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封仙娘娘異世界編 零の雷 第一章 その二

 二


ベッドから落ちる衝撃で、ルイズの意識は強引に覚醒させられた。
「朝だ」
傍らに立つのは使い魔・殷雷。
額と肩と腰が痛む。……私の寝相はこんなに悪かっただろうか。
いつになくはっきりとした意識。……私の寝起きはこんなに良かっただろうか。
「……あんたまさか、私を蹴落としたんじゃないでしょうね」
「まさか」
蹴落としたのではない。ただ転がしただけだ。
……最高にして、最悪の目覚めだった。

 *

部屋を出ると、キュルケと鉢合わせた。
「あら、おはようルイズ。インライもね」
ルイズは死ぬほど嫌そうな態度を隠そうともしなかった。
「……おはよう、キュルケ」
それでも一応挨拶するのは、貴族としての最低限の礼節だろうか。
キュルケは胸の前でぽん、と手を叩いた。
「そうそう。昨夜、約束してたわよね。使い魔を見せるって」
「……別に見たかないわよ」
「見せろって言ったのはあなたじゃないの」
――キュルケの背後から、のっそりと何かが這い出てきた。
それは虎ほどの大きさのある、巨大なトカゲだった。
炎のように赤い皮膚を持ち、全身から熱気を放っている。尻尾に至っては『ように』どころか本当に燃えていた。
「火竜山脈のサラマンダー、フレイムよ。私の二つ名、『微熱』にぴったりだと思わない?
 ここまで立派な炎の尻尾はそうそう無いのよ?」
「そりゃー良かったわね……」
「ほぉ、使い魔というのも色々だな」
殷雷が感心した声を上げる。
「ま、普通は動物か幻獣よね」
――それで私を皮肉ったつもりか。
ルイズとしてはさっさと話を切り上げたかったのだが。
「でも、あなたの使い魔もなかなかのものじゃない?」
この言葉にはカチンと来た。
「どういう意味よ!」
キュルケは事も無げに言った。
「だって、インテリジェンスソードなんでしょ? しかも、人の姿を取る。
 すごいじゃない」
……それは確かにその通りだし、実際誇っても良いはずなのだが、ルイズは何故か馬鹿にされているように感じた。
「やっぱ『ゼロのルイズ』って言うだけあって、他人とは色々違うのねぇ」
やっぱり馬鹿にされている。
「むぐ――――!」
ルイズは何かを言おうとしたようだが、その前に殷雷の手がその口を塞いだ。
朝っぱらから喧嘩見物するような趣味は無い。
「では、お先に失礼」
キュルケはくすりと微笑むと、颯爽と去っていった。フレイムもその後に続く。

「――――ぶは!」
キュルケの姿が見えなくなった頃、ルイズはやっと解放された。
「何よ何よあの態度! 腹立つわ悔しいわでもう、KYLUAAAAAAAAA!!」
……最後の方は言葉にすらなっていなかった。
彼女の怒りの矛先は殷雷よりもキュルケの方に向けられている。
「何であいつがサラマンダーで、私にはあんたなのよ!!」
まぁ、結局は殷雷の方を向くのだが。
「……トカゲに比べてそうそう劣っているつもりはないのだがな」
実際、キュルケの言葉の半分は本心から出たものだろう。根拠はないが。
しかしルイズは納得しない。
「じゃああんた、火吐けるの?」
「吐けないが」
「空飛べるの?」
「飛べないが」
「魔法は使える?」
「使えないが」
「――やっぱり駄目じゃない!!」
剣には剣の、盾には盾の役割がある。
つまりは適材適所と言うことなのだが、今のルイズにそんな正論は届かないようだ。
埒があかないので無理矢理話題を変えることにした。
「――そういえば、『ゼロのルイズ』と言うのは何だ? 昨日も言っていたが」
ピクリ、と急にルイズから表情が消えた。
「姓ではないようだが……意味がよく分からん」
「別に。ただのあだ名よ」
「キュルケの『微熱』のようなものか。で、『ゼロ』とは――」
「うっさいわね! 朝食抜くわよ!!」

……どうやらいらんことを聞いたらしい。
まったく、この世界に来てからというもの、絶不調にも程がある。


 三


結局、殷雷は朝食にありつけなかった。異世界の食事というものに興味はあったが、仕方ない。
ついでに、飯抜きなのはルイズも同じだった。言い争っている内に(一方的にルイズが殷雷を罵っていただけだが)
食べる時間が無くなってしまったのだ。
ルイズは空きっ腹のまま午前の授業を受ける羽目になってしまった。自業自得ではあるが。
一方、宝貝である殷雷はそもそも食事を必要としない。彼が物を食べるのは、基本的にただの道楽である。

 *

トリステイン魔法学院の教室は広い。
生徒だけでなく、時にはその使い魔も収容しなければならないのだから当然ではある。
だがそれでも、全ての使い魔が中に入れるわけではない。
窓の外からこちらをのぞき込んでいる巨大な白トカゲ――にしては翼が生えているが――なども、
誰かの使い魔なのだろう。
『しかし、壮観だな……』
大トカゲ。カラス。猫。蛇。フクロウ。蛸人魚。目玉。人面虎。
殷雷の知っている動物もいれば、知らない物も居る。
ただ、宝貝はないようだった。ついでに人間も。
やはり、殷雷だけが特別なのだろうか……?
現在、殷雷は刀の姿で椅子の下に転がっている。その上に座るのはもちろんルイズ。
熱心に授業に耳を傾け、殷雷刀のことなど眼中にはない様子だ。
『ま、勉強熱心なのは良いことだ』

この世界の『魔法』が彼の知る『仙術』とは何処か異なる、というのは既に明らかだ。
では、具体的に何が、どう異なるのか。……理解できるかはともかく、興味はある。
教壇に立つ中年の女性教師――ミセス・シュヴルーズが述べたことは、全て黒板に書き記されている。
が、殷雷にはその字が読めなかった。……聞いて覚えるしかあるまい。

曰く。魔法の四大系統は『火』、『水』、『土』、『風』。
もう一つ『虚無』という系統があったが、現在は失われている。
その中で最も重要なのが『土』。万物の組成を司り、農業、工業などとも密接に関わっている。
『土』無くして現在の我々の生活はあり得ない――云々。

この教師の二つ名は『赤土』。つまりは『土』系統のメイジ(魔法使い)である。
少なからず身内贔屓が入っていることは間違いなかろうが、それでも興味深い話ではあった。

 *

「今から皆さんには『土』系統の魔法の基本である、『錬金』の魔法を覚えてもらいます。
 一年生の時に出来るようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度おさらいしましょう」
シュヴルーズは石ころを教卓に乗せ、手に持った小振りな杖をそちらに向けた。
短い呪文を唱えると、石ころが光り出した。
ほどなくして光が収まると、そこにあったものはピカピカと輝く金属へと変化していた。
そこかしこからおお、と感嘆の声が漏れる。
「ゴールドかと思った方は、残念でした。これはただの真鍮です」
なんだ。落胆の声と、それを笑う声。
「私は『トライアングル』なので無理ですが、『スクウェア』クラスのメイジともなれば、
 実際にゴールドを錬金することも可能でしょう」
トライアングル。スクウェア。殷雷の知らない単語だった。
ゴールド……は、おそらく金の事だろう。雰囲気から察するに。
「さて、では実際にやってもらいましょう。――では、ミス・ヴァリエール」
中年の教師はルイズを指名した。その瞬間、教室中がざわめく。
「せ、先生。やめておいた方が良いと思います。危険です」
慌ててそう言ったのはキュルケだった。
他の生徒達もそれに続く。
「自殺行為です!」
「後悔しますよ! 今まさに訪れるのは大後悔時代ですよ!?」
「ゼロのルイズが何で『ゼロ』なのか――!」
「お静かに!」
シュヴルーズはぴしゃりと言った。
「……先生は、ルイズを教えるのは初めてでしたよね」
「ええ。ですがミス・ヴァリエールの事は既に聞いています。稀な努力家である、ともね。
 失敗を恐れていては何も出来ません。いいえ、それどころか今は失敗しても良いのです。
 それを教訓とし、成長してゆけばよいのですから」
まさに教師の鑑であった。
――だが、分かってない。そんな綺麗事で済まされる次元ではないのだ。この『ゼロのルイズ』は。

「――やります」
ルイズは凛と立ち上がった。
シュヴルーズは優しく微笑んだ。
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く、心に思い浮かべるのです」
ルイズはこくりと頷く。その瞳はまさに真剣そのものだった。

大丈夫。大丈夫だ。召喚の儀には成功したではないか。
まぁ、納得いかない部分も多々あるが……成功は成功だ。今度もきっとうまくいく。
で、何を錬金したものか。……先ほどのミセス・シュヴルーズと同じく、真鍮にしよう。
金属と言えば、殷雷刀はどんな素材で出来てるんだっけ? ああ、確か真鋼とかなんとか言ってたかも。
真の鋼……それは一体如何なる金属なのだろう。
…………どうでもいいけどお腹空いたな。やはり朝ご飯抜きは堪える。殷雷のせいだ。
いや、待て。待てよ? そうだ。違う。抜いたのは朝食だけではない。
考えてみれば昨日の夕食も食べていなかった。――これも殷雷のせいではないか!
ということは、ほぼ丸一日何も食べてないという事になる。
ええい、どこまで主人を苦しめれば気が済むのだ、あの使い魔は!!
…………おっといけない錬金錬金。ええと、あー……真鍮でいいか。

この間、わずか二秒。

ルイズは目を閉じ、呪文を唱え、杖を振り下ろす。

――石ころは教卓もろとも爆発し、木っ端微塵と消えた。

 *

爆風でルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられ、驚いた使い魔達は大混乱の大暴走。
「目が! 目がぁぁ!!」
「俺のラッキーは!? ラッキーを食ったのはどいつだ!?」
「お母ちゃーん!」
「ああもう何でヴァリエールは退学にならないのよー!!」

……地獄絵図である。
殷雷はいつの間にか人の姿に変わり、机の上に退避していた。
いつまでも足元に転がっていたのでは何をされるか分かったものではない。
「……大した破壊力じゃねえか。これが攻撃術の授業なら百点満点だ」
無論、これはあくまで『錬金』の授業なので零点なのだが。
真っ黒になったルイズはむくりと立ち上がり、煤を払った。服はボロボロで、下着が露出している。
……ミセス・シュヴルーズはピクリとも動かないが、流石に死んではいないだろう。
未だ恐慌の治まらぬ教室内。
ルイズはゴホン、と咳払い。そして決めの一言。

「やっちゃったZE☆」

「やっちゃったぜじゃねえよ!」
「何ちょっとかっこよく言ってんのよ!」
「お前いつもこうじゃねえか! 成功率ゼロじゃねえか!」
「だからゼロのルイズにやらせるのは嫌だったんだぁ!!」

殷雷はやっと理解した。ルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれる訳を。
――そして、『ゼロ』という言葉は『零』を意味している、と言うことも。

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