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Mr.0の使い魔 第十四話

 何とも言えない気まずい空気が漂い、一瞬の静寂が場を包む。
 その中で、真っ先に動いたのは店主であった。

「へへぇ、いらっしゃいまし。どのような武器をお望みで?」
「いらん」
「は?」

 貴族に敬われるほどの人間ならより上物の貴族に違いなかろう。そう
考えて揉み手までしたのだが、返答はあまりに素っ気なかった。
 クロコダイルは唖然とする店主やあたふたするギーシュを無視して、
小脇に抱えた細身の剣と手斧をカウンターに載せる。見た目はこの店に
売っている普通の武器とそう変わらない、簡素なものだ。

「今日はこの二つを買い取ってもらいに来た」
「買い取り、ですかい?」

 店主は剣と手斧をそれぞれ見比べ、首をひねった。
 傭兵が戦場で奪い取った武器や鎧を金のために売り払う、という事は
そう珍しくない。鋭い剣も丈夫な鎧も、食料や水、そして現金の代わり
にはならないのだ。戦争が終われば不要となる武具を買い取ってもらい、
金に換えて日常生活に充てるのはよくある話である。
 しかし今持ち込まれた二つは、使い込んだ痕跡が見受けられなかった。
戦場で手に入れた武器というのはどこかしら傷んでいたり、血糊が付着
していたりするものだ。が、この剣と手斧には、工房の作り立てをすぐ
売りに来たような、新品特有の小綺麗さしかない。

「すいやせんが、奥で試し切りをしても」
「ああ、構わん」

 いぶかしむ店主の申し出に、クロコダイルは頷いた。

「買い取れるようなら、そのまま代金をよこしてくれ」
「わかりやした」


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第十四話


 店主がいそいそと奥に姿を消し、ややあって木を叩くような鈍い音が
二度、店内に響く。その音で、我に返ったギーシュが口を開いた。

「あ、あの、師匠? 本日はどのような御用向きで」
「聞いてなかったのか、てめェは。あれを売りに来たんだよ」
「それはまた、どうして」
「お小遣いの足しですわ」

 微笑むロングビルに、ギーシュは怪訝な顔をした。
 よもやクロコダイルが無一文で王都に来たとは思うまい。おまけに、
金を手にする過程はそこらの物取り以上にタチが悪い。殺して有り金を
巻き上げたあげく、死体を武器に作り替えて売り払うのだから。

「お待たせしやした」

 店主が革袋を抱えて戻って来た。どうやら買い取ってくれるらしい。
 あの剣と斧の材料を知らない店主に、ロングビルは少しだけ同情した。

「ありゃあ【錬金】魔法でお作りになったものですねぇ」
「わかるか」
「商売柄、目は利きやすんで。作り方ぐらいはおおよそ見当がつきやす」

 にやりと笑った店主は、一つ咳払いすると真面目な顔になる。

「簡素ですが、作りはしっかりしてやした。
 ただ、手斧は武器としちゃあそれほど人気がありやせんからね。
 うちだと剣が140エキュー、斧が60エキュー、合わせて200エキューってとこですが」
「結構。商談成立だ」
「では、こちらがお代分のエキュー金貨になりやす」
「一応確認させてもらうぞ」

 革袋を差し出す店主を制し、クロコダイルが顎をしゃくった。
 頷いたロングビルが【レビテーション】をかけると、革袋から大量の
金貨が飛び出した。溢れた金貨は規則正しくカウンターの上に積み上が
り、四本の金の塔を組み立てる。

「一本あたり五十枚、四本でちょうど二百枚ですわ」
「納得していただけやしたか」
「ああ。性分でな、疑うようなまねをしてすまん」
「いえ、初めての店で大金のやり取りをするなら、これぐらいの慎重さが必要でさ」

 満足げに笑う店主に笑みを返し、クロコダイルは金貨を詰め込み直し
た革袋を受け取った。ずしりと手に伝わる重みが、大金を手にしている
実感を感じさせる。

「また、よらせてもらうぞ」
「今後とも御贔屓に」

 クロコダイルは他の二人を引き連れ、外に出ようと踵を返した、が。

「おい、待ちやがれ! 俺を無視して行くんじゃねぇ!!」
「あん?」

 それまで黙りこくっていたデルフリンガーの一声が、三人の脚を縫い
止めた。


 一転して不機嫌になるクロコダイルの表情を見た店主は、かわいそう
なぐらい真っ青になっている。商談を御破算にされかねないと気が気で
ないのだろう。
 見かねたロングビルが、限りなく棒読み口調で口を挟んだ。

「あら、珍しい。インテリジェンスソードですわね」
「おう、俺はデルフリンガーってんだ。
 それはともかく、坊主。俺との勝負を放り出して逃げ帰る気か?」

 デルフリンガーの口撃は、先ほど杖を向けたギーシュに対してのもの
であった。蒸し返されたギーシュは、顔を赤らめて杖を振る。

「だ、誰が逃げ帰るものか! ちょっと忘れ、いや、見逃してやろうと思っただけだ」
「何言ってやがる。師匠とやらに未熟な腕を見せんのが恥ずかしいんだろ」
「ふん、君ではぼくの魔法を使う相手には役不足なのさ」
「おでれーた、俺の事をそんなに高く評価してんのかい」
「何?」
「役不足ってなぁ、大層な役者にくだらねぇ役目を割り当てる事を言うんだよ。
 今のいい方だと、俺様が優秀な役者で、坊主の魔法の的ってのがへっぽこな役目だぜ」
「むきーッ!」


「止めないの?」

 しばらく一人と一振りのやり取りを眺めていたクロコダイルの服の裾
を、ちょいちょいとロングビルが引っ張った。

「面倒だしな……だいたい、どうしておれが仲裁しなきゃならん」
「一番効果ありそうだし。それに、ほら」

 ついと彼女が指差した先には、店主の顔が青を通り越して白くなって
いた。今後もこの店を利用するなら、好ましい事態ではない。
 ため息をつくと、クロコダイルは声を荒げた。

「やかましいぞ、てめェら!!」
「「「ひっ!?」」」

 店が揺れるほどの怒声に、店主とギーシュとデルフリンガーが揃って
引きつったような悲鳴を上げる。震える少年と剣をそれぞれ睨みつけた
後、クロコダイルは店主に呼びかけた。

「おい、店主。このボロ剣はいくらだ」
「へ、へぇ……そいつなら100、いや50エキューでも結構で」
「床の修理代込みで150エキュー出す」

 言うが早いか、デルフリンガーを抜き取って板張りの床に突き立てる。
手を離して倒れない事を確認し、クロコダイルの鋭い視線がギーシュへ
向いた。

「さっさと【錬金】でも何でも使え。それが済んだら店を出るぞ」
「は、はいッ!」
「お、おう、来やがれ!」

 気を取り直して、ギーシュは造花を振った。
 だが。

「……あれ?」
「何だ、坊主。もう終わりか?」

 何も起きない。傷んだ刀身も震える鍔もそのままのデルフリンガーが、
相変わらず床に刺さっている。

「ふん! てい! とりゃ!」
「へっへ〜ん、無駄無駄ぁ」

 ギーシュが何度薔薇を振り回しても、結果は同じ。
 これにはさすがにクロコダイルも首を傾げた。いくらドットとはいえ、
ギーシュは花びら一枚から鎧一式を錬成するほどの技能を持っている。
得意とする【錬金】をこうも立て続けに失敗する事など、普通ならあり
得ない。
 何か裏がありそうだと、クロコダイルは隣で【ディティクトマジック】
を使うロングビルに声をかけた。

「ロングビル、どう見る?」
「……妙だね。魔法自体はきちんと発動されてる。
 ぼうやの魔力があの剣まで伝わってるのはわかるんだけど」
「けど、何だ」
「ちょうど剣の場所で魔力が消えるのさ。
 木の葉が虫に喰われたみたいに、刀身のあたりだけ穴が空いてる感じだ」
「ふむ」

 精神力を消耗してへたりこむギーシュを眺めながら、クロコダイルは
しばし黙考する。デルフリンガーは剣、すなわち武器である。わざわざ
武器に自我を与える利点とは何か。
 類似した技術に、武器に悪魔の実の力を与える、グランドライン特有
のものがあった。あれは敵の意表をつくための変則的な攻撃・防御手段
として利用されたのだ。例えばゾオン系は、主人の手を離れて遠隔攻撃
を行う、敵の武器を狙う行動を察知して回避する、といった具合に。
 さっきのやり取りを見る限り、デルフリンガーは周囲の状況を正確に
察知して喋っている。持ち主から見れば、自分の目の届かない方向から
の攻撃に対しての警戒役となるのだ。会話が可能ならばそれらの攻撃を
主に伝え、防御や回避を促す事ができる。
 そしてもう一つ、この世界での攻撃の主力に『魔法』がある。相手の
魔法に対する備えが、何らかの方法として確立されている可能性は高い。
ギーシュの【錬金】を無力化した様子、先ほどのロングビルの言葉を元
に推測すると——。

「魔法を打ち消すか、吸収する能力でもあるのか」
「かも、しれないわね。弾き飛ばす【固定化】とは、また違う感じだし」

 もし、どの系統の魔法でも無力化できる剣であれば、メイジとの戦い
で間違いなく重宝する。仮に【錬金】のみに耐性があるとしても、武器
破壊を防ぐ程度には使える効果だ。その辺りの検証は、持ち帰ってから
ゆっくりと実験すればいい。時間も手段も腐るほどある場所に暮らして
いるのだから。見た目の悪さは、相手の油断を誘うという意味でむしろ
好都合と言える。
 クロコダイルは床からデルフリンガーを抜き取ると、店主に告げた。

「店主、気が変わった。こいつを買い取る」
「そいつを、ですかい?」
「それなりに役に立ちそうなんでな」
「それなりたぁ言ってくれるじゃねーか。お前さんこそ、片手で俺を使いこなせるのか?」
「重さや長さが邪魔になれば半分に削るまでだ」
「おいおい、冗談はよしてくれよ!」

 薄く笑うクロコダイルに、デルフリンガーは刀身を震わせる。
 しばらくその様子を見ていた店主は、おもむろに戸棚から細長い木箱
を取り出した。上蓋を開けると、つやのない黒塗りの鞘が入っている。

「なら、こっちの鞘もお付けします。サービスでさ」
「抜け目ないな。気に入った、また何かあれば頼むとしよう」
「へへぇ、ありがとうごぜぇやす」
「さて……いつまでへたれてんだ、行くぞ」
「は、はいぃ」

 クロコダイルは革袋から百五十枚の金貨をカウンターに戻し、替わり
に鞘を受け取る。疲れてふらつくギーシュにデルフリンガーと鞘を抱え
させて、一行は武器屋を後にした。


   ...TO BE CONTINUED

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