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ゼロのイチコ06


「学院長!」
学院長室のドアを開き、部屋の中央で立ち止まる。
引っ張ってきたイチコを床付近に置くと、自らも頭を下げる。
「申し訳ありません、昨日の宝物庫盗難に私の使い魔が関わっていました!」
顔を下げているので学院長の顔は窺い知れない。
けれどもこれだけの事態を引き起こしたのは事実。
どんな処罰も受けるつもりだ。

朝の食堂は昨日の盗難事件の話で持ちきりだった。
あの頑丈な宝物庫から宝を盗み出されたのだ。金銭以前に学院の誇りに関わる事だ。
しかも犯人は学院長の書記のミス・ロングビル。
間違いなく学院の歴史に残る大事件である。
そんな事件も生徒にとって直接に実害のある話ではない、噂話の格好のタネになっていた。
特に女生徒の間では根も葉もない噂が飛び交っている。
ロングビルは脅されてやったのでは? というモノから
学院長が色仕掛けで宝物庫の鍵を取られたんじゃないか、などという酷いものまであった。
私自身は大変な事態だとは思った。けれど、噂話に花を咲かせる気も無かったし。事件に首をつっこむ気も無かった。
「ご主人様、もしかして私が共犯者かもしれません」
なんてイチコが青い顔で言うまでは。
どういう事かと食堂から連れ出して問い詰めると、昨日の夕方ミス・ロングビルに頼まれて宝物庫の解呪作業を手伝ったらしい。
宝物庫は基本的に外からの侵入を防ぐための魔法をかけてあったらしく。
中から見る事が出来ればただの小難しいパズルだったのだろう。
そうか、イチコにそんな便利な使い方が。
じゃなくて大問題だ。
使い魔がしでかした事は主人である自分の責任。
ロングビルがなんのつもりで盗み出したか知らないけれど、悪党に貴重な魔法道具を盗まれたのである。
悪くいけば絞首刑も免れない。
私はイチコの首根っこを掴むと学院長室へと向かった。



「昨日の夕刻、私の使い魔が宝物庫を開けるさいに内側の魔方陣の内容をロングビルに伝えた事が分かりました」
反応の無い学院長に、さらに詳細な報告をする。
「覚悟は出来ております、なにとぞ処罰を。もし許されるのであればロングビルから宝物を取り返してきます!」
「え、えと。あの、ごめんなさい」
隣で同じようにイチコが謝る。
それに対して学院長は
「まあ顔をあげなさい、ミス・ヴァリエール」
顔を上げる、髭をなぞり、眉根をひそめた学院長が目に入った。
「今回の件で問題があるとすれば、ろくに調べもせずにロングビルを雇ったワシの責任じゃ」
そう言って大きな椅子から立ち上がる。
「だから、そんなに気に病むことは無い。もうすぐ授業の時間であろう。もう行きなさい」
「しかし!」
「すでに数名の教師たちが捕獲に向かっておる。じきに犯人は捕まるだろう」
そう私の肩を優しく叩くと元の席に戻る。
そしてタバコを吹かしはじめた。
「それでも、何の処罰も無いのは納得が……」
「何度も言うように、今回はワシの失態じゃ。そう老人をいじめんでおくれ」
「――っ、分かりました失礼いたします」
隣で正座していたイチコの髪を掴むと、早足で学院長室を出た。


早足で自室に戻るとイチコを宙に放り投げる。
そして、床に転がってたデルフリンガーを拾うと背中に括りつける。
何も無いよりはいくらかマシだろう。
「痛いですよご主人様~」
「なに? 今あなたは何か反論できる立場にあるのかしら?」
そもそもの原因を睨みつけると、へなへなと小さくなった。
「い、いえ。ごめんなさい」
「なんだぁ、随分と機嫌がわりぃじゃねぇか。なんかあったのか?」
喋る剣に関しては無視する事にした。
イチコとはよく喋っているようだが、私は剣と親交を深める気は毛頭ない。
「じゃあ行くわよ」
扉を開けて廊下に出る。
「あの、デルフさんは私が持ちますよ?」
「アンタに任せてたら日が暮れるわ」
階段を降りる。
「何処に行くんですか?」
「ロングビルを追うのよ」
「ぇええ?!!」
「声が大きい!」
頭を軽く叩いた。空中を前回転した。
そして頭を抑え、また早口で喋りだした。
「ど、どど、どうしてそうなるんですか?! 教師の方が追ってるのでは?
いえいえ、それ以前にいくらご主人様が学校の成績が良いと言う事は存じています。
しかし相手は元教師。私たちだけでは捕まえられるとも……
あぁ、ご主人さま死なないでください~」
まだ戦うどころか建物すら出てないのに涙ぐむイチコ。
相変わらず忙しい子である。

「イチコ、なんでオールド・オスマンが私を処罰しなかったか分かる?」
足を止め、イチコの顔を正面から見る。
「ぇ、ぇえと。私が原因でご主人様のせいじゃないから……ですか?」
それはない、過去の例をみても使い魔が起こした事件はすべて主人の責任となっている。
「違うわ、私が公爵家の娘だからよ」
しかもトリステイン王国でもトップに位置する。自治領がある大公爵家の娘。うかつに処罰できないのも分かる。
だからと言ってそれが逆に権力を傘にしているようで我慢ならない。
正当な処罰なら受ける覚悟はあるし、それを権力で回避するなどプライドが許さない。
プライドは誇りだ。貴族が真っ先に守るべきものである。
「だから、私は自分で自分を罰する。宝を取り返してくれば多少なりとも罪の清算はできるから」
「で、でも危ないですよ。死んじゃうかもしれないんですよ。死んだら私みたいになっちゃいますよ」
「誇りが汚されるぐらいなら死んだほうがマシよ」
「ぇ、でも……」
「いいから、行くわよ!」
再び階段を降りはじめた。
けど、イチコが付いてこない。
「どうしたの?」
「い、いえ。すいません」
ふわふわと、私の後ろ斜め。いつもの位置へと付いた。


馬を出し、裏門からこっそり学園を抜け出る。
食堂でいくらでも噂話は耳に飛び込んできていた。
話によればロングビルは学園を出て東へと馬を飛ばしたらしい。私も同じ方向へと馬頭を向ける。
天気はこれでもかというぐらいの快晴だった。
イチコは私の腰に捕まり、馬の振動に合わせてふわふわと揺れている。
珍しく何も喋ろうとはしなかった。
先ほどの会話を最後に一言も喋らない。それにあの時イチコは悲しそうな顔をした。
何故だろう。
貴族である限り死と隣り合わせであるのは当たり前。
ゆえに誇りを保つことは死を回避するよりも優先されることだ。
学院に通っていたというイチコだ、あなたも生前に貴族だったなら分かるはずだ……

しばらく進むと小さな集落があった。
そこで話を聞こうと思ったのだけど。
「あれは……」
馬を茂みに隠す。集落の一番大きな家に運び込まれている怪我人。よく見ると見覚えのある顔がいくつか見える。学院の先生だった。
今は授業中、どうやらロングビルを捕まえに来た先生のようだ。
みんな酷い怪我を負っていた。
よく見ると片腕を失ってる人も居る。その事実に少し背中が寒くなった。自分も一歩間違えれば、ああなると言う事だ。
先ほどのイチコの声が頭の中を流れる「死んじゃうかもしれない」と、確かにそうだ。
そんなに甘い相手だとは思っていない。
それでも私は引くわけにはいかない。
命を懸けてでも守らなければならない。イチコが原因だとかそういう事はもはや関係なかった。
私が貴族であり続けるために、たとえ魔法が使えなくても。たとえ片手を無くしても、命を落とすことがあっても。
「私は……」
絶対に背を向けたりはしない。

ちょうどこちらへと歩いてくる女性が居た。
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど……」


女性の話によると森の奥、昔きこりが住んでいた小屋に盗賊が住み着いたらしい。
それを退治しようとやってきた先生たちが返り討ちにあったと。
つまりロングビルはそれだけ手練の魔法使いという事だ。スクウェアか最低でもトライアングルクラスの魔法使いだと予想できる。
ともかく馬をそのきこり小屋に向けた。

再度出発してもイチコは何も話さなかった。
「何か言いたい事があるなら言いなさい」
「え?」
急に話し掛けられて、何のことか分かってないようだ。
馬にのった辺りからまったく喋っていない。
いつも騒がしいから静かだとなんか不気味だ。
「ずっと黙りこくって、何か言いたい事があるんでしょ?」
「そ、その……」
「宝物庫の事だったら今は忘れなさい。罪が無いとは言わないけど、騙されてもしょうがない状況ではあったわ」
ロングビルは他の先生や生徒たちにも信頼がある人だった。騙されてもおかしくはない。
「は、はぃ……」
と肯定したものの、まだ何か言いたそうにしているようだ。顔が全然戻っていない。
そこにデルフリンガーが口を挟んだ。
「相棒は優しいからねぇ、さっき死ぬだの言った事を気にしてるんだろ?」
「そうなの?」
誇りを汚すぐらいなら死んだほうがマシ、とは確かに言ったけれど。
「はい。わたし……」
伏し目がちだった視線がまっすぐ私に向いた。
「ご主人様に死んでほしくないんです!」
手を握りこぶしにするぐらいに主張した。
その言葉にキョトンとした顔になった、と思う。
「えと、貴族が誇りが大事ってのはなんとなく分かるんです。でも死んじゃったら何も出来ないじゃないですか。
死んじゃったらご主人様と話せなくなっちゃいますし、こんなにご迷惑をかけていますのにご恩返しが出来ていません。
いえ、私みたいに幽霊になるかもしれないんでしょうけど私のほうがきっと奇特な方だと思いますし。
普通は死んだらそのまま天国へぱーっと行っちゃうと思うんです。
もうそう考えたら一子は悲しくて悲しくて、うぅ」
と涙目になってこちらを見てくる。
もっと深刻なことで落ち込んでいると思ったのに、そんな勘違いでうじうじしていたのか。そう思うと少しおかしくなった
「バカ、私だって死にたくは無いわよ」
少し肩の力が抜けた。
やはりイチコはのんきに笑っているのが良いと思う。
「絶対生きて帰るわよ」
その言葉に呼応するように、イチコは想いっきり首を縦に振った。
「はい!」


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