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Mr.0の使い魔 第二十四話

 突如飛来した矢に最も素早く対応したのは、戦慣れしているワルドと
クロコダイルであった。ルイズを柱の陰に引き込んだワルドが、同じく
柱を盾にしているクロコダイルに声をかける。

「大丈夫ですか、ミスタ」
「ああ」

 正面の道にずらりと並ぶ人影を見つけて、クロコダイルは思わず舌を
打った。雨の中に鎧を着込んだ、おそらくは傭兵が数十人。うち、弓や
クロスボウで武装した十数人が、狙いを『女神の杵亭』に定めている。

「ワルド、これって!」
「敵襲だ。思ったより遅かったが……」

 ヒュン、と風を切る音がして、大量の矢がロビーへと飛んで来た。石
造りの床や柱に突き刺さるその威力は、下手な銃より遥かに強力である。
 カウンターの店主や他の客達は、その威力を前にすっかり怯えている
ようだ。手近な物陰に身を潜め、外を覗こうともしない。
 と、入り口に降り注いだ炎が、三射目の矢の一団を焼き尽くした。上
の階から杖を振ったのは、キュルケ。

「何だか面倒な事になってるじゃない」

 炎を維持したまま、キュルケは階段を駆け下りた。すぐ後にタバサと
ギーシュも続いている。全員が揃った所で、今度はタバサが風の呪文を
唱えた。勢いの衰えた炎に代わって竜巻が玄関を塞ぎ、飛来する矢弾を
舞い散らせる。
 それでもなお、敵は攻撃の手を緩めない。風が再び火柱に切り替わる
と同時に、五度目の矢玉が飛び込んで灰になった。相手はこちらに脱出
の隙を与えないつもりだ。

「このままだと持久戦ね」

 額に薄らと汗を浮かべたキュルケが呟く。
 魔法を使うたびに精神力を消耗するメイジは、基本的に持久戦を苦手
とする。精神力をチマチマと削られ、最後は気絶して戦えなくなるから
だ。強力な大砲も弾がなければただの筒。敵はそれを理解しており、先
に全ての精神力を使い切らせようとしているのである。剣や斧を構えた
連中もいるが、不用心に近づいてはこない。
 加えて、こちらには持久戦を嫌う理由がもう一つあった。

「ようよう、旦那。ぐずぐずしてっと、アルビオン行きのフネに間に合わねぇぜ」

 デルフリンガーが言った通り、時間をかけるとフネの出航時刻を過ぎて
しまうのだ。今夜中に出港するのは二隻の商船だけ。それを逃せば、天気
が回復するまで延々と足止めされる事になる。しかも、いつ好転するかは
誰にもわからない。仮に雨が数日続き、その間に王党派が全滅して目的の
品を紛失するような事になれば、何のためにここまで来たのかわからなく
なる。
 苛立ち紛れに、クロコダイルは拳を石柱に叩き付けた。

「……師匠。出港するフネは、あるんですね?」

 毅然とした顔でギーシュが声を発したのは、まさにその時だった。


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第二十四話


「ああ。それがどうした」

 機嫌の悪いクロコダイルは、余計な事を聞くつもりはない。
 くだらない用件なら殴り倒してやると思っていたのだが、続くギーシュ
の言葉は、予想に反して随分と勇敢な物だった。

「ぼくが囮になります。その間に、師匠達は裏から桟橋へ向かってください」
「囮、か。確かに、悪くない案だね」

 そう呟いたのは、クロコダイルではなくワルドである。
 クロコダイルも、口にこそ出さなかったが内心では賛成だった。敵の目
を正面に集中させ、疎かになった裏口から桟橋まで移動。フネが出港して
しまえば追撃の心配もない。
 が、ギーシュだけに任せられるかと言われると、正直不安である。

「てめェ一人じゃ足りんな」
「しかし、このままでは!」
「キュルケ、タバサ」

 なおも噛み付くギーシュを半ば無視する形で、クロコダイルは少女達に
声をかけた。二人が顔を向けると、クロコダイルは表を指差しながらさも
当然のように告げる。

「こいつと合わせて囮役だ。派手に暴れて敵を引きつけろ」
「……仕方ないわね」
「わかった」

 キュルケは肩をすくめながらも、タバサは素直に、それぞれが首を縦に
振った。元々部外者であるという引け目もあったのだろう。反論するだけ
無駄だという諦観も混じっているようだが。
 割り切りのよさに笑みを深めたクロコダイルは、今度はワルドの方へと
目を向けた。

「子爵、そういう手筈だ」
「わかりました」

 一つ頷くと、ワルドはルイズの肩をつかむ。

「ルイズ、姫様の手紙を」
「え、でも……」

 ハッとして胸元を押さえるルイズに、ワルドは優しく語りかけた。

「すまないが、貴族派のフネに、君の姿は目立ちすぎる。特に戦場の近くでは、ね」

 ワルドの言っている事は、ルイズにも理解できる。
 定期便が向かうのは既に貴族派が制圧した後の、言うなれば後方の港だ。
親類縁者を心配して送られた手紙や遣いの者、直接赴く気丈な貴族などは、
この定期便を利用してアルビオンに入国している。そこに紛れ込むという
最初の作戦ならば、それほど怪しまれはしない。
 ここで重要となるのは、この紛争はあくまでアルビオンでの国内紛争で
ある点だ。直接トリステインに砲火を向けていないため、アルビオン貴族
が敵なのだと感じにくいのである。極端な言い方になるが、貴族派に制圧
された部分は、“王党派の支配地域とは異なる、彼らが新しく興した国”と
認識されている。大陸には頻繁な戦争のおかげで、度々支配する国が入れ
替わる国境近辺の村や町があるが、定期便に乗る事はそこへ行くのと同じ
感覚なのである。
 ところが、これから乗船しようとするフネは、どちらも軍港へ向かう。
そこへ別の国の人間が紛れ込むのは、他国の軍事要塞へ乗り込むも同然の
行為だ。見咎められれば捕縛は確実、最悪殺される可能性もある。
 その辺りの事情を考え、ルイズは辛そうに頷いた。
 いや、頷きかけて、横合いからの声に顔を上げた。

「待て、子爵。ルイズは一緒に連れて行く」
「「なっ!?」」

 驚いたワルドとルイズは、揃ってクロコダイルに振り向いた。
 特にワルドの驚愕は大きい。先ほど二人で話をした時、子供は送り返す
方がいい、と言ったのはクロコダイル本人である。それを覆すような意見
を出すとは、一体何を企んでいるのか。ワルドの心に不安がよぎる。

「し、しかしミスタ。フネは二隻とも軍港に向かうのですよ」
「協力者、人質、親類……どうとでも誤摩化せるさ。我が主人の同伴がそんなに不安かね」

 冷酷な、爬虫類を思わせるクロコダイルの眼光。しばし睨むように目を
合わせていたワルドだったが、やがて小さく息を吐いた。腹の探り合いに
おいて、ワルドはまだクロコダイルには敵わない。いくら気を張っても、
内心を読み取る事はできまい。年期、あるいは経験の差であった。

「わかりました。ルイズは、僕が守ります」
「ワルド……」

 幼馴染みの心中を案じて、ルイズが不安げな声を出す。ワルドは彼女を
安心させるべく、多少無理矢理にだが微笑んだ。
 一方のクロコダイルは、懸念事項を一つ片付けた事でギーシュの方へと
向き直った。

「決まりだな。さて、ギーシュ・ド・グラモン」
「は、はいッ!」

 いきなりフルネームで呼ばれて、ギーシュは裏声になりながらも返事を
した。これまで小僧呼ばわりだった事を考えれば、その反応も仕方がない
かもしれない。額に汗を浮かべ、微かに肩を振るわせている。
 ギーシュの動揺など気にも留めないクロコダイルは、厳かな声で任務を
言い渡した。

「てめェにこの場所の指揮を任せる。子爵、桟橋まで何分だ」
「十分あれば、何とか」
「聞こえたな、ギーシュ。最低でも十分間、敵をここから動かすな。わかったか?」
「了解しました!」

 軍人のような敬礼を見せるギーシュ。お世辞にも完璧とは言えない形の
崩れたものであったが、それでも本人の気概は十分に伝わった。
 ただ一つ、心配事があったクロコダイルは、睨みつけながら釘を刺す。

「間違ってもフーケの時みてェに、正面から決闘ごっこなんて仕掛けるんじゃねェぞ。
 卑怯だろうが何だろうが、とにかく傭兵どもを釘付けにする事が最優先だ。
 もし下らねェヘマしやがったら、おれがてめェの息の根を止めるからな」
「り、了解、しました」

 頬を引きつらせながらのギーシュの答えを聞き、クロコダイルは満足げ
に頷いた。次いで、ルイズとワルドを顎で促す。

「おれ達は裏口へ回るぞ。敵に気づかれる前に、桟橋に行ってフネを出す」


「で、どうするつもり?」

 クロコダイル達の姿が視界から消えると、キュルケはギーシュに作戦の
如何を問いかけた。すぐ横では、壁役を交代したタバサが再び竜巻を作り
出している。
 ギーシュの父、グラモン元帥は著名人であり、ギーシュがその息子だと
いう事をキュルケは知っている。ただし、血筋が魔法や軍事の才とは必ず
しもイコールで結ばれない、という事もまた、彼女のよく知る所であった。
 実際ギーシュは軍事教練を受けた訳ではないし、まともな実戦の経験も
ない。ついこの間、【破壊神の槌】奪還の際も、真正面から敵のアジトに
挑むという大失態を演じていた。あの時はフーケに攻撃されなかったから
助かったものの、目前の傭兵達相手に同じ事を考えているとしたら笑い事
では済まない。
 ギーシュは口こそ達者だが、戦いに関しては全くのド素人——そう認識
しているキュルケは、難しい顔で悩むギーシュに殆ど期待していなかった。
今の問いかけも、クロコダイルに指揮を任されたのがギーシュであるから、
一応彼の顔を立ておこう、といった程度で発したものである。
 当のギーシュは、キュルケの声で決心がついたのか顔を上げた。

「もう少し持ち堪えてくれ。すぐに準備を整える」

 言うが早いか、ギーシュは素早く三体のワルキューレを作り上げ、玄関
ではなく厨房へと走らせた。どうするのだろうとキュルケが見ている間に、
ワルキューレ達がそれぞれ二つずつ、小振りな樽を脇に抱えて戻って来る。
合計六つ全てに、調理に使う油の印が押されていた。
 状況と照らし合わせて、キュルケはギーシュの立てた作戦を推測する。

「ひょっとして、この油を撒いて火をつけるつもり?」
「まあ、そういう事さ」

 あっさり頷くギーシュに、キュルケは苦笑した。確かに油を燃料として
着火すれば、少ない精神力で大きな炎を生み出すのも簡単だ。
 が、しかし。キュルケの頭は、利点と同時にこの作戦の致命的な欠点も
弾き出していた。

「いい作戦だと思うわよ。天気が雨でなければ、だけど」

 雨の勢いは依然衰えを見せない。整地された道に油を撒いても、あっと
いう間に押し流されるのが関の山だ。着火させる火の魔法も、あまり長い
距離を飛ばす事はできない。雨水をかぶって鎮火してしまうのである。
 キュルケに欠点を指摘されたギーシュの反応は——深く気落ちするかと
思いきや、にやりと口端をつり上げた。

「言っただろう。準備を整える、と」
「どういう事?」

 ギーシュはキュルケの疑問には答えず、床を二度、靴底で軽く小突く。
 途端に、石臼を挽くような耳障りな音が真下から響いた。何事かと身を
強張らせたキュルケの目の前で、床にクモの巣状のひび割れが入る。最後
にゴボン、と鈍い音を立てて、岩をはね除けたそいつが顔を出した。
 ギーシュの使い魔、ヴェルダンデであった。ジャイアントモールの爪は、
硬い岩盤すらも掘り抜くほど強靭なのだ。

「よく来てくれた、ヴェルダンデ。早速だが、君に大事な仕事を頼みたい」
——もぐもぐ

 「任せろ」と言うように、ヴェルダンデは鼻を鳴らした。


 裏戸の隙間から外を覗いていたワルドは、誰もいない事を確認して扉
を開いた。ルイズを中央に配置し、クロコダイルが殿を務める一団が、
雨の続く裏通りを駆け抜ける。

「急ぎましょう。ぐずぐずして、気づかれるとまずい」
「同感だ」

 クロコダイルとて、いつまでも囮が通用するとは思っていない。敵の
雇ったであろう傭兵連中が脱出に気づけば、追撃の手を差し向けて来る
筈だ。桟橋や船上で待ち伏せている可能性もある。

(勝負はフネの上、安全を確保するまでか)

 状況を分析しながら、クロコダイルはワルドとルイズの後を追う。
 宿での過剰ともいえる反応から、クロコダイルの疑念は既に確信へと
変わっていた。ワルドは間違いなく、ルイズが自分に同行する事を忌諱
している。敵と内通しているかどうかまではわからないが、何か含む物
があるのは確実。そしてそれを知られる事を恐れている。作戦の遂行に
差し障るからではなく、親愛の情によって。

(甘いな。しかし、それ故に効果的でもある)

 マザリーニがわざわざクロコダイルを選んだのも、おそらくこの情を
利用するためだろう。『ルイズの使い魔』をワルドに対面させておき、
その主が手の内にあると改めて示す事で裏切りを抑止する。ルイズ本人
が参加するのはさすがに予想外だったろうが、飼い犬を繋ぎ止める鎖と
してはこれ以上ないくらい役立っていた。この様子なら、回収を終えた
途端に敵に合流するような事にはなるまい。ワルドは、ルイズの信頼を
裏切る事なくトリステインに戻らなければならないのだから。

「せいぜい頑張ってくれよ、子爵殿」

 クロコダイルの呟きは、降りしきる雨の音に溶けて流れ去った。


   ...TO BE CONTINUED

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