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Mr.0の使い魔 第十五話

 中身が四分の一にまで減った革袋を懐にしまい込み、クロコダイルは
路地を歩く。後に続くロングビルは、さらに後ろを盗み見つつこっそり
声をかけた。

「ねぇ、クロコダイル」
「何だ」
「あれはさすがにかわいそうだと思うんだけど」

 ロングビルの視線の先には、息の乱れたギーシュがデルフリンガーを
手に歩いて——いや、ふらついている。覚束ない足取りに、さっきまで
喧嘩腰だったデルフリンガーからも心配されていた。

「あのな、坊主。無理するこたぁねぇ、俺の持ち手を代わってもらいなよ」
「はは、は……何を言うんだね。ぼくはまだ、大丈夫さ」
「そんなふらふらの足の、どこが大丈夫だってんだ」
「これもまた、特訓のうちなのさ。師匠に認めてもらうためのね……」
「うぅ、健気すぎるぜ。店じゃぁ馬鹿にして悪かった!
 坊主、いやギーシュ、ギーシュ・ド・グラモン! おめぇは今から、俺の心の友だ!」

「美しい友情じゃねェか。どこがかわいそうだ?」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「魔法が使えん今の小僧の護衛も兼ねてる。言うほど悪い配分でもなかろう」
「あら、意外。あんたも優しいとこあるんだ」

 クロコダイルのその言葉に、呆れ顔だったロングビルは少しだけ彼を
見直した。あの物取りの一人がそうだったように、犯罪者にはメイジも
多い。そういう輩の魔法からギーシュを守護する“盾”として考えるなら、
確かにデルフリンガーは適任だろう。
 が。ロングビルの感慨も、次のクロコダイルの言葉を聞くまでの短い
間だった。

「それに、あの鞘は腰にさすような形じゃなかったからな。
 帰って手を加えるまでは、一番戦力にならねェ小僧が手を塞いでる方が効率的だ」
(——前言撤回。やっぱりこいつは極悪人だ)


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第十五話


 裏路地から大通りに戻ると、再び鬱陶しくなるほどの人ごみが三人を
待ち構えていた。多少気構えをした程度で喧噪が変わるはずもない。耳
に届く物売りの声が、喧しさに拍車をかける。

「さぁさぁ、新鮮なリンゴはいかが! 一つ50ドニエだよー!」
「新鮮な海の幸、どれでも一尾2スゥ30ドニエ! 早い者勝ちだ!」
「夜のお供に、ゲルマニア産の【レッドスネークエキス】はどうかね?
 一口飲めば男はビンビン、女はムンムン。効果抜群じゃぞ」
「あ、それいただくわ」

 多少耳障りではあるが、それでもクロコダイルにとってこれらの声は
とても有益なものだった。なぜなら、労せずしてこの世界の通貨価値を
理解できるからである。
 例えばさっきのリンゴでいえば、かつての世界では40〜50ベリー
が相場だ。魚にしても、一般に出回るものならばだいたい200ベリー、
少し上質なものは300ベリー前後になる。
 武器類が100エキュー前後で取引される事も鑑みると、1ベリーが
おおよそ1ドニエに相当するようである。そして100ドニエが1スゥ
に、100スゥが1エキューに当てはまるようだ。つまり1エキューで
約1万ベリー。手持ちの金貨はベリーに換算すれば50万である。
 売り払った剣と斧はそれぞれ140万ベリー、60万ベリーに達する。
前の世界において、買い取りでこの金額が出るならそれなりの上物か、
出回る数が少なくて希少価値があるかだ。【錬金】で作ったあの二つ、
質は可もなく不可もなくといった程度だったので、おそらく生産数その
ものが少ないのだろう。金属加工、武器製造などの分野で、この国は後
進国なのかもしれない。

「魔法特化の弊害か」
「え?」
「いや……それより、そろそろメシにしよう。小腹も空いたし」

 ちらりと、後に続くギーシュを見る。このまま休憩を挟まずにいると
倒れそうだ。そうなった原因の一端が自分にあると、理解はしていても
特に痛痒を感じないのがクロコダイルである。続く一言もいかにも他人
事という物言いだった。

「小僧が死ぬとまずい」
「……確かに。じゃあ、あそこにしましょう」

 既に正午を過ぎてだいぶ経っており、食事にはやや遅い頃合いだ。
 三人が入った店も、いくらか人が減って席に空きができていた。

「何にします?」
「任せる。何がうまいのかわからんからな」
「ぼくは……おなかに優しいもの……」
「じゃあ、鶏肉の香草焼きと野菜スープを人数分、あと水を」
「かしこまりました」

 注文をすませ、ロングビルは隣に腰掛けたギーシュに目を向けた。魔
法の使い過ぎに加えて荷物持ちまでさせられ、すっかり疲れ果てている。

「大丈夫ですか?」
「え、ええ……なんとか」
「無理をし過ぎですわ。あんなに魔法を連発するなんて」

 魔法の使用には精神力が必要だ。何回も使えばそれだけ精神力を消費
し、本人の精神力が消費量以下になると魔法は使えない。それでも無理
に使おうとすると、しまいには気絶してしまう。ギーシュが使ったのは
【錬金】の中でも基礎となるドットの呪文であるが、連発すれば精神力
の消耗は馬鹿にならない。彼が意識を保っていられるのはほとんど奇跡
なのだ。

「ペース配分ぐらい考えねェと早死にするぞ」
「き、肝に、銘じます……」
(どの口で言うんだか)

 無責任に口を挟むクロコダイルを、ロングビルはジト目でねめつける。
 ちょうどそこへ、頼んでいた料理が運ばれてきた。

「お待たせしました」
「とりあえず喰え。この後学院まで帰るんだからな」
「ふぁい」

 クロコダイルに促され、もそもそと手を動かすギーシュ。フォークで
野菜スープをすくっているあたり相当キているらしい。
 一方のクロコダイルは、右手だけで器用に肉を捌いている。片手だけ
になっての生活が長いからか、その動作にはよどみがない。
 しばらく対照的な二人を眺めていたロングビルも、冷めないうちにと
食事に取りかかった。


 料理を食べ終えて代金を払い、クロコダイル達は店を出た。小休止と
栄養補給を挟んだおかげで、ギーシュの顔色はいくらか良くなっている。
それでもまだ魔法を行使できるほどの余裕はないので、相変わらず荷物
持ちの扱いであるが。
 傾いた日差しの下、ブルドンネ街の人通りは多少なりとも減っていた。
露天商の中には品切れでその場を引き払う者もいる。少しばかり飯屋に
長居してしまったようだ。

「他に店を見て回ると夜になりそうだな。早めに切り上げて帰るか」
「あまり遅くなると明日に響きますものね」
「うぅむ、ぼくとしてはもう少し師匠に街を案内したかったのですが」
「やめとけやめとけ。抱える荷物が増えるだけだ」

 自らを顧みない、ある意味無謀なギーシュの一言は、デルフリンガー
に切って捨てられた。最初にデートの邪魔をするまいなどと考えていた
事はすっかり忘れている。
 一同はそのまま王都の門まで歩き、馬丁から馬を受け取った。馬丁は
三人、特にクロコダイルとロングビルを見て意味深な笑みを浮かべたの
だが、心当たりのない二人は首を傾げるばかりである。ただ、ギーシュ
だけは何とも言えない表情で視線をそらしていた。


 片道三時間の道のりを走り終えた頃には、太陽が山向こうに三分の二
ほど隠れていた。完全に暗くなる前に帰り着けたのは幸いである。
 馬を馬小屋に戻し、ギーシュに早めに休むよう指示したクロコダイル
は、ロングビルと分かれてルイズの部屋へと向かった。途中、手にした
デルフリンガーがかたかたと鍔を震わせる。

「よう、旦那。師匠だってんなら、もう少し弟子を労ってやりなよ」
「弟子じゃねェよ。小僧が勝手に師匠扱いしてるだけだ」
「おいおい、そりゃあんまりだぜ。あんなに健気な貴族、俺は見た事ねぇ」

 ギーシュの忠誠というか執念というか、とにかくクロコダイルに認め
られようとする努力は並々ならぬものがある。何度砂まみれになっても
諦めない不屈の精神は、クロコダイルも一応評価していた。吹き飛ばす
煩わしさが気になっていたため、あまり深く考えていなかったが。

(鍛えれば使えるかもしれんが……かける手間と釣り合うか?)
「なぁ、旦那。ギーシュを弟子にしてやってくれ。俺からも頼む」

 なおも訴えるデルフリンガーを壁に立てかけ、クロコダイルは思案顔
でドアノブに手をかけた。

「まぁ、どっちにしてもしばらく様子を見てか——」

 答えを返しながら、扉を開くクロコダイル。
 この時よそ見をしていたのは、彼らしからぬミスだった。ここには敵
がいない、という油断も少なからずあったのだろう。


「えい」
「むぐッ!?」

 部屋の中から伸びた何者かの手。
 その手が握っていた香水瓶のような小瓶の先が、クロコダイルの口に
突っ込まれた。中に入っていた深紅の液体は、あっという間に体積を減
らしていく。毒ではないようだが、ぬるりとした舌触りと生臭い味は何
とも言えない不快感を残した。

「あら、意外と簡単だったわね」
「ッ……てめ、ツェルプストー……」

 むせながら睨みつけるクロコダイルを前に、中にいたキュルケは妖艶
な笑みを浮かべた。よくよく見れば、奥にルイズとタバサもいる。
 一日キュルケにつき合わされ、疲れたルイズはベッドで熟睡していた。
タバサはいつも通り読書の最中だが、普段身だしなみに無頓着な彼女に
しては、珍しく髪留めやネックレスなどで着飾っている。
 もっとも、クロコダイルにとってはそれらの事柄よりも、飲まされた
謎の液体について問いただす方が重要だった。

「何、飲ませやがった」
「怒っちゃやーよ。ただの精力剤だもの」
「精力剤だと?」
「そ」

 事も無げに笑うキュルケ。
 昼間王都を訪れた際、彼女が思いついたのは『きっかけ作り』である。
既にクロコダイルがロングビルと関係を持っているとしても関係ない。
多少強引にでもタバサと“いたして”しまえば、少なくとも同じラインに
立つ事はできるのだ。後はタバサの頑張り次第で、ライバルを押しのけ
クロコダイルを独占する事も可能である。過去幾度となく他者の恋人や
婚約者を奪取したツェルプストー家、そこの娘であるキュルケにとって、
この程度の事は恋愛の基本であった。
 次第に顔に赤みが差し、息を乱すクロコダイル。精力剤が効果を発揮
している事を確認したキュルケは、続いてタバサに目を向けた。王都で
買い求めたアクセサリーで適度に着飾った少女は、大人の女とは違った
独特の魅力がある。

「じゃ、あたしは帰るから。あとはしっかりやんなさい、タバサ」

 それだけ言うと、キュルケは赤い髪を揺らしてルイズの部屋を去って
しまった。お膳立ては完璧、後は放っておいても大丈夫だろう。
 キュルケの最大の誤算は、タバサに全くその気がないと最後まで気づ
かなかった事だ。今までタバサが告げた否定の言葉を全て照れ隠しだと
捉えているキュルケであるから、言うだけ無駄だったかもしれないが。

「で……何がどうなってる」
「知らない」
「な、待て!」

 クロコダイルに問われたタバサは、短く一言告げただけで窓から飛び
降りた。直後に巨大な青い影——シルフィードが窓の向こうを通過する。
 事情を全く理解できないクロコダイルだったが、今更聞き出しに行く
のも面倒くさい。廊下からデルフリンガーを引っ張り込むと、さっさと
寝る事に決めてソファに横になった。


「……眠れん」

 夜空に月が輝く時間になっても、クロコダイルの目は冴え渡っていた。
 原因は例の精力剤である。本来は一口、それもほんの少しで十二分に
効果を発揮するものを、一瓶全て飲まされたのだ。過剰摂取にもほどが
ある。

「あの小娘、余計な事を!」

 体を起こして舌打ちするが、そんな程度でどうにかなるものではない。
眠気を誘うのに何かないかと視線を巡らすクロコダイルの目に、月光に
照らされたルイズの姿が映り込んだ。使い魔の苦労も知らず、幸せそう
な顔で眠りこけている。

「……いい気なもんだ、こっちの気も知らないで」
「旦那だって他人の都合なんざ考えちゃいねぇだろ」
「うるせェよ、デル公」


 結局、翌朝日が昇る頃にようやく落ち着きを取り戻し、クロコダイル
はやっとの思いで眠りについた。五分もしないうちにルイズに叩き起こ
されて怒号が響くのだが、それはもう少しだけ先の話である。


   ...TO BE CONTINUED

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