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気さくな王女-19

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 わたしの部屋を舞台に開催された「シルフィの無法を糾弾するための審問会」は序盤から紛糾した。
 そもそも本人に罪人としての自覚がなく、わたしの命令一つで首をはねられる立場なのに、わめくは暴れるはで手がつけられない。
 こちらの主張に一切耳を貸さず、ただ自分の言い分を押し通さんと頑張るのみ。貧民窟の子供だってもう少し協調性あるんじゃない?
 当然まともには進行せず、クッションが叩きつけられ、文鎮が床に落ち、声は際限なく高くなり、そんな中でフウリンはチリンチリンとがなりたてていた。
 シルフィがわけの分からぬことを並べ立てる。わたしが全て却下する。幽霊が仲介する。
 シルフィが叫ぶ。わたしが罵る。幽霊がとりなす。
 シルフィが腕を振るう。わたしがタオルを振り回す。幽霊がなだめる。
 シルフィが机をぶん投げる。わたしが椅子を蹴り上げる。幽霊が床に落ちた物を拾ってまわる。
 何時終わるとも知れない戦いは、最終的に双方が妥協をすることで一応の決着を見せ、幽霊を真ん中においてしぶしぶシルフィと握手した……何か主旨変わってない?

 まず一つ。シルフィは服を着なければならない。
「服なんてどうでもいいの!」
「どうでもよくない! ああいやだいやだ見苦しくてかなわない」
「従姉姫だって似たような格好をしているじゃない」
「自分の家で肌着姿でいるのと他人の家を全裸で訪ねるのとじゃ天と地ほども違うんだよ!」
「そればっかりはお姉ちゃんの言う通りだよねえ」
 何のために身銭を切って買ってやったと思っているのか。前回の問答をお前は何だと思っているのか。反省しなさい。大いに反省しなさい。
 部屋の前で待機していた侍女をひん剥いてその服を着せることでこの問題は解決した。人払いも兼ねて一石二鳥ね。

 二つ目。幽霊は後日もう一度カレーを用意すること。
 いくら鬼畜者とはいえ、シルフィの尻を舐めてまでカレーを食べたいとは思わない。
「カレー、そんなに食べたかったの?」
「あれだけ美味い美味い連呼されて食べたくならないとお思い?」
「だったらレトルトじゃないちゃんとしたカレーを持ってくるよ」
 レトルトってちゃんとしたカレーじゃないの?
 どうやらこいつはわたしに胡乱な物を食べさせようとしていたらしい。やはり油断ならないわね。
「たっくさんのカレーを大きなおなべで作ろうよ。カレーって一度にたくさん作った方がおいしいんだって」
 こいつ、自分がたくさん食べたいだけなんじゃ……。
「みんなでカレーパーティーしよう。カレー将軍やインドの人もびっくりするようなおいしいカレーを作るんだ」
 カレー将軍? インドの人? 何かしら。よく分からない。
 でも分からないと思われるのも癪だから分かったような顔しておこう。カレーってけっこう奥が深いのね。

 三つ目。シャルロットが捕まったらしい。
「はあ?」
「大変なの。大変なの。すごく大変なのね」
 ともすれば言葉が踊りがちになるシルフィを落ち着け、なだめ、うながし……さっき仲介役をしていた時も思ったけど、幽霊って意外に使えるかも。
 わたしは人に頭を下げるべき立場にないから、こういう役割の腹心が一人くらいいてもいい。
 よし、自転車を返す返すと引き伸ばしてこいつのこと飼い殺しにしてやろう。
 ……ええと。何の話だったっけ。……ああ、そうだ。シャルロットが捕まった。

「お前の話を総合すると、まずシャルロットが仕事をしくじった」
「お友達を捕まえろだなんて! そんなことお姉さまにできるわけないのに! ひどすぎるの!」
 まずそこからして話がおかしい。直属の上司であるわたしを通さず命令が下された?
 しかも、あいつの学友を誘拐しろ? なんたら公爵だか伯爵だかの令嬢っていったって所詮は木っ端貴族のガキでしょう。
 わたしのような王女ならともかく、そんな馬の骨をさらってきたところでガリアの国益になるとは到底思えない。
 トリステインとの仲がこじれることを考えれば、国益を損なうくらい。これじゃただのシャルロットに対する嫌がらせよね。
「で、シャルロットが母親を助けるために実家を急襲した」
「ガーゴイルをバッタバッタとやっつけてとってもかっこよかったんだから!」
 仕事を失敗すればどういうことになるか、本人にも自覚はあったようね。
 しかし、壊れかけのババアなんて放って一人で逃げればいいものを。冷酷非道の北花壇騎士が偽善者ぶってどうするのよ。
「そこに警備のエルフがいた、と」
「なんだかえらそうなやつだったの。ジョゼフの元へ連れていくから抵抗するな、なんて言ってたのよ」
 宮殿の中はどこよりも回数を重ねて徘徊した。それだけ多くの情報も集めた。当たり前に暮らしているだけでは知ることができないことも知っている。
 父上子飼いのエルフ……たしかビダーシャルとかいったか。国王とっときの懐刀ってやつね。
 実験やら何やらに協力させてるらしいということと、意味不明だけど偉そうな肩書きを持っていたことだけは知っている。
 そいつが父上の元へ連れていくから抵抗するなと言ってた、と。ふうん……。

「それでね、お姉さまの魔法がお姉さまに返ってきちゃったの! ひどすぎるわ!」
「エルフってすごいことができるんだねー」
 どう考えても先住魔法だ。シャルロットを問題にしないっていうんだから噂以上ね。
 そんなやつを常日頃からババアの警護につけるわけがない。つまり、警護を命じた人間がシャルロットの襲撃を知っていたことになる。
「お前は何をやってたの。主人の危機に指をくわえて見守っていただけ?」
「そんなわけないわ! シルフィはね、シルフィはね……そのぅ。ちょっと動けなくされてね、眠らされちゃったの」
 こいつに効く魔法があったとはね。エルフの先住魔法はものが違うってことか。
「使い魔の風竜もいたはずでしょう。あいつは何やってたのよ」
「え? だから眠らされちゃったのね」
 シルフィ、風竜、シャルロットの二人と一匹を相手に無傷で勝利するなんて芸当はわたしにもできない。
 恐ろしい恐ろしいという噂だけを鵜呑みにするのは馬鹿だと鼻で笑っていたけど、これはちょっと……。

「シルフィちゃん、よく逃げ出してこれたねー」
「目が覚めたらエルフもお姉さまもいなくなってたの。とってもかなしかったの……きゅい……」
「泣かないでシルフィちゃん。お姉ちゃんがきっとなんとかしてくれるから」
 シャルロットは父上にはめられた。十年以上も放置しておいてなぜ今?
 その気になればシャルロットの一人や二人、赤子の手を捻るより容易く闇から闇でしょう。
 もったいつけた謀略をめぐらせて、手の込んだ罠で絡めとったからには、そこまでする理由があったはず。

「最近シャルロットに妙な素振りはなかった?」
「うーん……」
「おかしなものを見たり、おかしな話を聞いたりしたようなことは?」
「わかんない」
 ダメだこいつ……シャルロットの馬鹿、もう少しまともな頭の持ち主を雇いなさいよね。

「それじゃその拉致されかけたとかいう貴族のガキ。そいつは最近おかしなことがなかった?」
「ええとね、アルビオンで大活躍してきたんだって」
 アルビオンで大活躍ってことは、学徒出陣ってやつか。男ならともかく、女の身空でってのはちょっと珍しいわね。
「使い魔の男の子も凄い剣の使い手なの。何万人もいる軍隊を一人で食い止めたって評判になってたわ」
「ああん? 使い魔の男の子って……亜人か何か?」
「ううん、人間。平民の男の子」
 平民を召喚するなんてどこまで非常識なやつよと自分のことを棚にあげてわたしは思った。でもわたしの方がマシよね?

「一人で軍隊を食い止める平民と、女だてらに出征した貴族の子女ねぇ……ちょおっと面白い組み合わせじゃないのさ」
「面白がってる場合じゃないの! 早くお姉さまを助けてあげないと何をされるかわからない! きゅいきゅい!」
「ああうるさい。シャルロットが拷問されようが処刑されようがわたしは痛くも痒くもありませんからね」
「お姉ちゃん、シャルロットちゃんを助けてあげてよ。かわいそうだよ」
「かわいそうならあいつも望むところでしょう。皆から同情されていい気分ってところじゃないの?」
「ひどい! あんまりなのだわ!」
 打ち下ろしの拳による一撃を受け、投げられてガタガタになっていた机は四本の脚がへし折れ机としての命を全うした。
 シルフィはすぐ暴力に訴える。あの机、けっこうお気に入りだったのに。後でシャルロットに目の玉飛び出るような額を請求してやろう。
「恩知らず! バカ! バカ! コンコンチキ! お姉さまに助けられたくせに!」
 ただでさえ大きな目がより大きく見開かれ、そのふちに溜まった涙がゆらゆらと揺れていた。
 歯を軋ませ、拳を振るい、全身を使って怒っている様を表現している。忙しいこと。
「お姉ちゃん!」
 幽霊まで責めるような目をわたしに向ける。何よその目は。後で折檻してやるから。
「従姉姫のところに来たシルフィがバカだったのね! こんな意地悪と同じ空気を吸いたくないわ!」
 勢いをつけて立ち上がったせいで緩んでいた絨毯を引きずり、はずみで幽霊がすっ転んだ。
 シルフィはそれに目もくれず、肩を怒らせのしのしと扉に向かう。

「どこへ行くつもり?」
「学院へ行く! キュルキュルはあばずれで享楽主義者だけどとっても強いし、ハゲ先生はもっと強いもの」
「へぇ。ずいぶんご大層なお仲間がいるのね」
「ミス・ヴァリエールとタイトもきっと助けてくれるわ! ついでにギーシュさまも! みんなお姉さまが好きだもの!」
「その好きな連中をまとめて罠にかけてやる、と。お前もけっこうな鬼畜者だね」

 ドアに手をかけた姿勢でシルフィが静止した。
「……罠って何の話なのね?」
 ゆっくりと腰を上げ、シルフィの背後まで歩み寄った。肩に手をかけ、強引にこちらへ振り向かせる。
「シャルロットはネズミ捕りのチーズにされてるのよ。要はおとり。父上がおびき出したいのは頼もしいお仲間でしょ」
 平民の使い魔と女丈夫の組み合わせが妙に気になる。
 父上のやり方は本人同様回りくどいけど、結局はそいつらの身柄を押さえたいというところに収斂するんじゃないだろうか。
「それにね、学生に押し込みをさせるなんて国が許可すると思う?」
「ううう……」
「許可無く国境を越えればそれで大罪人ができあがりね」
「もういい!」
 肩に置いた手を振り払い、シルフィが再びドアノブを握った。握り締めたせいでひしゃげているように見えるのは気のせいだと思いたい。

「シルフィ一人でやる! お姉さまは絶対に助けるのね!」
「別に手伝わないなんて言ってないわよ」
「えっ」
 はい、またシルフィが静止しました。いいわね、今日のこいつ。動きをコントロールしやすくて。

「トリステインの人間がやれば外交問題だけど、ガリアの王女がやれば大したことでもないわ」
「えっ、えっ、えっ」
「北花壇騎士団には北花壇騎士団のルールがある。それを盾にして身柄を引き取ればいいってだけのことでしょ」
「えっえっえええっ。ほ、ほんとにほんとなの?」
「お姉ちゃん、助けてあげるんだね!」
 うん。やっぱりいいわね。こういう反応の面白さがシャルロットに欠けてるのよ。
「べつにシャルロットなんてどうでもいいけど、頭越しに命令が飛び交ってたなんて考えるだけでも反吐が出るのよ。父上の狙いも気になるし」
 これは本音。無視されるというのが何よりも腹立たしい。

「シャルロットにはそれ相応のお礼ってやつをしてもらうけどね。それでもいい?」
「きゅい! お姉さまが助かるならお礼する!」
 クックック……愚かなやつ。自分が得をするための見返りを求めてると思っているのね。
 わたしはそんなこと期待していない。わたしはね、シャルロットに苦しみを与えてやりたいのよ。
 シャルロットが嫌がりそうなことを要求し、あいつが苦しむ姿を肴に杯を傾ける……うふっ、考えただけで甘露の極み。
「ちょっと幽霊」
 喜び小躍りするシルフィには聞こえないよう注意して、隣の幽霊をつっついた。
「お姉ちゃんも本当は助けてあげたかったんだねぇ」
「何をにやにやしているのよ気持ち悪い。そうじゃなくてね、シャルロットが嫌がりそうなこと、何か思いつかない?」
「シャルロットちゃんが嫌がりそうなこと?」
 母親絡みは嫌がりそうだけど、母親を助けたくて命をかけたようなやつが言うことを聞くとは思えない。
 あいつがしぶしぶ頷くラインで、かつ嫌がりそうなことというと……難しいわね。すぐには思いつかない。
「うーん……ボクにはわかんない」
「苦手なものでもいいんだけど」
「わかんないなー」
「そうよね。お前に聞いたわたしが馬鹿だったわ」
 幽霊に人間の心の機微が分かるわけもないか。幽霊だものね。
 ああ、何か嫌がりそうなこと嫌がりそうなこと。何かないか何かないか。弱点とか苦手なもの……ダメ。思いつかない。
 とりあえず助け出すまでの宿題にしておくか。


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