あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

幽“零”楽団 第五楽章

 とうとう品評会の当日。控え室で順番待ちをしているルイズは緊張に体を震わせていた。
 挙動不審に辺りを見回し、立ったり座ったりを繰り返すルイズの姿を笑うものはここにはいない。既に他の生徒はほぼ全員終了し、今演技をしているのは最後から一つ前の、つまり順番的にルイズの直前の生徒だ。
 朝早く起きて練習をしたが、結局最後まで上手くいく事は無かった。その事実が重くルイズの心に圧し掛かっているのだ。

『続きまして、ミス・ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール』

 アナウンスが聞こえてくる。ルイズは両手で頬を叩くと、覚悟を決めた

「行くわよ」

 頷く使い魔達を後に引き連れ、ルイズは品評会のステージを登った。

 ――うわ……滅茶苦茶見られてる。

 ステージの上から見る風景は、とても心臓に悪いものだった。多くの生徒が興味深げにルイズ達を――正確にはプリズムリバー三姉妹を見ている。そういやこいつら生徒の人気は高かったっけ、などと考えながら、ルイズは貴賓席をちらりと覗き見た。
 学院長オールド・オスマンの隣、豪奢な椅子に腰掛ける麗人は間違いなく昨晩あったばかりの王女アンリエッタだ。気のせいか、期待をその目に秘めているように見える。
 ルイズは深呼吸すると、大きく口を開いた。まずは使い魔の紹介からだ。

「紹介致します。私の使い魔、ルナサ・プリズムリバー、メルラン・プリズムリバー、リリカ・プリズムリバーです。種類は――騒霊です!」

 聞きなれない種類に、ルナサ達の事をよく知らない者や、アンリエッタは眉を顰めた。
 そして姉妹達のファンが口々に応援の言葉を投げかける。

『リリカちゃんこっち向いてー』
『ルナサ様ー!」』
『ああ……いいよお。メルランのトランペットいいよお!』

 ファンの中には、ルイズに対して引っ込めだの邪魔だのという心無い輩がいたが、ルナサが冷たく睥睨するとそれも治まった。
 中には純粋に彼女達の演技を楽しみにしているものもいる。ギーシュとキュルケだ。
 ギーシュは最近の浅からぬ関わりから。キュルケはルイズとの約束から。

 ルイズはそんな彼らを見ると、深呼吸してから杖を掲げた。
 さあ、本番だ。


 学院宝物庫前。ローブを目深に被った不審な人物が扉に手を当てて舌打ちした。
 先程流れてきた声によれば、品評会はもうすぐ終わりらしい。こちらも『仕事』を終えなければならない。
 焦ったローブの人物は外に踊りだすと地面に手をついた。
 すると魔法の光が広がって、大地が盛り上がり、高さ三十メイルは届こうかという巨大な土ゴーレムが作り出された。このゴーレムの主こそ、今世間を騒がす怪盗土くれのフーケその人だった。
 ゴーレムはその豪腕を大きく振りかぶり、宝物庫の壁に巨拳を叩き込んだ。堅牢な石造りの塔とはいえ、この質量攻撃には耐えられない。通常ならば。

「チッ、物理攻撃でも駄目か」

 如何なる現象か、ゴーレムの拳が壁に突き立った瞬間に、衝撃は吸収されてしまった。宝物庫の壁には、存在を保つための強力な『固定化』がかかっていたのだった。
 苛立つフーケは、これからどうするべきか思案した。そこに、誰かの声が聞こえてくる。


 ルイズは不機嫌そうに頬を膨らませ、大股で会場を離れていた。
 先程の演奏が、結局大失敗に終わったからだ。
 外れる音程、狂ったリズム、聞くものが思わず耳を塞ぐ騒音。プリズムリバー楽団の演奏を期待していた者達からは、ブーイングの声が溢れた。
 何故かアンリエッタのみは大喜びで手を打っていたが。ああ、あなたは天使です姫殿下。
 ギーシュはやれやれといった様子で首を振り、キュルケに至っては半目でルイズを見やると……。

『……ふっ』 

 ――鼻で笑いやがったあの女! 忌々しい、ああ忌々しい、忌々しい。

 ルイズは怒り心頭だった。
 一方の使い魔三姉妹はとりあえず騒がしかったので概ね満足していた。ルナサとリリカはいつも通り。メルランは膨らんだルイズの頬を「ちょんちょん」と突付いては彼女に嫌がられている。

「まぁ、あの練習量じゃこんなものでしょ」
「……むぅ」
「次、頑張ればいいのよ。ルイズ」
「次っていつよ? メルラン姉さん」

 いつもの他愛ない掛け合いで、騒がしくルイズを慰める姉妹達に、ルイズが顔を赤らめて口を開こうとした時、彼女達に大きな黒い影がかかった。
 何事かと上を見上げた四人は、『それ』を確認した瞬間に固まった。

「……これは何?」
「酔っ払った鬼よりおっきいわねえ」
「いや、鬼の方がでかくなかった?」
「こ、これは!」

 比較的冷静な三姉妹と違って、ルイズは泡を食って驚いていた。
 最近噂の怪盗は、凄まじい錬金の腕を持ち、宝物をあっという間に盗み出す。その手口は荒っぽく、錬金が効かない場所にはゴーレムによる直接攻撃をかけるそうだ。
 丁度、目の前の『巨大な土ゴーレム』のように。

「運が悪かったねえ」

 ゴーレムの肩口に乗っていた黒いローブの人物――恐らく件の怪盗土くれのフーケは、ゴーレムを操って目撃者、つまりルイズ達の始末にかかった。
 あわやといった所で、三姉妹はルイズの体をお互いに引っ掴み、空中へ逃げ出した。

「物騒な奴ね」
「あぶなーい」
「やっぱ鬼の方がでかいでしょ」
「何でそんなに暢気なのあんた達……」

 あくまでマイペースな姉妹に呆れながらも、ルイズはゴーレムから注意を逸らさなかった。標的に逃げられたゴーレムは、空に浮かぶルイズ達に気付くと再びその拳で殴りかかった。
 それもすぐに避ける。殴る。避ける。殴る。避ける。
 何度も繰り返す内にフーケは業を煮やしたのか、苛立ちを含めた怒鳴り声を上げた。

「避けるな!」
「馬鹿言わないでよ!」

 コントのような問答をしたルイズは、埒が明かぬとばかりに杖を振るった。姉妹は自分を抱えて回避するのに精一杯だ。自分が何とかしなければ……。
 ルイズは思った。こういうピンチこそ、新たなる力を得るには相応しいのではないだろうか。ニヤリと笑って練習中の魔法『弾幕』を行使する。
 果たしてルイズの放った弾幕は――ゴーレムと宝物庫の壁を爆破した。
 どうみても失敗だった。

「まぁ、英雄譚みたいにはいかないわよね。普通は……」

 当たり前の事に若干落ち込むルイズを他所に、フーケは爆発が起こった箇所を驚愕の面持ちで見つめていた。
 あれほど強固だった宝物庫の壁に、先程の爆発で罅割れが出来ていたのだ。
 すかさずゴーレムに指示を送ると、あっさりと宝物庫の壁は破壊された。あまりのあっけなさに思わず笑いがこみ上げたフーケだった。
 フーケはそのまま宝物庫へ乗り込み、一メイル程の箱を探し出し、持ち去った。

「感謝するよ!」

 フーケはそう言い残し、ゴーレムに乗って去っていった。
 唖然とその様子を見ているしかなかったルイズは、自分を抱える使い魔達に尋ねた。

「……もしかして、私のせいかしら」

 うんうんと肯く三人に、ルイズは頭を抱えた。
 現場には、続々と人が集まってきていた。

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 翌日、教室で自習中だったルイズは学院長室に出頭を命じられた。
 宝物庫破壊の責任を取らされるのかと戦々恐々していたルイズにされた命令は、学院長の秘書であるロングビルが持ってきた、『犯人の写し絵』を検分せよとの事だった。

「どうじゃね?」
「……間違いありません。フーケです」

 その答えに、室内はざわめきで溢れかえった。
 侃々たる議論を交わす教師達を他所に、ルイズに着いてきた使い魔達がこそこそと話し始めた。

「どうなるのかしらね」
「王女様が責任取らされるって聞いたわ」
「私達は関係無いよね?」

 彼女達の話に、ルイズの中に罪悪感がふつふつと湧き出てきた。フーケが宝物――破壊の杖を奪えたのは、ルイズが宝物庫の壁を爆破した事に起因する可能性は高い。
 フーケ自身が礼を言ってきたのだ。奴だけではどうにもならなかったのを、思わぬ所で手助けしてしまったのかもしれない。そして、そのせいで幼馴染の姫は責任を取らされようとしている。
 そう考えたルイズが、捜索隊に志願したとしても何の不思議も無かった。

「君がいくのかね。ミス・ヴァリエール」
「他に誰も行こうという方はおられませんわ」
「ふむ……」

 オスマン氏は、フーケをこの小さな学生一人に任せてよいものかと思案していた。
 常識ならばそのような提案は切って捨てるところだが、彼女には『例』の使い魔がいる。ドットとは言え軽々とメイジを倒した者と、それに匹敵するだろう者が合わせて三名。これだけいれば、或いは戦力的には十分とかもしれない。
 そしてこれは使い魔達の実力を測るいい機会でもある。しかし、だからと言って公爵家の娘を不確定要素の強い戦いに放り込んで良いものか。
 迷った末に、オスマン氏は決定を下した。

「……うむ、分かった。君に任せよう、ミス・ヴァリエール」
「は、はい!」
「当然使い魔君達も連れてな。それとミス・ロングビル。君も着いて行ってくれるかね?」
「勿論ですわ」

 話はまとまった。オスマン氏はこの場の解散と、追跡の結果を待つ事をその場の全員に告げた。

 ルイズはフーケを追うために、同日昼前、ロングビルが手綱を握る馬車に乗って旅立った。ルナサ、メルラン、リリカも当然着いて来ている。
 三姉妹は馬車の後ろでいつもの通り、喧しく騒いでいる。

「あんたらちょっと静かにしなさいよ! ミス・ロングビルに迷惑でしょう!」
「私の事はお気になさらず。それに道程は長いですから、音楽があった方が退屈しなくてすみますわ」
『それじゃあ遠慮無く』

 珍しく台詞を揃えた三人は、その手に持った楽器を一斉にかき鳴らした。
 慣れていたルイズは耐性が付いたのか耳鳴りが残るだけで済んだ。しかし、ロングビルは未知の音に対して免疫が無く、泡を吹いて気絶してしまった。
 目的地を知っているのはロングビルだけなので、彼女が起きるまで暫くその場に留まる事を余儀無くされた一行であった。


「ここです」
 森の中に円を描くように開けた場所。多少機嫌の悪そうな声音で、ロングビルはそこにある廃屋を指し示した。彼女は目覚めた時に笑って使い魔の所業を許したが、その額に青筋が浮かんでいたのをルイズは見逃していなかった。
 ロングビルの示す先には、今にも崩れ落ちそうな炭焼き小屋があるだけだった。だが、彼女が集めた情報では、そこがフーケの隠れ家で間違いが無さそうだという。
 早速ルナサを偵察に出すと、ルイズは緊張しながら彼女の様子を見守った。

「誰もいないわ」

 その後、ロングビルが周囲の偵察に回る事にし、ルイズ達は廃屋の中に入った。
 暫く中を探していると、リリカが長さ1メイルほどの金属製の円筒を発見した。これが破壊の杖だろうか。

「変な形ー。これが例のブツ?」
「学院長に聞いた特徴と一致しているから、多分それが破壊の杖だと思うけど……」

 リリカの疑問に、ルイズは自信無さ気に答えた。予め聞いていたとは言え、杖というには明らかにおかしな形状だったからだ。
 ぶんぶんと破壊の杖を振り回すリリカに、危険だと注意するルナサと、面白がって自分も触ろうとしたメルランの手が伸びた。三人の手が同時に破壊の杖に触れた時、それぞれのルーンが一瞬輝いた。

「ん?」
「あら」
「お?」

 それぞれに微妙な表情で立ち尽くす三人を見たルイズが、破壊の杖に何かあるのかと覗き込もうとした瞬間、廃屋の天井が突如崩れ落ちた。
 咄嗟にルイズは抱きかかえられ、その場を離脱すると崩れた廃屋のすぐ傍に巨大な土ゴ
ーレムが屹立していた。

「フーケのゴーレム!?」
「こいつを取り戻そうとしているのかしらね」

 ルナサは手元の破壊の杖を見て呟いた。だとすれば、する事は決まっている。さっさと逃げるのだ。目的はこの杖の奪還で、フーケを倒す事まではしなくても構わないだろう。要するに、盗まれたという事実さえ無くなってしまえばいいのだから。
 しかし、そのまま逃げるには一つ問題があった。

「メルラン。あなたの足が一番速い。ルイズを抱えて、先に遠くへ逃げなさい」
「私は?」
「リリカは私とアレの足止め。じゃあ頼んだわ、メルラン」
「お任せあれー」
「ちょ、ちょっとあんた達!?」

 三人でルイズを抱えていれば、攻撃を避ける事は出来ても逃げ切る事は出来ない。
 一人でルイズを運ぶと飛ぶ速度は落ちるが、他の二人がここを食い止めれば逃げ切る事は可能だろう。
 冷静に判断したルナサは、ルイズの文句を聞く事もなく妹達に指示を下した。後で主人に怒られるかもしれないが、この場は仕方が無いだろう。
 メルランに破壊の杖とルイズを任せ、ルイズの抗議の声が遠ざかるのを確認してから、ルナサはゴーレムへと向き直った。
 リリカの方は既に戦闘態勢に入っている。「弾幕ごっこなんて、久しぶりだねえ」

「こっちではスペルカードルールなんて通じない。相手は手加減なんてしてくれないだろうし、足元掬われても知らないわよ?」
「分かってるって」

 ルナサはあくまで無表情のまま。リリカは目を細めて笑みを浮かべる。二人は楽器を宙に浮かべると、周囲に無数の光弾を浮かび上がらせた。

「ルイズが逃げ切る時間を稼げればいいわ」
「了ー解」

 主の手から離れたヴァイオリンとキーボードが、普段よりも喧しい音をたてる。
 戦闘開始だ。

卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍

 メルランに抱えられたルイズの耳に、後方から爆音が聞こえてきた。ルナサとリリカがゴーレム相手に頑張っているのだろう。ルイズは自分の無力さにいつもの癇癪を起こしそうだったが、悔しそうに歯を食いしばって耐えていた。
 ルナサの判断は正しい。主を助け、最善の手を尽くそうとした彼女は使い魔として表彰ものだ。しかし、ルイズのプライドはそれをよしとしなかった。

「私だけ逃げるなんて……!」

 使い魔を見捨てるメイジになど、ルイズはなりたくは無かった。かといって、自分に何が出来るわけでもない。その事が余計に彼女にとっては腹立たしかった。
 自分の胸の中で懊悩するルイズに、メルランは優しく話しかけた。

「大丈夫よ。あれはただの大きな土人形で、山を吹き飛ばすような魔砲を使ったり、時間を止めたり、インチキ臭い無敵設定を持ってたりなんて事は無いでしょう?」
「それはそうだろうけど……っていうかあんた達、今までどんな化物と戦ってきたのよ」
「さてさてー。……どっちにしろ、姉さん達は簡単に負けたりしない。見捨てたなんて考えなくて良いわ」
「……うん」

 例えメルランの言う通りとしても、使い魔におんぶに抱っこ状態な現状は気分が悪い――実際に今メルランに抱っこされているのも、実は少し恥ずかしく思うルイズだった。
 いくら悩もうと、ルイズに出来るのは、一刻も早くこの破壊の杖を持って安全圏まで避難し、メルランがルナサ達の援護に回れる様にする事だけだ。
 そう考えたルイズは、メルランにもう少し速度を出すように命じようとした。その瞬間、彼女の片目にノイズが走った。視界が歪み、もう片方とは別の景色が見える。これはもしや、使い魔との感覚共有だろうか。
 ルイズは興味深げにその視界から見える景色を観察し、そして、驚愕した。

「……何、これ」
「んー?」

 ルイズに見えたのは、すぐ隣にボロボロになって倒れているリリカ。目の前には巨大なゴーレムと、その肩に乗るロングビルがいる。視界の主は、ゴーレムを相手に必死に弾幕を張りながら、リリカを庇っていた。

 ――つまり、この視界は、ルナサのもの?

「な、何でミス・ロングビルとルナサが戦ってるの? リリカも倒れてるし」
「どういう事?」
「私の目がルナサと繋がってるみたい。今まで感覚共有なんて出来た事無かったのに……」
「……姉さん達は今、どうしてるか分かる?」

 狼狽するルイズから事情を聞いたメルランは、いつもの陽気な表情から血の気を引かせ、呆然とした。
 押し黙るメルランにルイズが声をかけようとした時、メルランははっと我に返って地上に降り立った。そして抱きかかえていたルイズを降ろし、再び飛び上がる。

「ルイズはここから離れて。私は様子を見てくるわ」
「待って、私も行く!」
「……駄目よ。あなたは逃げるの」

 人が変わったように冷たく言い放ったメルランに、ルイズは思わず閉口した。
 返答が無いのを肯定と受けとったのか、メルランはそのまま凄まじい速さで飛び去った。
 残されたルイズは暫くあっけに取られていたが、やがて肩を震わせて、叫んだ。

「ごごごごご主人様に向かってぇ、めめめ命令するなんて! あったまに来たぁっ!」

 ただでさえ先程無理やりに逃がされた事を不満に思っていたのに、今度は明らかな使い魔の危機に対し置き去りにされた。主として、これを見逃す訳にはいかない。
 ルイズのフラストレーションは頂点に達していた。彼女は破壊の杖を持ち直すと、メルランの後を怒り顔で追いかけた。

 ――いざとなったら私が破壊の杖で! ……使い方分かんないけど。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ――油断したっ!

 ルナサは今、ゴーレムの猛攻を大量の弾幕を張る事で防いでいた。たった一人で。リリカは先程現れたロングビル――フーケの手により不意を打たれ、気絶している。
 まさか身内に敵がいるとはルナサは考えもしていなかった。お陰で今はこの有様だ。
 妹が傷つき倒れている為にルナサは地上から離れられない上、逃げられない。彼女自信も弾幕を張り続けた消耗によって、今すぐに力尽きてもおかしくない。まさに絶体絶命の危機だった。

「はっ! ざまあないね!」
「このっ!」

 ゴーレムはその巨体に見合わず、思った以上に俊敏だった。その豪腕は何とか弾幕の波で逸らしているが、いつまで持つ事やら……。
 術者が出張っている今、弾幕ではなく演奏に集中できれば、ギーシュの時のように相手の精神をかき乱す事で勝機を見出せそうだ。しかし、ギーシュより格段に上手のフーケに、悠長に演奏する隙は無い。

「せめてメルランがいれば……」
「お生憎様。あの二人は今頃学院まで悠々と飛んでるだろうね。全く忌々しい! 結局あんた達は杖を使えないし、挙句にさっさと杖を持って逃げるなんて」
「わざわざ勝ち目の無さそうな勝負に挑むのは、愚か者のする事だわ」
「今みたいにかい? ははは! あんたにはさっき気絶させてもらった礼もある。たっぷり私のゴーレムとダンスを楽しみな!」
「結構よ……!」

 ゴーレムの攻撃はますます激しくなり、これ以上はもう耐えられそうに無い。
 ルナサは倒れたリリカを見やって、この場をどう切り抜けようか一瞬考えた。そこに隙が出来てしまった。
 唸るゴーレムの腕が、はっきりとルナサの体を捉えた。彼女は大きく吹き飛び、近くの木に叩きつけられた。

「――っ!!」

 声にならない悲鳴を上げて蹲るルナサに、フーケは哄笑してゴーレムに命令を下した。『叩き潰せ』と。
 もはやこれまでか。ルナサが諦めかけたその時、空中から大量の光弾が現れ、彼女を再び殴りつけようとしたゴーレムの拳から肩口にかけてを穿った。
 ゴーレムの動きは一瞬止まり、ルナサはすかさず力を振り絞ってその場を離れた。
 空を見上げればそこには――

「メルラン!」
「姉さんはリリカと一緒に離れていて」

 メルランは一切の表情を消して、そこに浮かんでいた。ルナサはそれを確かめると、痛む体を無理矢理に動かし、リリカの元に走った。そして力を失った妹を抱えてそこから駆け出した。
 メルランはそれを確認すると、宙に浮かせたトランペットで攻撃的な騒音をかき鳴らしながら、目の前のゴーレムとフーケを睨みつけた。

「ちっ……何でここにいるんだい」
「……」
「ふん、まあいいさ。こうなったらお前にも落とし前つけてやる。そのやっかましい音を二度とたてられない様にしてあげるよ」
「……落とし前をつけるのは、あなたの方よっ!」

 メルランは、彼女の姉とは比べ物にならない数の光弾を出現させた。三姉妹の中で最も強大な魔力を持つ彼女は今、怒り狂っていたのだ。

ξ♯・А・) ξ♯・А・) ξ♯・А・) ξ♯・А・) ξ♯・А・) ξ♯・А・) ξ♯・А・) ξ♯・А・)

 轟音と閃光に渦巻くそこに立ち入るのはかなり気が引けたが、ルイズは勇気を振り絞って足を進めた。するとそこには、彼女が始めてみるような凄まじい弾幕の嵐に身を躍らせるメルランと、それを受けつつも巨体を振り回すゴーレムの姿があった。
 ゴーレムの肩にはロングビルがいる。状況から考えて、彼女が土くれのフーケだったという事だろう。ルイズはそう結論付けると、辺りを見回して他の使い魔二人を探し始めた。

「……こっち」
「ルナサ!」

 すぐ傍から声がかけられると、ルイズそこにルナサを発見した。先程分かれた時と比べ、彼女は見るも無残な様相だった。トレードマークの帽子は破れ、服は土まみれ。全身を覆う傷は酷く痛々しい。
 それでも彼女は気丈に振る舞い、今も膝に抱いたリリカを介抱しているところだった。

「逃げなかったの? ここは危険よ」
「馬鹿言わないで。使い魔を見捨てるメイジは、メイジじゃないわ! それにメルランの奴ぅ! ご主人様を置いてけぼりにして!」
「はぁ、本当に頑固なのね。……レイラみたいだ」
「……誰?」

 ルイズの疑問に答えず、ルナサはそのままリリカの様子を診続けた。その時丁度、リリカが呻き声を上げながら、苦しそうに目を薄っすらと開いた。

「大丈夫?」
「滅茶苦茶痛い……」

 ルイズはそりゃそうだろう、とルナサと対して変わらない格好のリリカを見て思った。
 リリカはそれでも立ち上がり、未だ戦闘の終わらない広場を見てあんぐりと口を開いた。

「げえ……メルラン姉さん、キレてるじゃん」
「半分はリリカのせいね」
「もう半分は?」
「あいつ」

 本当は自分も含まれるのだろうが、あえてルナサはメルランと戦うフーケを指差した。
 フーケは必死な表情で弾幕を捌き、ゴーレムに指示を送っている。
 メルランの放つ弾幕は苛烈極まりなく、段々とフーケを追い詰めているように見えた。だが、それを見つめる二人の姉妹の目はいつになく厳しい。
 その様子にルイズは不思議そうに尋ねた。

「ねえ、メルランが優勢なんじゃないの?」
「逆ね」
「ゴーレムの体をよく見てみなよ。あと、メルラン姉さんの顔も」

 弾幕を受けて度々体を削られながらも、ゴーレムは片っ端から地面の土を吸収し、再生を果たしている。あれではいつまで経っても倒しきる事は出来ない。
 そしてメルランを見ると、彼女の怒りに燃える表情に少し翳りが見えた。強力な弾幕はそこにあるだけで、彼女の体力を容赦無く奪っていくのだ。

「それに、我を忘れているせいで弾を無駄打ちしてる」
「大きな的なのに、外してる弾が多いせいで余計消耗してる。あれだと負けるのは時間の問題だよ」
「……こ、こうなったら私が」

 血迷った事を言うルイズを、ルナサとリリカは慌てて止めた。そしてルイズが抱えている物に二人は気付いた。破壊の杖である。

「……これなら何とかなるかも」
「これの使い方、分かるの!?」
「私にも何となーく分かるよ」

 驚くルイズから破壊の杖を取り上げると、ルナサは破壊の杖の安全ピンを引き抜き、リアカバーを引き出し、インナーチューブをスライドさせた。
 ルナサはチューブに立てられた照尺を立て、そしてゴーレムに狙いを定める。そして、舌打ちした。

「このままじゃ、打てない……!」
「や、やっぱり使えないの?」
「いや、メルラン姉さんを巻き込んじゃうから」

 不安げな声を上げるルイズに、ルナサは心配はいらないとその頭を撫でた。
 子ども扱いされて怒るルイズを他所に、ルナサは思案する。リリカの言った通り、このまま打てばゴーレムの周りを飛び回るメルランにまで被害が及んでしまう。
 かといってここから大声で注意を促せば、フーケに警戒されて、破壊の杖を使うチャンスを逃してしまうかもしれない。
 何か他に手は無いかと考え、一つ思いついた。

「リリカ、私はあの娘の援護に行く。ルイズに杖の使い方を教えたら、あなたも来なさい」
「……あー、そういう事。分かったよ」
「ちょっと、どういう事?」

 話に置いてけぼりにされ怒りの声を上げるルイズに、ルナサは一言で答えた。

「ルイズがフーケを倒すのよ」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ――『冥管「ゴーストクリフォード」』

 宣言などしていない。幻想郷ではないこの世界においては無意味だからだ。
 生み出された大量の弾は、弾幕となってゴーレムを襲う。表面を削り、穿つ。しかしすぐに再生を始めるゴーレムに、メルランは決定的な打撃を与えられない。
 心の中に焦りが出てきたことを自覚しながら、メルランはそれでも戦い続けた。
 ここで自分が倒れては、傷ついた姉妹を守る事が出来ない。そしてフーケを放置すれば、いずれ主にも被害が及ぶ。遥か昔に死んだ創造主の面影を持つ主に。
 だから、ここで諦める訳にはいかないのだ。

「落ち着きなさい」
「っ! 姉さん!?」

 突如後ろからかかった声に、メルランは口から心臓が飛び出そうになる程驚いた。心臓は無いが。戦闘に集中するあまり、全くルナサの接近に気付けなかった。
 メルランはゴーレムへの弾幕を絶やす事無く、隣に浮かぶルナサに話しかけた。

「大丈夫なの!?」
「私なら無事よ。リリカも今はルイズと一緒にいるわ」
「何でルイズが? 逃げてっていったのに~」
「……怒ってたわ、ルイズ」
「うえ~」

 ルナサはメルランの表情から激情が薄れていくのを感じた。雰囲気がいつものふわふわとしたものに戻っている。全員の健在を確認して漸く落ち着いたのだろう。
 メルランが正気に戻ったのは良いが、ルナサ自信は消耗と怪我によって今にも倒れそうだった。これでは演奏に集中も出来そうに無い。やはり、ルイズに託すしかあるまい。とルナサは弾幕を放ちながら考えていた。
 そこへ、待ち望んだ妹の声がかかる。

「ルナサ姉さん、メルラン姉さん!」
「リリカ!」
「ルイズの方は大丈夫?」
「ばっちり! タイミングはルイズに任せたよ」
「そう。じゃあ久しぶりの『合葬』、いってみましょうか」

 返答をするまでも無く、三人は一斉に間隔を取った。それぞれに楽器を構え、集中する。
 その時、三姉妹の体に不可思議な高揚感が現れた。体の奥から力が後から後から湧きだしてくる。そして、己の左手甲に刻まれた文様が光り輝いている事に、三人は気付いた。

「何これ?」
「ぴかぴかしてるわー」
「……害は無さそうね。やるわよ」

 ――『騒符「ライブポルターガイスト」』


 弾幕と演奏が一層激しくなったのを、ルイズは戦闘から少し離れた茂みより観察していた。彼女の肩にはリリカから使い方を教授された破壊の杖――正しくは『ロケットランチャー』とか言う物が担がれている。
 ルイズは呼吸を荒くして、戦況をランチャーの照尺から覗いていた。リリカはちゃんと当たると言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか。ルイズは不安に思っていた。
 そもそも、引き金を引くだけで発動するのは、魔法が関わっていない道具という事だ。魔法の優位性を良く分かっているルイズにとって、肩のランチャーは信用に値するものかどうか、迷ってしまうのだった。

 ――ええい! 使い魔を信じられないようじゃ、立派なメイジになんてなれないわ!

 いつ撃つかのタイミングは任されている。ルイズは精神を集中させ、使い魔達の演奏の合間に現れるだろう、絶対の瞬間を待ち続ける。
 まだか、まだなのか。機を計りあぐねてルイズが焦れ始めた時、彼女の脳裏にイメージが流れ込んだ。弾幕を撃つ、二人で同時に仕掛ける、一旦離れる。

 ――これ、また『共有』?

 使い魔達の考えている事が分かる。これならば、絶妙のタイミングで!
 演奏が途切れる直前、ルイズは即座に引き金を引いた。やたらと軽い間抜けな音と共に、それは発射された。
 白煙を出しながら、弾頭はゴーレムの体に吸い込まれる。同時に三姉妹は一気にその場から離れた。その瞬間、普段ルイズの使う失敗魔法より格段に強力な爆発がゴーレムを飲み込み、破砕した。

「……や、やったわ」

 崩れ落ちたゴーレムを確認すると、ルイズはそのままへたり込んで、軽くなったランチャーを取り落とした。
 そこに三姉妹が近づいてくる。

「今の、私達が離れる瞬間が良く分かったわね」
「演奏はまだまだだけど、弾幕のセッションはばっちりねー」
「いや、今の弾幕じゃないし」

 口々に騒ぎ立てる使い魔に、ルイズは漸く戦いは終わったのだと安堵した。
 大きく溜息をつくと、ボロボロになりながらも笑顔を浮かべている彼女達の元気そうな姿に、ルイズもまた笑顔となった。

「そういえば、ミス・ロングビル――フーケは?」
「あっちでのびてる。運の良い人ね」

 ルナサが指し示した先に、ルイズはゴーレムの残骸の中で目を回すフーケを発見した。
 生きていたのは確かに良かっただろうが、役人に引き渡せば縛り首は免れまい。本人にとっては運が良いのやら悪いのやら。
 これからフーケが受ける報いを想像する。少し彼女を気の毒に思いながら、ルイズは再び溜息をついて、大の字に寝転がった。

 ――やっと終わった……。

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