんじゃが…」

オスマンは軽く咳払いをした後、言葉を続ける。

「元の場所へ帰る方法はわし等が責任を持って探そう。お前さんの生活も保障しよう。その代わり、方法が見つかるまでの間
ミス・ヴァリエールの使い魔として行動して欲しいんじゃ。でないとミス・ヴァリエールは落第してしまうんじゃ。」

ルイズはラスティの方を見遣る。ラスティは下を俯いたまま、目に涙を浮かべていた。
きっと母親の事を考えているのだろう。今にも泣き出してしまいそうだ。

ルイズは思考を巡らせる。
ラスティと契約すれば、自分は落第しなくて済む。でも、ラスティ自身の気持ちはどうなるのだろう。
今まで使い魔の気持ちなんて考えた事も無かったけど、彼女と出会って
自分の考えていた事がいかに狭いかが判った様な気がする。
彼女の事を守ってあげたい。使い魔としてではなく。
もう決めた。迷わない。

「オールド・オスマン。私、ラスティとは契約しません!」

ルイズの予想外の言葉にコルベールが怒りを露にする。

「何を言っておるのだね、ミス・ヴァリエール! 契約をしないと君は落第してしまうのだよ! それでは君が困るだろう!」
「構いません。彼女を守ってあげたいんです。使い魔としてではなく。」
「しかしだね、君…」
「もうその辺でいいじゃろ、コルベール君。」

オスマンは満足そうに言葉を続ける。

「君ならそう言うと思っておったぞ、ミス・ヴァリエール。君にそこまでの決意があるのなら特別に認めよう。落第も無しじゃ。
但し、彼女が困っている時には全力で力になってやる事が条件じゃ、良いな?」
「はい! ありがとうございます!」

ラスティの嬉しそうな表情にルイズも自然と顔を綻ばせる。

「じゃあ、改めて宜しくね。ラスティ」
「あう♪」
「それから、まだちゃんと自己紹介してなかったわね。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
長いからルイズで良いわよ。」
「あう♪」

ルイズは感じていた。自分に対してこんなに素直になれたのは久しぶりだなと。
これもこの子のお陰かな。等と思いながらラスティの笑顔を見続けていた。
ここで唐突だが、実はルイズがラスティの事を気に入ったのにはもう一つの理由がある。
それは可愛がれる妹の様な存在が出来た事だ。ルイズには妹が居ない。年の離れた姉なら二人居るが。
しかもその内の一人は会うたびに顔を引っ張られるし、もう一人の方は優しいんだけど何だか動物臭いし……
兎に角、思わず頭を撫でたくなる様な可愛い妹が欲しかったのだ!
そんな時に現れたラスティは正に理想の妹。何という幸運。ああ、始祖ブリミルよ、あなたの御慈悲に感謝致します。
ルイズは今まで信じた事も無かった始祖ブリミルに生まれて初めて感謝した。

(取り敢えず要注意人物をピックアップしておかなくちゃね…
先ずはそこに居るバルトール……じゃなかったハゲベールね。
さっきからずっとラスティに熱い眼差しを送り続けてるし、オールド・オスマンもウォン重工業には要注意だって言ってたし。
でも、ウォン重工業って一体何なのかしら…
次はエレオノール姉さまね。
オッドアイなんて珍しいから、確実にアカデミー行きよ。それだけは絶対にダメ。
でも、あまり会わないから取り敢えずは大丈夫ね。
次はツェルプストーのあばずれね。
あの女、見境無いから特に気を付けなくちゃ。
何時も小柄な青髪の子を連れ回してるけど、あの子も既に餌食にされたに違いないわ。かわいそうに…
後はギーシュにマリコ……何だっけ? 思い出せないけど別にいいわ。
この辺を注意しておけば大丈夫ね。)

「大丈夫かね? ミス・ヴァリエール。さっきから惚けているが…」
「え? ええ、大丈夫です。ミスタ・コルベール。」
「これから色々と大変じゃろうが、もう遅いから今日の所はこれでお開きじゃ。気を付けて戻るのじゃぞ。」

ルイズとラスティは嬉しそうに手を繋いで医務室を後にした。

「オールド・オスマン。何故、ミス・ヴァリエールだけを特別扱いするのですか。これでは他の生徒達に示しが付きません。」
「なあに、単なる年寄りのお節介じゃよ。それにしてもコルベール君は真面目じゃのう。もう少し気楽に生きたらどうじゃね?
そんなんじゃ嫁さん貰えんぞ。」
「それは関係無いでしょう! 余計なお世話です!」
「まあ、そう怒るでない…… そうじゃ、わしはまだ仕事の途中じゃった。早く戻らないとミス・ロングビルが怒るからのう。
それじゃ先に失礼するよ。」

そう言い残し、そそくさと部屋を出て行くオスマン。一人残されたコルベールは大きく溜息をつき、手で乱れた髪を整えた。
手には大量の抜け毛が絡み付いていた。

学院長室に戻ったオスマンは空に浮かぶ双月を眺めながら、物思いに耽っていた。

(あの男の言っていた事がもし本当なら、この先、ラスティには過酷な運命が待ち受ける事になるじゃろう。
出来る事ならそうならない様に願いたいもんじゃ… しかし、あの娘に対して何かやって置くべき事があった筈なんじゃが
何じゃったかのう。思いだせん…)

その様子を見ていたロングビルがオスマンに声を掛ける。

「考え事ですか? オールド・オスマン。」
「いや、大した事では無いんじゃが、一つだけ何か忘れとる様な気がするんじゃ………おおっ! そうじゃあああああっ!!」
「い、いきなり大声を上げないで下さい。びっくりしますわ。 」
「思い出したんじゃよっ! 一番大事な事をっ! あの娘じゃっ! ミス・ヴァリエールの使い魔じゃよっ!
あの娘のスカートの中を確認しとらぁぁぁぁぁんっ! 忘れとったあああああっ!!」
「はぁ?」

ロングビルは思わず顔を引きつらせる。

「こうしてはおれんっ! モートソグニルよっ! 緊急任務じゃっ! 今からミス・ヴァリエールの部屋に忍び込んで
使い魔の娘のグフォッ!!」

ロングビルは無言のまま、強烈な回し蹴りをオスマンの顔面に叩き込む。
オスマンは薄れ行く意識の中で「白…」とだけ呟き、その意識を闇に沈めた。
学院は今日も平和だった。


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