あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の唄-1


今朝もルイズは憂鬱だった。
目の前に並ぶ『豪奢』な食事に対して何の食欲を覚えない。
しかしそれにも拘らず空腹は訪れる、そんな状況にいい加減嫌気が差してきたのだ。

いくら嫌だからといって、食べなければ栄養失調で倒れてしまう。
公爵家の三女としてそんな無様を晒すわけにはいかない。
わざわざ部屋まで届けさせたという事もある。
そう自分に言い聞かせ、まずは『腐肉のスープ』にスプーンを入れ、極力臭いを嗅がぬ様に、啜る。

今、ルイズは地獄に居た。

──

事の起こりは一年生最後の授業の後。
学年末試験も終わり、二年への進級を待つばかりだったルイズだが、
二年になったら、必ず魔法を成功させたい!
そう意気込み、普段より練習に気合を入れていたのだ。
それがいけなかったのか、はたまた何か別の要因が働いたのだろうか。
いつもの様に爆発した魔法は、「たまたま」上の建物に直撃し
「偶然」落下してきた破片がルイズの頭部を痛打した。
結果ルイズは意識不明の重症を負い、医務室へと運ばれる事となった。


頭に残る鈍痛に喘ぎながら、ルイズが目を覚ますとやけに周りが暗い。
どうやら目に包帯が巻かれているようだった。
ルイズ起きた事に気が付いた医務室勤務のメイジは、こう説明してくれた。
倒れた時に目を傷つけて、運ばれてきた時に頭部と一緒に治癒魔法を掛けたものの
治りが悪かったのでまだ包帯をつけたままなのだ、と。

包帯はあとニ、三日もあれば取れるという旨も伝えられ、ほっとしたルイズであったが
同時に不甲斐ない自分に対する怒りが湧いてきた。

─今度こそこんな失敗はしないんだから!

それから三日。
ようやく包帯が取れる日になって、ルイズは久しぶりに世界が光を取り戻す事に安堵していた。
頭部を何度も往復するメイジの手、思えばこの三日間、彼にも世話になった。
ちゃんとお礼をしなくてはいけない。そうだ魔法の練習も再開しなくては。
そんな事を考えている内に全ての包帯は解かれ、ゆっくりと目を開けるルイズ。

彼女の目に映る世界は、変わり果てていた。

─この周囲を覆いつくす『肉』は何だ?
─何故自分はこんな膿汁にまみれたシーツを被っている?
─そしてなにより、目の前にいる人の声で話す異形の生物は、何だ?

ルイズは悲鳴を上げて、気絶した。

──

キュルケはルイズが心配だった。
一年生の終わり頃、大怪我をしてからルイズは人が変わった様だった。
キュルケはルイズが自分が起こした失敗にへこんでいるのだろうと思い、
ここは挑発でもして発破をかけてやろうと、治療が終わったルイズに会いにいった。
しかし、頬はこけ、目は虚ろ。何かに怯えるように歩くその姿に、とても以前の面影は見られない。
彼女が医務室の前で見たのは、そんな友人の変わり果てた姿だった。
話しかけるとルイズは大声を上げて逃げ出し、それから一ヶ月。
二年生最初の課題、春の使い魔召喚までルイズが部屋から出てくる事はなかった。

「あ~ら、久しぶりねルイズ。バカンスは楽しかったかしら?」
「……? あぁ、キュルケね。別になんでもないわ」

医務室前での出来事の後、漸く会えたルイズを心配しながらも口から出るのは皮肉だった。
しかしそんな口ぶりのキュルケに対し、ルイズは何の表情も出さずに振り返り、
その虚ろな目でキュルケを見やって言い放ったのだ。

「悪いけど、気分が優れないの……話しかけないでもらえるかしら」
「ちょ、ちょっとルイズ」

全く取り付く島の無い様子に、食い下がろうとするキュルケだったが、彼女は無視を決め込んだ。
─せっかく心配してやっってるのに!
キュルケはそんなルイズに憤慨し自身も彼女から離れていった。

そして、ルイズ以外の全員が無事使い魔の召喚を終わった。

──

ルイズには既に、魔法に対する興味も、世界に対する希望も、何一つ残ってはいなかった。
きっとこれは魔法を使えない自分に対するご先祖様の罰なのだ。
家族の期待に答えられず、家名に泥を塗った報いなのだ。
そう思って、目に見える悪夢、耳障りな騒音、鼻を襲う悪臭を無視した。
既にルイズの異常は視覚のみならず、聴覚、嗅覚、触覚、味覚と、五感の全てを侵していた。

自身に起こった異常に、抵抗する気も解決する気も起こらなかったルイズ。
彼女はただ何も考えず、何にも関心を向けない事で、この恐ろしい世界から身を守ろうとしていた。

先程話しかけられた時は余りの恐怖に足が竦んだが
我ながら良く返答できたものだ。
その態度と口調から『恐らく』キュルケだと思い、
話し方も以前と変わらないように気を付け、此方に関心を失うように返答できた。
これからも上手くやれるように頑張ろう。そしてこの世界で何とか生き抜こう。
そうルイズは心に決めていた。

「ミ簾・ヴぁ利ぇ3-ル、キミ@バん堕」

教師と思われる『物体』から目を背けサモン・サーヴァントを開始する。
呪文は何と一発で成功した。
いつもなら喜ぶところだが、この様な状態にあってはそんな気にもなれない。
ルイズは皮肉げに嗤った。

そんなルイズの表情が、召喚されたものを見て凍りついた。
それは少女だった。肩を出した服に、腰まで届く長い髪。病的なまでに白い肌と、吸い込まれそうな色の瞳。
だがそんな事はルイズにとってどうでも良かった。
『人間』なのだ。世界が狂ってしまってから、初めて見た『人間』だったのだ。
その事に、箍が外れたのか、今まで我慢していた涙が、後から後から溢れ出してくる。
少女はそんなルイズに目を向け不思議そうな顔で聞いた。

「何故泣いているの?」
「うれしいの」
「何が嬉しいの?」
「貴女がヒトだから」
「……そう、『あなたも』ひとりぼっちなのね」

少女の余りにも『人間らしい』その様子に、とうとうルイズは声を上げて泣き出し、蹲った。
もう周りの音も、臭いも、恐ろしい生物達も気にはならなくなった。
ただ目の前にいる少女しかルイズには見えなかった。

「お願い! 私と一緒に居て、私のそばを離れないで!
 私の手を、ずっと握っていて……!」
「いいよ」

ルイズの懇願に軽く答えた少女は面白そうに破顔し、白く細い手を差し伸べた。
ルイズは決して離さないように、しかし壊れ物を扱うように丁寧にその手を握った。
温かかった。すべすべしていた。彼女は、確かに存在していた。
掌の先に、実在していたのだ。

「変な人。そんな事言うのはあなたが二人目だよ。名前を教えてくれる?」
「……ぐすっ、る、ルイズ。……貴女は?」
「私は、沙耶だよ。
 ……あなたは『あの人』と同じなのね。私が愛した『あの人』と」
「?」
「いいの、気にしなくても。──そばに居て欲しい? 私に」

少女──沙耶の言葉にルイズは涙ながらに首肯する。
その日、ルイズは運命から救済された。

────虚無の唄 song of zero────


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