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虚無界行-3

第2章 異界夜話

完全に覚醒し、周囲の状況を確認した瞬間、らしくもなく彼の思考は停止した。
      どういうことだ、これは?

排気ガスなどとは無縁の清浄な空気と、青い空。
春先を感じさせる風の流れと、一面の草原。

目の前には桃色の髪をした少女―――――年は10代前半だろうか。
そして向こうには同じく10代らしい子供の集団と、
一人だけ中年の、見事に禿げあがった頭頂部を持つ男性。
学生の集団と、引率の教師・・・という所だろうか?
(全員が揃いのマントを羽織り、杖を持っているのが奇妙といえば奇妙だ)
いずれにせよ、先ほどまで自分がいたエネルギー・ラインの中とは
まったくもって結びつかない情景が展開していた。

禿げ頭の男性が桃色髪の少女に話しかける。ハッとして受け答えをする少女。
頷くと、今度は自分の方に近づき、左手を覗き込み、
「ほほぅ・・・珍しいルーンですな」
学術的興味を顔に浮かべ、スケッチを開始する禿げ頭。
つられて己の左手に浮かんだ紋様を確認した。何だこれは。何時の間に?

一連の光景を、まるでテレビの画面の中で起きている出来事のように
現実感が無く見ていた南雲。
ただボーッとしていたわけではなく、彼の脳内ではすでに
100を越える可能性がシミュレートされていたが、依然確信に至る答えは出ないままだった。
だが直後、南雲はいったん思考を中断し、眼を見開かざるをえなかった。

禿げ頭の指示で、桃色の髪の少女以外が解散し移動を始めた。
『宙に、その身を浮かべて』

(ここは・・・いや、まさか・・・)
ある仮定が、にわかに浮かび上がってきた。

南雲は立ち上がり、未だへたり込んだままの少女へと声をかけた。
「・・・訊きたいことがある」と。



夜に入って、学園の女子寮。
そのルイズの自室で、南雲とルイズは話し合っていた。
(最も、ルイズが話す方がずいぶんと多いが)
話す内容は、自分が南雲を使い魔として召喚したことの確認と、使い魔としての仕事の内容。

先刻の恐怖が完全に消えたわけではなく多少口調に覇気がなかったが、
話すうちに段々調子が戻ってゆき、最後には大分常態に復帰した。
中々の精神力の持ち主である。

―――――高圧的なその態度と、使い魔をやれという命令が、
この男にいかなる効果を与えるかは別として。

目の前のルイズが話し終えると南雲は
「・・・なるほど、な」
口の中でつぶやく。現在の自分の状況について考えが纏まったのである。
一言でいえば『ここは異世界である』と。

常人なら一笑に付すだろうが、南雲にとって『別の世界』が存在するというのは
特に笑うようなことではないのだ。
そもそもバイオニック・ソルジャーの戦いの相手には『人間以外』の超常的存在も想定されていた。
黒魔術師により招喚された魔物ども。外宇宙より飛来したエイリアン。
元の世界のイラク奥地では、異次元との壁にほころびが生じている場所があった。
世界が異次元の化け物共で埋め尽くされるのを防ぐため、すでに『こちら側』へ来てしまった
連中を始末するのもまた、バイオニック・ソルジャーの任務であった。
駄目押しに、夜空に浮かぶ2つの月を見て、南雲はここが異世界という事を確信した。

混乱はしない。バイオニック・ソルジャーとして、如何なる状況であっても
冷静さを保つために受けた訓練はまだ活きている。

そして、望んでもいない召喚を受けた南雲は、こう答えた。
「・・・『護衛』とやらの仕事だけはやってやる。

 だがそれ以外は自由にさせてもらう。口出しをするな」

南雲にしてみれば、単に勝手に呼び出されただけではなく、宿敵との戦いに水を差された形である。
ルイズに半身不随になるぐらいの傷を負わせた上で此処を出て行ったとしてもおかしくない。
それを考えれば、驚くほどの譲歩と言える。

だが、ルイズの方は納得しなかった。
先ほどの恐怖も一瞬忘れ、ヒステリックに叫ぶ。

「な・・・っ!?貴族の命令に逆らうっていうの!?」

―――――南雲をよく知る人間がこの情景を見たら、青褪めるか呆れるかした後に、
全員が同じ言葉を発するだろう。
「自殺するならするで、もっと苦しまない方法が幾らでもあるだろうに」と。

待ちかねたかのように―――――南雲の全身から気が噴き出す。殺気だ。
部屋を満たすそれによって、ルイズは本日2度目の真の恐怖を体感する事となった。 

この男はいまこの瞬間にも自分を殺せる。ありとあらゆる手段で殺しつくせる。
怖い。コワイ。殺される。このままでいたら・・・コロサレル。

吹き出す冷や汗を拭き取る事すら出来ない。
途方もなき気それ自体が、技に化けてルイズの全身を束縛していた。

フゥーッ・・・と長く吐き出される息。
腕がそれぞれ、もう片方の腕を抑え込んでいる。
―――――南雲なりに、衝動を抑えていたのである。

やがて、徐々に部屋を満たす殺気が薄まり始めた。

「・・・口出しを、するな」
もう一度繰り返すと、立ち上がり部屋を出て行った。
―――――1人になりたかった。

ルイズはベッドに腰かけたまま、南雲が部屋から消えた後も身じろぎひとつしなかった。
―――――唐突に、全身の筋肉が弛緩する。
汗でグッショリと濡れた制服のままベッドに倒れこむと、ルイズの意識は
そのまま闇へと堕ちていった。

南雲が、ルイズの部屋から出て数十メイル離れた後の事であった。



女子寮の廊下を歩きながら、南雲は落ち着き場所を探していた。
春先とはいえまだまだ冷え込む夜だが、生体強化を受けた肉体は
零下40度の吹雪の中、通常装備のみでの活動を可能にする。
いざとなれば外でも構わない。

と・・内部に人の気配の無い部屋を見つけ、ドアノブに手をかける―――――開いた。
空き部屋を物置代わりに使っているらしい。
部屋の何割かを占める、家具や梱包された荷物。
薄く積もった埃が、もう随分と人の出入りも無いことを思わせた。

中に入り、隅にあったベッドに腰かける。
月明かりのなか、まずは所持品のチェックを開始した。
投擲用の五寸釘が100本。コンバットナイフが一振り。
南雲の手にかかれば、何の変哲もない釘はライフル弾並の威力で敵を貫き、
チタン鋼の刃は薄い鉄板など紙のように切り裂く。

しかし拳銃―――――スターム・ルガーP95DCは、予備弾倉を収めた
パウチとともにどこかに消え失せていた。
当面は有る物と現地調達でどうにかするしかあるまい。

チェックを済ませ、その後南雲は、しばし思考の海へと沈んでいった。



この学園をさっさと出て行かなかったのは、ルイズに対し
何らかの義理や恩義を感じたわけでは勿論無い。

貴族の子女に高水準の教育を施すための施設。
ルイズの話によれば、この国の王室とも繋がりがあるらしい。
(メイジが全て貴族である以上当然といえば当然だが)
それほどの名門ならば、この国だけでなく、他の国の事を知るネットワークをも持っているはずだ。
誰か特定の存在を探すのならば、ここに留まっていた方が、
少なくとも自分1人がその辺の村々をまわるよりも
情報収集の効率も精度も高いものとなるだろう。
(情報を提供してもらうためには、また別種の手段が必要だろうが)

―――――それで本当に、あの2人を見つけることができるのか?
―――――そもそもあの連中は、『この世界』に来ているのか?
浮かぶ疑念を、軽く頭を振って払った。
どの道現時点でとれる手段は多くはない。ダメならまた別の道を探るだけだ。

ふと、元居た世界で会った、2人の女性の言葉が思い浮かんだ。

『これから、あなたは遠いところへ行くわ。そこは遠くて近いところ。とても暑いの。
 なんて暑いの・・・そして果てのないところ。
 あなたは・・・帰ってこない・・・二度と会えない・・・わ・・・』
―――――かつて共に戦い、魔戦の中でその身の半分を死人と変えた女。

『じきに、あんたは熱い国へ行くよ。多分、決着はそこで着く。
 いつになるかはわからないけれどね』
―――――宿敵、瓜生義龍を生んだ妖女。

ここが、あの2人の言う場所なのだろうか?
この世界こそ、真に決着をつける舞台であると。
ならば南雲としても望むところであった。

決着はつける―――――必ず。
その意志の前には、元の世界への感慨など微塵も浮かび上がりはしなかった。

ふと、顔を上げて窓から夜空を見る。
2つの月が、ハルケギニアの者にとってはありふれた日常として
―――――南雲にとっては異世界の証として、そこに煌々と存在した。


第2章―――――了

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