あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ディセプティコン・ゼロ-10

浮遊大陸アルビオンの北東部に位置する港町、スカボロー。
其処より更に200リーグ北東、大陸から突き出した岬の先端に聳え立つは、名城と謳われしニューカッスル城。
5万の敵に幾重にも取り囲まれ、度重なる戦艦からの砲撃を受け傷付いて尚、その威容は損なわれる事が無い。
その姿は正しく、この地にて最後を迎えんとする王党派の誇りを代弁するものであり、同時に彼等の墓標としてはこれ以上無く相応しいものであった。
そして、その巨大な墓標を包囲する5万の貴族派兵士の中、傭兵達は迫る突入の時へと思いを馳せ、損得勘定に精を出す。

「……どうせあの戦艦が1発ブチかました後だろ? 生き残りなんか居るもんか」
「解らねぇぞ、風の魔法で砲弾を凌いでいるかもしれねぇ」
「俺達を先頭にして突っ込ませるって聞いたが、ありゃガセか?」
「さあな……ま、上手くやりゃ生きて城内に入れるさ。そしたら後はお宝だ。連中が持ち込んだ財宝がどれだけ在るか……」
「馬鹿、財宝なんざロンディニウムの連中が粗方かっぱらっちまったじゃねぇか。こんな場末の城に目ぼしいお宝なんか在るもんか」
「いや。連中、結構な荷物抱えて此処に入ったからな。もしかしたら……おい、何だこの音?」

突如、何処からか轟きだした律動音に、彼等は揃って周囲を見渡す。
見れば他の兵達や指揮官の貴族すらも、この不気味な重低音の発生源を探して忙しなく首を動かしていた。
やがて兵の1人が、南東の方角より接近する奇妙な物体をその視界に捉える。

「見ろ、あれだ!」

その声に、彼等は一斉に彼の指す方角へと向き直った。
物体はその間にも驚くべき速度で距離を詰め、瞬く間に彼等の頭上へと差し掛かる。
そしてその巨体が、更に上空に浮かぶレコン・キスタ旗艦『レキシントン』の影に重なった瞬間―――――



白い尾を引く無数の火球と共に、鋼鉄の異形が地へと放たれた。





「話には聞いてたけど……凄いな」

地上の混乱を銃座から見下ろしつつ、身震いするかの様にギーシュは呟く。
その声はローターの轟音に遮られて誰の耳にも届く事はなかったが、ブラックアウトの機内に居る一同、多少の差異は在れど似た様な心境だった。

「……あれはゴーレムなのかい?」

ワルドが爆炎と土煙に覆われる地上を呆然と眺めつつ、傍らのルイズへと問い掛ける。
ルイズは曖昧な笑みを浮かべると、困った様に答えを返した。

「まあ……そんなところです」

次いで頭上を見上げ、轟然と空に浮かぶ巨大な戦艦を睨む。
釣られてワルドも頭上を見遣ると、その顔に険しい表情を浮かべて呟いた。

「アルビオン空軍旗艦『ロイヤル・ソヴリン』号だ……貴族派に乗っ取られたらしいな」

その名前ならルイズも聞いた事が在る。
ハルケギニア最強と謳われるアルビオン空軍、その艦隊中枢である巨艦『ロイヤル・ソヴリン』号。
その巨体に見合わぬ高速性を持ち、百を超える砲門と無数の竜騎兵を積んだ、空中の動く要塞。
聞き齧っただけの話だが、トリステイン空軍はあの怪物との戦闘を想定した際、実に6隻の戦列艦が必要との結論に達したという。
しかも確実に勝てるという訳ではなく、少なくとも同等に戦うにはそれだけの戦力が必要との事だ。
正しく、空軍大国であるアルビオンを象徴する艦といえる。
しかしそんな化け物が頭上に浮かんでいるにも拘らず、不思議とルイズは恐れる気にはならなかった。
それは根拠の無い自信などではなく、ブラックアウトに対する絶対の信頼から来るもの。
傍らのワルドへと目を遣れば、彼もまた確信に満ちた笑みを浮かべていた。




「大丈夫だ。この状態で砲撃すれば、味方を巻き込んでしまう。代わりに連中が寄越すのは……」

その時、コックピットのすぐ外側を、紅蓮の火球が掠め飛んだ。
反射的に横を見れば、其処には十を超える竜騎兵の姿。
アルビオンが誇る火竜騎兵だ。

「来たぞ!」
「ブラックアウト!」

ルイズが叫ぶより早く、ブラックアウトは戦闘機動を開始した。
速度を上げつつ、左にスライドして火球を遣り過ごす。
出し得る最高速度で『ロイヤル・ソヴリン』号の影から飛び出し、敵兵の頭上を飛び越えると同時に、砲声と共に降り注ぐ散弾を振り切ってニューカッスル城へと直進。
速度を落とし、挑発するかの様にテールを振る。
果たして、竜騎兵達は激昂したのか、一様にブラックアウトとの距離を詰めてきた。
味方が射線に入る為に『ロイヤル・ソヴリン』号は砲撃を中止し、ブラックアウトは低速を保ったまま悠々と低空を飛び抜ける。
やがて竜騎兵達はブラックアウトをブレスの射程に捉え、一斉に火球を発射しようと愛騎に指示を下す、その直前。
突如としてブラックアウトが進路を変え、急減速と共に彼等の眼前で急激な右旋回を行う。
そして追従が間に合わず、ブラックアウトを追い抜いた彼等の目と鼻の先には、悠然と佇むニューカッスル城の姿。



次の瞬間、彼等は城の至る所から打ち上げられた魔法の弾幕に飛び込み、原形を留めぬ肉片となってニューカッスルの空へと散った。



「どうやら味方だと判断したみたいだ」
「そうね」

機内で壁へと身体を固定しつつ言葉を交わす、ギーシュとキュルケ。
口調こそ普段と変わらぬものの、双方とも顔色は悪い。
急激な戦闘機動で気分を悪くしたらしい。
タバサは何時の間にか、壁際のベルトを使って確りと身体を固定していた。
銃座から覗く狭い空を見詰めていた彼女の目に、粗い岩肌が映り込む。

「……大陸の下に入った」
「あら、ホント」

やがて白い雲が視界に移り込んだ頃、ギーシュが慌てて銃座の窓を閉める。
同時にコックピットに居るルイズとワルドの視界が雲に閉ざされ、忽ちブラックアウトの周囲は白い闇、続いて大陸の陰に入った事による漆黒の闇に覆われた。

「……この使い魔は、周りが見えているのかな?」
「ええ……ほら」

ふと洩れたワルドの呟きに、ルイズはモニターを指差す。
其処には『城塞直下に船影探知』と表示されていた。
更に、詳細な情報が次から次へと表示されては消えてゆく。

「この情報によると、不明船舶はニューカッスル城直下から降下してきたとありますわ。恐らくは王党派の船でしょう。大陸下方に秘密の港でも在るのでは」

凄まじい早さで表示されては消えてゆく情報の量とその詳細さ、そしてそれを正確に読み取るルイズ。
その両者に対しワルドは内心、驚嘆の念を抱かずにはいられなかった。

久し振りに会った婚約者は、昔からは考えられぬ程に成長している。
強力な使い魔を従え、大量の情報を苦も無く処理するその姿に、心無い侮蔑の言葉に傷付いていた少女の面影は見受けられない。
彼女は、本当に成長した。
自分はどうか?
自分がこれから為そうとしている事は、果たして成長の結果と胸を張って言えるものだろうか?



そんな自嘲の念を抱くワルドを余所に、ルイズは内心で冷や汗を拭っていた。
この情報の読み取りは普段からデルフによって叩き込まれていた技能だったが、デルフのサポート無しでの読み取りはこれが初めてである。
しくじった時の事を考え内心では戦々恐々としていたのだが、何とかそれを面に出す事無く情報の内容を伝えたのだ。
思わず軽く息を吐くルイズ。
その時ブラックアウトが減速し、前方の暗闇に淡い光が浮かび上がった。

「何だ……?」
「あれは……船の舷側?」

やがてはっきりと暗闇に浮かび上がったそれは、紛う事無き船だった。
甲板には複数の人影が動き回り、此方を指差しながら何事か怒鳴っている。
ブラックアウトはその喧騒を無視し、船首近くで静止するとそのまま上昇を開始した。

「成る程、この港から出航して貴族派の物資輸送船を襲っていたのか」

感心した様に呟くワルド。
直後、眼前に大勢の人間が犇く広場が姿を現した。
やはり彼等も、突然の侵入者に慌てふためいている。
ブラックアウトはゆっくりと広場の上に移動すると、ギアを出して極力静かに着地した。
そしてローターの騒音が幾分和らいだ頃、先ほどの船が後を追う様に彼等の昇ってきた縦穴から現れる。
舷側を此方に向け、全ての砲門を開いたそれは、妙な真似をすれば即座に撃つとの意思を如実に表していた。
やがてその舷側に金髪の精悍な青年が現れ、完全にローターの停止したブラックアウトへと叫ぶ。

「杖と剣を捨て投降せよ! ここは我等アルビオン王家と英雄達の墓! 汚す事罷りならぬ!」

砲と、矢と、剣と、杖と。
ありとあらゆる武器、そして魔法に囲まれる中、巨大な機体から人影が歩み出る。
黒い羽根付き帽に、グリフォンの刺繍の入った黒いマント。
髭を生やした端整な容姿の男。
続いて歩み出たのは、桃色の髪も目に鮮やかな少女。
この思わぬ2人の来訪者に、周囲の王党派兵士達は一瞬だが呆気に取られる。
其処に、港へと走り込んできた伝令の兵が声高に叫んだ。

「ほ、報告! 叛徒どもは巨大な蠍のゴーレムによって混乱状態! 敵戦線が崩壊を始めています! 蠍を投下した竜の行方は……う、うわッ!?」

報告の途中でその兵は、行方を眩ませた『竜』が目の前に居る事に気付き、盛大に声を上げる。
そんな中、ルイズは1歩前へと踏み出し、毅然と声を張った。



「トリステイン王女、アンリエッタ姫殿下より大使の任を受けて参りました、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。不躾ですが、ウェールズ皇太子にお取り次ぎ願います」







ルイズ達がウェールズと共に彼の居室へと向かった後、キュルケ、タバサ、ギーシュの3人はデルフを携え、ニューカッスル城の宝物庫へと向かっていた。
デルフが今までに見た数々の城の構造から大まかに当たりを付け、その案内に従っての宝物庫探索という妙に信頼性に欠けるものだったが。
しかし意外や意外、彼等は見事に宝物庫へと辿り着いてしまった。
既に敗北を目前に控えた為か、見張りすら立たない其処はそれなりの鍵と固定化が掛けられてはいたが、デルフのトーチによって呆気無く口を開く。
そして侵入した宝物庫は眩く輝く金銀財宝ではなく、朽ち掛けた木製あるいは鉄製の箱が所狭しと並んでいた。
つい最近運び込まれたらしきものから埃を被ったものまで様々な箱が置かれる中、亜人型へと変形したデルフがそれらを纏めてスキャンする。
数秒ほどして、彼は部屋の一角を指差した。

「ギーシュ、壁際の赤い箱の下、鉄製の蓋」
「解った」
「んでキュルケの嬢ちゃん、あのチェストん中を適当にひっくり返してみてくれ」
「何でアタシは嬢ちゃんって付けるのよ……」
「私は?」
「俺とタバサの嬢ちゃんは見張り」
「楽」

そして数分後、彼等の前には2つの物体が鎮座していた。

「……銃ね」
「……銃だな」
「……銃」
「……銃だね」

それはデルフが見せた映像と然程変わらぬ型を持つ銃と、側面に幾つもの穴が開けられた漆黒の銃だった。
ギーシュがそれを持ち上げようと試み、予想以上の重さによろめく。

「お、重ッ」
「馬鹿、落とすなよ」
「む、向こうの兵隊は皆、こんな物を持っているのかい? 随分と精強なんだな」

何とか2つの銃を担ぎ上げた彼等は、こそこそと宝物庫から顔を出した。
人気の無い通路を宛がわれた部屋目指し、忍び足で歩く彼等の姿は成る程、火事場泥棒と呼ぶに相応しい。
やがて何とかキュルケとタバサの部屋へと辿り着いた彼等は、荷物を降ろすと同時に深い溜息を吐いた。

「何とかなったわね……うん、なかなか……クセになりそう」
「僕はもう御免だ……」
「なかなか楽しい」

3人が各々好き勝手に感想を述べる中、デルフは其々の銃を手に取り状態を確かめる。
キュルケ達も興味が湧いたのか、近寄ってきては物珍しげに2つの銃を覗き込んだ。

「……しかし見れば見るほど薄気味悪い銃ね。何と言うか……『骨』みたい」
「そうかな。僕には随分と頑丈な造りに見えるけど」
「構造とか、そういう問題じゃないのよ。その、上手く言えないんだけど」
「……不気味」
「そう、そうなのよ。良く解らないんだけど、不気味としか……」

そう言って、心底気味が悪いといった様子で後ずさるキュルケ。
タバサも同意なのか、キュルケ曰く『骨』を思わせる銃を身動ぎもせずに見詰めていた。
デルフは銃に目を落としたまま、そんな2人へと語り掛ける。



「強ち外れでもねーぞ。コイツは十分に曰く付きだ」
「へえ」
「そうなの?」

興味深げに訊き返す2人と無言のまま銃を見詰めるタバサに、デルフはその銃の異名を告げた。



「コイツの渾名はな、『ヒトラーの電動鋸』ってぇのさ」





ルイズは宛がわれた部屋の窓から、月明かりに照らされる敵の布陣を眺めていた。
既にスコルポノックによる攻撃は鳴りを潜め、敵の前線は2リーグほど後退した所で踏み止まっている。
地中からの奇襲を警戒しているのか、地面の一部を鉄に錬金する程の念の入れ様だ。
この強力な援軍に王党派は歓喜の声を上げ、貴族達は次々とルイズに賞賛を浴びせたが、彼女の心は重く沈んだままである。

「何で……何で死のうとするのよ……」

ルイズには恋人の哀願さえも振り切り、自ら死に赴こうとするウェールズの、その姿が理解出来なかった。
何故、最愛の女性の許へと向かおうとしないのか、その理由が理解出来なかった。
否、理解はしていたが、それを認める事が出来なかった。

「おかしいわ……こんなの絶対におかしい……」

何故、愛し合う者同士が引き裂かれなければならないのか。
何故、あんな恥知らずどもが我が物顔でのさばっているのか。
何故、これ程までに誇り高き者達が死ななければならないのか。

「絶対におかしいわよ……ねえ、そう思うでしょ」

ルイズは、今は地下の港で羽を休めるブラックアウトを思い浮かべ、小さく呟く。
何故か脳裏に浮かんだのは、婚約者であるワルドではなく、強大な己の使い魔の姿だった。

「時間は在る……」

ルイズはウェールズとの会話を思い出す。
3日後の朝、非戦闘員を乗せた船が退避する際に於いて、彼女達はその護衛の役を託されていた。
現在、王党派が有する船は地下で見掛けた『イーグル』号、只1隻のみ。
とても非戦闘員全てが乗れる大きさではないものの、ともかく乗れるだけの人員を乗せてラ・ロシェールへと向け出航するとの事。
その航海中の安全を確保する為、ルイズ達は今暫くこのニューカッスル城に滞在する事となったのだ。

「説得しなくちゃ……」

そう呟くルイズの耳に、遠雷の様な爆発音が届く。
ふと顔を上げれば、敵陣から少々離れた位置に爆炎が上がっているではないか。
どうやら敵の斥候がスコルポノックに発見され、砲撃を受けたらしい。
その揺らめく炎を眺めていたルイズは、背後で音も無く閉じられる扉に気付く事はなかった。








僅かなランプに照らされるだけの暗い通路を、彼は夢遊病者の様な足取りで歩んでいた。
その顔はまるで仮面を被ったかの様に無表情であり、深く思慮に沈む内面を表に晒さぬ様、分厚い壁を外皮に貼り付けている。

全てが予想外だ。
予定では、アルビオンへと到達するのは2日後の昼前だったのだが。
まさかルイズの使い魔が、半日足らずで学院からアルビオンまで飛べるだけの速度と持久力を持っていたとは。

ふと彼は足を止め、窓から覗く遠方の焔を見詰めた。
あの焔の根元ではどの様な惨劇が繰り広げられているのかと思考しつつ、彼は視線をずらして月を見上げた。

……しかし、お蔭で時間は出来た。
総攻撃が始まるのは3日後、その間に頃合を見計らってウェールズを……

其処まで考えた時、彼は舌打ちと共に表情を歪める。

何て事だ。
肝心な事を忘れていた。
自分は『イーグル』号の出航と共に、アルビオンを離れる事になっていたではないか。
これでは残って、彼等を誘き出す事が出来ない。

思わず拳を握り締め、それでも何とか思考を落ち着かせて計略を練る。

……かといって、暗殺の事実を他国に洩らす事だけは避けねばならない。
即ち、『イーグル』号出帆以前に暗殺を実行するのは不可能。
だが。

脳裏に浮かんだ案に、彼は拳に込める力を更に増した。
それは良心の呵責と、覚悟の足らぬ己に対する憤りから来る力。

……だがそもそも、それは『イーグル』号が出帆すればの話だ。
脱出すら出来ず、この城に存在する全ての者達が『戦死』してしまえば……

敵陣の外れから再び、轟音と共に土煙が噴き上がる。
その様を見詰めながら、彼は自らの主君たる少女の姿を思い浮かべた。

……他に頼る者が居なかったのだろうが、だからといって自らの親友を戦地に送り込むとは。
貴女が余計な真似さえしなければ、彼女は―――――ルイズは死なずに済んだものを。
幾ら強力な使い魔を従えているとはいえ、彼女は魔法の使えないメイジだ。
自身の目的からすれば、彼女の価値は只の平民と変わりが無い。
しかしそれでも、思い出の中の彼女は幼く、謂わば妹の様な存在なのだ。
甘い考えとは自覚しているが、出来る事ならば殺したくなどない。
しかしそれも、最早叶わぬ願いだ。



月に照らされたその顔に、悲壮な決意が浮かび上がる。
そして一瞬にして無表情の仮面を被った彼―――――ワルドはマントを翻し、通路の先の暗闇へと消え去った。








「出航は明後日の朝だ。それより早く出る船なんざ……いや、待てよ」

そう言うと無骨ななりをした船員は、別の枝に停泊している船を指す。

「あすこの『アケロン』号なら明日の昼過ぎには出るぜ。明後日の早朝にはスカボローに着く」

それを聞いたフーケは男に銀貨を3枚握らせると、話を付けるべく『アケロン』号へと向かった。
他よりも幾分若い『アケロン』号船長が言うには、アルビオンが最接近する頃合を見計らって到着する様に出航するという。
明日の昼にもう一度顔を出す事を伝え、2枚ほど金貨を置いて宿へと戻るフーケ。
その顔には明らかな焦燥が浮かんでいた。

こんな事なら、もっと頻繁に顔を出しておくんだった。
『銀のゴーレム』と『異常な強さの子供』も気掛りだが、何よりも現状で貴族派の調査対象になっているというのが不味い。
仮面野朗の話ではウエストウッドの事には触れなかったが、連中の手が及べば同じ事だ。
その前に彼女達を、あの地から遠ざけなければならない。
だが、何処へ?

彼女は足を止め、宙に浮かぶ月を眺める。
アルビオンはすぐ其処だというのに、待つ事しか出来ない自身がもどかしく、唇を噛み締めた。

……もし、あの子に何かあってみろ。
あの仮面野朗、生かしてはおかない。
あらゆる手段を用いて、レコン・キスタとやらの重鎮どもを殺し尽くしてやる。

視線を月から離し、フーケは足早に宿を目指す。

今は休まねばならない。
明日はアルビオンへと向かうのだ。
そして一刻も早く、ウエストウッドへと向かわねば。



そう考える彼女の顔は、盗賊『土くれのフーケ』のものではなく、元アルビオン貴族『マチルダ・オブ・サウスゴータ』のものだった。





広大な地下空洞に、人が倒れる鈍い音が響く。
ある者は全身を切り刻まれ、ある者は心の臓を一突きにされ、またある者は意識を失ったまま縦穴へと消え。
最初の1人が絶命してから然程間を置かず、秘密港の番をしていた数名の兵と『イーグル』号船内に残っていた十名程の乗組員達は、その全てが物言わぬ骸と成り果てていた。
やがて『イーグル』号の甲板に、写し取ったかの様に似通った風貌の人影が4つ、円陣を組む様に集まる。
白い仮面に隠され表情は伺えないが、その足運び、周囲への警戒を絶やさぬ様子は、彼等が鍛え抜かれた軍人である事を伺わせた。
一同は見事なまでに揃った足並みで、船内へと消えてゆく。
そして数分後。



轟音と共に船体が震え、『イーグル』号は重力に引かれるまま、音も無く眼下の闇へと墜ちていった。



更に数秒後、上へと繋がる扉が暴力的な音と共に歪み、次いで港が静寂に包まれる。
何処からか吹き込んだ風が明かりを吹き消し、地下空洞は完全な闇へと沈んだ。







「娘っ子、そりゃお前さんの我侭ってもんだ。あの王族の兄ちゃんにも命を掛けるだけの理由が在るのさ」
「何よ、それ……そんなの解んないわよ……」

ルイズは夜間の内にキュルケが持ち帰ったデルフに、ウェールズを説得する為の助言を求めていた。
しかしルイズにとっては予想外な事に、デルフはウェールズを説得する事に消極的。
問い詰めた結果、デルフが吐いたのが先程の台詞である。
どうやら彼は、ウェールズの考えに肯定的であるらしい。

「亡命したって、今度はあの王女サマに火の粉が降り掛かる。それなら此処で、火種諸共消えちまった方が利口だ。王女サマは無事ゲルマニアの王サマと結婚、同盟締結。めでたしめでたし」
「何処がめでたいのよ! 好きでもない奴と結婚するのよ!」
「それが王族の義務って奴だろーに」

その言葉にルイズが反論しようとしたその時、デルフが鋭くそれを制した。

「待て、お客さんだ」

そう言ってデルフは口を噤み、只の剣として振舞い始める。
同時に扉がノックされ、ルイズが誰かと問えばワルドとの答えが返ってきた。
入室を促し扉が開いた瞬間、その向こうから喧騒が届いた気がするが、それも扉が閉じた瞬間に消え失せる。

「やあ、ルイズ……どうしたんだい、何か不安でも?」
「ワルド……」

優しく微笑むワルドに、ルイズは視界に滲むものを自覚しながら、叫ぶ様に言い放った。

「ワルド、貴方も……貴方も、ウェールズ皇太子の言ってる事が理解出来るの? 何で、あの人達は自分から死のうとするの?」
「……そうだね」

ワルドは一瞬たじろいだが、直ぐに平静を取り戻すと真顔になって答えを返す。

「……皇太子はアンリエッタ姫殿下を心から愛しているんだろう。だからこそ、姫殿下に危害が及ぶ様な真似は出来ない。此処で王族としての誇りを示しつつ、名誉在る死を遂げる事を望んだんだ」
「……貴方も同じ事を言うのね」

ルイズは哀しげに首を振り、ワルドから視線を逸らして窓の外を眺める。
その瞬間、ワルドの表情から一切の感情が消え失せた。

「皇太子も、他の人達も、貴方も……皆、解っていない。残される人の気持ちなんか、欠片も考えてないんだわ」

ゆっくりと、音を立てずにレイピアを模した杖を引き抜き、小さくスペルを唱える。

「王族としての誇り? 名誉在る死? それは恋人より大切なものなの?」

風の渦を纏った杖を、静かに肩の高さまで持ち上げ、其処から僅かに腕を引く。

「……そんなのおかしい。最愛の人より大切なものなんて、在る訳が無いわ」

足に込めた力を解放し、ルイズとの距離を一瞬で詰め―――――



「ねえ、ワルド―――――」





その心の臓目掛け、杖を突き出した。

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