あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのおかあさん-2

    ▽    ▽    ▽



「んん……」
気を失っていたルイズが目を覚ましたのは、陽が完全に落ちた時間だった。
初めに視界に映ったのは、見慣れた自室の天井。次に暗くなった窓の外。
いつの間に着替えたのか、制服が部屋着になっている。
(あれ)
なにか忘れている気がするが、上手く思い出せない。
そもそも、どうやって部屋に戻ってきたのだろう。
授業を受けた覚えも、何の勉強をしたのかも、どんな食事をとったのかも覚えも無い。
(えっと、今日は確か)
ぼやけていた記憶を一つずつ整理していく。
こういう時は、わかる所から始めないといけない。
(そう。使い魔の儀式があったわ。それで、私は……私が呼んだのは)
考えがそこに辿り着いた瞬間、慌てたように起き上がる。
「そうよ! 私の使い魔!」
勢いを付けすぎたせいか、身体がフラフラする。
思わずまたベットに倒れそうになるのを堪え、床に足を着く。
と、タイミングを見計らったかのように扉が小さくノックされた。
「誰?」
声を掛けるが返事は戻ってこない。
不審に思ったルイズが再び声を掛けようとすると、ドアが自動的に開いた。
そこに現れたのは、トレイ片手にルイズを見下ろす荒垣だった。
「よぉ。目は覚めたか」
「あ、あんた」
顔を見て思い出した。ルイズが気を失ったのは、荒垣に睨まれたからだ。
文句を言おうと詰め寄るが、それを遮るように頭を鷲掴みにされる。
「きゃ! ちょ、なにするのよ!」
「いいから座ってろ」
言うよりも先に、鷲掴みのままベットに押し飛ばされる。
ここまでぞんざいな扱いを受けたのは、身内以外では初めての事だ。
荒垣と対峙してから散々な態度を取られていたが、もはや我慢の限界である。
サイドボードに仕舞ってあった鞭を取り出すと、荒垣目掛けて静かに振り下ろす。
風を切って振り下ろされた鞭が、まさに当たるかといった瞬間、鞭は急停止する。
停止した鞭を見ると、鞭の真ん中の部分が大きな手で掴まれていた。
ルイズは、その腕の持ち主を確認すべく視線を動かしていく。
腕。肩。首……そして見上げた先では、鋭い視線をルイズに向ける荒垣の顔がそこにあった。
「何ふざけてんだオメェは」
「くぅ!」
鞭を奪い返そうとするが、引っ張っても動く気配が無い。
なるべく荒垣に顔を見せないように精一杯引っ張るが、微動だにしない。
更に力もうと腹部に力を入れてみたが、それが駄目だった。



ぐるぅ~ぎゅるるぅぅぅ~ぎゅろろぉぉぉぉ~~~



「……」
「腹が減ってたんだろ。テメェの分はあるから暴れるな」
「……」
「おら、まだ熱いかもしれないから火傷しない様に気を付けろよ」
「……」
「あと、良く噛んで食えよ。消化に良いとは言っても飲み込んだらあまり意味がねぇ」
それから数分間、ルイズは何も喋れないまま俯いて食事をとる事となった。
唯一救いだったのは、食事を始めた途端、無言で背を向けて窓の外を眺めていた事である。
皿に乗っていた料理を食べ終わると、荒垣は音も立てる事無く食器を重ねて立ち上がった。
「ど、どこにいくのよ」
気まずさからか、ルイズの声が幾分小さい。
そんなルイズを尻目に、荒垣は簡潔に目的地を告げた。
「調理場だ。食器を返さなくちゃならねぇ」
そう言うと、無言のまま扉の前まで歩いていく。
荒垣の背中を見ていると、このまま消えてしまいそうな錯覚を覚える。
その幻想を振り払うために背中に声を掛けようとするが、どう声を掛けていいか分からない。
「あ、あの――」
「話は帰ってきてから聞いてやる。まだ横になってろ」
「あ、うん」
それを察したのかは不明だが、帰って来るという言葉に安堵する。
結局、一度たりとも逆らう事が出来ないままのルイズであった。



    ▽    ▽    ▽



食器を厨房に戻しにきた荒垣を待っていたのは、二人の人間だった。
一人は、好敵手を見るような視線を荒垣に送る顎鬚の料理長――マルトー。
もう一人は、そんなマルトーを見て笑うメイド――シエスタである。
「よう兄ちゃん。貴族様は全部食べたかい?」
「ああ」
空となった食器を見せ、荒垣は水場に足を運ぶ。
「アラガキさん。洗い物は私がやっておきますよ」
「いや。大丈夫だ」
シエスタの申し出を断り、荒垣は水の張ってある桶の中に食器を沈める。
そして、手馴れた様子で食器の汚れを落としてった。
「まったく。器用な奴だな兄ちゃんは」
いつの間にか用意したのか、グラス片手にマルトーが笑う。
見れば、グラスの中には並々とワインが注がれていた。
「どうだ兄ちゃん。一杯やるか?」
「悪いが遠慮しておく」



数時間前。
荒垣とロングビルは簡単な自己紹介をしつつ互いの情報を交換していた。
とは言っても、二人が交換した情報は互いの首を捻らせるだけにしかならない。
荒垣がルイズに質問したような内容と同じ事を聞いてもロングビルは首を傾げ、
ロングビルが貴族や平民、魔法について説明しても首を傾げる結果となった。
どちらにせよ、肩にルイズを担いでいては話に集中出来ないため、話は一旦打ち切りとなる。
そんな荒垣と、幾分距離の縮まったロングビルが廊下を歩いていると、大きな影が視界に映った。
良く見ると、洗濯物が詰め込まれた籠を担いだ何者かが、ふらふらと近付いてきた。
(なんだありゃ)
スカートを履いている姿からして女なのだろうが、こちらが見えているのか怪しい足取りだ。
面倒な事を避けるため、ロングビルに倣って壁に背をつけて道を譲る。
それなのに、少女は狙い済ましたかのように荒垣の方へ足を進めていく。
「おい。こっちは壁だぞ」
「え。あ、きゃぁぁぁああ!」
声が引き金になったのか、籠を抱えていた少女は荒垣の忠告に気を取られ足を滑らせた。
襲い掛かる籠と少女を前にしながら、荒垣はまたも舌打ちしてしまう。
だが、舌打ちしたからと言って目の前の籠と少女が止まるわけも無い。
肩に抱えたルイズを落とさないようにしながら、荒垣は右手で籠を、あまり動かせない左手で少女を支えた。
ここで予想外だったのは、右手に持った籠である。
山のように詰め込んだにしては、全くと言っていいほど重量感がない。
ふと、視界の端にロングビルが映った。
何をしているのかは不明だが、視線が重なったと同時に杖の先端を小さく揺らす。
すると、右手に持っていた籠がひとりでに宙に浮き、ゆっくりと床へと降りていった。
籠が静かに床に着くと同時に、ロングビルもまた杖を振るうのをやめていた。
(こいつも魔法って訳かい)
半信半疑だったが、今の様子を見る限りここでは当たり前の事なのだと理解できた。
少し話を聞こうと思ったが、左手に掛かる重みにが先だと思い声を掛ける。
「悪いが、そろそろ退いてくれや」
「あ、ももも申し訳ありません!」
倒れ掛かっていた少女は、しでかした失態を思い出し、両膝を付いて額を地につけようとしていた。
「お、おい! 何やってんだオメェ!」
「貴族様にぶつかった挙句。支えて頂いたうえ洗濯物まで」
「何を勘違いしているんだか知らねぇが、俺は貴族なんてもんじゃねぇ」
「え? でも、先程洗濯物が浮んだのは」
「そいつは、そこにいるロングビルって女の仕業だ」
「あら。仕業ではなくお陰と言って欲しいですね。ミスタ・アラガキ」
言葉の割りに、どこか子供じみたような口調で訂正するロングビル。
「ミス・ロングビル! あ、あの、ありがとうございました」
「構いませんよ。それより……」
「シエスタです」
「シエスタ。この後お暇でしたら、ミスタ・アラガキをご案内して下さいませんか?」
シエスタが頷くのを見て、ロングビルは荒垣に向き直って言葉を続ける。
「用事を思い出しましたので、あとはこのシエスタにお聞き下さい」
「……ああ。悪かったな」
「いえ。こちらこそ……それでは」
去り際に小さく笑うと、ロングビルはもと来た道を戻っていった。


「えと、ミスタ・アラガキ……とお呼びして宜しいでしょうか?」
「そのミスタってのはいらねぇ。荒垣でいい。俺もアンタの事をシエスタって呼ばせてもらう」
ぶっきらぼうに告げたのだが、シエスタは怖がる事も、嫌悪の表情を浮かべることもしない。
ただ、優しそうな瞳で荒垣の言葉に頷くだけであった。
「はい。それで、アラガキさんはどちらに行かれるおつもりだったのですか?」
「ああ。このガキの部屋までと思ったんだが」
荒垣が肩を指差すと、そこには未だ気を失ったままのルイズの姿。
シエスタは、ルイズの足が荒垣の着ている服の模様だと勘違いしていたのだ。
それほど自然な状態で担がれていたため、本当に気付いていなかった。
「き、貴族様……ですか? ど、どうしてその」
どうして担がれているのか。どうして気絶しているのか。どうして股間が濡れているのか。
聞きたい事はたくさんあったが、貴族に関わると大変だと思い出し踏みとどまる。
「その……貴族様のお名前は分かりますか?」
「確か、ルイズなんたらヴァリエールとか言ってたな」
「ああ。ミス・ヴァリエール様ですね。それでは、まずはこの籠を戻してきますので
  それが終わり次第すぐお調べします。ですから、アラガキさんはここでお待ちください」
そういって慌しく籠を抱えると、シエスタは足早にどこかへ立ち去ってしまった。
残された荒垣は、未だ目を覚まさないルイズを担ぎ直して長い溜息を吐いた。
「どうやらこのガキの仕業みてぇだな」
自分は確かに死んだ。だが、ここにいる自分は間違いなく生きている。
ロングビルの説明からすると、召喚の儀式とやらで自分は呼ばれたらしい。
聞けば聞くほど、地獄のほうがマシだったのではと荒垣は思ってしまう。
呼び出されたものは契約して使い魔となり、主に尽くすのだと言う。
その証拠として、左手の甲には不思議な刺青が掘ってあった。
そんな契約などした覚えはないが、もしそうなのだとしたら、恐らく気絶していた時。
怒りもあるが、それ以上に後悔の方が強い。
(ようやく安心して死ねると思ったんだがな)
心の枷となっていた少年にも、自分の思いを伝えきった。
そばにいた親友ならば、きっとその後の面倒を見てくれるだろう。
喧しい後輩たちも、面倒見のいい同級生も、あの犬も……未練などどこにも無かった。
最期の瞬間を思い出し腹部をさするが、傷はおろかコートも無傷のままだった。
そこだけが頭に引っかかっているのだが、後でまとめてルイズに聞けばいいと納得する。
(このガキがご主人様ってか)
肩の上で伸びているルイズをみて呆れてしまう。
恐らく天田と同じくらいの年齢であろう子供が主など、笑い話にしかならない。
年相応な傍若無人ぶりもさることながら、言葉の端々に見える見下した表現も気に入らない。
自分を救ったのだとしても、彼女を主とする事は荒垣には認められなかった。
熱くなりかけた頭を振り、大きく深呼吸して気持ちを落ち着ける。
と、籠を運び終えたシエスタが手を振りながら走り寄ってきた。


「おまたせしました」
「いや……それじゃあ頼む」
「はい!」
その後、学校の関係者からルイズの部屋を聞き出し、二人は言葉を交わしながら並んで歩く。
とは言っても、喋っていたのは殆どシエスタで、荒垣は相槌を打つだけだったが。
(いつもの俺だったら、こんな嬢ちゃん適当に追い返すんだがな)
案内を頼んだと言う理由もあるが、なにより無邪気な笑顔で話しかけてくるのが一番の理由だった。
その言葉一つ一つが打算的で無い分、荒垣としてはただ頷くだけしか出来ない。
邪険にして、シエスタの笑顔を凍りつかせるような怒声をあげる程外道でもない。
結果。何をするでもなく黙々と話を聞き続けるしか選択の余地がないのであった。
「ここです。えっと鍵は」
失礼しますと呟き、シエスタがルイズの服に手を入れる。
「くふっ、うく」
小刻みに震えるルイズを無視しながら、シエスタは手を動かし続けた。
「あ、ありました」
手に握られていたのは、小さな鍵だった。
それをドアノブの下にある鍵穴に差し込むと、扉ごとゆっくりと回した。
「失礼します」
頭を下げながら、部屋の中へと入っていくシエスタ。
荒垣も、若干躊躇いつつ部屋の中へと足を踏み入れた。
ようやく到着した事に安堵した荒垣は、ルイズをベットに寝かせようとする。
「あ、ちょっと待って下さい」
シエスタは荒垣の袖を掴み、ルイズをベットに下ろすのを止める。
「その。非常に言いにくいのですが……」
ルイズの股間にちらちら視線を送るシエスタに、荒垣は即座に理解を示す。
そして、近くにあった椅子に座らせると、無言で部屋を退室した。
「あの。直ぐ済みますので」
扉越しに届いた言葉の意味を理解しつつ、荒垣はやれやれと首を振った。


その後、シエスタと別れて暫くルイズの部屋の前で目が覚めるのを待っていたが、
一向に起きる気配は無く、気付けば空は薄暗くなり始めていた。
そんな荒垣の下に、周囲を気にしながら近付いてくるシエスタの影があった。
「何のようだ」
周囲を気にしていると言う事は、あまり見られたくはないのだろう。
若干警戒しつつ、荒垣は小声でシエスタに問いかけた。
「えっとミス・ヴァリエールのご夕食をどうしようかと。
  それと、アラガキさんをお食事に誘いにきました。お腹、空いてませんか?」
「いや……第一俺は金を持っちゃいねぇ」
腹が減っているのは事実だが、無銭では腹を満たすことは出来ない。
だが、その答えにシエスタは小さく笑って言葉を返した。
「大丈夫ですよ。私達の賄いだけでも十分ありますから。お金なんて要りません」
「……」
暫く思案した後、荒垣はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ここの夕食は時間制限があるのか?」
「あ、はい。そろそろお時間となってしまいます」
「なら、もう少し待ってガキが起きなけりゃ、俺だけでも行く。場所は」
食堂までの道のりを簡単に説明してもらい、シエスタに別れを告げる。
出来れば目覚めてくれる事を願ったが、結局時間ギリギリになっても起きる事はなかった。
下の階からは、部屋に戻ってくる人間の話し声が聞こえてきた。
うっかり顔をあわせて騒がれるのも面倒である。
(仕方ねぇ)
荒垣は暗闇に身を潜めると、静かに食堂まで進んでいった。
すでに夕食の時間は終わったのか、いるのは後片付けをしているメイド服の姿だけだった。
「アラガキさん!」
入ってきた荒垣に気付いたシエスタは、嬉しそうな表情で駆け寄ってきた。
「どうぞこちらへ!」
そして荒垣の隣に並ぶと、調理場の方へと足を進めていった。


「マルトーさん。この人が」
「おお、話は聞いてるぜ。シエスタを助けてくれたんだってな! ありがとよ! さ、困ったときはお互い様だ」
マルトーと呼ばれた男は、両腕を組んで豪快な笑い声をあげると、強引に荒垣を椅子に座らせた。
「ほれ、遠慮しないで食いな!」
「……ああ」
強引な押しに困惑しつつも、荒垣は目の前に並べられた料理を口に運ぶ。
「どうだ?」
「美味い」
興味深そうに感想を求めるマルトーに、荒垣はただ一言だけを告げた。
だが、その簡潔な言葉が気に入ったのか、マルトーは自信たっぷりに頷いた。
「そうだろそうだろ。なんたって、このマルトー様の料理だからな!」
自分で自分を褒め称えるくらいだ。よほど自信があるのだろう。
何かを思い出したのか、二口目を含む前に荒垣はマルトーに尋ねた。
「ガキ……ルイズとか言う奴の分は無いのか?」
「ああ。理由はどうあれ、自分から来ない貴族に食わせる料理はねぇ!」
その言葉を聞いて、荒垣は何かを考えるように目を瞑る。
「もう火は落としちまったのか?」
「いや……だが、調理器具はあらかた片付けちまったぜ。
  あと食材もな。今すぐ出せるっていったら、調味料ぐらいだな」
返ってきた答えを聞いて、荒垣はゆっくりと瞼をあげた。
「マルトーさんよ。悪いが調理場を少し貸してもらえないか」
やや不満げなマルトーをよそに、荒垣は手際よく調理を開始していた。材料は先程食べていた料理の残り。
それを躊躇い無くフライパンに乗せると、迷う事無く調味料を振りかけ火に通す。
数分後には、残り物であつらえた胃に優しい料理が完成していた。
好奇心から試食をしたマルトーだったが、次の瞬間には厳しい目をして荒垣を見つめていた。
「やるな兄ちゃん。あの残り物でここまでやるとはな」
「……俺じゃねえ。アンタの料理が美味いから出来ただけだ。食器は下げに戻ってくる」
そう言い残すと、荒垣は食堂から消えていく。
「そうは言っても、それを変えるだけの力が、兄ちゃんにはあるんだろうよぉ」
マルトーの呟きは、荒垣に届く前に消えていった。
荒垣は苦笑いを浮かべながら料理を運んでいた。
(まさか、率先してこんな事するとはな)
自分でも良く分からないが、気付けば身体が先に動いていた。
どう取り繕っても、面倒を見たがる性格は直せないらしい。
階段を登りつつ、荒垣は何度目か分からない大きな溜息を吐く。
気付けば、誰に会うことも無くあっさり目的地まで到着していた。
変に考えるのを止める。
何事も無かったかの様に、荒垣はルイズの部屋の扉をゆっくり叩いて、その返事を待った。

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