あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の唄-3


―――

アンリエッタは王宮の自室で陰鬱な気分に浸っていた。
あの後何度頼んでみても、ルイズは頑なな態度を崩す事は無かった。
ルイズは自分の実力不足を理由に断っていたが、アンリエッタにとって重要なのは魔法の腕前ではなかった。
王女の醜聞などという事柄を扱うには、どうあっても信用に足る人物でなければならない。
その点、幼い頃から気心が知れ、歳の近いルイズは最適といえたし、アンリエッタも彼女が断る事は無いだろうと楽観していた。

しかし予想は外れルイズは断り、任務は結局、たまたま婚約者のルイズを尋ねてきたという
『魔法衛士グリフォン隊』の隊長である『ワルド子爵』に任せる事となった。
彼は『閃光』という二つ名を持つ程に凄まじい腕を持つメイジで、ルイズが任務を引き受けた際には、彼女の護衛につけようと目を付けていた人物でもあった。
婚約者たるルイズ自身は彼を信用出来ると言い、どちらにしろ手紙を取り戻さなくてはならないアンリエッタは仕方なく彼に任せた。

そして次の日、朝日も昇らぬ時刻に旅立ったワルド子爵を見送り、ルイズに別れを告げて王宮に戻った。
子爵は『風』のスクウェア。単独任務にも最適で、ルイズがついていかずともきっと任務を果たしてくるだろう。
なのにこの胸に去来する不安は何なのだ。
別れ際、彼が自分を見やったときの表情がどうしても頭から離れない。
あれは間違いなく『嘲笑』だった。

数日後、王宮に「アルビオン王党派壊滅」の急報が届く。
その連絡の後にゲルマニアからの使者が訪れ、皇帝印の押された封書がもたらされた。
中身は王女の不安通り、予定されていたトリステインとの同盟の破棄を求めるもの。
理由は封書に書かれた内容を聞かずとも、アンリエッタには理解できていた。

ワルド子爵からの連絡は、無い。

──

『元』魔法衛士グリフォン隊隊長・ワルド子爵は、無残に破壊されたニューカッスルの戦場跡で人を待っていた。
アルビオン王党派を打ち倒し、新政府となった『レコン・キスタ』の総司令、オリヴァー・クロムウェルに二通の『手紙』を渡すためであった。
一つはアンリエッタ王女から預かったもの、そしてもう一つはウェールズ皇太子から奪い取ったものだ。
この手紙をクロムウェルに渡せば、すぐさまゲルマニアの皇室に届けられ、トリステインとの同盟は破棄される。
ゲルマニアを含めた二国を相手にするならともかく、
強大な軍事力を持つ新生アルビオンは、トリステインのみならば単独でも勝てる戦力を有している。
準備が整い次第、適当な『大義名分』をでっち上げ、トリステインに向け宣戦布告するだろう。

 ─かくして、あの美しい国は戦火に包まれるわけだ。

自らが引き金となって、これから繰り広げられるであろう悲劇に自嘲するワルド。
頭に浮かんだのは小さな婚約者の事だった。
十も歳が離れ、可愛らしかった彼女。久しぶりに再会した彼女の変容にワルドは動揺を隠せなかった。
何の感情も見られない『虚無』を感じさせる瞳。
そのくせ此方が話しかけると途端に色を変え、滲み出てくる悪意。
本当にこれが小さく愛らしかったあの婚約者なのか。
王女を交えた会話中も、此方には一片の視線も向けず、最低限の言葉しか発しない彼女。
最後に任務を預かる際「彼は信用できます」と言われたが、その言葉には何の感情も伺えなかった。
一体何があの素直な娘を変えたのか……思考の海に沈んでいたワルドに、そばから声がかけられる。

「やあ子爵! ワルド君! 件の手紙は見つかったかね?」
「閣下」

ワルドは首を振って思考を切り替え、現れた男──クロムウェルに答える。
さあ、仕事だ。と彼は頭に残っていた少女を追い出した。

 ─もはや会う事もあるまい。今は成すべき事を成す時だ。

事実、彼がルイズに会う事は二度と無かった。

──

トリステイン魔法学院。
ここ数日で慣れてしまった教室の喧騒に、ルイズは相変わらずの無表情で窓際の席に座っていた。
現在は講義と講義の間の休憩時間で、クラスメイト達の雑談に耳を傾けていた。
相変わらず騒音にしか聞こえなかったが、注意すれば内容を掴み取るのはそう難しい事ではない。
丁度今の話題はトリステインとゲルマニアの関係についてだった。

この魔法学院は貴族の子弟を預かっているわけだが、魔法を使える貴族はその多くが軍務についている。
当然ここにいる大半は軍人の家系に連なるもので、そちらの情報が入ってくる事も多い。
曰く、両国の同盟は失敗し、アルビオンに攻められる可能性が高い事。
曰く、原因は王女のスキャンダルだという事。
曰く、なあ、ギーシュ! お前、今誰と付き合って──これはどうでもいい。
これらの事が意味するのは、すなわちワルドが任務に失敗したという事だ。
先日姿を現した『婚約者』を名乗るモノを思い出し、ルイズは顔を顰めた。

思い出の中では美しいままでいて欲しかった、かつての憧れだった婚約者。
ルイズが絶対に会うまいと心に決めていた一人が、変わり果てた姿で訪ねてきた時、感じたのは悲しみではなく怒りだった。

 ─その醜い姿で、耳障りな声で、私のワルド様を、思い出を汚すな!

その考えは全くの八つ当たりでしかなかったが、ルイズは怒りを殺意にまで昇華させていた。
いっそ殺してしまいたいとも考えたが、目の前の二人は確かトライアングル以上の実力者だったはずだ。
無能な自分と非力な沙耶ではまず勝ち目は無い。
いつぞやの『秘書の女』は、あくまで不意を突いたからこそ勝利できたのだ。
そもそも二人はこの国の重要な身分に就いている。迂闊な行動は身の破滅を招くだろう。
ルイズはそう思い直し、王女からの任務をワルドに押し付け、二人には早々に部屋から退散願ったのだった。

思考を元に戻す。今、重要なのはアルビオンの事だ。
このままの状況が続けば、そう遠くない内に開戦する事は間違い無い。
自分達はどうするべきだろうか。
まともな貴族ならば徹底抗戦すべし! とでも言うのかもしれないが、ルイズは違った。
ルイズが求めているのは平穏だ。
周りの化物にも、身を襲う恐怖にも悩まされず、ただ沙耶と共に過ごしていたかった。

この学院を、ひいてはこの国を出るべきか。ルイズはそう結論付けた。
精神衛生に悪い上、魔法への興味が薄れたルイズにとって、これ以上この場に残る事に益は無い。
トリステインに残り続ける事は戦渦に巻き込まれる事を意味する。
そして、いずれ自分と沙耶の所業も明るみに出る可能性もある。

 ─狙うならば開戦直後の混乱期。今のうちに準備に取り掛からなければ。

ルイズは素早く席を立ち、愛する使い魔の待つ部屋へと向かっていった。

──

ルイズのベッドで沙耶は寝返りをうった。
既に召喚されてからかなりの時間が経つ。
自分は一体どうしてしまったのだろう。
これまで自分の身に起こった変化に、沙耶は困惑していた。
初めて見た時は可愛らしい子だと思った。
話してみれば彼女はなんと『彼』と同じ症状を持っているという。
病院で『彼』と分かれてから人との会話に飢えていた沙耶は、持ちかけられた契約に一も二もなく承諾してしまった。

いずれ『彼』にしたように、自分が脳へ直接働きかければ
元の世界に戻れる事を教えようと思っていた沙耶だが、ルイズが近づく度に何故かその事を言い出す気になれなくなる。
甘えてくるその様子に、まるで娘を持ったかのような感慨を覚えた沙耶だった。

 ─やっぱりこれのせいだよね。

沙耶は人で言うと左手に当たる部分を持ち上げて、そこに刻まれたルーンを見る。
不思議な紋様だった。見ると心が魅かれるような。
最近はルイズ以外の事も考えられなくなってきた。
別段彼女の事が嫌いなわけではない。むしろ好きといえる。
たとえこの感情がルーンに与えられたものだとしても、最初に彼女にわいた共感は本物だ。
だがこのままでは、大好きだった『彼』の事を忘れてしまうかもしれない。
沙耶はそれだけが怖かった。

その時、段々と部屋に近づいてくる気配を感じた。ルイズが帰ってきたようだ。
距離が縮まるにつれて、意識がルイズのみに向くようになる。
現在の境遇に不満は特に無い。
自分が愛した人が傍にいなくても、この世界にだって『花』を愛してくれる人がいる。
それだけで沙耶には十分だった。彼女のやる事は、変わらない。
沙耶はルイズが部屋に入る前に、『彼』を忘れないために呟いた。

「もうきっと会えないけど、私は元気。
 だから心配しないで。……愛してるよ、郁紀」

直後、扉が開かれ部屋の主が入ってくる。
沙耶は何事も無かったように、明るくルイズを迎えた。

「おかえり、ルイズ!」


───


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