あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

S-O2 星の使い魔-14


 ───眠れない。

 瞳を閉じるたびにあのゴーレムが脳裏に浮かぶ。
 抗いようのない圧倒的な暴力に叩き潰される幻影。
 巨大な拳が自分の頭蓋骨を叩き潰す瞬間、恐怖に瞼がこじ開けられ、現実に引き戻される。
 今夜だけで何度繰り返したことだろう。

 身が震える。
 べっとりとした嫌な汗が全身にまとわりつく。
 吐き気が収まらない。

「うっ……」
 刻み込まれた恐怖に蝕まれ、震える体を抱きしめてキュルケは一人呻いた。
 一人で眠ることがこんなに怖いと思ったのは、何年ぶりだろう。
 誰でもいいから、傍にいて欲しい。
 何でこんなときに限って、一人きりなのかしら───

 ───コン、コン

「ひゃっ!」
 タイミングの良すぎるノックの音に、思わず身をすくめる。
 こんな夜中に、一体誰だろう?

「キュルケ、僕だ」
「え、ダーリン?」
「大事な話があるんだ、開けてくれないか?」
 先ほどとは別の意味で心臓がきゅんと締め付けられる。

「えっ……ちょ、ちょっと待って!」
 いやん、ダーリンったら大胆!
 そんなこといきなり言われたって、女の子には準備ってものが……

 服装、よし! 髪の手入れ、よし! 肌のつや、よし!
 深呼吸、すーはーすーはー。良いオンナってのは余裕を忘れちゃいけないのよ。
 意を決してぇ……さあて、ご開門ッ!

「やあ、キュルケ。夜分遅くにごめんね」
「遅い」
「期待にそえなくて悪かったな、娘っ子」
「……」





(ふ、ふふふ……解ってた……解ってたのよ……
 ダーリンがそんな人じゃないってことくらい……むしろそこが良いんだけどね……)
 どこぞの世界チャンプよろしく真っ白になって窓の外、星空を眺めるキュルケ。
 そして、キュルケの部屋に上がりこんで顔を見合わせる二人と一振り。

「……どうしたんだろ、キュルケ?」
「……そっとしといてやれ、相棒」
「……勘違いの産物」
 クロードとデルフの気遣いとタバサの毒、それら全てが胸にブスリブスリと突き刺さる。
 痛い、痛いよ。ご自慢のバストがちっとも役に立たないよ。
 よよと流れる心の血涙を誤魔化すように、半ばヤケクソ気味にキュルケは尋ねる。

「で、何の用なの、ダーリン?」
「フーケの正体と今後の行動について、さ」

 サッと二人の表情が変わる。
 先んじて人差し指を立てて制し、クロードは言葉を続ける。

「まず、何故フーケはわざわざ壁をブチ破るような乱暴な手段をとったんだ?
 相当な厚さがあるだろうことは予想できていたはずなのに」
「入り口の鍵は『固定化』がかかっていて開かないわよ、他に方法が無いじゃない」
「問題なのは、フーケがどうやってそれを知ったかってことさ。
 それに、どうしてピンポイントで宝物庫だけを襲撃できたんだ?」

 クロードの指摘に、タバサの眼鏡がキラリと光った。
「学園内に、入り込んでいる?」
「或いは内通者が、だな」

 タバサの回答にデルフが付け加える。
 ただならぬ空気に、息を呑むキュルケ。
 冗談の介在する雰囲気ではない。
 クロードの言葉は続く。

「それを踏まえたうえで、次だ。
 怪盗ってのは、えてして盗むことよりもその先のこと、
 つまり逃走経路・手段に作戦の重点を置くことが多い。
 そこで問題。目立つ秘宝を抱えて脱出する際に、最も足の付きにくい方法は?」
「捜索隊に紛れ込んで、全員まとめて行方不明。
 あのゴーレムを使えば難しいことではない」

 即答でとんでもない内容をさらりと答えるタバサ。
 要は全員まとめて身元不明になってもらおうという意味である。
 後者のケース、つまり内通者がいる場合の証拠隠滅としても完璧だ。
 凍りつくキュルケだが、クロードは無言で頷く。デルフも黙ったまま。
 つぅっ、と嫌な汗が頬を伝う。

「ま、マジ?」
「白昼堂々、テロ同然の強奪劇をやってのけた相手だ。
 今になって手段を選ぶような相手じゃないと思う」
 そう言って両手を広げるクロード。

「フーケ本人としても内通者としても、捜索隊には関わってくるはずだ。
 行方不明になっちまえば探しようがねーからな。
 足跡を消すには、もってこいだろうよ」
 最後にデルフが付け加える。

 嫌な沈黙が場を支配する。
 誰か信用できる人間に相談すべきだろうか。

 だが、誰に相談する?
 誰を信用すればいいのだろう。

「そう言えばダーリン、どうしてルイズには伝えないの?
 一応、あの子の使い魔なんでしょう?」
 重すぎる空気に耐えられず、キュルケが口を開く。

 その言葉を聞いて、ああ、もうこれで召喚されて以来何度目だろう。
 拳を額にぶつけ、溜息を交えていつもの表情でクロードは答える。

「……ルイズがこの話を聞いて、大人しくしていられると思う?」
「……」
「……」

        絶  対  無  理  で  す  。


 チェンジ、スイッチオン。1、2、3。真竜でも皇帝でもドンと来い。
 三つの心は一つになり、キュルケとタバサはこめかみを押さえた。





「……成る程、大体の事情は飲み込めたわい、ケビーシ君」
「クロードです、オールド・オスマン」
 この状況でボケないで下さい、疲れます。
 顔に書いたメッセージを受け取ったのか、オールド・オスマンが表情を引き締める。

 翌朝、ここは学院長室。
 第一発見者であるタバサ、キュルケの両名、
 そして目撃者であるルイズとクロードが呼び出され、
 一連の事件のあらましを話し終えたところである。

 なお、昨夜の考察についてはまだ話していない。
 誰が信用に足るか解らない現状で、迂闊に情報を漏らすわけにはいかないからだ。

「よもや白昼堂々、この学院に賊が入り込もうとはのう。
 ここに居る人間は殆どがメイジ、好んで虎穴に飛び込む者は誰もおらぬと高を括っていた。
 その隙を、物の見事に突かれたというわけじゃ」
「申し訳ありません、もう少し早く僕らが気付いていたら……」
「君らが責任を感じることではない。
 むしろ本来ならば、我らが率先して解決に当たらねばならぬことじゃからの」

 頭を下げようとするクロードを手で制しながら、
 その後ろへと目をやり、オールド・オスマンは溜息をつく。
 そこには、喧々諤々と議論を交わす教師たち。
 しかしてその実態は、ただの責任の擦り合いに過ぎない。
 情けないことよ、これが格調高きトリステイン魔法学院の教師とはな。

 うおっほん、とわざとらしく咳払いを一つ、教師たちは口論をやめてこちらに向き直る。
 呼び出された生徒たちも同様である。

「ミス・ロングビルは昨晩から、この件について調査をしておったらしい。
 まずは彼女の報告を聞こうではないか───あだっ!」
 秘書の胸に伸びかけた掌を、説明のために一歩前に出ていたクロードが手刀で打ち落とす。
 真面目にやらんか、狒々爺。
 軽く殺気が篭った二つの視線をうけ、不服そうに唇を尖らせるオールド・オスマン。
 ガキか、あんたは。それにちっとも可愛くないぞ。

「コホン、それでは……」
 ミス・ロングビルの説明によると、念入りな聞き込み調査の結果、
 学院から徒歩で半日、馬で4時間ほどの森の中の廃屋に、
 怪しげなローブを纏った人間が入っていくのを目撃したという情報を得たとのこと。

(……一晩で集めたにしては随分と具体的な情報だな)
 クロードの第一印象はそれだった。
 それだけ彼女が優秀と言うことなのか、それとも?

「それでは早速、王室に連絡して衛士隊の手配を───」
「馬鹿者! 王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ!
 頭の固い奴らのこと、手続きだけで何日かかるやら知れたものではない!
 それに、己に降りかかる火の粉も払えずして、何が名門と謳われたトリステイン魔法学院か!」
 オールド・オスマンの一喝に静まり返る一同。
 やはり、こういうところでは学院長としての威厳を感じさせる。

「では、捜索隊を編成しよう。我をと思うものは杖を掲げよ」
 沈黙。
 オールド・オスマンの表情に明らかに失望の色が映る。
 クロードも同様である。

「おらんのか? おや、どうした?
 悪名高き土くれのフーケを捕らえ、名を上げんとする貴族はおらぬのか!」

「私が行きます!」

 凛とした声に、視線が集中する。
 それは、この場において最も意外な人物と言っても過言ではあるまい。
 誰あろう、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエールその人であった。

「あなたは生徒ではありませんか、ミス・ヴァリエール!」
「けれど、先生方はどなたも杖を掲げないではありませんか、ミセス・シュヴルーズ!」
 教師の諌めを毅然と切り返すルイズ。
 その一言だけで、彼女は場の空気を完全に支配してしまった。
 彼女が述べたのはぐうの音も出ない正論、もはや口を出せるものは一人もいない。

 ルイズは憤っていた。
 生徒の規範足るべき教師たちが、貴族の誇りも矜持も無く、
 ただただフーケを恐れ、責任逃ればかりに終始していることに。

 貴族とは何ぞや。
 理不尽な暴力を前にして何も出来ず、逃げ腰で遠吠えばかりを繰り返す負け犬か。

 誇りとは何ぞや。
 責任を他者に押し付け、保身を図ることか。

 力とは何ぞや。
 宝を奪い、命を奪い、魂を奪い、それだけか。それだけのものでしかないのか。

 ……ふざけるな。

 そんなものが、そんなものが私が問い、求めてきた真実であってたまるものか。
 たとえそれが真実であったとしても、世界全ての人がそうだと言ったとしても、私は認めない。
 己の魂と世界に問い続けてきた答えが、こんな虫唾の走る薄汚れたものであるなど、
 たとえ畏れ多くも始祖ブリミルが許したとしても、私は決して許しはしない!

 この場にいる者たちが答えを出せぬと言うならば、自分の手で掴み取って見せる。
 その中途で倒れるならば、所詮自分はその程度の存在だったということ。
 否、こんなところで終わりはしない。終わるものか。
 何故ならば、私は貴族なのだから。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエールなのだから。


 凛々しき主の姿を見て、クロードは思いを巡らせる。
 掲げた杖の下で目立たないが、膝が微かに震えている。
 怖くないわけが無い。彼女もあのゴーレムを見ていたのだから。
 彼女には一連の推理について、何一つ伝えていないのに。
 彼女が行ったところで、一体どのような成果が望めると言うのだろう。

 ───いや、そうか。だからこそ、なんだね。

 目を伏せ、クロードは静かに笑みを浮かべる。
 今の彼女はあの時と、ギーシュと決闘していたときの自分と同じなのだ。

 命よりも大事な誇りがある。
 自分が自分であるために、逃げられぬ戦いがある。
 自分が誰なのか。自分に何が出来るのか。
 答えを追い求め、足掻き続ける哀れな道化。
 だが、その姿が何故こうも眩しく映るのだろう。

 何のことは無い。ずっと根本的なところで、二人は似ているのだ。
 クロードはルイズの影。ルイズはクロードの夢。
 同じコインの表と裏。
 既に砕けた己と比して、折れぬ彼女の何と眩しいことか。
 いいや、そうじゃないと頭を振る。
 砕けたと言い聞かせ、足を止めていただけだ。

「……だったら、使い魔である僕が行かないわけにはいかないな」
 そう言ってクロードが杖を掲げる代わりに手を上げる。
 ルイズは一瞬戸惑う様子を見せたものの、すぐにいつもの調子に戻って鼻を鳴らす。

「ふ、ふん、使い魔なんだから当然よ! しっかり付いてきなさい!」
 仰せのままに、と言わんばかりに大仰な礼をするクロード。

 足場を組むための手は動く。
 昇るための足は無事だ。
 その背に翼を持たぬならば、翔ぶことが叶わぬと言うならば、
 残された足で歩き続け、手を伸ばし続ければいい。

 そうだ。君と一緒ならば、僕はもう一度あの空を目指せる。
 ならば、僕は全てを賭して君を守ろう。小さな体に気高き魂を宿した我が主よ。
 君の誇りのために、そして僕自身の誇りのために。

「ああもう、ルイズってば本当に考えなしなんだから……
 仕方ないわね、私も志願しますわ。ヴァリエールには負けられませんから」
 溜息混じりに、そして不敵な笑みを浮かべてキュルケも杖を掲げる。
 未だ恐怖は残れど、悪夢は晴れた。
 何故なら、彼女もまた貴族だったから。
 そして、真に貴族たらんとする、ルイズの友人であったから。

「私も行く。心配だから」
 傍らにいたタバサも同様に杖を掲げる。
 感激したらしいキュルケが思わず抱きしめ、豊満な胸に小さな顔が埋まる。
 はいはいお爺ちゃん、羨ましそうに指をくわえるんじゃありません。みっともない。

「コホン。では、捜索隊はこの4名とする。
 彼らに『破壊の宝玉』の行方とフーケの捕縛を託そう」
 改めて宣言するオールド・オスマン。
 コルベールが沈痛な面持ちで目を伏せ、シュヴルーズが手布で目元を拭う。
 どうか我らが誇り、いと気高き生徒たちに始祖ブリミルの加護があらんことを。

「ミス・タバサは『シュヴァリエ』の称号を持つ騎士と聞いておる。
 若いながらも、その実力は確実なものじゃ」
 驚いてクロードはタバサを見る。
 色々と只者では無いと思ってたけど、本当に只者じゃなかったんだ。

「ミス・ツェルプストーは、数々の優秀な軍人を輩出した家系の出身で、
 彼女自身も優秀な炎のメイジだそうではないか」
 ふふん、と言いたげに胸を張るキュルケ。
 軍人、ね。意外な接点ったら接点だな。

「ミス・ヴァリエールは……うむ。
 数多くの優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の息女であり、
 その、将来有望なメイジと聞いておる」
 思いっきり言葉選んでますね、学院長。
 本人はっと、うん、怒ってない怒ってない。どっちも流石です。

「そして、ミスタ・ケニーはミス・ヴァリエールの使い魔にして、
 平民ながらギーシュ・ド・グラモンを破ったなかなかの手練れ。
 魔法が使えぬとは言え、足手まといになることはあるまい」
 回りのどよめきからして、この世界において魔法抜きでメイジに勝つのは結構凄いことらしい。
 そう言えば、ファミリーネームで呼ばれることってあんまり無かったなぁ。あんまり関係ないけど。

 老人は決意に燃える目を一人一人見据え、厳かに、高らかに宣言する。
「魔法学院は、諸君らの努力と、貴族の義務に期待する!」

 それを受け、真実誇り高き貴族の少女は、凛々しく、力強く答えた。
「杖にかけて!」 


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