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フーケのガンパレード 4

その訪問者の名前を聞いた時、
ヴァリエール公爵夫人カリーヌ・デジレの顔に浮かんだのは困惑だった。
確かにそれは夫人の友人の名ではあったが、
彼女は数年前に心を殺す毒を呑んだと聞いている。
執事のジェロームに目線で真偽を尋ねるが、彼も判断つきかねると言った表情をしている。
名を借りるには不適切な事この上ない相手であるし、
ましてやカリーヌとの間柄を知っている者など早々いない。
してみると本人か。
しかし、エルフの魔法薬とも噂される毒からどうやって回復したのか。
そしてなぜ自分を尋ねて来たのか。
それは解らない。
解らないが、もし彼女だとしたら。
彼女が回復したのだとしたら。
もしかしたら、と期待が胸に膨らむ。
もしかしたら、娘の身体を治せる手がかりになるかもしれないと。



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執事の開けた扉から応接間に入る。
思わずその足が止まり、長椅子に座る麗人に目がひきつけられた。

「お久しぶりね、ヴァリエール公爵夫人」
「ええ、本当に、お久しぶりね、オルレアン公爵夫人」

緩やかにカリーヌの時間が逆向きに流れ、かつての時代を思い出す。
まだ自分が“烈風”カリンであり、彼女がガリアの姫将軍だったあの時代。
何度も戦場で出会い、戦い、肩を並べた。
夜会では何度もダンスを踊った。
二人きりの場所では、礼儀も身分もどこかに置いて語り合った。
戦友という名の好敵手。宿敵という名の親友。
それは懐かしい、遥か昔に失われた若葉の時代の物語。
分別すらも青臭く、情熱に身を焦がしていた頃の遠い記憶。

「ごめんなさい、お待たせしてしまったわね」

微笑み、旧友の正面に腰を下ろす。
室内には他に二人の女性がいた。
一人は緑の髪に眼鏡をかけた女性で、もう一人は室内だと言うのに帽子を被った少女である。
無作法なと咎めようとしたが、旧友の目配せを受けて思いとどまる。
おそらく何がしかの理由があるのだろう。

「いいのよ。急に押しかけてきたのはこちらだもの。
 まだ用事があるのなら、後にしてくれても構わないわ」
「用事はあるけど、急ぎじゃないからいいわよ。
 主人に相談しないといけないことだし」

厳格なヴァリエール公爵夫人ではなく、年頃の少女のような口調でかつての友人と笑いあう。
働き口を求めて尋ねてきた傭兵たちには悪いが、今しばらく待っていてもらうことにしよう。
「それにしても、本当にあなたは変わらないわね」

本当に変わらない。
ガリア王族の証の青い髪も。
戦場でも日に焼けなかった白い肌も。
全て、懐かしいあの頃の、ま……ま……?
冷たいものが背筋を走った。
目の前の旧友は、あの頃と本当にまったく変わらないのだ。
もう三十年近い時間が過ぎている筈なのに、
自分がこんなにも年老いたと言うのに、なぜ彼女はあの頃のままなのか。

「伝説よ、カリーヌ。
 伝説がわたしの心を治してくれた。
 この身体も、その力を借りているの。
 病み衰えたわたしの身体では無理があるから」
「伝説?
 “虚無”と言うこと?」

カリーヌが身を乗り出した。
その瞳には友人の言葉を疑う色は無く、ただ希望にも似た光が見て取れる。
彼女の脳裏にあるのは、愛する自分の娘、カトレアの姿。
生まれつきの奇病に冒され、領地から一歩も外に出たことのないわたしの娘。
彼女のためなら、どんなことでもしてやると誓うその気持ちに嘘はなかった。

「いいえ、違うわ。
 けして人の目には留まらず、人の口には上らない伝説よ。
 とじめやみに顕われて、明日の夜明けを告げる伝説。
 あけめやみに消えうせて、声のみ残す豪華絢爛たる伝説よ」

旧友の言葉に眉を顰める。
そんな言葉遊びが聞きたいわけではない。
欲しいのは娘を癒せるかもしれない何かなのだ。
視線を移せば、眼鏡の女性は楽しそうに頬を緩め、
帽子の少女は困ったように目を逸らしている。
一度深呼吸をすると、カリーヌは正面から旧友を睨みつけた。

「病み衰えた身体では無理がある、と言ったわね。
 あなた、いったい何をするつもり?
 いえ、違うわね。
 わたしに何をさせるつもりなの?」
「何をするかは、娘の手伝いよ。
 何をしてほしいかは、トリステイン中枢への繋ぎと、助っ人ね」

そう言いつつ、懐から二通の書状を出して見せる。
その文面を追ったカリーヌの体が強張った。
「わたしの娘、シャルロットはあなたの娘と一緒にアルビオンに向かったわ。
 内乱中のあの国へね。
 ただ、解らないのは、なぜそんな危険な場所へ行ったかということよ」
「それを確認したい、と?」

ええと頷き、眼鏡の女性を指し示す。

「彼女は魔法学院のオールド・オスマンの元秘書なのだけれど、
 その時の記憶からすると、彼は学生をそんな場所に行かせる様な性格ではないそうよ」
「オスマンだけじゃなく、他の教師についても同様だね。
 言ってはなんだけど、あそこの連中は甘すぎる。
 学生たちが戦場へ向かうなんて言ったら止める筈さ」

カリーヌは手の中の書状に目を落とした。
末尾に記された書名を確認する。
トリステイン宰相、マザリーニ枢機卿。
あるいは、彼がルイズやシャルロットにアルビオン行きを命じたのか。

「今のわたしに欲しいのは、情報と戦力よ。
 いざ会った時にシャルロットの目的を知らずに邪魔したなんてことは御免だわ。
 そして、わたしとこの二人だけで内乱の中に飛び込むのは危険すぎる」
「……情報については、協力するわ」

唇を噛みながらカリーヌは言った。
今の自分はトリステインに隠れもなき大貴族、ヴァリエール公爵夫人である。
正当な理由もなしにアルビオンの内乱に関わることなど出来るわけがない。

「その協力にしても、まずはオールド・オスマンに会ってからよ。
 彼の話の内容次第では、その後の協力は出来かねるわ」

だが、その答えを予想していたかのように旧友は笑った。
カリーヌの性格は知っている。
何よりも“鉄の規律”を重んじた、誇り高き魔法衛士隊の隊長“烈風”カリン。
ならば彼女を動かすには、情ではなく律をもってしなければならない。

「それでも、わたしはあなたに戦力としても協力を要請するわ。
 あなたの好きな“規則”でもってね。
 わたしたちには、あなたの力が必要なのよ」
「規則?
 まさか、わたしにガリアの法に従えと?」

それこそまさかよ、とガリア王家に繋がる女性は言った。
トリステインの貴族にガリアの法は通じぬし、そもそも自分は既に王族ではないと。

「わたしが掲げる規則は、ガリアよりも旧い規則よ。
 ガリアよりもトリステインよりも、いえ、
 始祖ブリミルよりも旧い規則。
 この世の始まりから存在する旧い旧い規則」

そして青い髪の女性は胸を張り、堂々と彼女の信じる規則を口にした。

「全ての母親は、我が子の幸せを願い、それに尽力する権利がある。
 それはどの王にも、どの法にも、始祖ブリミルにすら侵すことの出来ない権利。
 天地が生まれ、母と子が生まれた時から存在する最も旧い規則よ」
絶句したカリーヌの脳裏に娘たちの姿が浮かぶ。
エレオノール、カトレア、そしてルイズ。
何よりも愛しい、世界の全てよりも大切なわたしの娘たち。
彼女たちのためならば、どんなことでもしてやると誓うその気持ちに嘘はない。
確かに娘のためならば、自分は始祖ブリミルとだって戦えるだろう。
我知らず頬が緩む。
ああ、本当に彼女は変わっていない。
彼女はいつもこうやって、全てを思うがままに動かすのだ。
そして何より腹立たしいのは。
誰もがそれを不快に思わず、自分から彼女の思うがままに動いてしまうと言うことだ。

「……相変わらず運がいいわね」

一度目を伏せ、そして開く。
ただそれだけで、カリーヌはかつての自分を取り戻した。
別室で待たせている傭兵たちを思い、運命の不思議を感じる。
ルイズの評判を聞いてこの家に来たのだという傭兵たちに、そのルイズ自身を助ける依頼をするだなんて。

「今日は特別でね。
 いますぐ動ける傭兵たちがこの屋敷に来てるのよ」

その言葉に青い髪の女性は目を見張り、
カリーヌは楽しげに頬を緩めた。

「世の中には、全ての損得を抜きで子供の幸せを願う者がいる。
 世の中には、全ての子供を守る守護者がいる。未来の護り手がね。
 それはただの人間で、ただの人間の集団で、ただの人間が作った物だけど、
 まぁ、結局現実なんてそんなものさね」

眼鏡の女性の言葉を聞き、本当にそうなら素敵ねと二人の公爵夫人は気高く笑った。
伝統ある貴族の奥方としてではなく、戦場の雌豹と表現して差し支えない表情で。



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二人の公爵夫人によって結成され、後には名高い軍人や貴族の妻女によって率いられた傭兵部隊。
国も信仰も派閥も越えて、ただ子供の幸せの為に戦い続ける誇り高い独立部隊。
誇りも名誉も必要とせず、守り抜いた子供の笑顔のみを報酬とした母たちの部隊。
敵対する誰もが畏れ、共に戦う誰もが誇りとした、
その名も高き“奥様戦隊”の、これが誕生の瞬間だった。


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