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ゼロの使い魔0083サーヴァントメモリー-2(2)

この非常時に結婚式を挙げるなどとは常軌を逸している。
例え、ウェールズに媒酌を頼みたかったとしてもだ。
ガトーの価値観で言えば、死を前にした戦士に対して、そのような事を頼めるはずはない。
ならば、別の目的がある。あの時と同じだ。
シーマ率いる部隊がグワデンを制圧し、デラーズを手土産に連邦に寝返った時と。
つまりは、狙いはウェールズの捕縛なり殺害。当然、ルイズもその内に入っているはずだ。
「間に合うか…?いや間に合わせてみせる!」
その心中たるや、ソロモン襲撃時にMk-82の発射を阻止すべく追いすがってきた、コウ・ウラキにも匹敵する。
(デラーズ閣下…!)
あの時はノイエ・ジールとグワデンの艦橋という手の届かない場所だったが、今は違う。
だが、遅れれば、あの時の再現だ。
デラーズは死を覚悟し、自らの死を乗り越えて行けと言ったが
20にもなっていないルイズにそのような物があるはずがないし
これから死の花道を渡ろうとしているウェールズにそんな死に方をさせるわけにはいかない。
……かつて、同じ道を辿ろうとしていた者として。

「子爵…君はフラれたのだ。ここはいさぎよく……」
「黙っておれ!!」
見かねたウェールズが間に入ったが、ワルドがその手を跳ね除け、ルイズの手を握る。
「君の才能が僕には必要なんだ!」
「わたしは、そんな才能のあるメイジじゃないわ。
  あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという在りもしない魔法の才能だけよ!信じてたのに…離して!」
振り解こうとするが、恐ろしい力で掴まれているため離れない。
苦痛に顔を歪めているとウェールズが引き離そうとするが、逆に突き飛ばされる。
「うぬ、なんたる無礼!なんたる侮辱!子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」
そこまで言われてようやく手を離し、優しい笑みを浮かべる。
が、見る者が見れば、すぐさま嘘で塗り固められている事が分かる。
「こうまで僕が言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ」
「嫌よ…誰があなたと結婚なんかするもんですか…!ガトーの言ったとおりだったわ…」
「あの使い魔…余計な事を…この旅で君の気持ちを掴むため随分と努力をしたんだが…仕方ない」
両手を広げ、首を振る。随分と芝居がかった演技だ。
「目的の一つは諦めよう。三つあった目的の一つ。君だよ。ルイズ、君を手に入れる事。しかし、これは果たせないようだ」
「当たり前じゃない!」
「二つ目は…君が受け取ったアンリエッタの手紙」
「ワルド、あなた……」
「そして三つ目…」
ウェールズがアンリエッタの手紙という言葉で全てを察し杖をワルドに向け詠唱をしたが
ワルドが閃光の二つ名に恥じない速度で杖を引き抜き呪文の詠唱を完成させる。
「殿下!」
ルイズが叫んだが、到底間に合うような距離でもないし、助ける方法も無い。
青白く光る杖をウェールズの胸目掛け突きつけようとした時、礼拝堂のドアが破かれた。


礼拝堂の場所を聞き出し、扉の前まで来たはよかったが、鍵が掛かっていた。
そこに中から、ワルドの声で二つ目の目的『アンリエッタの手紙』という言葉を聞いた時、こちらもそれで確信した。
殺意が身を包み、手のルーンが一層光ると同時に扉を蹴破る。
そして視界に映った物は、ワルドに青白く光る杖を突きつけられようとしているウェールズの姿。
脳裏に浮かぶのは、側頭部を凶弾によって貫かれ、力を失い、グワデンの色と同じ真紅の血を撒き散らしながら宙を漂う、主とも言えるデラーズだった屍。
あの時と同じだ。だが、叫ぶしかなかったあの時とは違い、今は手が届く。
「ぬうあああああああぁぁぁぁぁ!!」
全身に殺意を漲らせ、獣の如く叫び、怒りに身を任せ嵐のように駆け抜ける。
その叫びと殺意によって、一瞬ワルドの動きが止まる。
一瞬で十分だ。フルバーニアンと見間違えそうな速度まま、05を彷彿とさせるショルダータックルでワルドを跳ね飛ばした。

「閣下、大事ありませんか!?」
「君は…ああ、大丈夫だ」
深緑を基調とした、この世界唯一のジオン軍服に身を包んだ軍人がウェールズを立たせ、飛ばされたワルドを見据える。
「やはりな…獅子身中の虫め!」
吐き捨てるように言い放つと、ワルドが起き上がる。
「く…あと少しのところで…!何時からだ!」
「知れた事!貴様と会ってから、貴様は信用がおけぬと常に思っていた」
「なるほど…この『閃光』ともあろう物が…これでは道化だな」
ここまでくれば、話す事など一つも無い。目の前の男とはシーマと同じ、根底的な物が決定的に違うからだ。
「最早…語るまい!所詮、貴様とは価値観が違うようだな」
利き手にデルフリンガー。負傷した左手に銃を構える。
この時点で残弾は4発。一発たりとも無駄にはできない。

「相変わらず、戦いとなると熱くなるねー、相棒は。おかげで思い出したぜ。
   そうか、『ガンダールヴ』か!俺もこんなボロい格好してる場合じゃねぇ!」
デルフリンガーが叫ぶと刀身が光り錆が無くなる。
それに気を取られている隙に『ウィンド・ブレイク』が飛ぶ。
銃で撃とうとしたが、あの風だ。
如何に技術が進み、回転運動と弾頭により空力抵抗によるブレが無くなった、UC0083の銃とはいえ、外す可能性が高い。
「俺で受けろ!」
その言葉を信じ、右腕を前に突き出し盾とする形で受ける。
02Aが核攻撃の衝撃からシールドで機体を守るかのように。
「剣では防げぬと知っているだろう!宿屋での二の舞だ!」
だが、その風はデルフリンガーに吸い込まれるように消えた。
これには、さすがに、放った方も受けた方も驚かざるをえない。
「これが、本当の俺の姿さ!いやぁ忘れてた。つまらん連中ばっかだったからテメエで体変えてたんだった
  でも、もう安心しな。ちゃちな魔法は全部、このガンダールブの左腕、デルフリンガー様が吸い込んでやるからよ!」
「ふっ…小癪な」
「なるほど…やはり、ただの剣ではなかったか。
  この私の『ライトニング・クラウド』を受けて傷を負ったのが左腕だけだった時に気付くべきだった
     それならばこちらも本気を出そう。何故風が最強と呼ばれるのか、その由縁を教育してやる」
余裕の態度を崩さないワルドを見据え待つ。何が来ようとも次の一撃で終わらせるという明確な意思表示と共に。

「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
呪文が完成すると、ワルドの体が分身し、本体を入れて計5体のワルドが現れる。
「何!?質量を持った残像だと!?」
「あれは…遍在!それも4体とは…」
「そのとおりだ。風のユビキタス。風は遍在し、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する」
分身のワルドが白い仮面を付けた時、やはりな。と思った。
「全てはその仕業…というわけか」
「いかにも!しかも全てが、独立した意思を持っている。その剣では杖自体が魔法の渦の中心の『エア・ニードル』には対処できまい!」
青白く光った杖を持った5体のワルドがウェールズとガトーを襲う。
剣で受けつつ、かわすが、数が多い。ウェールズの方も手一杯だ。
スクウェアとトライアングルには大きな壁があるらしい。トップエースとエースのように。
「ちッ!」
2体のワルドに胸を貫かれそうなウェールズを見て、左手に持った銃で急所を撃ち抜き消滅させる。
「す、すまない!」
辛うじて残り1体のワルドの攻撃をかわしたウェールズを見て、一先ず安堵したが、すぐさま思いなおす。
こちらは、こちらで3体を相手しているのだ。
「余所見とは余裕だが…もらった」
ウェールズを助けた分、隙ができる。
ワルドの内一体が、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべ心臓を貫かんと杖を繰り出した。
剣で受けれはしないし、銃を向ける暇も無い。勝負が付いたと確信した。

「なんだと!?」
考えたわけではない。反射的に行なった物だ。
忘れる事などできはしない、あの光景。幾多の死闘を演じた内の一つ。
ソロモンの海で、サーベルを逆手に持ち、コクピットを貫こうとした時に、コウ・ウラキが取った行動と全く同じ。
蹴り上げるように、片足を突き出し、足底で受ける。
ビームサーベルならば、膝から下を失うところだが、所詮は杖。急所に受ければ致命傷だが、逆に言えば、急所に受けなければ戦闘可能である。

そのまま、間合いを取る。
銃弾は残り3発。全弾命中しても、一体残る計算だ。しかも、致命傷を与えなければならない。

「平民にしてはやるな。だが、何時まで持つかな?」
「く…!」
正直言えば、不利だ。
MSでも射撃戦ならともかく、白兵戦となれば、数の違いが大きき出る。
ガトーの場合MS戦なら、どちらかといえば、白兵戦を得意とするので3:1でも引けを取らないだろうが、生憎生身だ。
マシンガンでもあればどうにかなるだろうが…
「相棒は、もびるすーつ。ってんだっけ?あれに乗ってた時も剣使ってたんだろ?それと同じ動きすりゃいけるだろ。ガンダールヴなんだからよ」
「簡単に言ってくれる…だが、それしかなかろう」
少し、目を閉じ考える。自分はMSに搭乗していた時、機体をどのように動かしていたかと。
人型である以上、MSも生身も動きの基本的な部分は同じだ。

3体のワルドが打ち込んできたと同時に、目を開くと、体を捻り杖をかわす。
剣で受けるのではなく、間合いを見切り紙一重のところでかわしていく。
MS同士の白兵戦で鍔迫り合いを行なうのは大抵1:1の状況だ。
乱戦でそんな事をすれば、流れ弾に巻き込まれ双方大破という事も珍しくない。
1:1の状況でも、サーベルを打ち合わせれば隙ができる。
ソロモンでもそうだった。AMBAC機動を駆使し、アポジモーターを使い、一号機の放つ斬撃をかわし、反撃していた。
「でぇぇぇい!」
かわしながら、薙ぐようにデルフリンガーを振るうが、こちらもかわされた。
「さすがに、やる!だが、貴様の腕に免じて次で止めを刺してやる!」
身構えるが、息が荒い。思ったより左腕の負傷が大きく、無理して動かしたため、感覚が無くなって来ている。
(ソロモンと同じだな…)
あの時も、核攻撃の衝撃で左腕が動かず、その隙を付かれ、左腕を切り落とされた。
だが、それはワルドも同じだ。予想以上に動きが速いためだ。

「何故、死地に戻ってきた!ここで命があったとしても、5万の敵に囲まれ死ぬしかないというのに。平民の思考は理解できんな!」
「理解できんのは私の方だ。何故、婚約者であろうはずの、ルイズを殺そうとした?」
「目的のためには手段など選んでおれんのでね。手に入らないというのなら殺すまでだ」
「貴様…!」
それを聞いた瞬間、凄まじい形相で歯噛みする。洒落なってない。
「ほう。そこまで怒るとは、ルイズに恋でもしていたのか?平民を使い魔とした事の同情を勘違いしたか。愚か者が」
「ふん…貴様には分かるまいな」
「分からないだと?」
「利益、力。己の保身しか考えていないような無知蒙昧な輩では私は倒せん!」
「なんだと…?」
「私は義によって立っているからな!利のみで戦う男には分かるまい!」
軍人の道を選んでから、全ては、それを基準に進んできた。
結果を形にできると信じ、14Hを手向けとして送ってくれたドズル中将。
志を託し、出撃していったビッター少将。
特攻しようとしていた自分を引きとめ、生きてこそ得る事のできる栄光を掴めと言い、導いてくれたデラーズ中将。
そして、星の屑の礎となった、幾百の戦士達の魂。
その受け継がれた、数多くのジオン魂が、目の前の男の不義を許すなと声を上げている。
ならば、それに従うまでだ。元より一度死んだ身。義を欠いてまで永らえるつもりなど無い。

「熱!相棒熱い!火傷しそうだ」
デルフリンガーが一層光る。かつての愛機。GP-02Aサイサリスのビームサーベルの如く。
「『ガンダールヴ』の強さは心の震えで決まるんだ。この際、『義』だけでもいい!とにかく心を震わせればいい!」
その様子に、ウェールズの相手をしていたワルドも加わり4対1になるが、怯んだ様子なぞ微塵も無い。
「ぬおおあッ!」
槍のようにデルフリンガーを突き出し、叫びながら突進する。
1体のワルドが杖を構え出てきたが、構わず剣を打ち合わせる。
今までの剣速とは違う。光っているデルフリンガーの軌跡が幾重にも重なり、数十本の剣を操っているように見えた程だ。
数回の斬撃と共に、杖ごと両断されたワルドが消滅する。残り3体。
「き、貴様…!」
2体のワルドが空を飛び上から、1体がそのまま突っ込んでくる。
正面に気を取られれば、上空の攻撃に無防備を晒す。だが、上を気にすれば正面に隙ができる。

ただ、ワルドに一つ誤算があった。
銃は一度撃つと、弾を込めなければ使えないという固定観念を伴った誤算が。

「空中では満足に回避もできまいな!」
3発の銃声。速射だが、今ならば確実に狙いを付けられる。
2発が、右上空のワルドの頭と心臓に。1発が左上空のワルドの頭を打ち抜き消滅させる。
「馬鹿な!?連射だと!!」

ワルドが怯んだ隙に、大昔の荒武者を彷彿とさせるかのように、大上段から剣を振り下ろす。
だが、ワルドも伊達に『閃光』の二つ名を持っていない。
ギリギリのところで身をかわし、左腕を切り落とされるだけに止めた。
「くそ…この『閃光』がよもや遅れを取るとは…」
「冥土の土産に私の異名を教えておこう。貴様が『閃光』ならば私は『悪夢』だ」
ガトーも疲労は結構きているが、精神は不思議な高揚感で満ちている。
かつて、コロニーを護り、多くの連邦軍をなぎ倒した時のように。
「止め!」
床に蹲り左腕を押さえているワルド目掛け突き進む。
鬼人の如く向かってくるガトーを見て、心底恐怖する。
義などという不明瞭な物を信じ、己の命すら省みない、この男に。

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
残った右腕で杖を振り中に浮く。
「ちぃ…!」
僅かにワルドの方が速かった。床を砕いただけだ。
「まぁいい…ウェールズはどの道、ここで死ぬつもりのようだからな。
  目的の一つは達したといえよう。じきに、レコン・キスタの大軍が押し寄せる!ほら、馬と蹄と竜の羽の音が聞こえるだろう!」
「愚かな主人と「貴様…二度と忘れん!」く……くそ。この閃光とあろう者が…」
ワルドが捨て台詞を言っていたが、途中で身を凍らせるような殺意をはらんだ声と、鋭い眼光がワルドを射抜き最後まで言えなくしていた。

逃げるようにして礼拝堂から出たワルドを見送ると片膝を付く。
「大丈夫か!?」
「閣下もご無事で」
無事といっても、スクウェアの遍在と戦っていたのだ。こちらも結構ヤバイ。
「閣下はよしてくれ…君は命の恩人だし、この国の者ではないのだから」
「無理をすればそれだけ、ガンダールヴとして動ける時間は減るぜ。主人の詠唱を守るためだけに生み出された使い魔なんだからな」
「生み出されたか。気に入らんな…ま、私が変わるわけではないがね。それに、これしきの事…あの時の激戦に比べればどうという事はない」
そうしていると、ルイズが俯きながら近付いて来て、言いにくそうに口を開いた。
「……ごめんなさい」
全員が疑問符を浮かべたが構わずに続ける。
「わたしが、ワルドなんかと…忠告してくれたのに、無視したりして…」
「なに、分からずとも当然の事。私とて…前に、似たような者を見ていなければ、間に合わなかった」
だんだん、爆発や怒号などの声が大きくなってくる。城の内部に突入されたようだ。
「さて…君達をどうやってトリステインに逃がしたものか…船は出てしまったし、城は囲まれてしまっている。…巻き込んでしまってすまない」
「これだけの数…突破するのは容易ではないな」
「おでれーた。相棒、5万の敵を突破する気でいたのかよ」
「乱戦に紛れればなんとか…という所だろうな。数が多ければ、それだけ発見されんものだ」
「なら、敵の目を引きつける囮は僕がしよう。巻き込んだ償いをさせてくれ」

ただ、問題はルイズだ。庇いながら強行突破は不可能に近い。
どうしたものかと思ったが、地面が盛り上がり、茶色い生物が顔を出して、鼻先をこすり付けてきた。
「む…お前は、ギーシュの、ヴェルダンデといったか」
「こら!ヴェルダンデ!お前はどこまで穴を…って少佐!」
「無事だったか。だが、どうやって…いや、聞くまでもあるまいな」
「正解正解。タバサのシルフィードよ」
「キュルケ、あんたまで!」
「アルビオンに着いたはいいが、勝手が分からない異国でどうしたものかと思っていたところに、ヴェルダンデが穴を掘り始めて、後に着いていったらここに出たというわけです」
相変わらず、ヴェルダンデが、鼻先をこすり付けている。
確か出立前も、同じ事をしていたはずだ。
散々、鉱石や宝石を見つけるのが好きだと聞いていたが、今になって気付いた。
持っている。それも、とびっきりの宝石を。
「なるほど…この匂いを追ってきた…というわけか」
軍服から取り出したのは、深く、蒼く輝く小石。
ブルーダイヤモンド。かつてキンバライド鉱山基地で発掘され
屈折率の関係でレーザー通信用には使えず、基地司令であるビッター少将の元に送られ、基地の資産として管理され
ビッター少将以下、キンバライド基地百余名の将兵の志と共に託された宝石。
小石と言っても、宝石の中ではかなり大きい方だ。
しかも、この世界では加工すら難しい宝石。その中でも特に珍しいブルーダイヤモンド。
なんかもう、キュルケの目が凄まじい勢いで光っている。もうモノアイかと言わんばかりに。

「悪いがこれはやれん。閣下達の魂そのものなのだから」
心の中で亡きビッター少将や、キンバライドの将兵に敬礼する。
これで、彼らには二度助けられた事になる。
「ダーリンがそう言うなら仕方ないけど…、プロポーズの時受け取る事にするわ。で、何やってるの?そして、そこの素敵な方は?」
「長く説明している時間が無い。ワルドは獅子身中の虫で、この城は陥落寸前だ」
「本当だ!音が凄い。少佐!シルフィードが下にいます。脱出を早く!」

キュルケとギーシュが大急ぎで、穴に戻ったが、ウェールズと二人はまだ残っている。
「殿下…もう、この城の命運は…殿下も一緒に…」
「それはできない…僕はこの国の皇太子だ。この国と命運を共にする義務がある」
今にも泣きそうだったが、ウェールズが構わずに言葉を続ける。
「なら、これをアンリエッタに渡してくれないか。
  そして、こう伝えてくれ『ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んでいった』と」
渡された物は風のルビー。そして伝えるべき言葉を確かに聞いたルイズが泣くのをこらえて、穴に入る。
一欠けらの絶望すら浮かんでいない表情を見て、無性に悲しくなったが、思いを振り切って落ちていった。
「君も早く」
「閣下…」
「もう僕は皇太子でもないし、空軍大将でもない。一人の戦士さ。閣下はやめてくれ」
「では、ウェールズ…すまん!」
「君が謝る事じゃないよ。こうなったのは我々の力が足りなかったせいだ」
きしむまで歯を噛み締めながら、詫びたガトーをウェールズが嗜めるが、そういう事ではなかった。


トリステインの王宮上空に風竜が現れ、魔法衛士隊の面々が色めき立った。
飛行禁止令が出ているところに、王宮に降りようとしているのだから当然だ。
着陸した、風竜を取り囲み、『杖を捨てろ』という言葉に、危うく一戦交えそうな雰囲気になったのだが
タバサとガトーにより「宮廷」だ」と言われ渋々ながら杖を捨てた。
そりゃあ大戦時のズム・シティにMSが進入したとなれば、この程度では済むまい。

が、マンティコア隊の隊長の明らかに見下したような言動に
一年戦争時の302哨戒中隊隊長、デラーズ紛争時の元分艦隊司令。現ルイズの使い魔のガトーとでガチバトルに発展しかけた。
というか、まぁ軍人としてあるべき姿の心得を叩き込んだのだが。
「軍人とは自国の民を守る物!それが話しかける法が無いだと!?貴様、それでも将校か!士官学校があるなら、そこからやりなおせッ!!」
と、その凄まじい気迫に、隊長もたじろぐ。
(こ、このプレッシャーは先代隊長と同じ…いやそれ以上か!?)
このままいくと、マンティコア隊全員正座で、1~2時間ぐらい修正を受けかねない。
絶望の宇宙が見えたような気がしたが、アンリエッタが現れて事なきを得た。
この件で、マンティコア隊の忠誠度が上がったのは言うまでも無い。


「ウェールズ様は…やはり父王に殉じられたのですね…」
謁見質に他の者を残し、ルイズとガトーのみが、アンリエッタの私室に通されている。
とりあえず、ルイズが一通り説明し、不足分をガトーが付け足す。
キュルケが合流し、空賊を装ったウェールズに襲撃され、そのままニューカッスルに向かい、亡命を勧めたが断れた事。
結婚式の最中にワルドが豹変し、ウェールズ共々殺されそうになった事。

手紙は死守したものの、アンリエッタの心情としては任務達成率は5割というとこだ。
本当は、ウェールズにも亡命して貰いたかったはずだ。
「あの子爵が裏切り者だったなんて…。まさか、魔法衛士隊に裏切り者がいるなんて……」
かつて自分が送った手紙を見ながら涙をこぼしたアンリエッタの手をルイズが握る。
「姫様…」
「あの方は、私の手紙をきちんと最後まで読んでくれたのかしら? ねえ、ルイズ」
「はい、姫様…。ウェールズ皇太子は、姫殿下の手紙をお読みになりました」
「ならば、ウェールズ様はわたくしを愛しておられなかったのね」
「では…やはり皇太子に亡命を…」
「ええ。死んで欲しくなかったんだもの。愛していたのよ、わたくし」
気が抜けたというべきは、呆けた様子でアンリエッタが呟いた。
「わたくしより、名誉の方が大事だったのかしら…」
「名誉…だけではありますまい。ウェールズ閣下は、この国に害をが及ばぬように残ったのです。
  自分が亡命すれば、反乱勢力が次に攻め入る場所は、ここ、トリステインになるだろうと確かに」
「ウェールズ様が亡命しようがしまいが、攻めてくる時は攻め寄せてくるだしょうし
  攻めぬ時には、沈黙を保つものです。個人の存在だけで…戦は発生するものではありませんわ」
まぁ最もだと思うが、ジオン独立戦争の場合、結構、個人レベルで戦いが発生していたりするから答えようが無い。
レビルが脱走しなければ、当初の計画どおりに講和できていたはずだし、各種新型MS、MAを巡って局地戦が勃発したりもしている。
当然、戦術的なものであって、戦略的なものは起こっていないが。

「姫様…ウェールズ皇太子から『ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んでいった』と伝えてくれと…」
「勇敢に戦い、勇敢に死んでいく。殿方の特権ですわね…残された女は、どうすればよいのでしょうか」
これに関しても、同じ事をしでかした経験があるため痛いとこだ。
「姫様…わたしがもっと強く、ウェールズ皇太子を説得していれば……」
「いいのよ、ルイズ。あなたは、立派にお役目のどおり手紙を取り戻してきたのです
   それにわたくしは…あなたに亡命を勧めて欲しいだなんて、一言も言ってないのだから」
自分の責任にしているようなルイズを見たのか、にっこりと笑いながら極めて明るい声で言う。
「婚姻を妨げようとする暗躍は防がれたのです。
   ゲルマニアと同盟を結べば、そう簡単にアルビオンも攻めてはこれないでしょう。危機は去ったのです。ルイズ・フランソワーズ」
「姫様、水のルビーをお返しします。…そして皇太子から預かった風のルビーも」
ルビーが光虹色を放っている二つのルビーを見てアンリエッタが目を見開く。
「これは…風のルビー…ウェールズ皇太子から預かってきたのですか?」
「はい…脱出する前に、先程の言葉と共に託してくれ…と」
大き目の指輪を嵌め、呪文を呟くと、リングが窄まり丁度いいサイズに収まる。
風のルビーを撫でるとルイズに向き直り笑みを浮かべる。
「この、水のルビーはあなたが持っていなさいな。ウェールズ様の言葉を伝えてくれたせめてものお礼です」
「こんな高価な品を頂くわけには…」
「忠誠には報いるところがなくてはいけません。いいから…そうでなくてはわたくしの気が…」
次いでガトーに向き直る。
「ありがとうございます。あなたのおかげで、ウェールズ様も裏切り者の手に掛からずに勇敢に死んでいく事ができました」
感謝の念がこもった笑みだが、心中は深い悲しみに包まれているという事は誰でも分かる。
「ならば、わたくしは、勇敢に生きてみようと思います」


「茶番だな」
風竜の上でガトーがそう呟く。
「あれでいいの?ほんとに…」
「他の者も他言無用だ。特に、ギーシュ。キュルケ。お前達は口が軽い」
「この命に代えても!」
「心外ねぇ…男女の関係の事に関しては、あたしは口が堅いの」
一応、これで大丈夫だと思い、皆を一瞥する。
「だが、油断はならん!兵は神速を尊ぶ。これより、作戦を開始する!」


その夜、アンリエッタは、ほぼ裸に近い状態でベッドに横たわっていた。
枕を濡らんばかりに、泣きに泣いて一先ず落ち着いたのだが、やはり、まだ心が整理できていない。
14歳の夏の時に聞きたかった言葉をが頭に浮かび離れない。
「どうして、あなたはあの時…おっしゃってくれなかったのですか…?」
顔を手で覆うと、また涙が流れる。
昼間は、ルイズがいた手前、泣くことはなかったが、一人になると、自然に涙が溢れ出てきた。
どんな言葉や賛辞も、その一つの言葉には敵わないだろうと思う。
寝よう…そう思うと、窓に人影が映った。
「ウェールズ様…?そんなはずがないわね…幻覚を見るなんて…しっかりしなきゃ」
だが、目を擦って窓に目をやるが、確かに人影はそこにある。
ハッとなって急いでガウンを着たが、侵入者と見て間違い無い。
「誰?名乗りなさい。夜更けに一国の王女の部屋を、そのような場所から訪ねる者が名乗らないという法はありません」
まさかアルビオンの手のものか、とも思ったが、単独で侵入してくるのは不可能だ。
アンリエッタ自身、トライアングルなのである。騒ぎになれば、すぐに衛士隊が駆け付ける。
「アナベル・ガトー少佐。訳あって参った」
「あなたは、ルイズの…何用ですか?」
「来て頂きたい場所がある。無論一人でだ」
「ご冗談を…」
「来て頂かねば困る。その為に命を張った者が居るのだからな」
それを出されると弱る。自分のせいで危うくルイズが殺されそうになったのだ。
「ですが、時間が時間です。また明日、改めて…」
そうすると、煙のように影が掻き消える。
急に消えた事を疑問に思い窓を開けたが、窓の壁の上から腕が伸びてきてアンリエッタの口を押さえた。
「…ッ!」
「騒ぐな。危害を加えるつもりは無い」
「少佐!そろそろ限界です!」
下から聞こえてくるのはギーシュの声。
それを確認すると、一応アンリエッタが叫ぶのを止めた。
「あなたは…グラモン元帥の…」
「は、はひ…」
暗闇でよく見えなかったが、ギーシュがガウン姿のアンリエッタを見て鼻を押さえている。
「一応、言っておくが…命を賭けたのはルイズだけではない。そこのギーシュ。そしてキュルケ、タバサ。彼らも土くれと戦ったのだからな」
「…分かりました。どこへなりとも連れて行きなさい」
「感謝する。行くぞ」
窓を閉め、テラスから下に降りる。
そうすると、茂みの影に穴が掘られていた。ヴェルダンデの掘った穴だ。
「上空の警備は整っているが…地下にも目を向けねばなるまいよ」

穴を伝い外に出ると、タバサとシルフィードが待機していた。
これならば、魔法衛士隊といえど、そうそう追いつく事はできない。
「一体どこへ…」
「着けば分かる事だ」
シルフィードが飛び立ち、高速で目的地に向かう。
時間が経つにつれアンリエッタの顔色が変わる。
「ここは、まさか…」
眼下に見えるのは、巨大な湖。
かのオーストラリアのコロニー落着跡…とまではいかないが、かなりの面積を占める。
「ラグドリアン湖…」
湖畔にシルフィードが降り立つと、そこにはルイズが待っていた。
「姫様…申し訳ありません」
「ルイズ…これはどういう事ですか…?ウェールズ様が亡くなられたと聞いた日の内に、わたくしを、ここに連れてくるなんて…」

「あー、やっと来た。こっちはもう暴れるのを抑えるのに大変だったんだから」
そう不満気に言いながら茂みから出てきたのはキュルケだ。
「ま、いい男だったからいいんだけど…このお礼は形でしてもらうわよ」
「まぁ仕方なかろうな…私が連れてこよう」

茂みに入ると、ガトーが、なんかもう、捕虜でも扱わんばかりに人を連れ出してきた。
フードの付いたローブを被され、口には猿轡をされ後ろ手に縛られている。
「万が一、舌を噛み切られ、自害でもされてはたまらんのでな…」
言いながらフードを外す、暗闇でよく見えないが、雲に隠れていた月が現れると、その月光を受けて輪郭がはっきりし、それが誰か分かった。

「ウェールズ…様…」
向こうもアンリエッタを確認したのか、一先ず大人しくなった。
「そんな…ルイズ、あなた確かにウェールズ様は亡命を断ったと…」
「私が連れてきた。鳩尾を殴りはしたが」
つまり、無理矢理にである。

生きていた。生きていてくれた。今のアンリエッタにはそれだけで十分で泣き始めたが
問題はウェールズの方だ。さすがに、アンリエッタの前で舌を噛み切るまいと思い猿轡を外す。
開口一番、出た言葉は抗議だ。
「何故だ…!何故…僕をここに連れてきた!
  僕が亡命したと知れれば、レコン・キスタはこの国に攻め入ってくる!それに…何故、父上や皆と死なせてくれなかった…!」
「そんな事をおっしゃらないでください、ウェールズ様…わたくしはあなたが生きていてくれさえいればよいのです…」
「僕一人、おめおめと生き残って何をすればいいというのだ…!いっそここで命を…」
そこまで言うと、ガトーによる修正が入った。
「貴様はいい!そうやって喚いていれば気が済むんだからな!」
今まで、かなり礼儀正しい態度で接してきたのだが、遂にレッドゾーンを越えた。
皇太子を殴った事に、全員唖然としていたが、構わずに言葉を続ける。
怒りではなく、何かを思い出すかのような口調で。

「昔、ある国が1/30以上の国力を持つ国に独立戦争を仕掛けた事がある」
本来、7つあるサイドの一つのサイド3ジオン公国。
「当初は電撃作戦のおかげで優勢だったが、国力に物を言わせた国が、ある戦いを機に戦力バランスを逆転させる事になる」
地上軍の転機。オデッサ作戦。あの敗戦により、数多くのベテランを失い
それに前して、青い巨星『ランバ・ラル大尉』、黒い三連星といった、名だたるエースも失ってしまった。
「その後、最終防衛ラインまで攻め込まれ、そこでも総帥が暗殺され、敗戦が決まった」
ギレン総帥を暗殺したキシリア・ザビ。このおかげで指揮系統が崩れ、暗殺を察知した艦隊が次々と離脱し、戦線崩壊の原因となった。
「その中で、ある戦士が散っていった同胞の弔い合戦をしようと死を覚悟で出撃しようとした」
グワデンのハッチで09Rを無理にでも借り受けようとした時。
「そこで、その戦士は、その艦隊の司令に言われたのだ。『生きてこそ得る事のできる栄光を、その手に掴むまで。その命、わしが預かる』とな」
デラーズ閣下とて、生粋の武人。志半ばで斃れた総帥の後を追い戦場で散りたかったはずだ。
だからこそ、理解した。噛み締めるかのように、内なる自分自身に対しての決意のような言葉と
肩を掴んだ右腕から伝わる、情熱を確かに感じ取った。
「そして、その戦士が答えた言葉は…『その日まで、私の命、お預け致します』だ」

完全に聞き入ってた6人だったが、ウェールズが最初に気付いた。
「その戦士というのは…もしや…」
それには答えない。終わった事だ。
「だが、僕はもう一人だ…どうする事もできやしない」
「我々は…三年待った!当時の1個艦隊にも満たない戦力でも、機が訪れると信じて」
地下に潜み、ただひたすら時が満ちるのを待っていた、あの年月。
「それで…その後、どうなったの…?」

「三年間耐えに耐えたその艦隊は再び戦いを挑む。真実の戦いを後の世に伝えるために」
ドライゼ艦長のU-801、キンバライド基地、他、数多くの同胞の支援を受け実施されたあの作戦。
「作戦その物は成功したが…内部に離反者を出し、艦隊司令も戦死され壊滅状態となった」
「それじゃあ…同じ事だ。やはりここで…」
自暴自棄。その言葉が最も相応しい状態だろうが
「事を成し遂げてこそ…後に続く者が生まれるのだ!」
続く、このガトーの言葉に、そんな感情が消え去った。
僅かにたどり着いたはずであろう、デラーズ・フリートの残存部隊。
彼らがいる限り、デラーズ・フリートの真実の戦いと、宇宙市民の理想と大義はアクシズに受け継がれる。

「ウェールズ様…どうか自ら命を絶つなどという事は…」
「ああ、アンリエッタ…もう大丈夫だ。僕が伝えねば…誰がアルビオンの真の姿を伝えるというんだ。おかげで目が覚めた。ありがとう」
「亡命するにしろ、地下に潜るにしろ…他の者に知られては厄介と見えるからな。このような手間を取らせてしまった」
あの時、ウェールズに詫びたのは、そこで死を選ぶより遥かに困難な道を進ませる事に対して。
ゲルマニアとの同盟締結の為には、今現在、アンリエッタの婚姻が必要不可欠であり、それを見届けるしかない。
だが、それでも、生きてこそ得る事のできる真の栄光を掴ませるために連れてきた。

ギーシュが泣きつつギリギリと歯を鳴らしながらながら、二人を見ていたが、1発叩かれ引き摺られるようにして連れて行かれる。
「しばし、二人にしてやれ。この先、こうする事もできなくなるかもしれんのだからな。それを邪魔するのは無粋というものだろう」

「あの時の、あの誓い…覚えているかな」
「忘れるわけがありませんわ。それだけを頼りに、今まで生きて参りましたもの」
「今、ここで。水の精霊の前で言って欲しい」
「トリステイン王国王女アンリエッタは、水の精霊の御許で制約いたします。ウェールズ様を永久に愛する事を」
それを聞いて、ウェールズの顔が少し曇った。
このまま行けば、ゲルマニアとの同盟で皇帝との婚姻がある。それなのに、誓ってしまっていいのだろうかと。
だが、ここまで来て、自分の感情に嘘は付けない。だからハッキリと誓約した。
「アルビオン王国…いや、たった1艦の艦艇も存在せず1人しか存在しない艦隊。
  アルビオン王立空軍大将、ウェールズは水の精霊の御許で誓約する。アンリエッタを永久に愛する事を」


その日、ルイズは夢を見た。
どうしてこんな場所にいるのかは分からなかったが、夢だという事だけは分かった。
あの、ノイエ・ジールのコクピット中だ。モニターの先には漆黒の宇宙と真紅の巨艦。
グワジン級大型戦艦の6番艦。本来、ザビ家に縁の深い者にしか与えられない不沈を謳われたデラーズ・フリート総旗艦『グワデン』
サブモニターには、その艦内の様子が映し出されていた。
髪の長い女が、厳つい髭面の男に銃を突きつけている。
そして、それを見る事しかできないガトーも。
「行けガトーよ」
その声は、落ち着いた、耳元で囁くかのような静かな声だった。
「は!?」
「ガトーよ、意地を通せ。現にコロニーはあるのだ!」
「狂ったか!?何を!」
「行け!わしの屍を踏み越えて!!」
「黙れぇ!」
銃口を恐れずに、元々そのようなものなど無いかのように立ち上がった男を女が銃で殴りつけるがそれでも、構わずに叫ぶ。
「わしを宇宙の晒し者にするのか、ガトー!」
「ソーラ・システムが狙ってるんだ!冗談じゃないよ!!」
「閣下…」
「ジーク・ジオン」
その言葉と重なる銃声。
思わず目を反らしたが、ガトーは、あの時と同じ殺意をはらんだ声で叫んでいる。
ワルドと似たような者。あの女が、それなのだろうと思った。
自身は信用していなかったが、主が信用し、それに押し切られていたが、最後の最後で裏切った獅子身中の虫。
そして、未だ草原に転がっているノイエ・ジールの、正確に言えば、焼かれる前の、完全な状態のノイエ・ジールの右腕が飛びブリッジに突き刺さった。


場面が飛び、次に見たのは見た事の無い壁に覆われた狭い通路。
「何故、この私を助けた…君の憐憫を受ける資格など、とうにないのだから」
あの紫を基調とした、妙なスーツに身を包んだガトーが、若干苦悶の混じった尋ねてきた。
答えようが無かったが、自然に言葉が紡ぎ出される。
「それは違うわ。とにかく…私にはああするしかなかったわ」
自分の声ではない、別の人の声だ。
「そうか…大体の事情は飲み込めた」
その人物となっているルイズにも、それは分かった。
今、自分が愛している男が、無防備に佇むんでいたガトーを撃ち殺させたくなかったという事を。
それと同時に、この人物の、今の恋人と昔の恋人が戦っていたという事も理解した。
「ニナ…すまん!」
「え?」
名前と侘びを言われると同時に、鳩尾に拳を叩き込まれ意識を失った。
急所であることと、負傷しているとはいえ、ガトーの一撃だ。抗う事などできはしない。

目を開けると、シルフィードの上だった。
アルビオンの脱出から、作戦の下準備と忙しかったので眠ってしまったもの無理は無い。
ウェールズに関しては、トリステインに亡命するという事になったが、それを知るのは必要最低限の者に限るとなりそうだ。
当面は、枢機卿のマザリーニあたりだけだろう。魔法衛士隊の隊長の一人が裏切ったのだ。できるだけ外部に知られたくない。
鳥の骨だの言われ、国民から実権を握り好き放題やっているなどと言われているが
話を聞いて、実際のところガトーが宮廷内で信頼に足ると判断したのはマザリーニだけだった。

夢の中と変わらない、束ねた銀髪を風になびかせながら、ガトーが横に座っている。
その群青の瞳は宇宙を見据え、清流のように澄み切っている。
色々、何か言いたかったが、言う事ができなかった。
予想だにしないぐらい過酷な道を選んでいるガトーに言うべき言葉などあるはずもなかった。
同じように宇宙を見上げると、無数の星屑が流星となり光を描いている。
あたかも、男達の魂の輝きであるかのように。

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