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出来損ないの魔術師と改造人間-2

 ルイズの使い魔としての生活は、ハヤトにとってある種客観的な立場で芝居でも見ているかの様な感覚を抱かせる物だった。
 生前、既に現実味の無い出来事を経験していた訳だが、現状はそれとはまた更に輪をかけた異質さである、別世界での出来事である。主観がどうしても一歩引いた位置にあったのだ。
 そんなハヤトのこの世界での在り方は、使い魔としての体面を保ちながら、この幻想に満ちた世界を堪能しようと言う考えの上に成り立っていた。

「何かあるとすぐに散歩に誘うわね、あんた」
「色々と見ておきたいんだよ。何せ、故郷じゃ見られなかった風景なんでね」
「ふうん。あんたの故郷って、トンだド田舎だったのね」
「否定はしないさ」

 事ある毎に平民を召喚したゼロのルイズ、いつまでたっても魔法が成功しないゼロのルイズなどと馬鹿にされる主人は、のらりくらりとした上、あっけらかんとした態度のハヤトに対して怒りを露にする事もあったが、いつも彼に上手い事なだめすかされている。
 当のハヤトからすれば、まるで歳の離れた妹を相手にする様なものだった。

「あんた、使い魔ならもうちょっとご主人様に対して、心遣いとかあるでしょう!?」
「ほう。おまえさんはどういう心遣いをされたいんだ? 安っぽい慰めで満足するならいつだってしてやるが、おまえさんのプライドはそこまで低くないだろうよ」
「……な、そ、そそそそ、そんなの当たり前じゃない! いい? 今はあんたの心構えの問題を言ってるの! わたしは!」
「使い魔としては駄目だって事か? 今の俺は」
「風格も何もあったもんじゃないわよ! いくら平民だからって、わたしが恥ずかしく無いくらいにでんと構えてられないの?」
「風格よりゃ親しみやすさだと思うがね。お、そうだ。折角だから気分転換といかないか?」
「はぁ?」

 とある晩の事である。先の様な会話をしていたハヤトは、ルイズを連れて、サイクロンを収納した馬小屋へと向かった。



 実際のところ、心構えだの何だのは建前で、自身の使い魔が悪い意味で特別だと言う事に負い目を持っているのだ。短い日々の中でそれを学習したハヤトは、ならば、その使い魔が良い意味で特別なのだと理解させてやろうと思ったのだった。
 馬小屋に入ると、そこにはひっそりと佇むサイクロンと、それを念入りに検分するコルベールの姿があった。

「おお、ハヤト君。すまないね。いつも通り見せてもらってるよ」
「構わないよ。あんたに興味があるならいつだってね」
「やぁ、それにしても、人知を超えた技術力と言うか、言葉もないよ。これを前にしたら」

 うっとりとしながらサイクロンを調べるコルベールの姿に、ルイズは眉を潜めた。
 いつの間にハヤトはコルベールと交流を深めていたのだろうか? 不思議に思うルイズであったが、普段から色んな人々と話す彼の姿を考えると、納得がいかなくもなかった。
 特に厨房にいる人員や、メイド達と仲が良い様だ。気さくな彼の人柄が大いに受け入れられたのだろう。

「おっと、言った手前で悪いけどコルベールさん。これからこいつを走らせたいんで、いいかな?」
「おや、そう言えば私はこれを動かしている所をついぞ見たことがなかったな。すまないがハヤト君。ついでなんで、それに立ち会わせてもらっても構わないか?」

 目を輝かせて言うコルベール相手に、鷹揚に首を縦に振ると、ハヤトはサイクロンのハンドルを手にし、車体を外へと押し出した。
 おずおずとそれに着いて行くルイズに対し、まるでスキップでもしかねないコルベールの歩み。
 一体何をするって言うのかしら。ルイズは怪訝そうな表情を浮かべる。

「こいつを被りな」

 外に出た後、サイクロンに跨ったハヤトは、とあるヘルメットを出してルイズに手渡した。ヘルメットとは言っても、衛士の一人から借りた無骨な兜である。
 あからさまに嫌そうな顔をしたルイズであったが、ハヤトから「被らないと危険だしな」と言われると、しぶしぶと承諾してそれを被った。

「あ、汗臭い……」
「洗ったつもりなんだが……まぁ、そりゃ仕方ないな」
「それよりも早くハヤト君。走らせて見てくれたまえ」
「はいはい。そう焦りなさんなって」

 ハヤトはコルベールに急かされ、思わずその顔に苦笑いを浮かべた。
 一人では後部座席に座れぬルイズを、そっと抱き上げて座席に下ろすハヤト。
 抱き上げられた瞬間、顔を真っ赤にして抵抗しようとしたルイズだが、予想以上の力を篭められた彼の手に阻まれ、結局は身動きが取れなかった。
 そう長く運転していなかった訳ではないのだが、随分とハンドルの感触が懐かしく感じる。こんな風な乗り方を想像もしていなかった。戦う為に用いるバイクを、一人の女の子を喜ばせる為に乗るなどと。
 これの凄さを知ったら、ルイズとて目を丸くするだろう。そう考えてハヤトは苦笑いをニヤニヤ笑いへと転じさせた。
 唐突に肩を震わせ、くつくつと押し殺した笑い声を漏らす彼の後姿に、不審なものを感じたルイズは、思わずこう尋ねた。

「な、何か企んでるんじゃないでしょうね……」
「別にー。っと、しっかり俺の腰につかまってろよ」
「…………」

 ハヤトに促されるがままに、ルイズはそっと彼の腰に両手を回してつかんだ。これから始まるであろう未知の体験に、彼女の胸が高鳴る。



 サイクロンは偽装したままである為、エンジンに火を入れる為にはキックを使わなければならない。いっその事今この場でサイクロンとしての姿を露にしても良かったのだが、お楽しみは後に取っておくべきだ。そう思い、素直にハヤトはキックによってエンジンをかけた。
 重低音を響かせて、エンジンの震えが車体に伝わる。マフラーからは擬似の廃棄煙が勢い良く吐き出された。
 コルベールはハヤトの一挙手一投足と、バイクの様子の変化におおっ、と目を見開かせた。
 どっどっどっ、と揺れる座席に、多少の不安が募るルイズ。エンジンが放つ力強さを、その身体で感じ取ったのだ。
 密着したルイズ身体から伝わる震えに、ハヤトはニヤニヤ笑いを深くする。

「さぁて、行くぜ」

 声を上げ、ギアを入れてスロットルを絞り込む。最初は緩やかな加速をしたサイクロンだったが、それも束の間の事。

「え、何!? ちょ、きゃあああああ!!」
「素晴らしい! なんて速度だ! 馬の比ではない!」

 瞬間、爆発的な速度でもって加速したサイクロンは、時速に換算しておよそ二百を越えるスピードを生み出していた。無論、これ以上の加速はルイズが耐えられぬであろうゆえ、自重するハヤトである。
 ひとしきり悲鳴を上げたルイズだったが、それもすぐに止み、縦横無尽に学園の中庭を走り回るバイクに乗りながら、思わずその頬を緩ませた。
 すごい。すごいすごいすごい。まるで空を飛んでいるようだ。馬に乗る感覚とはまるで別物だ。流れていく緑、高速で流れる横目の風景。そしてこの乗り心地。この使い魔はこんな素晴らしい物を出し惜しみしていたのか。これに関しては多少むっとせざるを得ないルイズである。
 だが、それを帳消しにするほど、サイクロンがもたらした興奮はルイズにとっては甘美なものだった。
 きゃあきゃあと嬌声を上げ、ルイズは周りの風の音に負けぬよう、大音声で言った。

「もっとスピードは出ないの!?」
「まだ上げろってか!? ……よぉし、それなら覚悟しとけよぉ!」

 そう返し、ハヤトはハンドルの下の小さなスイッチに手をかけた。
 すると、瞬く間に車体が白いカウルに覆われ、変形したではないか。ルイズは驚きに目を剥き、遠間からそれを眺めていたコルベールは興奮のあまり息を荒げんばかりであった。
 カウルから流れる風は、ハヤトの腰元に集まる様になっている。腰に手を回すルイズが少しばかり心配であったが、これ以上の速度を出そうと思えば、変形させざるを得ないのだ。
 短時間ならば問題ないか。そう思い、ハヤトはスロットルを絞り込んだ。
 さらに百キロ。スピードの乗ったサイクロンの姿は、さながら白い砲弾であった。
 それに乗るルイズはその加速の中、嫌な事、煩わしい事全てが頭の中、胸の奥から吐き出される様に感じた。身体をハヤトの背中に預け、その目を閉じる。
 そうだ、いつかこれを操らせてもらおう。そんな考えが、ルイズの脳裏を過ぎっていた。

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