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『虚無と金剛石~ゼロとダイアモンド~』-2


その弐.取引

 サイレンスで周囲への盗聴対策を施した学院長室で、魔法学院の学院長たるオスマンと、学院の教師陣の中でも、知識欲と実戦経験を併せ持つ稀有な人材であるコルベールが、密談を交わしている。

「それにしても、まさか遠く異国の王族を召喚してしまうとは、な……」

「幸い、アラビク殿下の態度は極めて友好的です。むしろ、厄介事を押しつけて済まないねと、下手に出てくださってるくらいでして」

「うむ。それは大いに助かるが……何でも、不思議な魔法を使えるとか?」

「はい。先住魔法とも異なるようなのですが……」

 *  *  *

 あの召喚のあと。
 全身に負った傷から、保健室に担ぎ込まれたアラビク王子だったが、モンモランシーの秘薬による応急処置のおかげか、すでに意識はハッキリしている。
 とりあえず防具を脱がし、彼に治療を施そうとするメイジたちを、彼は手で制した。

「すまない。ニルダ神のおかげで、おおよその事情は理解しているが、少し離れてもらえないだろうか?」

 アラビクは王子ではあるが、ありがちな宮廷育ちのボンボンではない。
 10歳のときに叛乱によって王宮を追われて辺境に落ち延び、15歳の時からは己が剣一本を頼りに、姉とともに、異形の怪物たちが蠢く数多のダンジョンを駆け抜けてきた百戦錬磨の強者なのだ。
 戦場に立てば、たとえ瀕死の重傷であろうと命尽きるまで戦うことができるし、またそれができない者は命を落とす……そういう修羅場をくぐり抜けてきた男だ。
 いまくらいの手傷など何度となく負ったことはあるし、別に死ぬほどのこともない。

「し、しかし……」

 もっとも、平和に慣れたこの学び舎の教師や生徒たちにとっては、この程度の傷でも瀕死の重傷に思えるのだろうな……と、アラビクは苦笑した。

 ――学院の人々の名誉のために言っておくと、アラビクは負ったダメージは、常人なら10回死んでもお釣りがくるくらいの代物である。
ただ、すでにマスターレベルを凌駕して久しい彼の体力にとっては致命傷とは言い難いし、周囲にいた仲間も同様の化け物ばかり
―いちばん体力的には劣るであろうメイジのマルグダでさえ、これくらいでは死にはすまい―
なので、そのあたりの認識が一般人とはズレているのだ。

 コッズシールドの治癒能力が残っていれば楽だったのだが、生憎ダイヤを抜かれたことで、その特殊能力は失われているようだ。

(しかたない、手っ取り早く治すか……)

「――ミームアレフ・ダールイ、ミームアレフ・ダールイ……MADI(快癒)!」

 王子が呪文を詠唱するとともに、柔らかな白い光が彼の全身を包んだ。

「! こ、これは……」

「先住魔法!?」

 周囲の人々の驚きをよそに、すぐに光は収まる。
 次の瞬間、傷ひとつない状態のアラビクがそこに立っているのを見て、保健室はたちまちパニックに包まれた。

「ば、バカな! あれほどの重傷が一瞬で!?」

「しかも杖も持たずに……やはり先住魔法か?」

 これほど鮮やかな癒しの魔法は、水のスクウェアクラスでも使いこなせる人間は稀だろう。ふつうなら、水の系統の使い手が複数で呪文を重ねがけして半日かかっても完治させられるかどうかだ。
 しかも、その風体や精霊神のビジョンでの戦いぶりから、アラビクはおそらく剣士なのだろうと、皆思っていたのだ。

 もっとも、彼らの考えもあながち間違ってはいない。
 確かに、アラビクは前衛に立って剣などの武器を振るうのがその戦闘スタイルだ。
 ただし、ハースニールを手に入れてのち、思うところがあって戦士(ファイター)から君主(ロード)に転職していた。

 ロードとは、ファイターと同等の武装を保ちつつ、僧侶系呪文を習得できる前衛の上級職だ。ファイターに比べて成長が遅いというデメリットはあるものの、守りの要とも言える僧侶呪文を使えるメリットはそれを遥かに上回る。
 通常、転職した者はレベルは1に戻るのがふつうだが、彼の場合、冒険の途上で手に入れた"力のコイン"を使っての転職のため、それまでのレベルを維持できたのも幸いだった。
(もっとも、そのツケでしばらくはまったくレベルアップしなかったのだが……)

 一方、アラビクの方は、周囲の騒ぎように、どうにも居心地の悪い想いをしていた。
 ここが魔法を学ぶ学校であるという予備知識はあったものの、遅まきながら、その”魔法”が、彼の知るそれとは大幅に異なるものらしいということに気づいたのだ。
 ……まぁ、彼にここがリルガミンだったとしても、"マディが使えるほど高位のロード"なんて希有な存在を見れば、誰しも驚いたろうが……。

「みなさん、王子の御前ですぞ。静まりなさい!」

 騒ぎになりかけたところを、先程の召喚儀式の場にいた教師が一喝して静めてくれた。
 たしか"炎蛇のコルベール"と名乗っていたようだが……。
 コルベールの叱咤に、群がる生徒たちも渋々口をつぐまざるを得ない。

「コホン……それでは、アラビク王子、お疲れのところ恐縮ですが、こちらでしばしお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わない。私としても、こちらの情報はできるだけ早く知っておきたいし、いくつか質問をさせてもらうが、いいかな?」

「もちろんですとも」

 ……と言うわけで、アラビクとコルベールの対談が始まった。

 まずは、コルベールが可能な限り要領よく、ハルケギニア及びトリステインについて説明していく。
 ここでは貴族=メイジであり、平民は通常魔法を使えない、と知って、アラビクは大いに驚いたようだった。

 逆に、アラビクの語るリルガミンを中心とした世界の話は、聞き手のコルベールや周囲の聴衆たちを困惑させた。

「こちらでは魔法至上主義みたいだが、私のいた国では少し違う。
 ……いや、何千年も昔、古代魔法文明が栄えていたころは、確かにそれこそ魔法が使えない人間は馬の骨扱いされていたみたいだけどね。
 私の生国リルガミンとその周辺は、大まかに言うなら、"剣と魔法"の世界と呼べばいいだろうか。
確かに僧侶(プリースト)や魔術師(メイジ)といった、魔法を使える人材は尊敬されるし、貴族や王族といった上流階級には魔法の使い手が多いのも事実だ。
 しかし、逆にふつうの庶民であっても素質と環境さえ整えば、そういった魔法を扱う職業に就くことは可能だし、逆に王族であっても、魔法を使えない、使わない者はたくさんいる。
 で、魔法と並ぶもうひとつの柱が、剣に代表される武器類を使いこなす戦士……というわけだ」

「こちらでも、剣を扱う者はいますが、ゴロツキや傭兵、衛兵の類いを除けば、ほとんどはメイジの詠唱時間稼ぐための盾となる護衛、というのが一般的な認識ですね」

 コルベールの合いの手に、アラビクも頷く。

「確かに、我々の国でも、魔術師と戦士が組んで戦うなら、そういうシフトを取ることも珍しくない。
だが、逆に魔法を使える後衛の援護をうけつつ、前衛が斬り込む、という戦い方も同じくらいオーソドックスだな」

 周囲の聴衆からは、いくら援護を受けたって剣士がメイジに敵うのか? という囁きが聞こえる。

「はっきり言って、これは間合いの問題だ。20歩以上離れた位置で対峙しているなら、確かにメイジのほうが有利かもしれないが、たとえばこのくらいの部屋の中なら、ファイターのほうが圧倒的に有利だ。
 こちらでもメイジが魔法を使うには、ある程度の詠唱が必要なのだろう?」

「ええ、そうですね」

 コルベールが首肯する。

「だからこそメイジは、適切な魔法をいかに素早く唱えられるかが求められるのですよ」

「そうだろうな。そのへんは、リルガミンでも変わりはない。ただ、もうひとつ付け加えると、防御力と体力の問題がある」

「ほぅ、それは、どういうことですかな?」

 アラビクの言いたいことを薄々察しながらも、コルベールが促す。

「こちらではどうか知らないが、我々のメイジは筋力的にあまり鍛えられていない者が大半でね。あまり重い鎧兜の類いは身につけられないんだ。
体力や生命力もそれほど高くはないから、熟練した剣士が2、3回切りつければ大概絶命する。
それに対して、ファイターを始めとする前衛職は、筋力はもちろん、体力と頑丈さもウリなんだ。それなりに使える戦士なら、ドラゴンのファイヤーブレスを1、2回受けてもケロッとした顔で立ってるのが常識だからね」

 物騒な、そして信じがたい話を耳にして、聴衆がざわめく。それを手で制して、コルベールが別の話題を振ってみた。 

「ところで、先程から”前衛”、”後衛”という言葉が出て来ましたが……」

「ああ、すまない。冒険者稼業が長かったんで、ついその呼び名を使ってしまうんだ。
我々の世界における冒険者――これは戦闘要員とほぼ同義だと思ってほしい――の就く職業(クラス)として、8つのクラスが認められている。
基本職である、戦士(ファイター)、魔術師(メイジ)、僧侶(プリースト)、盗賊(シーフ)……」

「盗賊、ですか?」

 昨今巷を賑わせている”土くれのフーケ”のことを思い浮かべて、コルベールは顔をしかめる。

「シーフといっても、泥棒や物取りの類いばかりではないよ。中にはそういうタチの悪い連中もいるが、優秀な盗賊というのは、どちらかと言うと偵察兵(スカウト)に近いかな。
周囲に罠や仕掛けがないか探り、解除し、宝箱や扉の鍵を開け、状況によっては前衛で敵を撹乱したり、後列からマジックアイテムで援護したりする。
手先の器用さと身軽さ、悪運の強さと冷静さが必要とされる、りっぱな専門職さ」

 アラビクは、かつて冒険行をともにした口の悪いホビットの盗賊のことを思い出す。
 正直ウマが合うとは言いがたかったが、それでも彼の機転や盗賊としての腕前には何度も助けられたし、意外と義理堅い性格であることも知っている。

「ファイターとメイジは、こちらとほぼと同様だ。プリーストと言うのは、防御や回復の魔法に秀でたメイジだと思ってもらえばいい。
そして、これら基本職を複合した上級職が4つ、君主(ロード)、侍(サムライ)、忍者(ニンジャ)、司教(ビショップ)だ」

 その後、コルベールが次の受け持ち授業に赴くまでのおよそ小一時間ほど、対談は続けられたのだった。

 *  *  *

「……といった次第でして」

「ふーむ、剣の腕は一流。さらには回復と防御の魔法も使いこなす達人か……いやはや」

 厄介なことになったのぅ、と言いながらも、オールド・オスマンの顔はどことなく楽しそうだ。

「のう、王子の年のころはいくつぐらいじゃった?」

「は、確か今年二十歳と聞きましたが……」

「ふむ……これは、ちょっとした思いつきなのじゃが、アラビク王子に、この学院での講師を頼めないものかの?」

「はぁ!?」

 歳に似合わぬ悪戯っ子のような顔で笑うオスマンの目を思わず見返しながら、コルベールは、胃が痛くなるのを感じていた。
 ”ちょっとした思いつき”とは言うが、老獪なオスマンのことだから、何か企みがあるに違いない。となれば、先程のことはほとんど確定事項と言ってよい。
 それはいい。若さに似合わぬ経験と知識を持ったアラビク王子が教壇に立ってくれれば、学院の生徒にも何がしかいい刺激になるだろう。

 しかし、問題は、いまのところ彼、コルベールが王子との折衝役、スポークスマンのような真似をさせられていることだ。
 遠い異国のとは言え、相手は紛れもなく王族。しかも、一刀で悪魔を真っ二つにできるような手練れなのだ。
 話してみた感じでは、気さくで気どらない性格のようだが、それでももし機嫌を損ねたら、どのようなことになるか……。

 (でも、私が交渉するしかないのでしょうねぇ……やれやれ)

 コルベールは、残り少ない頭髪がまた数本抜けていったような気がした。

 *  *  *

 そして同時刻。この話のもう片方の主役たるルイズは?

「――ふん、ふん、ふーんだ! どうせ私なんか……」

 使い魔召喚儀式の途中で放置されたまま、誰も構ってくれないため、すっかりスネて、自室の隅っこで体育座りをしていた。

 がんばれ、ルイズちゃん、明日はきっといいコトあるさ!

「本当でしょうね?」

 ……たぶん……おそらく……もしかしたら。

「ちょっと、待ちなさいよ! またそんな引きなの!?」


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