あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのガンパレード 18

楯代わりのテーブルを飛び越えて出てきた少女を見た時、傭兵は思わず舌打ちをした。
その少女の顔には見覚えがあった。
昨日、自分たちの常宿としている『金の酒樽』亭にやってきて、
賭博でこちらの有り金を全て巻き上げていった相手である。
確かに恨みはあるが、それとこれとは別だ。
剣を持ち、首輪なんぞをしていたから貴族の従者なんだろうと思ってはいたが、
どうもそれは違うらしい。
昨日も一緒にいた貴族はまだテーブルの向こうにいるようだ。
少女を囮にしようと言うのか、それとも少女一人で傭兵を迎え撃てと理不尽な命を下したか。
おそらく後者だろう。
あんな小柄な娘に、あんな大剣を持たせている時点でおかしいと気づくべきなのだ。
だがどちらにせよ、と男は口内に沸いた酸っぱい唾液を飲み下した。
あの赤毛の貴族はあの娘が死のうが生きようが構わんらしい。
つまりは従者ですらない、奴隷以下の存在というわけか。
痛々しげに一瞬だけ目を伏せ、そして目を開ける。

――――まさに瞬間。
    しかしタバサが接敵するには、その一瞬で充分だった。

自身の身の丈ほどもある大剣デルフリンガーを振るい、傭兵を弾き飛ばし、思う存分に蹂躙する。
彼らは知らなかったのだ。
傭兵たちが、いやアンリエッタ王女さえもが従属の証だと思って疑わなかったタバサの首輪。
それは従属ではなく友愛の証。
所有者の能力を増幅する猫神族の神器の一つだと言うことを。

「距離を! 距離をとれ!」

誰かが叫ぶ。
悪いことに傭兵たちの多くが弓を構えていた。
弓はその場で捨てるにしても、剣を抜く前に切られてはおしまいである。
慌てて武装を変更しようとしてももう遅い。
タバサはその動きに片手を突き出すことで答えとした。

「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」

断片的に少女の身体を支配した“地下水”の放った魔法が生み出した氷の矢が傭兵たちに飛ぶ。
タバサ自身も得意とする“ウィンディ・アイシクル”の呪文である。

「馬鹿な、杖も使わず!?」

驚愕の声が傭兵たちから洩れる。
貴族は杖を持ち魔法を使う。故に杖を持っていなければ魔法は使えない。
それが彼らの常識であり、世界の法則であった。
だが眼前の少女は、それらをいとも容易く打ち砕いたのだ。

「なんと……!」

目を見張ったのはワルドである。
それ以外にも、テーブルの陰からタバサの戦いを見た客や店員たちが興奮に頬を染めていた。
自分よりも大きな剣を携え、それ自体の重さと慣性を利用して縦横無尽に振り回す小さな少女。
それはタバサが戦神より伝えられた戦闘法。
身の丈よりも巨大な武器を振るい、あしきゆめと戦い続ける小神族や猫神族の戦術だった。
誰かが陶然として洩らした吐息が室内に溶ける。
剣を持ち、魔法を振るい、ならず者たちを倒していく小さな姿。
一歩歩を進めれば一人が倒れ、剣を振るえば二人が倒れ、魔法を放てば数人が纏めて吹き飛ぶ。
踊るがごとくに敵を倒していくその姿のなんと麗しいことよ。
御伽噺か英雄譚の中にしか存在しない筈の戦姫がそこにいた。

「いくわよ、タバサ!」
「承知。任せた」
「おっしゃぁ!」

弓矢が途絶えるのを待っていたキュルケが呪文を解き放った。
狙いはタバサと敵集団の中心である。
一瞬で消える爆発ではなく、時間が経たねば消えぬ炎の海を作り出す。
傭兵たちがその熱に悲鳴を挙げるが、
デルフリンガーに守られたタバサには火傷一つ負わせることは出来ない。

「――――あ」

傭兵たちの誰かが喉の奥で悲鳴を挙げた。
これはなんだ。
こいつはなんなんだ。
自分たちは何と戦っている?
青い髪。白い肌。血を塗られたかのように朱い唇。
身の丈よりも巨大な剣を振るい、杖も使わず魔法を使う。
そして味方の魔法に巻き込まれた筈なのにその身体には傷一つなく、
未だ燃え続ける炎の海の中にあって無表情にこちらを睥睨するその視線。
炎が表情のない少女の顔に呪いの仮面のような紋様を映しだす。
誰か唾を飲み込む音が大きく聞こえた。
得体の知れぬ寒気が傭兵たちの背筋を這い登る。
御伽噺か法螺話の中にしか存在しない筈の魔物が、そこでこっちを見てやがる――――!

「さぁ、行こうか」

ギーシュに頷き、主人を乗せた大猫が机の陰から進み出る。
その背に跨り、ルイズは胸を張って閲兵に望む将軍のように前方を見据えた。
背後を守るかのようにあとに続くのはワルドとキュルケ。
殿軍を勤めるギーシュが造花を振って作り出した青銅のワルキューレがその横を守る。
本来ならば切りかかり、矢を放つ筈の傭兵たちの誰もが気を呑まれ、我知らず後ずさった。
遠い昔に捨てた筈の恐怖という名の感情が、彼らの手足を縛っていた。

「――――く」

苦鳴が洩れた。
魔物のような剣士一人でも苦戦していると言うのに、あの炎の使い手に土のメイジ。
髯を生やした男も杖を持っているからにはメイジに違いあるまい。
最後の一人、猫に跨った少女もおそらくメイジだろう。
それも中心にいるからにはよほどの実力者と見て間違いない。
腹の中で、この依頼を持ってきた白仮面の男を口汚く罵る。
なにが簡単な仕事だ、ふざけやがって。

「あの髪の色……まさか、まさか……」

一人の傭兵が、ありえないものを見たかのように目を見開いた。
髪にも白いものが混じり始め、そろそろ引退を考え出す年齢の男である。
傭兵仲間からは親爺さんと呼ばれて親しまれている人物だった。

「どうした?」

周囲の訝しげな視線も気にはならない。
遠い遠い戦場の中での思い出が、彼の記憶の時計をさかしまに回し、
遥か昔に一度だけ見たあの英雄の姿を脳裏に克明に甦らせていた。
彼が若い頃に傭兵として参加した反乱鎮圧。
寄せ集められた一個連隊と共に向かったカルダン橋で見たその姿。
ただ一人で反乱を鎮圧した大英雄。
跨るのはマンティコアではなく大猫であり、顔半分を覆う鉄仮面もしてはいなかったが、
老いたる傭兵は、眼前の少女に確かにその人の面影を見て取った。

「……“烈風”カリン殿……!?」



/*/



その日、ラ・ロシェールに住む人々は実に不思議な光景を目にした。
その光景はそれからしばらくはただ不思議なだけであり、
住民の茶飲み話に時折顔を覗かせる程度でしかなかった。
しかし、ある時を境にそれは一変する。
それは男たちが酒を片手に話す際の話題となり、
あるいは親が子供に語る物語となった。
彼らは自分がそのときに居合わせたことを、
そしてそれを目にすることが出来たことを始祖ブリミルに感謝した。
男たちは杯を手にする度にそれを思い出し、
女たちは子供にせがまれる度にそれを語った。
ラ・ロシェール中から集った傭兵たちを尻目に、
『女神の杵』亭から『桟橋』までを一直線に駆け抜けた、
猫に跨った少女とその仲間たちの物語を。
今もラ・ロシェールで続く火蜥蜴や竜、土竜やグリフォンを模した山車で街中を駆け回る大祭の、
これがその起源である。



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『女神の杵』亭の屋上に立ち、男は『桟橋』を離れて上昇する船を見送っていた。
その顔には抑えきれぬ怒りの色がある。
ルイズたちを逃したのが悔しいわけではない。
そもそもここで捕らえるつもりは毛頭ない。
傭兵たちを差し向けたのも、邪魔になるかも知れぬ三人を引き離す為だった。
その企てが失敗したのが悔しいわけではない。
むしろよくぞと賞賛してもいいくらいである。
剣士の力を見せ、魔法を打ち込み、傭兵たちの戦闘意欲を奪う。
店から脱出すれば使い魔に分乗し、一直線に『桟橋』を目指した。
傭兵たちを相手にせず、白仮面の男を無視し、
自分が最後の敵だと腰を振る白衣の道化師を黙殺して駆け抜けた。
なにが一番大事なのか、なにが自分たちにとって勝利なのかを知り、
それに向けて全力で行動した結果である。
傭兵たちは怪我こそすれ死んだ者は一人もおらず、
その瞳には今やあの一団に敬意を払う色すら見える。
それはいい。むしろ歓迎すべき事態だ。
ルイズとその仲間たちは貴族に相応しい力を持っているのだと言う事を、
そしてトリステインの貴族とはどのような存在なのかを、
言葉ではなく行動で示してくれたのだから。

「知っていたか、あの娘の力」
「いや、姫殿下は何も言ってはいなかった」

答えたのは、『フライ』の呪文で屋上に上がってきた白仮面の人物である。
横に立ち、苦々しげに遠ざかる船を見つめた。

「マザリーニ枢機卿もだ。それどころか、あの娘をなるべく守れと言ってきた。
 没落したとはいえガリアの王族に傷をつけてはならんと」
「してみると、鳥の骨殿も知らなかったか。だが……」

沈黙が降りる。
彼らは今まで、今回の件はアンリエッタ王女のただの我が侭なのだと思っていた。
考え無しの王女が、幼馴染に重大事を任せただけなのだと。
だが、偶然それを任せられた筈の少女とその仲間たちの実力を見るにつけ、
本当にそうなのかという疑念を抑えることが難しくなってきていた。
あるいはアンリエッタ王女は、全てを承知でルイズにこの任務を任せたのではないかと。

「どう思う。姫殿下は知っていたと思うか」
「解らん。解らんが、もし知っていて、それであの少女たちに任せたというのなら」

男は大きく息を吸って、そして吐いた。

「俺は、姫殿下を許せんだろうよ」

男は下級の貴族の家の出身である。
魔法が使える故に貴族を名乗ることを許されてはいるが、
実質は地方の郷士に過ぎない家柄であった。
しかしそれでも、いやそれ故にこそこの国を愛していた。
権力を持たず、国政に関わることもできぬ故に、
なんらの欲得なしでこの国を愛することが出来た。
アンリエッタ王女についても同様で、
若くして重責を担う少女にごく素朴な敬意を払っていた。
なるほど今は確かに枢機卿の傀儡かも知れぬ。
だが成長し、経験を積めば必ずこの国を良き方角に導いてくれると信じていた。
そう、信じていたのだ。

「確かに、な」
「ああ。もしも本当に魔法学院が彼女たちのような人材を育てているのなら。
 そして姫殿下のみがそれを知っていたというなら」

沈黙が降りた。数週間前に湧き上がり、身を焦がした怒りが胸中に蘇る。
王女とゲルマニア皇帝との婚姻の儀。
それはすなわちトリステインをゲルマニアの属国にすることに他ならない。
怒りが男の、男の仲間たちの胸を焼いた。
畏れ多くも始祖ブリミルの御子が建国したトリステインが、
成り上がり者の集団であるゲルマニアの下風に立つなど、
真に国を愛するものとして到底許容できるものではなかった。
アンリエッタの子がトリステインを継ぐと説明されても、
その怒りは収まらなかった。
漁色家としても有名なゲルマニア皇帝には未だ正妃がいない。
故にアンリエッタは正妃としてゲルマニアに嫁ぎ、その長子は皇位継承権第一位となる。
その場合、トリステインを継ぐのは第二子である。
だが、もしも子が一人しかいない時にアンリエッタが謀殺されたならば?
王家直系である以上、トリステインはゲルマニアの次期皇帝を王と仰ぐことになる。
そのような事態は断じて許されるものではなかった。
そして男とその仲間たちは決意する。
ゲルマニアの属国化を防ぎ、自分たちの手でこの国を正そうと。
だがこれはどうしたことだ。
トリステインにあの知略を駆使する参謀がいるのならば、数に頼らずとも戦い抜けるだろう。
ガリアの姫戦士がいるのならば、その武勇で兵を鼓舞することもできるだろう。
そしてそれを率いるのがあの英雄の娘となれば、
ゲルマニアに頼らずともトリステインは戦うことができた筈なのに。
アンリエッタ王女がそれを知っていたならば、なぜマザリーニ枢機卿にそれを言わなかったのか。
なぜ戦おうとせず、婚姻の儀を進めようとしているのか。
怒りが男の口から問いとなって流れでる。。
今回の件を聞いてからというもの、何度も問いかけ、口に出さずにはいられなかった疑問であった。

「なぜだ。なぜ、この国をゲルマニアに売ろうなどと考えた!?」

繰り返すが、男は下級貴族の生まれであり、その仲間たちもまた同じであった。
そのような家柄の者が国を変えようと思えば、謀略を持ってする他はない。
署名を集めて訴えかけはしたが、一考するとだけ言われて黙殺された。
故にこそ、男たちはレコン・キスタと密約を交わした。
アルビオン王家を滅ぼしてもトリステインには攻めては来ぬと。
真の貴族を持って任じるレコン・キスタの大部分にとってはゲルマニアの貴族はただの成り上がりであり、
同盟すら結ぶに値しない。そこに始祖ブリミルの血統が混じるなど考えるだけでもおぞましい。
ここに、彼らの利害は一致した。一致したと信じた。

「僕はそろそろ戻るとしよう。
 なに、するべきことに変わりはない。
 いや、より重要度が増したというべきか」
「ああ、そうだな。
 あの少女が全ての鍵だ。
 ガリアの剣士も、ゲルマニアの魔女も。
 グラモン元帥の息子までが彼女を中心に動いている。
 彼女を手に入れれば、この戦は勝てるな」

空気に溶けるように消えていく白仮面を見送り、
彼が使命を果たした時のことを夢想する。
その時こそ、この国は変わる。変わる筈だ。
おそらく自分たちの名は一人を除いて歴史には残らない。
あるいは数年が過ぎて後に謀略家としての汚名が着せられるかも知れぬ。
ただの捨て駒として見捨てられることになるかも知れぬ。
死した後でも安息は得られず、永久に地獄の炎で焼かれることだろう。
だがそれでもと男は思った。
この国を正しき姿に戻すことが出来たのならば、自分は笑って地獄に行けるだろう。
目蓋を閉じれば来るべき未来がそこに見える。
レコン・キスタを仮想敵として一丸となるトリステイン王国。
その中心にいるのは恋人を戦争で失った悲運の王女アンリエッタ。
その先頭に立つのは、戦雲渦巻くアルビオンから帰還したワルドとルイズ。
虜囚の辱めを受けながらも決死の脱出行を成功させた若き英雄たち。
しかもそれがあの“烈風”カリンの娘と娘婿だとなれば尚更だ。
未だ年若い二人の姿に国民は熱狂し、ヴァリエールの名は大貴族たちをも黙らせるだろう。
そしてこの国は、かつての誇りと栄光を取り戻すことが出来るのだ。
古き良き時代。他の国に頼らずとも済んだ時代。
王が力を持ち、貴族がそれに従い、平民がそれを助けた時代。
今や時の流れの果てに消えうせた黄金の時代を、トリステインは再び取り戻すことが出来るのだ。
目を開き、未だ闇に包まれた東の方角をみやる。
覚めぬ夢がないように、明けぬ夜もまたありえない。
アルビオンの弔いの鐘は、同時にトリステインの目覚めの鐘となるだろう。
男は踵を返して歩き出した。
この愛する祖国に、自分たちの信じる正しき夜明けをもたらすその為に。






以下、余韻をぶち壊すかもしれない今回の没ネタ。


おまけ:その頃の某王女さま

「いいこと、カステルモール! これは極秘任務なのよ。
 だから、お前がわたしを姫と呼ぶことは禁止します。
 わたしはお前をバッソと呼ぶわ。いいわね!」
「しかし、姫殿下」
「禁止だったら!」
「解りました、イザベラ様。これでよろしいでしょうか?(ああ、あんなに顔を赤くして怒っていらっしゃる)」
「………………」
「………………」
「……け、敬語も、禁止よ。普通の言葉で話しなさい。あとわたしの事はよ、呼び捨てで」
「しかし」
「(無言で上目遣いで睨みつける)」
「――――解ったよ、イザベラ。これでいいかい?」
「~~~~~~~~~~~~!!!!!」

イザベラは赤面した!
イザベラは奇妙な踊りを踊った!
カステルモールは逃げ出した!
しかし回り込まれた!


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