あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのロリカード-01



 時の止まった世界――――――。
――――――否、時の流れぬ・・・・・・時の存在しない世界。

 実数ではなく、虚数のみで構成された世界。
虚無の空間。そこには何も無い。空間すらも無い空間。

 生物と非生物を問わず。物質と非物質を問わず。
あらゆる存在が"無"と同義となる世界。

 ――――――だが、それでも確かに"いる"。
侵入することも脱出することも不可能である存在しない筈の世界。存在の許されぬ空間。
拒絶され、隔絶された宇宙に、全てが融けている。
有意識と無意識の境界もなく、ただただ凍った中空を漂い続ける。

 光も闇もない、白でも黒でもない・・・・・・ただ"無色"の空間に――――――何かが浮かび上がる。
それは・・・・・・ソレ自体が発光する鏡、のようなもの。

 虚数空間に干渉するという行為。
本来であれば考えられないこと、ありえないこと。
"彼"は・・・・・・、意識のないままに、混濁したままに、その光鏡へと導かれる。
その先に何があるかを知覚することは当然出来ない。

 しかしそれでも――――――。




「なんなんだ・・・・・・」
爆発によって起きた土埃が晴れ、"少女"は口を開く。
何か強烈なショックをその身に受けたような感覚は残っている。
底なし沼に沈められたような、ぐちゃぐちゃな意識のままに。
その発した言葉だけが、"彼女"を取り巻くあらゆる全てを端的に表現していた。

 頭の中はまるで回復していないが、身体の方は問題なく地に足をつけていた。
悠然と立つ一人の少女、見ようによっては幼女とも言えるかもしれない。
白いスーツに身を包み、黒い髪を腰まで伸ばした少女と――――――そして棺桶。

 周囲からは嘲笑と罵倒が聞こえてくる。
それは黒髪の少女に向けられたものではなく、その対面にいる少女の方であった。

 桃色の髪を伸ばし、鳶色の瞳を潤ませて、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
その桃色少女は暫し黒髪の少女を見ていたかと思うと、すぐに踵を返して駆けていく。
そして頭髪が寂しい、有り体に言えばハゲの年長者になにやら抗議をしているようであった。


 嘲笑の渦中に一人残された黒髪の少女。
あからさまな場違い感。少女は疎外感をその身に受けながら、周囲を観察する。
先の桃色少女と同じようなローブを着込んだ若い男女が数十人、そして各人に付き従うように存在する様々な生物達。
中には今までに見たことのない生物もいて、長い年月を生きた彼女にとっても初めての光景であった。
(いよいよ以て、わけがわからんの・・・・・・)
少女は心の中で呟いた。と、そうこうしているうちに桃色少女が近づいてきた、丁度良いタイミングである。

「私はルイズ・フランソワー――――――」
「そこな人間、ここはどこだ」
傲岸不遜な態度で少女は、もう一人の少女の声を遮った。
それと同時に発せられた人間のそれではない、黒髪の少女の言い知れぬ異常な威圧感。
それは図らずも、その場にいる全ての生物の本能に直接的なナニカを訴えかけ、結果的に騒がしかった周囲を一瞬で静寂へと変える。
「ト・・・・・・トリステイン魔法学院、です」
桃色少女ことルイズは、その雰囲気に気圧されると反射的に敬語で答えていた。

 『トリステイン魔法学院』。頭の中で反芻する。
まるで聞いたことがない。そういった知識量には些か自信があったものの、己の記憶の中には該当するものは無かった。
そもそも魔法学院なるものが、現代に存在するのだろうか。
遠く昔を思い出す。"魔女狩り"の時代であれば、そのようなモノの一つや二つはあったかも知れない。
だがこと近代世界に於いて――――見る限り、ここまで大っぴらな魔法の学校など――――あるとは思えない。

「ミス・ヴァリエール、下がりなさい」
誰よりも早く我に返り、その黒髪の少女の異常性・・・・・・そして危険性に気付いたのは、先ほどのハゲの年長者。教師風の男であった。
その顔は険しく、俄かにだが敵意を顕しているのが窺える。
「皆さんは今すぐ自室に戻りなさい、召喚の儀はこれで終了です。直ちに解散するように」
頭の中では納得していなかったが、本能的に悟った生徒達はまばらにであるが戻っていく、同時に付き従う生物達も。


 数刻の後、残ったのはルイズとそのハゲな教師風の男だけになっていた。
「ミス・ヴァリエール、君も早く戻りなさい」
「ミスタ・コルベール、その・・・・・・私は一体何を・・・・・・召喚してしまったのですか?」

「バ ケ モ ノ だよ」

 これ以上ないくらいにサディスティックな笑みを顔全体に浮かべ、黒髪の少女がその問いに答える。
状況は未だ読めないものの、何者なのかと言われて答えることは一つしかない。ある種のお約束のようなもの。
黒髪の少女はクスクスと笑い、コルベール教師は反射的にルイズを背に庇った。

 一瞬怯んだルイズであったが、すぐに気を取り直す。
「この際貴方が何者でも構わない、私は貴方を召喚した。貴方は私の使い魔であり、私に従うべきなの」
「・・・・・・ほぅ、この私が使い魔と」

 あらゆる未知が・・・・・・要素が、告げている。
己が今現在置かれている世界の差異。払拭出来ない厳然たる違和感。
そしてどこか・・・・・・何の問題もなく、現況を受け入れつつあろうとしている自分に気付く。

 黒髪の少女は何がおかしかったのか、自嘲的に声を上げ笑い始めた。
何がそこまで少女に笑いを掻き立てるのかわからなかったが、ルイズは言葉を続ける。
「召喚してしまった以上、あなたが人間でもこの際しょうがないのよ」

 そうルイズが言った瞬間、ピタリと笑い声が止まる。数瞬の後、黒髪の少女は喋り出した。
「いやいや、私は歴としたバケモノさ。人間に倒されなければならない化け物。なに、姿形など私にとっては至極無意味なものさ」

 ルイズは震えていた。無論、目の前の自分の事をバケモノと言う少女への畏怖にである。
しかしそれでも質問を続けた。彼女を支えていたのは、今にも崩れそうな尊厳のみだった。
姿はどう見たって、自分よりも年下の少女。それでも彼女は己のことを化物だと言う。
だがそれでも感じる。普通の人間には無い存在感。その言葉が嘘ではないと感じ入るナニカを。

「・・・・・・強いの?」
「そうさの、普通の人間の尺度から見れば強いかも・・・・・・な」
ルイズは瞳を輝かせた。劣等人間街道驀進中ルイズにとって、それは願ってもないチャンスなのだから。

 黒髪の少女が視線をはっきりとルイズへと向ける、吸い込まれそうな程に、その紅く澄んだ瞳に射抜かれる。
だがその奥深くには、得体の知れない何かが渦巻いているような・・・・・・不可思議な錯覚に囚われた。
目を逸らすことが出来ない。どうしようもな魅力がその双眸に宿っている。
しばらくの間、二人の少女は視線を交わしながら見つめ合っていた。


 ふと、黒髪の少女は口を開く。
「もう少し情報が欲しいな、説明せい」
「え~・・・・・・と、あなたは私に召喚されて、その・・・・・・これから契約をするんだけど」

「ふむぅ・・・・・・」
黒髪の少女は少し逡巡した様子を見せる。
「えっ・・・・・・でも、貴方は私に召喚されたわけだし・・・・・・」
少女の態度にそう呟きながら、ルイズは不安を孕んだ瞳でコルベール教師を見た。
召喚された時点で、被召喚者は召喚者の使い魔となるのがルールである。
つい先刻コルベールに確認した時も、再召喚をすることは駄目だと言われたばかりであった。
しかし黒髪の少女の様子を見るに、明らかに迷っている。それどころか否定のニュアンスすら感じられる。

 コルベールは一時も気を許さず様子を見ながら、ルイズの言葉に答える。
「い・・・・・・いや、私は反対だ。彼女と契約するのは危険な気がする、まずはオスマン学院長に――――――」
明確な理由は分からない、説得する言葉が見つからない。
否、強いて言えば誰しもが感じる威圧感。それ自体が根拠と言える。
そしてコルベール自身の、かつて修羅場を潜り抜けてきた独特の勘と言えるだろうか。

 少なくとも、ただの平民ではない(・・・・・・・・・)のは確かである。
先刻ミス・ヴァリエールに、使い魔召喚は神聖な儀式ゆえに再召喚は認めないと言った。
如何なる例外も許されず、召喚の儀はあらゆるルールに優先するのがルールであるが・・・・・・。
全身が警鐘を鳴らしている。しかし"彼女"を特例とするにも、自分の裁量を超えている。

「惜しい喃・・・・・・コルベールとやら」
いきなりコルベールは自分の名前を呼ばれ、ギクリとする。
そして何が惜しいのか、ルイズとコルベールは疑問符を浮かべた。
黒髪の少女は続ける。

「私は危険過ぎる(・・・)
「ど・・・・・・どういう意味よ?」
「なぁに、そのままの意味さ」
その言葉の意味、リスク、メリット、様々な要素をルイズは考える。
そしていつの間にか少女への畏怖が、少しずつ薄れていたことに気付いた。
彼女の瞳を見てからだろうか・・・・・・まだ体は僅かに震えていたものの、それを無理やり抑え込んでルイズは言った。


「わ・・・・・・私の使い魔になってくれませんか?」
またも敬語になっていたが、言葉遣いをいちいち気にするほどの余裕はなかった。
コルベールの判断は正しいのだろう。けれどきっとこれは・・・・・・千載一遇の好機。
次また新たに召喚したとしても、目の前の少女ほどの存在が召喚されるだろうか?否、そんな保証はない。

 眼前の少女を見てもわかる。自分の感覚からもわかる。コルベールの反応を見てもわかる。
その少女姿は、一種の擬態のようなものなのだ。能ある鷹はなんとやら。
確かに不確定要素は多すぎる。背後の棺・・・・・・?のようなものもそうだ。
しかし・・・・・・強力な使い魔だ。それだけは、間違いないと確信する。

「使い魔を使役する側である主が、使い魔とする対象に懇願か?」

 黒髪の少女は唇の端を上げニヤリと笑う。その様子にルイズはキョトンとした。
少女の言葉も尤もであったが、それよりも少女が次に何を言うのか、なんとなくわかってしまったからだ。

「主なら主らしく命令(オーダー)を下すがいい、"我に従え"と!」

 先ほどは迷っている意を示していたようたが、目の前の少女はいつの間にか肯定の意を示してくれている。
ミスタ・コルベールは危険だと言った。本人もそう言った。勿論私もそう思う。
契約したらとんでもないことになるのでは?と、憂いは拭いきれない。しかしルイズは契約の意思を強固なものにした。
自分を肯定してくれた。こんな私と契約を結んでくれると。・・・・・・思えば、他人に初めて認められたような気がする。

「・・・・・・本当に、いいの?」
黒髪の少女はルイズの言わんとしてることを悟ったようで、無視して口を開く。
「ふっ、別に契約しないとは言ってないぞ」
年相応のいたずらっ子が見せるような笑みだった。
自分はからかわれただけだったのか。先程逡巡してたのもただ遊ばれたのかも知れない。


「貴方の名前は?」

「アーカード」

 その名を心中で何度も呟く。
自分の使い魔になってくれると言ってくれた少女。
己を化け物だと言う少女。

 意を決し、ルイズは叫んだ。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え我の使い魔と為せ!
 アーカードよ!我に付き従い、其の目となり、其の手足となり、其の意思の体現者となれ!」


「了解した、我が主(マイマスター)

 口上を終え、アーカードへと近付く。
女同士ということもあり、多少の抵抗はあったものの・・・・・・ゆっくりとその唇を重ねた。
(ほぅ・・・・・・)

 契約に必要なその行為は、黒髪の少女アーカードの悪戯心を揺さぶる。
アーカードはルイズの頭と体を両手で押さえ込み、舌を強引に捻じ込んだ。
「ん・・・・・・んむむぅっ!!?」
突然の事に慌てふためいたルイズは、ビクリと体を跳ねらせアーカードの拘束から逃れようとする。
しかしその細腕からは信じられないほど、驚異的な力で押さえ込まれていて動けない。
そうしている間にも、アーカードは容赦なくルイズの口内を舌で蹂躙した。

 生まれてからこれまで一度も味わったことのない、快楽と、羞恥と、狼狽と、呼吸困難で・・・・・・ルイズは気絶した。
「はっはっは、呆気ない。もう終わりか」
離された唇と唇は艶やかに糸を引き、アーカードは笑っていた。

「おいっ、マスターの部屋はどこだ?」
あまりの光景に我を忘れて魅入っていたコルベールはその言葉で我に返る。
知らず顔が真っ赤になっていた。

「くくく・・・・・・なんだ、貴様もして欲しいのか?」
少女が放つとは思えないほどの、圧倒的な妖艶さにコルベールは頭頂部まで、茹で上がったタコが如く真っ赤に染まる。
「お・・・・・・大人をからかうもんじゃない!」
常日頃から誰にでも敬意を払うコルベールだったが、アーカードのあまりの行動と己の恥ずかしさでつい声を荒げた。
「大人・・・・・・ね。なぁに、お前なんぞまだまだガキだよ。私からすればな」

 その言葉の真意は分からなかった。とりあえずコルベールは一つだけアーカードに質問をした。
「何故、ミス・ヴァリエールと契約を・・・・・・?」
なんとなくだが、アーカードは使役されるのではなく、使役する側であると感じたゆえの疑問だった。

「己が無能である事を自覚し、その為に必死にもがく。ククッ、実に可愛いじゃないか」
「そんなもので・・・・・・?」
「そんなものさ、所詮生きることなぞ突き詰めれば児戯に過ぎん。長い生の中、無条件で誰かに仕えてみるのも悪くはないと思っただけさ」

 何故まだ会って間もない筈のミス・ヴァリエールのことがわかるのか。
さらにはよくわからない理由を聞かされ、納得のいかない様子であった。
コルベールはそれ以上何も言わずに、教師棟の方へと向かった。


 ルイズを棺桶の上に乗せると、そのまま棺桶ごとアーカードは器用に持ち上げた。
暫くして、ルイズの部屋を調べてきたコルベールが戻ってくると、そのまま何事もなく案内される。
コルベールは終始何か悩んでいる様子であったが、特に何も言わない。
それならばと、アーカードも特段会話を交わそうとは思わなかった。

 部屋に入ると音も無く棺桶を置き、その上で気絶しているルイズを掴むと、そのままベッドへと放り込む。
とりあえず眠い。考えるのは後回しにして、陽が落ちるまで棺桶で眠ることにした。

(ふっ・・・・・・)

 アーカードは心の中で微かな笑みを浮かべ、新たな刺激ある生活が始まることに俄かな期待を膨らませた。



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