今ではないいつか、ここではないどこか。
戦場の中で二人の女性が足を進めていた。
一人は虎の様な耳と尾を持ち、身の丈に合わぬ大剣を片手に酒を呑んでいる。
もう一人は鷲の羽根の様な耳を持ち、腰に日本刀を帯びている……が、現在心ここに在らず……といった状態だった。
もう一人は鷲の羽根の様な耳を持ち、腰に日本刀を帯びている……が、現在心ここに在らず……といった状態だった。
彼女達の名前は、カルラとトウカ。
先の大戦でクンネカムンのウィツァルネミテア全土への進行を阻止し、一躍最強国へと踊り出たトゥスクルの将軍である。
もっとも、現在は"ある出来事"によって皇のハクオロが去った為、家臣のベナウィが国を治めているのだが。
先の大戦でクンネカムンのウィツァルネミテア全土への進行を阻止し、一躍最強国へと踊り出たトゥスクルの将軍である。
もっとも、現在は"ある出来事"によって皇のハクオロが去った為、家臣のベナウィが国を治めているのだが。
暫くの間、二人は無言で歩いていたが、トウカがぽつりと言葉をこぼした。
「……ここは何処だ?」
「何処かしらねー」
「何処かしらねー」
トウカの思考回路は現在まともに働いていない、真剣に何故こんな所に居るのか判らない……といった表情だ。
しかしカルラはそっけなく答えて歩き続ける。その声とは裏腹に、表情は実に楽しそうだ。
しかしカルラはそっけなく答えて歩き続ける。その声とは裏腹に、表情は実に楽しそうだ。
「何故、某がいくさ場の真っ只中にいる?」
「何故かしらねー」
「何故かしらねー」
「我関せず」といったカルラの態度に対し、遂にトウカの思考が正常に戻った。
「くぅぅぅぅ、少しでもお前を信じて付いてきた某が馬鹿だった!」
カルラに付いて行って碌な事が有った試しが無い。
すっかり記憶から抜け落ちていた情報を今更思い出し、頭を抱えた。
すっかり記憶から抜け落ちていた情報を今更思い出し、頭を抱えた。
「だって、退屈なんですもの」
対するカルラは満面の笑みで振り返る。
「貴様は退屈だからと言って、共に戦った仲間を雇兵(アンクアム)として売飛ばすのか!!」
「売飛ばしてなんかいませんわよ。お金なんか貰ってませんもの」
そう言うと手に持つ酒をぐいーっと呷る。
ぷはぁ……と息を吐いてトウカの方へ顔を向けた。
ぷはぁ……と息を吐いてトウカの方へ顔を向けた。
「……では聞くが、その酒は何処で手に入れた」
「交換しましたの」
「なら良いのだが……ん?」
「交換しましたの」
「なら良いのだが……ん?」
交換した?何と?…………某と?
「世間ではそれを売ったと言うんだぁぁぁぁぁあ!!!!」
今に泣き出すのでは無いか、と言った表情でカルラに向かって怒鳴りつける。
もっとも、カルラに説教など蛙の面に水を掛けるような物で、大して効果は無いのだが。
もっとも、カルラに説教など蛙の面に水を掛けるような物で、大して効果は無いのだが。
「そんなに大きな声で叫ぶと、来て欲しくも無いものが来てしまいますわよ?」
「そ、それもそうだが……む?」
「そ、それもそうだが……む?」
――空気が変わった気がした。
振り向いたカルラとトウカが目にしたものは"光る鏡"
あまりにも突然の出現に、二人は思わず身構える。
あまりにも突然の出現に、二人は思わず身構える。
「この光は……法術?」
「変ですわね……この戦にオンカミヤリューの術師達は参戦していない筈……
それにこのような術などウルトやカミュにも聞いた事がありませんわ」
「とすると……これは一体……?」
「んー……放置した方が安全かしらねぇ……」
「変ですわね……この戦にオンカミヤリューの術師達は参戦していない筈……
それにこのような術などウルトやカミュにも聞いた事がありませんわ」
「とすると……これは一体……?」
「んー……放置した方が安全かしらねぇ……」
この光る鏡に危険を感じつつも、興味が無いといえば嘘になる。
臨戦態勢のまま、一頻り鏡を見渡した後にカルラがポツリと一言。
臨戦態勢のまま、一頻り鏡を見渡した後にカルラがポツリと一言。
「……叩き割ってみようかしら?」
「お、おいカルラ!?些か軽率じゃないか?」
「平気ですわよ、多分」
「よせ!どうなっても知らんぞ!」
「お、おいカルラ!?些か軽率じゃないか?」
「平気ですわよ、多分」
「よせ!どうなっても知らんぞ!」
トウカの忠告をスルーし、カルラは自身の大剣を振りかぶり―――
「ハァァァァアアアアッ!!!」
―――気合と共に振り下ろした………が
「何!?」
「クッ!」
「クッ!」
鏡は砕ける所かその大剣を飲み込み、あまつさえカルラの両手を捕らえて離さない。
手と大剣はカルラの人外の力を持ってしても抜けず、それどころか徐々に全身を引き込んで行く。
手と大剣はカルラの人外の力を持ってしても抜けず、それどころか徐々に全身を引き込んで行く。
「忠告を……聞いていれば良かったですわ……ねッ!」
「カルラッ!」
「カルラッ!」
トウカがカルラの肩を掴むと同時に、鏡の力が強まる。
一気に二人を引き込むと、まるでそこに何も存在して居なかったかの様に、鏡は消え失せた。
一気に二人を引き込むと、まるでそこに何も存在して居なかったかの様に、鏡は消え失せた。
――愛しき主人を失った二人の強き女性を乗せて……
――新たな主人となる一人の少女を乗せて……
――そして全ての元凶となる希望と絶望を乗せて……
――ハルケギニアの運命を乗せた歯車は今、ゆっくりとゆっくりと動き出して行く。