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ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-08


――夢

とおく、ふるく、なつかしい、セピアの絵
誰かが、うたう、陽気で、優しい、唄
綺羅綺羅輝く、胸を締め付ける、想い

でも、それを己(オレ)は知らない
何も覚えていない
だけど、己(オレ)は識っているのだ

走る雑音(ノイズ)
走る画像(イメージ)
走る雑音(ノイズ)
走る音声(ボイス)

交差した色々の光景と声と唄


嗚呼、哀しい
嗚呼、切ない
嗚呼、辛い

己(オレ)は、何も、思い出せない





「ん………」
翡翠の瞳が開かれた。
側の窓からは木漏れ日が落ちている。
夢を見ていた気がする。しかし、それも泡沫、今はもう思い出せない。
酷く懐かしいものだった気がするのだが、今はもう思い出せない。
鳥の鳴き声がする。どうやら、朝か昼のようだ。
ふと視線を下ろす。
「すぅ……すぅ………」
「くぅ……くぅ………」
ルイズとシエスタが二人並んで上半身を布団の上に突っ伏して眠っていた。
起こしては悪いだろう、彼女たちを起こさぬようにゆっくりと起き上がり、ベッドから出る。
「てけり・り!」
「ああ、おはようランドルフ」
「てけり・り!!」
触手が嬉しそうに蠕動する。
実に不気味で愛らしい姿である。
ぽよんぽよんと跳ねながらこちらにやってくる。
「で、我はどれくらい寝ていた?」
「てけり・り」
「そうか、1日か」
ギーシュと闘ったあと、勝利したところまでは覚えていたのだがその後の記憶が曖昧であった。
ふと、傷の痛みが全て引いていたことに気づき、身体を見渡せばまったく無傷の体、
包帯すらまかれていない。
おかしい、確か自分はかなりボロボロになっていたはずだ。なのに、かすり傷すらない?
「てけり・り」
疑問に思う九朔の目の前にシャツを持ったランドルフの触手が現れる。
「ああ、服か」
よくよく見れば自分は上半身裸だ、ランドルフからシャツを受け取り素早く羽織る。
下のズボンは流石にそのままだったようで、出歩くのには困らない出で立ちになる。
上着と外套もあったのだが、今はどうやらここにはないみたいだ。
「なあ汝。我が気絶してからのこと、分かるか?」
「てけり・り」
もちろんと触手を上下させるランドルフ。
「そうか。では、外で話すとしよう」
ベッドに突っ伏す娘二人を指差して九朔が笑う。
部屋を出る一人と一不定形。
無論、自分を看病してくれた二人に感謝し、掛け布団をかけておくことは忘れない。
外は変わらず晴天、アーカムシティでは見られぬ大きく広がった空が窓から見える。
「では、よろしく頼む」
「てけり・り」
大体のことをランドルフは手振り身振り触手振りを交えて説明した。
気絶したあとルイズの部屋に運ばれ、治療を受けた自分。
しかし、見ればほとんどの傷が塞がり、しかもあんなに蹴り飛ばされ殴られていたのに青痣も
微かに残るだけ。
というわけで、安静にさせるだけにしたのだが傷がないと知って安心した二人は気が抜けた
のかそのままぐっすり眠ってしまったとかなんとか。
「やはり………あの時か?」
思い出す、あの時、ギーシュと闘ったときに感じた力。突然全身に漲り、爆発したあの力。
それはとても懐かしい感覚、自分の体に恐ろしいほど馴染んでいた。
やはり失った記憶にあの力は関係しているのだろうか。
だとすれば、果たして自分の中にはどれだけの力が眠っているというのか。
「……だが、問題はそれだけではない」
そう、ウィンフィールドのことだ。
あの時に思い出したのだが、未だに彼を全部思い出したわけでもなかった。
彼は自分の拳の師であり、育ての親の一人のようなものだった。
しかし、それ以上詳しいところは思い出せない。
もっと重要なところがあったはずなのだが、ところどころ虫に食われたように霞がかって、
そこの部分だけでてこない。実に気持ち悪い感覚だ。
あと他に思い出したことがあるとすれば、自分の世界で使われていた単語である
『字祷子(アザトース)』くらいか。確か情報の最小単位であったような気がする。
「てけり・り」
「ん?」
考え事をしたため気づかなかったが、どうやら考えている間に足が動き、いつのまにか外へ
出ていたようだ。
見れば、貴族の少年と少女達がこちらを見てひそひそと話している。何の噂話か気になる
ところだが、話しかけてもどうせ教えてはくれまい。
自分は彼等からしたら平民、そんな下賎の者と話す考えなど持つはずもない。
気にせずそのままぶらぶら歩く事にする。
「……ふぅ」
が、やはりどうにも思考はまとまらない。
「ヴェストリの広場だったか……行ってみるか」
下手に何か考えているより体を動かしている方が気が紛れて良いと考え、向かう事にする。
「体を動かす手としては悪くないしな」
「てけり・り!」
一路、ヴェストリの広場へ向かう九朔とランドルフであった。


そんな九朔達を見ている者がいた。
「………」
タバサである。
昨日のギーシュと闘い勝利した九朔、それを遠目で観戦していた彼女。
杖も使わず、しかも偏在とも思える分身術を使った彼にタバサは常ならざる興味を持った。
彼女自身、風の使い手としての技術力にはそれ相応に見合った自信がある。
それは傲慢でも驕りでもない、彼女が北花壇騎士であるという事実に基づいた客観的な
理由からである。
しかし、そんな自分をもってしても彼――ルイズの使い魔は驚異だった。
彼は魔法を使うことなく、しかも杖なしで遍在に匹敵する分身を生み出したのだ。
周りの人間は彼が杖を隠し持ったメイジであり、風の使い手、しかもスクエアクラスの
一流と話し合っていた。
しかしタバサは断言できる、それは否だと。
死線を越えたことのある彼女だからこそ理解できる。
あの時の動作、そしてその動き、どう見ても杖を使った形跡はなく魔法の行使をできる
状況にもない。
外套を羽織るだけで杖も無しに魔法の行使は不可能、できるとすればそれは先住魔法のみだ。
しかし彼はエルフでも亜人でもない、それらに見られる身体的特徴は皆無。
ではそんなメイジでもない亜人でもない彼がどうやってあんな事をやってのけたというのか?
その理由を心の底から知りたいとタバサは思った。
騎士(シュヴァリエ)としての自分、メイジとしての自分が揺り動かされていた。
彼女にしては珍しい純粋に個人的な興味だった。
「…………」
辺りを見回す。
キュルケはどうやら彼氏達の一人と話し込んでいるようだし、彼女以外に友人と呼べる
ような人間はいない。
つまり、邪魔をされるような状況は起き得ない。
聞くならば今しかないだろう。
見れば彼はヴェストリの広場へ向かっているところ、人のほとんど寄り付かないあそこ
ならものを尋ねる場所として最適だろう。
タバサの足が九朔を追いかける。



**



「……で?」
「いや、そのだね。あー………ごめんなさい」
授業のない時間、モンモランシーの部屋にギーシュはいた。
そしてその顔に幾つも青痣を作って土下座していた。
腕とか足に包帯を巻かれ、ついでに松葉杖らしきものもあった。
「ふぅん? 薔薇は多くの女性のものを喜ばせるためにあるんでしょ? でしたら、今すぐ
 出て行ってケティとか言う子のところに行って喜ばせてあげたら如何かしら?」
まるで養豚場の豚を見るような冷たい目で土下座するギーシュを見下ろすモンモランシー。
浮気なんぞして自分を裏切った男である、同情の余地などあるはずもない。
まあ、怪我が酷いしちょっと可哀想かなとは思うけど?
でも、だからって許すわけない、女性を蔑ろにする男なんて最低なのだ。
謝ったとしても簡単に許さない。
「あはは……まあ、その、だ。彼女にはちゃんと謝ったんだ、うん。で、そのだ、そのだね。
 ………こうなったのだよ」
バツの悪そうな顔で眼をそむけるギーシュ。
どうやら暴力言語というやつで思いっきり説教されたらしい。
なんてひ弱な男なのだろう、女子にこんな目に合わされるなんて。
「情けないのねギーシュ。あなた、女子にまで負けたの? しかも魔法なしでそんな体たらく。
 貴方って本当に軍人の息子なの?」
「でも、ほら。僕のせいだしね? それ相応の罰をだ……うん」
なんだ、悪いとは理解してるんじゃないか。
それをもう少し早く気づいてくれればこんなことには……
「そう。でも、だからと言って私、許さないわよ? あなたにあんな酷い裏切りを受けたんです
 もの、許すと思って?」
「ああ、分かっているさ『香水』のモンモランシー……。君のような美しい女性を騙した
 僕を許してくれとは言わない。ただ、謝りたいんだ」
椅子に座る自分を見上げるギーシュ、その真摯な瞳にモンモランシーの中で何かがぐらついた。
今まで見た事の無い真面目な顔だ。
いつもおちゃらけた軟派な男なのに、こんな顔が出来るのだ。
愛の言葉を囁くときだってこんな顔をしたことはない。
嗚呼、いつもこんな真面目に自分を見てくれていたら良かったのに。
こんな風にその真っ直ぐな瞳を向けてくれれば良いのに。
そしたら、こんなに怒らないのに……。
思ってから自分の浅はかな思考に気づきモンモランシーは赤面した。
顔を真っ赤にするモンモランシー、そんな彼女の手をギーシュはとる。
「重ねて言うが許してくれとは言わないよモンモランシー。この愚かな僕は君に謝りたい。
 君の心を傷つけた僕の行いを、だ」
「そ、そう」
「ああそうだ、モンモランシー、僕の愛しい人。君を怒らせてしまったこの僕の愚行はきっと
 許されない。だが、それでも良いよ……君に謝れただけでそれで充分だ………悪かったね、
 モンモランシー」
囁くギーシュの瞳が憂いに揺らぐ。
その瞬間、痛々しいギーシュの姿と言葉にモンモランシーの中で何かが瓦解した。
哀しげな瞳といい、その包帯といい、弱々しくなってしまった彼の姿が彼女の中にある
乙女回路を爆発させたのだ。
「わ……分かったわギーシュ。ま、まま、まあ……あなたの気持ち受け取って
 あげなくもないわね。良いわ、許してあげる、ギーシュ。でもね、次はなしよ?
 分かる?」
真っ赤に顔を赤らめ、空いたほうの手でその恥ずかしさを隠すようにモンモランシーは
金髪のカールをかきあげる。
「それに、もともと貴方が黙って他の女の子に手を出すから悪いのよ?
 でもね、それはこれからしちゃ駄目。良い? 分かるわね?」
愚痴を言ってはいるがそれはまさしく愛の告白だ。
先ほどまでの怒りは反転し、愛情へと化学変化を起こしている。
そんなモンモランシーの言葉にギーシュは顔を輝かせて両手を掴む。
「本当かいモンモランシー!? ああ、そんな! こんな僕を許すのかい!?」
「え、ええ……そう。あなたが真摯な言葉を送ってくれたから……許すわ」
「嗚呼、嗚呼! なんと優しいんだモンモランシー!! 君は妖精だ、いや女神だ!!
 僕の愛しい女神だよ!!」
大げさに、感極まったと言わんばかりに腕を広げ叫ぶギーシュ。
そして、自分を女神と言ったギーシュにモンモランシーは更に顔を赤らめ嬉しさと恥ずかしさ
の入り混じったわけの分からない感情に胸を大きく揺さぶられた。
あうあうと呻いてみたり、もじもじと体をくねらせてみたり、えっとあっとと呟いて、
そしてようやくギーシュに口を開いた。
「ね、ねえギーシュ?」
「何だい、モンモランシー?」
「ちゃんと、私を見てくれるわよね?」
「ああ勿論さ……君をちゃんと見るよ――――――隠すことなく平等に」
「………え? 今、何て?」
「誰にも隠すことなく、平等に、僕は君達を愛すると誓うよ………」
恒星レベルに燃え上がった愛情が一瞬で引いた。
代わりに、超新星爆発サイズの怒りが愛情から転換される。
「僕は分かった。隠すなんてことをするから君たちを怒らせてしまったんだ。
 だから、僕は女性を平等にだね………ん? モンモランシー?」
そうだ、そうだったのだ。何を勘違いしていたのだ私は。
モンモランシーはギーシュの手を振り解き、立ち上がった。そして、机の横に立てかけて
あった長い燭台を手に取った。
長さも充分、ワインの瓶の比ではない威力申し分なし。
「な、ななな、何をしてるんだねモンモランシー?」
ああ、そうだ、こいつはギーシュなのだ。
あの、グラモン家の、人間、なのだ。
たった一人に愛を誓うということを信じること自体が間違いだったのだ。
自分の浅はかさに頭が痛くなる、一生の不覚だ。
「ねえ、ギーシュ…………?」
モンモランシーはその整った顔にこれほどない優しい笑みを浮かべた。
それは奇しくもギーシュの例えた女神のそれ。
「ななななななな、なんだいモンモランシー?」
きっと、ケティとかいう女子に同じ事を言ったのだろう。
だから『こんな姿』なのだ。
ようやく理解した。
燭台をゆっくりと振り上げる、目標は一つだ。
「ままままま、待ってくれモンモランシー!!! それは、それは駄目だ!!」
うん、それ無理。
女神の微笑が魔人の憤怒相に変化した。
「こぉぉぉぉんんの!!! 色情狂(イロボケ)があぁぁぁぁぁ!!!」
「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
振り下ろされる燭台が鈍い音を立てた。そして、部屋の扉は音を立てて閉まる。
鈍い音は止まることなく続いている。

女子寮にギーシュの断末魔が鳴り響く




ヴェストリの広場、そこは常には人のない日の余り差さぬ場所だ。
そのため、今は誰もいない。
到着した広場、立ち止まるランドルフをよそに九朔は進む。
広場の中心に立ち、大きく大気を吸い込む。
「試してみるか」
そして眼を閉じ、集中する。
あの時の力を再現してみたくなったのだ。
あの時感じたものを思い出す。
全身をくまなく流れた迸りを思い出す。
全身の血流を凌駕した漲りを思い出す。
昂ぶる魂と真逆の冴えきった精神を思い出す。
凪の平穏と表裏成す燃え上がる焔を思い出す。
広がった認識と意識を思い出す。
更に、更に、更に集中する。
更に、更に、更に研ぎ澄ます。

あらゆるものを凌駕した領域へと己を―――

永遠にも思える時間が過ぎる。
時間にしてはほんの一分かそこら、だが、彼には永遠の瞬間。
集中した思考は時間の流れをも変える。
しかし、
「やはり………無理か」
九朔は瞳を開き目の前の視界を認識した。
常と変わらぬいつもの世界だ。
あの時の感覚は完全に無であった、在った事すら怪しくなってしまうほどに。
しかしあの懐かしい感覚は嘘ではない、確かにここに在ったのだ。
溜息をつき九朔は集中を解く。
代わりに拳を握る、小指から順に握り締める。そして構え、フットワークを刻む。
心臓の脈打つ音を感じ、血流が全身を巡るのを感じる。
「覇ッ!」
フットワーク一間、拳を突き出す。
雹、と風を切る音が微かに響く。
戦い方を思い出せば身の動かし方を思い出す。
知識があれば己の体がどう動くかも理解できる。
昨日とは全く異なる己の肉体を行使する。
鍛えられていた己の体の動きを理解する。
知識を持たなければ、たとえ鍛えていようと只の木偶に過ぎなかった。
それが昨日の己だ。
「覇ッ! 羅ッ! 征ッ!」
参撃を一瞬で打ち出す。軽い己の体に気分が良くなる。
一つ一つ型を思い出すように九朔は肉体を動かす。
それはボクシングでも武術でもない、肉体が記憶する動き。
昨日の戦い方を少しでもなぞるように拳を打ち出し、脚撃を振りぬく。
じわりと流れ出す汗が心地よく、全てを忘れ、それに没頭する。
左脚撃から流れる右脚撃。
右拳撃から流れる左拳撃。
拳撃に続けて繰り出す脚撃。
脚撃に続けて打ち出す拳撃。
振りぬく脚から全身を捻り打つ拳。
叩きつける裏拳撃の勢いそのままに回転脚撃。
あらゆる拳撃と脚撃を思考する。
思考をそのまま動きに変換する。
脚撃は自在、拳撃は自由。
そして、最後の一撃を脳内に構築する。
その一撃を変換、肉体に接続、展開。
「牙ァァッ!!」
打ち出される諸手が大気を打つ。
「はぁ…………はぁ……………」
昨日のような爆音はない、ただ、拳の突き出す風を斬る音が響いたのみ。
呼気が乱れ、鼓動が激しく脈打つ。
それを治め、息を整える。
鼓動は静まり、呼吸数は平常。
数瞬の後に治まる昂ぶる肉体、そこに至りようやく九朔はこの場にいる人間の
存在を認識した。
青い髪に青い瞳の少女がランドルフの横に立っていた。
一見すれば年の程は十二かそこらか、ルイズより幼いと思える。
まるで人形のように無表情の少女、しかし、その瞳は確かに自分を見ていた。
「……いつからそこに?」
「拳を打ち始めた頃から」
その声に抑揚はない。感情の篭らない、平坦としたものだ。
「何故、ここにおるのだ?」
「質問がある」
すたすたと歩み寄り、少女は己より二つ頭違う自分を見上げてきた。
熱のない瞳が九朔を見る。
綺麗な蒼の瞳、自分の蒼銀と違う深く色濃い色合いを呈している。その色合いは感情を
押し殺しているが故か。
「何者?」
「どういうことだ?」
「昨日の戦い」
感情を殺してはいるが、その声には興味を示す色がある。
しかし一小節で会話を行なうのは止めて欲しいものだ、こういう手合いと話すのは
結構疲れる。間近まで迫られているのもあるが。
「汝、もう少し普通に話せぬか?」
やや、言葉に間が開く。
「あなたはメイジではない。だけど昨日の闘い、あれは異常」
少し小節が増えた。だが、やはり少ない。理解を求めた自分が阿呆だったようだ。
「何者?」
今度は単語のみ、こちらを見上げ少女は黙る。
答えるまでは恐らく決して離れはしないのだろう、そんな気がする。
故におとなしく質問に答えることにする。
「我は九朔。大十字九朔、騎士だ」
「騎士………シュヴァリエ?」
「シュヴァリエがここで何を意味するか知らぬが、そうではない。我は牙なき人たちの
 為にあるだけだ」
「騎士はシュヴァリエ」
一度言葉を切る。
「シュヴァリエは王室から与えられる爵位。貴族に対し、業績に対して与えられる爵位」
つまり、自分は平民なので騎士ではないと言いたいのだろう。
確かに、平民が騎士といったところでこの世界ではただの与太話になるのは違いない。
はたしてどうやったら納得のいく説明ができるものか。
思案し、一つ言ってみる。
「我は異世界から来た。これで理解できるか?」
首をかしげ口に手をやり考える仕草、会話とも言えぬ会話にやや間が開く。
「あなたはラ・ヴァリエールが召喚した使い魔」
「只の雇用契約だがな」
「しかし前例のない使い魔」
「だから、違うとだな………」
「つまり、あなたは特別な何かと考えることができる」
淡々と述べるそれにもう反論する気はなくなっていた。どうとでもなれである。
「分かってくれたか?」
「一応」
「では―――」
「何者?」
九朔は肩を落とした。
「今、言っただろう?」
「昨日の闘いについては言っていない」
そういうことか。
「我は記憶を失っている。故に昨日起きたことについても我自身よく分からぬ」
「でも、遍在に類した何かを使った」
即興拳武(トッカータ)のことを言っているようだ。
あれは神速のフットワークが生み出す残像に過ぎないのだが、彼女にすれば
『遍在』とかいう、恐らく魔法の一種だろうが、それに見えたのだろう。
「あれは、ただ恐ろしく速く動いたが故に見えた残像だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ありえない」
「魔法でも使えばそれくらいできるのだろう?」
「無理」
さて、どうしたものか。
再び思案である。
あの力の漲りがない今、自分はトッカータを使う事は出来ない。
では、どうやって納得させる?
不可能である。
「説明はできぬ……とにかく、そういったものなのだ。我の世界にはそのような速度で
 動くことのできる武人がいるとだけ言っておく」
「……………」
こんどは少女が思案する番だった。
信じられないのも仕方ないことだ、それこそまさしく出来の悪いファンタジーの世界の話
なのだから。
もっとも、九朔にとってはこの世界の方がよっぽどできの悪い三流パルプのファンタジー
世界であるのは間違いなかった。
とにかく事実は事実、真実に偽りを混ぜるわけにもいくまい。
「理解したか?」
「一応」
無表情且つ感情の篭らない声なのは変わりないがいささか不満の色を感じる。
「済まぬな。我とて記憶を失った身なのだ、全てを説明できるわけではない」
「記憶喪失?」
「ああ、ここに来る前のことを大部分忘れておってな。ある程度は覚えておるのだが
 部分部分が大きく抜けておる」
「………」
そして、少女は少し口元に手をやり思案する。
そして再びこちらを見た。
「記憶喪失」
「ん?」
「もしかすると――」
その瞳は無表情、次の言葉を待つが、
「なんでもない」
「最後まで言わぬか、気になる」
「推測は言うべきではない」
淡々と述べ、瞳が九朔を見る。感情は篭らぬがそれは追求を許さない瞳だ。
「……分かった、これ以上は言わぬ」
無言で少女はうなずき、そして広場を離れる。
「タバサ」
「ん?」
「名前」
どうやら、少女の名らしい。
振向きこちらを一瞥する。
「それじゃ」
「ああ」
タバサは去り、広場には九朔とランドルフだけが取り残される。
そういえばもうあの二人が起きても良い頃だろう。
「戻るか、ランドルフ」
「てけり・り」
一人と一不定形もその場を去る。
誰も広場からいなくなった。
暗がりには何もなく、無人の広場に静寂は漂う。


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