あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

零魔娘娘追宝録 8

                    王女アンリエッタの密名を受け
                                  風の国
                              『アルビオン』
                      を目指すルイズたち一行に
                        襲い来るものやいかに?


 ルイズは言った。
「わかりました。その手紙、必ずや私たちがアルビオンよりお預かりしてきます!」
 アンリエッタ王女が魔法学院を訪れた夜。
 幼い時に約束をかわした婚約者との思いがけない再会に心を奪われていたルイズのもとに、アンリエッタ自らがやってきた。
 アンリエッタの学友として、幼少時代を過ごしてきたルイズにとって、この王女は何者にも代えがたい『友』だ。
 その友人が、人目を忍んでルイズの元に現れたのには理由があった。
 彼女は力を増すアルビオンの反乱貴族に対抗するため、周囲の薦めによって
 強力な国力を持つゲルマニア皇帝のもとに嫁ぐということになったのだ。

 アンリエッタとて望んで行う結婚ではない。だが、緊迫する情勢の中それ以外に小国トリステインの生き残る道はなく、
 そうするより他無いことと諦めるしかなかった。
 だが、それを見過ごせないであろうアルビオンの反乱貴族たちは、その結婚を破談にする材料を血眼になって探している。
 そしてその、『材料』がどこあろう渦中の地。アルビオンに存在しているという。
 それはアンリエッタがアルビオンのウェールズ皇太子に宛てた手紙であり、内容は明かせぬものの、
 その存在が公になれば、ゲルマニア皇帝との縁談は無くなってしまうであろうことは確実だという。
 その手紙は当のウェールズ皇太子が持っており、ウェールズ皇太子の軍は反乱貴族に追い詰められている。
 もはや一刻の猶予もなく、トリステインの国土を守るために手紙を回収せねばならない。
 しかし、ことを公にして大仰に回収部隊を送り込むということもできず。
 回収には秘密を守れる少数の人間で行うのが望ましいのではあるが、
 まだ年若いアンリエッタにそれほどの腹心がいるわけでもなく、
 仕方なく彼女は自分――ルイズたちにその仕事を依頼したのだった。

「このような危険なことに貴方を巻き込むのは心苦しいのだけれど……他に頼れるものがいないのです。
どうか、お願いルイズ。わたくしに力を貸してちょうだい」
「はい。お任せください!」
 他ならぬアンリエッタの依頼である。断れるはずも、断る気も無い。
 それに、不謹慎な話ではあると自覚しているが、ルイズは喜んでいたのだ。
 ゼロのルイズと呼ばれる自分が、王女の密命を受け重要な任務に就く。
 国のために力を尽くすことを誉れとする貴族のルイズにとって、これほど喜ばしいことはない。
「重大な任務だわ……さっそく旅支度をしなきゃ」

「……ねえルイズ。アルビオンって戦争やってるところだよね?」
 興奮した面持ちで落ち着かないルイズに、いつもの調子で静嵐は話しかける。
 この使い魔ときたら! 
 落ち着いているのはけっこうだが、自分たちに課せられた任の重さが理解できていないのだろうか。
「ええそうよ。反乱を起こした、恥知らずな貴族たちが王家を滅ぼそうとしているの。危険な任務だわ。
……あんたも、もちろんついてくるわよね?」
「もちろん。ルイズが行くところなら、どこへでも。例え冥府の先にでもお供するよ」
 あっけらかんと言う静嵐。
 言葉だけならなかなか感動的なものだが、それを言う静嵐の態度は軽く。
 一応は本心からではあるが、それ故に何も考えず適当に言った言葉であることは明白だった。

 そんな静嵐の様子に、アンリエッタも苦笑する
「貴方もよろしくね、使い魔さん。どうかルイズを守ってあげて」
「もったいないことです! この馬鹿剣にそのような……」
 ぼけっと突っ立っている静嵐の手を握り、言葉をかけるアンリエッタ。
「ええと――そういえば、まだ名前も聞いてなかったわ。貴方のお名前は?」
「僕はルイズの使い魔をやっている、静嵐刀といいます」
 美しい王女に手を握られているというのに、少しも動揺を見せたりはしない。その辺は、流石パオペイだと言おうか。
 しかしアンリエッタは、静嵐という名前に驚きの表情を見せる。

「セイラン? ……そう、貴方がそうなのね」
「うちの使い魔をご存知なのですか?」
 まさか王女が自分の使い魔ごときを知っているとは思えない。
 フーケ捕縛の際も、報告書にはルイズとキュルケとタバサの三人によるものだと記していた。静嵐の名前は一つも書いていない。
 それは、平民に無用な手柄を与えることは厄介ごとの種にもなるし、
 宝貝である静嵐はそうした褒美や手柄に興味は無いといったからである。
「ええ。私の知人が彼のことを話してくれていました」
「セイランの知っている人というと、もしかするとその者は……」
 静嵐が王女の、普通の知人に知られているとは考えにくい。
 ならば最初から彼を知っている存在、つまり、
「ええ、パオペイです」
「姫様もパオペイをお持ちなのですか!」

 宝貝と呼ばれている異界のマジックアイテム。どうやらそれが、多数この世界にやってきているらしい。
 タバサが戦ったという『将軍』を名乗る宝貝や、先日フーケによって奪われた学院の宝物『魔封の札』あらため『符方録』など、
 いくつかの宝貝が確認されている。静嵐が言うには、それらは自分のようにこちらから召喚されたものではなく、
 何らかの事故や偶然によってこちらに落ちてきてしまったようであるらしい。
 宝貝。所詮はマジックアイテムと侮る無かれ。宝貝というのは異界でも伝説となっている存在、
 仙人によって造られたモノであり、その力たるや尋常ならざるものだという。
 ぼけっとした自分の使い魔、静嵐刀もまた宝貝であり。この青年の姿は仮の姿、その本性は剣の姿なのである。
 この間抜けな使い魔でさえ、そうした超常能力を有しているのだ。
 そしてアンリエッタもまた宝貝持つという。果たしてその宝貝がどのような力を持っているのか……。
 ルイズの驚きの問いに、アンリエッタは困ったような顔をする。

「結果的にはそうなるのかしら? 一応、私が所有者であることは間違いないのだけど……。
でも、彼は所有物というよりは私の、そう、『先生』のようなものなの」
 どうやらアンリエッタの宝貝も、静嵐や『将軍』のように、人格持ったもので、
 それもアンリエッタから『先生』と呼ばれるほどのものらしい。
「一体どのようなパオペイを?」
「それは……ごめんなさい、言えないの。でも、貴方に言いたくないのではないの、今はまだ明かすことはできないだけ。
このパオペイは、秘密を明かすことで力が弱まってしまうものなのよ」
 そのような宝貝もあるものだろうか、と思うが。
 敵も多い身であるアンリエッタのこと。用心するに越したことは無い。
 自分が好奇心を抑えればいいだけの話である。だが、
「そういうことでしたら。無用な詮索はいたしませんわ。
……ですが姫様、パオペイには、その『アレ』があるはずですが」

 そう。ルイズには一つだけ不安があった。
 宝貝と呼ばれる異界のマジックアイテム。さまざまな種類のものがあるようだが、一つだけ共通していることがある。
 それは、これら宝貝たちはみな、『欠陥』を持っているが故に封印されてしまっていたものであるということだ。
 何せ尋常ならざる力を持った宝貝のことである。その欠陥一つをとっても、無視できないほど危険なものとなることもある。
 もしアンリエッタが、欠陥の存在を知らずに使っているとしたら大変なことになる。
 しかし、当の彼女はころころと笑う。 

「ふふふ、大丈夫。ちゃんと承知しているわ。貴女が心配するようなことはないわ。
――たしかにちょっと使いづらいこともあるけれど、それでも私にはこのパオペイが必要なの」
 よかった。欠陥の存在を知っていて、なおそれを使うというのであればかまわない。
『ちょっと使いづらい』というところに不安が無いではないが、宝貝に振り回されるほどアンリエッタは愚かではないだろう。
「それならばよろしいのですけど……」
 ルイズたちの解決した『土くれのフーケ』による宝物盗難事件。それもまた、パオペイが関っていた事件である。
 フーケもまた、宝貝を盗み出し利用しようとしたのであるが。ものの見事に宝貝の欠陥にはまり、あえなくお縄を頂戴したのだ。
「なんだい、ルイズ?」
 じっと静嵐を見ると、静嵐はわけもわからず首をかしげる。
 ルイズの使い魔にして所有宝貝、静嵐刀。使えるところもあるが、やはり欠陥宝貝であるようでどうにも間の抜けたところが多い。
 こいつを見ていると、不安な気持ちはだんだん大きくなっている。 
 ルイズがそう思っていると、アンリエッタは思い出したようにいう。

「そろそろ戻らなくては、枢機卿がまた余計な気を回してしまうわ。それではルイズ、これを」
 そう言って、アンリエッタは自らの指に嵌めた指輪を抜き、ルイズに手渡す。
 思わず受け取ってしまったルイズは手の中の指輪を見た。
 涼やかな青い光を湛えた宝石のはまった古い指輪だ。
「これは……」
「我が王家に伝わる『水のルビー』です。これを貴女に授けます」
「! そんな、このような大事なもの! 受け取れません!」
 王家に伝わるというのなら、始祖ブリミル由来のものかもしれない。
 普通の装飾品ならばいざ知らず。そのような貴重なもの、気軽に下賜するものではない。

「いいのです。これは私からのほんの気持ち。
貴女にお願いしたことを思えば、これでもまだ足りないくらいです。受け取ってちょうだい」
 アンリエッタのまなざしに力がこもる。
 どうやら彼女にとってこの任務はそれほどに重大なものであるらしい。
 ならば、自分は貴族として、臣下として、そして何より友としてこの『水のルビー』にも勝る結果を出すしかない。
「……わかりました。それではこれは『お預かり』します」
「ええ。今はそれでいいわ。――それとこれを」
 アンリエッタは紙を取り出し、小さく杖を振るう。
 すると紙面にインクが滲み出し、文字をつづる。どうやらウェールズに宛てる手紙のようだ。
 文をしたため、封をする。そしてそれをルイズに手渡した。
「手紙を返していただく旨を書いてありますわ。皇太子様に渡せばわかるはずです
――どうかルイズ、この手紙を、そしてあの手紙をよろしくお願いします」

                  *

 ルイズの部屋を出たアンリエッタは、一人廊下に佇む。
 胸元に手をやり、懐に隠した彼女の『宝貝』に語りかける。
「ごめんなさい。貴方の言いつけのとおりにはできませんでした。やはり私は、あの方のことを……」
 今回のルイズへの依頼は、その宝貝の策によるものであった。
 だが実際に彼女の依頼したものとは違ったものであり、宝貝が伝えたものではない。
 宝貝は彼女に意思を送る。『自分が信用できないか?』と。

「いいえ、貴方の仰るとおりにやって間違いがあったことはありませんわ……その、結果的にですけど」
 言いよどむアンリエッタに、宝貝は『笑い』の意思を伝える。
 ある日、一人思い悩んでいた彼女の元に突如現れたこの宝貝。
 宝貝は、それを望むもの所に現れるというが、これまで自分は悩み事をこの宝貝に打ち明け、
 幾度と無くこの宝貝は自分を救ってくれてきた。
 ……それは少々強引な手段をとることもあったが、概ね結果的に見れば解決していたと言えなくもない。
 だから自分は、この宝貝を『先生』と呼び、相談役として仰いでいるのだった。

 今回のゲルマニア皇帝との縁談も、この宝貝だけは反対したのだ。「他に方法はある」と。
 しかし、周囲の人間に「マジックアイテムが反対したから」という理由だけで縁談を拒否することはできず、
 仕方なく彼女はその縁談を確実なものとすべく宝貝に助言を求めたのであった。
「あなたの言いつけを破って書いてしまいましたわ……『トリステインに亡命するように』と」
 それがどんな混乱を、トリステインにもたらすかわからぬアンリエッタではない。
 それ故に、彼女の宝貝もそれだけは絶対に禁止したのではあるが、自分はいいつけを破って書いてしまった。
 否、書かずにはいられなかったのだ。

 宝貝はしばらく思案するような気配を見せた後『書いてしまった以上仕方無い。静嵐刀がなんとかするだろう』と意思を送る。
 その言葉にアンリエッタは意外な思いをする。
「その、こう言っては彼に失礼なのですが、私にはあの青年がそれほど頼りがいのある人物には見えませんわ。
彼もまた貴方と同じパオペイなのでしょう? それも武器のパオペイだと聞きますが、それほどの者にはどうも……」
 宝貝は『大笑い』の意思を伝え、さらに『君は正しい』という意思を伝える。そして『しかし間違っている』という意思も。
 彼女の宝貝がそういう理由もわかっている。あらかじめ、静嵐刀について聞かされた時に言われたことだ。

「わかっています。私がルイズにお願いしたことがいかに困難であるか。
そしてそれを成し遂げるには計算できない要素。貴方の言う『コントン』が必要であることも。
……その為には彼が、セイラン殿が必要なのですね」
 計算では彼女……ルイズたちの任務の成功率は限りなく低い。
 だがもし、それら計算をものともしないような巨大な不確定要素があれば?
 それが静嵐刀に期待することであった。
「最悪の結果は覚悟しています。ええ、それが『あの人』を愛する覚悟というものですもの。
……わかりました、託しましょう。『嵐』があの方の『風』を助けることを祈りますわ……」
 宝貝は『励まし』の意思を伝える。いつものようにつかみどころの無い、しかし確固たる意思の流れにアンリエッタは安心する。

「ありがとう――ミスタ・ドウカ」

                  *

「いや、長閑だねえ」
 ぱからぱからと、早足で馬を駆けさせながら静嵐は言う。
 街道は快晴。トリステインの穏やかな気候と、温かな日差しがなんともいえぬ陽気を作り出す。
 空を小鳥が舞い、道端には花が揺れる。
「…………」
 隣を走るもう一頭の馬に跨った金髪の少年、ギーシュは押し黙る。
 それに気づかず、静嵐は言葉を続ける。

「こんなに長閑だと、遠いところで戦争をやってるなんて思えないもんだね」
 アンリエッタより密命を託された翌日早朝、ルイズたちは早速アルビオンに向けて出発する。
 アルビオンへ行く船の出ているラ・ロシェールまではどんなに急いでも二日はかかる。
 ルイズは気ばかり急いでいるようだが、こんな時は慌てず歩を進めることが大事だと静嵐は知っている。
 それ故に、いつも以上にのん気な様子で静嵐は言う。
「ねえ、ギーシュ。ここからその、アルビオンというのは遠いのかい?」
「…………」
 ギーシュは返事をしない。馬に跨ったまま……というか、しがみついたまま馬の走るに任せている。
 ははあ、と静嵐は納得する。この陽気だ、仕方あるまい。

「ギーシュ、寝るのはいいけど落っこちないようにね」
 静嵐の言葉通りというわけでもないだろうが、ギーシュはがくっと体勢を崩し、
 すぐに起き上がって叫ぶ。
「ね、寝てるわけないのだろう! 疲れ果てて口も聞けないんだよ! 
朝からずっと馬で走りっぱなしで、グリフォンに乗ってる魔法衛士隊の男はともかく、君はなんで疲れないんだ!」
「なんで、と言われてもなぁ」
 宝貝である静嵐には、普通の人間のよりはよほど体力が備わっている。
 たかが半日馬に乗ったくらいで疲れるほどヤワな体にはできていない。

 ふう、とギーシュは息をつく。喋っていたほうがまだ気がまぎれると思ったのだろう。
 先行しているグリフォンに乗った男。ワルドのほうを見て言う。
「しかし、あの男は何者なんだろう。やけにルイズと親しげだが」
 昨夜、アンリエッタが帰る間際。ギーシュは突然ルイズの部屋に乱入してきた。
 どうやらアンリエッタが忍んでやってきたのを偶然目撃したらしく、ルイズたちの話に聞き耳を立てていた。
 扉の外にいれば静嵐が察知していただろうが、どうやら離れたところから魔法を上手く使って盗み聞きしたらしい。
 それもただ魔法を使うのではなく、部屋の壁に魔法で細い穴を空けて伝声管のようにしていたという。
 まさに苔の一念なんとやら、である。
 聞かれてしまった以上、彼の存在を捨て置くわけにいかず。
 本人のたっての希望もあり、アルビオンへの道のりに同行することになったのだ。

 静嵐は答える。
「ルイズの婚約者だそうだよ」
 閃光のワルド。昨日静嵐がエレオノールと会っている時に現れたあの男は。
 彼は、ルイズたちに同行するようアンリエッタから命じられてやってきたのだった。
 しかも驚くべきことに、彼はなんとルイズの婚約者だと言う
「婚約者ねえ……しかし、魔法衛士隊の隊長か。ま、たしかにルイズとは釣り合いがとれているかもね」
「そうなの?」
 ルイズの実家はトリステインでも有数の大変な名家だということは聞いている。その子女と釣り合うとなれば、並大抵の男ではない。
 ギーシュは我がことのように、誇らしげに言う。

「そりゃそうさ。魔法衛士といえば近衛の花形、トリステイン全貴族の憧れの的さ。
しかもグリフォン隊の隊長ともなれば実力は折り紙つきってやつだ。婚約者の資格としては十分だろうね」
 なるほど、たしかに彼は出来る。ルイズにじゃれついていたギーシュの使い魔、
 大モグラのヴェルダンデを吹き飛ばした魔法の腕前といいと、相当な腕っぷしの持ち主であるということは伺える。
 それに加えて、紳士然とした振る舞いに優雅な物腰、おまけに顔も整っているという。才色兼備とはまさにこのことだ。
 いるところにはいるもんだな、完璧な男というやつは。と静嵐は感心する。

「年はけっこう離れてるみたいだけど」
「あれくらい、貴族の結婚じゃ普通だよ。平民とは違うんだよ平民とは」
「ふうん。そんなもんなのかな」
 たしかに、離れていると言っても十歳程度だろう。そう思えばそれほど無理な話でもない。
 なるほどなぁ、と静嵐は納得する。
 ギーシュはそんな様子を見て、意外そうな声を出す。

「あまり興味が無さそうだね? 君の主人の結婚話だというのに」
「僕が結婚するわけじゃないからね。ルイズが誰と結婚しようと直接的には関係ないよ」
 何を言うんだ、と静嵐は思う。
 しかしギーシュは呆れたように肩をすくめる。
「淡白だなぁ、君は。それでも男かね? そりゃま、ルイズはちょっとばかり発育が悪いかもしれないけど。なかなかに美人だろ? 
この前の舞踏際の時みたいに着飾ればそれなりのもんじゃないか。そんなご主人様が他の男に取られて悔しくないのか?」
 ギーシュの言葉は理屈では理解できる。普通の男ならば、面白くないものを感じるだろう。
 そういうギーシュとて、別にルイズのことを意識しているわけではないだろうが、
 自分と同い年の少女が自分より年上の男に声をかけられているというのは面白くないものがある。
 その程度には、静嵐とて少年少女の感情の動きは知っている。

 だが、静嵐は人間の思考を理解できても、人間ではない。宝貝なのだ。
 それ故に、理屈ではわかっても、感情としては実感することができない。
「悔しくないよ。僕はルイズの『物』だけど、ルイズは僕の『者』じゃないし」
 そうなのだ。使い魔にして宝貝である静嵐は、所有者がそのままであるならば特に問題は無い。
 ギーシュはそれを、使い魔としての言葉としてと受け取る。
「使い魔の忠誠というやつかね。律儀なことだな」
「……そういうわけじゃないけどね」
 だが静嵐も、何か嫌な感じはしていた。それが武器の宝貝としての判断によるものか、それとも静嵐自身の『勘』なのか。
 それすらもわからなかった。

                  *

 日も暮れかけ、ラ・ロシェールまであと少しという距離までギーシュたちは来ていた。
 疲れた。早く宿に入って休みたい。そう思っても体はなかなか言うことを聞かない。
 しかしこのままでは日が暮れてしまう。ならばここは無理にでも急いで、とギーシュが思った時。
「!」
 横を、自分と同じように馬に乗って走っていたルイズの使い魔、セイランが何かを感じたかのように毛を逆立てる。
 滅多に見せない真剣な表情で、静嵐は辺りをうかがう。
「参ったな。長閑な旅もここでお仕舞いかな?」

「……セイランくん」
 先を行っていたワルドたちが戻ってくる。彼と同じグリフォンに乗っているルイズも不安げ顔で両者を見回す。
「やられたな。一気に距離を詰めてくるぞ」
「ええ。困りましたねえ。気配は読めていても、包囲されるだけしかないなんて」
 少し悔しげに静嵐は言う。
 二人とも何かを察知したのか、互いの背中を合わせるようにして周囲を警戒する。

「あの数だ。無理も無いさ。無理に突破するのは危険だな――さて、どう見る?」
「殺気も敵意も中途半端だ。雇われた兵士が誰かの依頼で襲ってくるか、それともこちらの素性に興味は無い盗賊たちの類かな?」
「ほう。そこまでわかるのかね? 気配だけでそこまで読むとは大したものだ。私は風の『匂い』で感じただけなのに」
 苛立ちが募る。二人が何のことを話しているかわからない。
 ギーシュは叫ぶ。
「二人とも何を言ってるんだ!」
 ワルドはうるさげにギーシュに言う。

「ギーシュくん、杖を抜きたまえ。――我々は囲まれている」
「え!」
 ギーシュが驚きの声を挙げると同時に、ヒュンヒュンと風切り音を立てて無数の矢が飛んでくる。
 ワルドが風の魔法で、いつの間にか引き抜いたのか静嵐が背中の剣で、矢の全てを叩き落す。
 何者かが自分たちを狙ったことは確実だ。
 つまり、これは、
「奇襲だーっ!」
 ギーシュの叫びとともに第二射が殺到する。

                  *


「セイランくん! ギーシュくん! 私とルイズがやつらの頭を抑える、君たちは下から敵を迎え撃ってくれ!」
 ワルドは叫び、グリフォンを舞い上がらせる。普通ならばこの状況で空を舞うのは躊躇われることだろう。
 だが、あえて危険を冒し敵の意表をつく。そうすることができるだけの実力を持っているのがワルドであった。
「わ、私はセイランと……!」
 ルイズはそう言ってグリフォンから飛び降りようとする。フーケのゴーレムと戦った時のように静嵐を使って戦うつもりだった。
 しかし、そんなルイズをワルドは押しとどめる。

「駄目だ、ルイズ。今下に降りるのは危険だ」
「で、でも。私も何かしなきゃ……」
 杖を引き抜いては見るが、この状況下では『ゼロのルイズ』はギーシュよりも役に立たない。
「安心してくれ、君は僕が守る」
「え? ……私は、その……」
 そういうことではないのだ。ルイズは――自分も戦いたいのだ。

 眼下では静嵐とギーシュが戦闘に入る。敵の数は増す一方だ。
 それに反してこちらへの攻撃は段々と減ってきている。
 風の防壁で守りに入ったワルドたちを、敵は無視するつもりだ。先に地上の二人を潰そうというのだ。
「……いざと言うときは彼らを見捨ててでもここから離脱する」
「そんな!」
 冷徹なワルドの言葉に、ルイズは反論しようとするが、
 ワルドはそれを押しとどめる。

「もしもの話だよ。だけどルイズ、僕たちの任務の重さを忘れてはいけない。僕らにはトリステインの未来がかかっている。
アルビオンにいきつくことがもっとも僕たちの最も優先すべきことだ。――それに」
 ワルドは薄く笑う。その笑みは何処か空虚で、何か恐ろしいものを感じさせる。
「彼の実力を見てみようじゃないか。……伝説の使い魔、ガンダールヴのね」

                  *

「不味いなぁ、囲まれた。一人ひとりはそれなりの腕しかないけど、こう数が多くっちゃね……」
 岩陰を遮蔽物とし、とりあえず矢を防ぎながら静嵐はぼやく。
「どどどど、どうするんだ!」
 ギーシュが慌てたように言う。今この場でなんとかできるのは自分たちだけだ。
 上空に退避したワルドたちも支援してくれているが、守りも一人でこなさなければいけない彼に期待はできない。
 静嵐は策を練る。

「そうだなあ……まずは僕が一気に懐に飛び込んで敵を撹乱するから、君はあのワルキューレってやつで敵を狙うんだ」
 それは考えて出した結論ではない。
 あくまでも、静嵐の持つ武器の宝貝の知識が言わせている兵法にすぎない。
「ぐ、具体的には?」
「三体で攻めて二体で君自身を守る。残り二体は遊撃ってところかな。長丁場になるだろうからなるべく温存。
あと、攻める時守る時は連携を忘れずに。そうすれば僕と戦った時みたいに各個撃破されることはないよ。
優先する攻撃目標はまずは弓を持ってるやつだ。でないとルイズたちが危険だしね。
相手に飛び道具が無ければ逆にこちらが上とも連携できるから有利になる」
 すらすらと淀みなく静嵐は言う。この程度の戦術は考えるほどのものではない。

「わ、わかった。だが、こんな矢の雨の中大丈夫なのかい?」
 ワルキューレを呼び出しながらギーシュは言う。
「平気……さ! 行くよ、デルフ」
『おうよ、相棒』
 岩陰から飛び出す静嵐を、矢の一斉射が狙う。
 それを回避し、叩き落し、防御しながら静嵐は走る。
 目指すは崖の上、敵が集まっている場所だ。
 遅れて、ギーシュのワルキューレが出てくる。
 鈍重な彼女らはさすがに矢を避けきれないが、その分痛みも恐怖もない。
 矢の衝撃に体を震わせながら敵に近づいていく。

 敵中に飛び込んだ静嵐は、デルフリンガーで敵を斬る。
 悲鳴を上げて敵――武装した兵士らしき男は倒れ付す。
 こちらの命を狙う相手に手加減をしてやるような武器の宝貝は――いないではないが――無い。
 とはいえ、無駄に命を奪うような趣味もない静嵐は、適当に敵の骨や筋を狙い昏倒させていく。
 そもそもこの錆びた剣、デルフリンガーでは真っ当な切れ味は期待できない。
 暇を見つけては研ごうとしていたのだが、何故かデルフリンガー本人、否、本体がそれを嫌がったのだ。
 したがって、今のデルフリンガーはただの鉄板程度の武器でしかないが、
 達人の神技をその身に刻み込んだ武器の宝貝である静嵐刀にはそれで十分だった。

 また一人の敵を叩き伏せた静嵐の後ろに、男が襲い来る。
 静嵐は当然それを読んでいた。前面の敵を斬った勢いをそのままに、ぐるりと体を一回転させ敵を斬ろうとする。が、
 後方の敵はその身に氷の塊を受け、吹っ飛んでいく。
 この魔法には覚えがある。そして、上空から聞こえるワルドのグリフォンとは違った別の羽ばたき音。
 静嵐は空を見上げ、叫ぶ。

「タバサ!」
「貴方をまだ死なせるわけにはいかない」
 上空には、巨大な風竜シルフィードに乗った、杖を構えた二人の少女。タバサとキュルケが居た。
 二人は地上、ギーシュの傍に降り立つ。遠方から静嵐を援護するつもりだ。

「これで貸し一つ」
 そう呟き、タバサは風の塊を操りギーシュに近寄ろうとしていた敵を打ちのめす。
 静嵐は困ったように言う。
「ああ、やっぱりその話はまだ続いてたんだ……。キュルケ、君はなんで?」
 敵を頭に火をつけ、チリチリにさせて痛めつけていたキュルケは片目を瞑って嫣然と笑う。
「私はただの付き添い。なんだか面白そうだしね。そこのギーシュよりは頼りになるわよ?」
 矢を全身に受けてハリネズミのようになったワルキューレで、ようやく一人敵を倒したギーシュは怒る。
「失礼だな! 僕は立派に――うわわあ!?」
 言葉の途中でギーシュは悲鳴をあげる。
 三人の眼前に巨大な影が立っていた。

                  *

「この巨大なゴーレム! まさか……」
 キュルケは呻く。
 ずんぐりむっくりとした、重量感のある巨体。間違いない。
 まぎれもなくそれは『土くれのフーケ』のゴーレムであった。
「そのまさか、さ」
 ゴーレムの陰から、一人の女が現れる。
 地味な色のフードから覗く髪の色は――虹色のまだら模様。

「! その頭、フーケ!」
「頭で人を判断するんじゃないよ! 誰がこんな頭にしてくれたと思ってる!」
 がばっとフードを脱いで、フーケは叫ぶ。空気に触れたまだらの髪は、きらきらとした場違いなほど派手な光を放つ。
 事情を知らないギーシュは「なんだあの変な頭」と呟き、言うが早いか叩き込まれたゴーレムの拳に逃げ惑う。
 キュルケは呆れたように言った。
「……誰のせいも何も、自分のせいでしょう?」

 盗んだ道具の使用法を間違っての結果だ。誰がどう見ても自業自得でしかない。
 しかし、絶対的有利であるフーケは鼻で笑って言う。
「フン、お黙り。気分の乗らない仕事だったけど、相手があんた達だってんなら話は別さ。
ここいらは岩ばかりで私のゴーレムの威力も倍増。今日はそうそう上手く勝てると思わないことね」
「くっ……」
 たしかに、この女のゴーレムは一筋縄でいく相手ではない。そして、以前にそれを倒した静嵐は――
「あのすっとぼけた剣男はあの仮面男が相手をしているみたいだし、ね」

                  *

 ギーシュたち三人の前に現れたフーケの巨大ゴーレム。
 あれに対抗するには自分の力が必要だ。
「み、みんな!」
 主だった敵を全て打ち倒した。残った敵は逃げるか、さもなければ散発的な攻撃しかしてこない。あとはワルドに任せて平気だろう。
 そう判断し、慌てて三人の下へ駆けようとする静嵐。だが、

「待て」

 言葉ともに殺気の筋を感じ、静嵐は横っ飛びに身をひねる。
 静嵐が立っていた場所に雷光が走り、地面を焼く。
「! いつの間に……」
 いつの間に現れていたのか。白い仮面をつけた男が静嵐の後ろに立っていた。
 静嵐の気配察知をすり抜けて『まるで自分はどこにでもいるのだ』と言わんばかりに彼は現れた。
 さきほどの雷光はこの男の放ったものだろう。
 男は何の感情も見せない声で言う。
「おまえの相手は私だ」
『相棒、こいつはやべえぞ!』
 魔法の威力を感じ取ったか、デルフリンガーは戦慄したように言う。
 静嵐もまた、男のただならぬ気配を感じて、ごくりと唾を飲む。
「ああ。こいつ、強いよ……!」

 男は杖を振り、静嵐に挑みかかる。

                                (続く)

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