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ゼロの大魔道士-7


「ほいよっ、こっちのカゴは終わったぜ」

皮を剥き終わった果物や野菜が入ったカゴを隣のおっちゃんに渡しつつ、ポップは次のカゴへと取り掛かる。
しゅるるっ、と慣れた様子で皮を剥くその手つきは本職には及ばないものの、明らかに素人の域を脱している。
その様子を見たマルトーは驚きの目を向けながらも思わぬ戦力に喜び、声をかけた。

「おお、早いなにーちゃん!」
「いやー、これでも料理には手馴れてるもんで」

あははと照れ笑いを浮かべながらもポップの手は止まらない。
元々、師であるアバンと二人旅をしていた頃からポップは料理には慣れていた。
アバンの料理の腕前はプロ級で、彼に任せていれば日々の食には全く困らなかったのだが、それでは弟子の面子にかかわる。
そうアバンに申し出たポップは彼から魔法を教わる傍らで料理の授業も受けていたのである。
その後も、ダイやマァムなど料理の出来ない面子とパーティーを組んでいたため彼の料理の腕は上がりこそすれ下がることはなかった。

(しっかし異世界に来て最初にやった仕事が皮むきか…ま、おれらしいといえばおれらしいけど)

苦笑いを浮かべつつポップは自嘲する。
既に現在いる世界が自分が元いた世界とは全く違う世界であるということは疑いの余地がなかった。
――昨夜見た夜空には月が二つあったのだから。

(さて、これからどうしたもんか…)

昨日の使い魔の儀式を契約を断ち切った上で逃走という前代未聞の事件を引き起こしたポップ。
オスマンとコルベールには遠方に身を隠したと思われていた彼だが、実は学院内に潜伏していた。
まあ、潜伏とはいっても食堂の厨房で下働きをしているだけなのだが。

「しかし運がよかったな」
「え、何がですか?」
「いやあ、最初におれを見つけたのがシエスタだったってことがさ」
「ふふふっ、確かにそうですね」

くすくすと目の前で笑うメイド服の少女――シエスタにニカッと笑いかけながらポップは昨日のこと思い出していた。
使い魔の儀式の後、ルイズ達をこっそりとつけていたポップは無事にトリステイン魔法学院へと潜入を果たした。
だが、見つからないようにと気を使いすぎた結果、ルイズ達を見失ってしまったのである。
そうなってしまうと、生徒ではないポップは服装も相まって非常に目立つ。
ポップの着ている旅人の服+マントはそれほど異常な格好というわけではなかったのだが、人目のあるところにずっといるのは危険。
そして今自分が迷い込んだ場所は洗濯場らしき区域。
そう判断したポップは素早く頭を働かせ、一つの案を導き出した。

――制服を拝借しよう。

ポップの世界にも一応学校という施設は存在する。
田舎育ちのポップは通ってはいなかったものの、世界中を旅してきた以上、どんな施設なのかは知っていた。
である以上、制服を着込めば怪しまれることはないだろうと結論を下したのである。
しかし、多少の罪悪感と共にいざ拝借という段で彼は致命的なミスを犯した。

『あの、何をしていらっしゃるんですか?』

なんと、盗みを働こうとした場面を一人の少女に見られてしまったのだ。
すぐさま、こりゃまずいとばかりに逃走を開始しようとしたポップ。
だが、その足はすぐに止まった。
何故なら、少女は誰かを呼ぶ気配も、自分を責める気配も見せなかったからだ。



数分後。
ポップは少女に案内されて食堂に向かっていた。
シエスタと名乗った少女は根が素直なのか、あっさりとポップの説明
『自分は旅人でたまたまこの学院に迷い込んだ』を信じ、
更に、彼女は親切にも宿がないというポップに一宿の宿を提供するべく食堂へと案内を引き受けたのである。
そして時は現在に戻り、ポップは一宿一晩の恩を返すべく下働きを行っていた。

(しかしこの世界の人は皆こんなに親切なのか?)

見ず知らずの怪しい男を恐れもせず、職場に案内したシエスタ。
いきなり連れてこられたひ弱そうな少年を疑いもせず料理と寝床を提供した食堂の料理長マルトー。
元の世界でも親友のダイを筆頭として数々のお人よしを見てきたポップだったが、それでも彼らのような善人はそうはいない。
それに、僅かな時間話をしただけのルイズやコルベールも悪い人間には見えなかった。

(まー、そう判断するのは早計か。しかし運がよかったなホント)

自分を見つけたのがシエスタでなかったら、今頃どうなっていたかなど想像もしたくはない。
例え異世界といえどもおたずね者になどなりたくはないのだから。

(…話を聞いた限りでは、文化レベルは同じくらい。基本的なルールもほぼ同じか。
 助かったといえば助かったけど、都合がよすぎて逆にハメられてる気がするな…ていうか言葉は通じるのになんで文字は違うんだ…?)

シエスタやマルトーに話を聞いた結果、ポップはそれなりにこの世界の情報を吸収していた。
魔法やモンスターの類が存在するという類似性は勿論、国の形態や人々の生活様式など似た部分は多い。
それはむしろ良いことなのだが、あまりの都合のよさが不気味といえば不気味だった。

(貴族と平民ねぇ…)

その中でポップが気になったのは貴族、つまり魔法使いとそれ以外の人々との身分格差だった。
魔法使い――こちらではメイジと呼ばれている、と平民との絶対的ともいえる身分差。
ポップの世界にも貴族や王族は存在しているし、実際に話をしたこともある。
だが、魔法が使えるから貴族でそうでないから平民というのはありえない。
その理屈が通用するならば自分の師マトリフは世界の貴族ということになるし、自分も貴族ということになる。

(師匠やおれが貴族…?)

冠を頭にのせて金銀財宝と美女たちに囲まれている自分やマトリフを想像する。
…激しく似合わない上にアホにしか見えない。

「クスクス…」
「ん? どうかしたのか?」
「あ、ごめんなさい。ポップさんがころころ表情を変えるものだから、つい…」
「うわっ、そりゃ恥ずかしいな…」
「ふふっ、それじゃあお仕事頑張ってくださいね」

考え込んでいたせいか一人百面相をしていたらしい。
指摘されたポップは去り行くシエスタを見送りながら照れくささを隠すために髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。

(まあ、もう少し色んな人から情報を集めたいところだな。できれば貴族からがいいんだが…)

話を聞く限りでは貴族とは総じてロクなもんではないようだった。
マルトーの偏見と、シエスタの平民観点が少々混じってはいるものの、貴族が平民を相手にもしないのは間違いないらしい。
となると、実際のところはともかく見た目的に平民である自分が貴族に話を聞ける可能性は低い。
昨日話したコルベールあたりならば話は別だろうが、今彼に見つかるのはまずかった。

「さて、どう…」
「おっ、もう全部終わったのか!? ちょうどいい、悪いがこれを運んでもらえないか?」
「へ?」

これからのことを考えようとした瞬間、目の前に突き出されたトレイにポップは目を白黒させる。
気がつけば皮むきは担当分全て終わっており、手が空いてしまっていたのだ。

「手は空いたんだろ? これをあっちのテーブルに運ぶだけでいいから」

ぽんぽんと肩を叩いてくるマルトーにポップは苦笑しながらも了承の意を示した。
出会って一日もたっていない自分にここまで気安く声をかけてくれるマルトーの存在はありがたかったし
何よりも彼はどことなく性格が父のジャンクに似ている。
親近感を覚える相手の頼みごとを断る理由は無かった。
ただ、食堂に出るとなると顔を覚えている者がいるかもしれない。
ポップは念のためにとバンダナを引き上げて髪をオールバック気味にし、簡易の変装を施して厨房を後にした。

――このすぐ後に起きるちょっとした事件に首を突っ込むことになるなど知る由もなく。


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