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気さくな王女-6

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 一人でもがいて一人であえいで勝手に膝をついた。傍から見ている連中は、何をしているのかといぶかしんだことだろう。
 くそっくそっくそっ。かかなくてもいい恥をかいた。よりにもよって一番見られたくないやつの前で。
「どういうこと?」
「どういうことって言われても……」
「鬼畜者の相手は十八歳以上限定なんて、一っ言も聞いてないんだけど」
「言ってないもん」
「どうしてさっさと言わなかったの!」
「子供をいじめちゃダメなんて言わなくてもわかることだから」
「ぐっ……」
「それにシャルロットちゃんをいじめようとしてるなんて知らなかったもん」
「ぐぐっ……」
「ねえお姉ちゃん。ボク正座苦手なんだよ。ふつうに座っちゃだめ?」
「ぜぇーったいダメ! お前はそこで反省してなさい!」
 自室で反省会、というわけではない。なぜなら完璧な王女であるわたしに反省すべき点なんて無いから。
 反省すべきはこいつよこいつ、このクソガキ幽霊。肝心な事を教えなかったせいでわたしが恥をかかされた。
「もう足がしびれちゃったよ。これじゃ幼児虐待だよー」
「勘違いしてもらっちゃ困るわね。これはしつけ。役立たずへのお仕置きよ」
 大理石の上で膝を合わせて座るとなると、さしもの幽霊であっても苦しいらしい。いい気味なんだけど、それでもわたしの心は晴れなかった。

 人形娘は汚れを落としてさっさと仕事に出て行った。わたしに挨拶の一つも無しに!
 翼人に泣かされればいいと思うけど、翼人ごときにあいつをどうにかできるとは思えない。くそっ。

 わたしは怪現象の謎を解くべく幽霊を責めたてた。
 幽霊の口から「真の鬼畜者は十八歳未満に鬼畜道を発揮することができない」という理不尽なルールを確認し、反省を促すべく大理石の机の上に座らせた。で、今に至る。

「お願いだから許してよ。このままじゃ机に足がくっついちゃうよ」
「無知なガキでは分からないかもしれないけどね。お願いというものはそれ相応の代価を支払って初めて要求できるものなの」
 かわいそうな風を装うのが通じる相手かどうかは知ってるでしょうにね。愚かしいこと。
「そんなこと言わないでさ」
「絶対に、い、や。食べ物だって服だって代価を支払わなければ手に入れられない……幽霊のお前には関係ないけどね」
「ボクは幽霊じゃないってば。食べ物だって食べるもん」
 また白々しい。このガキはいつまでくだらない嘘を突き通すつもりなんだかねぇ。

「ふん、お前に食べ物が必要なはずないだろ。わたしが何一つくれてやってないのに。それとも宮殿内で物乞いでもしてきたっていうの?」
「えっへっへ」
「何よその気持ち悪い笑いは」
「ボクね、お台所でこっそりもらってきちゃった。バレたりしなかったよ」
 出てくる出てくる。各種パン、コケモモジャムの瓶、茹でた卵、蛸の酢漬け、ハシバミ草一掴み、クックベリーパイ、わたしの好きな砂糖菓子まで。
「……これを全部盗んできたの?」
「だってお姉ちゃんが何もくれないんだもん。お腹空いたって言ったのにさ」
 宮殿の厨房に忍び込んで食材を盗み、さらに全く悪びれない。首の百や二百じゃ足らないくらいの大罪だけど、それを咎めようという気にはならなかった。
 わたしはもっと別のことが気になった。
「お前、誰にも気づかれずにこれを盗んできたっていうのかい?」
「うん。ボク、こういうの得意なんだ」
 なるほど……プチ・トロワの私の部屋にまで侵入するくらいだから、頭の鈍いコックの目をかすめるくらいは容易いか。
 これは……かなり使えるんじゃないの? 考えろ。考えるんだわたし。そういえば……。
「お前、さっきシャルロットがどうこう言ってたね」
「うん」
「なんでお前がその名を知っている?」
「みんなが話していたんだ。シャルロットさま、おかわいそうにって」
 ムカつく……けど、それは置いておく。くだらないことを言った馬鹿へ罰を与えるのは後でいい。
「それもこっそりとバレないように聞いたんだね?」
「うん。おじさんがいつも言ってたんだ。情報収集は基本中の基本だって」
 大いに頷けるわね。こいつのおじさんとやらも相当にレベルの高い鬼畜者なんだろう。
「おじさんの自転車を取り返すために調べてやろうと思ったんだ」
「自転車ねぇ」
「お姉ちゃんが戻ってくる前も色々まわってたんだよ。お腹も減ってたし」
 盗み聞きと盗み食いをしたくせに胸を張っていばってる。だけどいばるだけのことはあった。この情報収集力、一国のトップに君臨する者としては見過ごせない。

「そんなに自転車が返してほしいなら、一つ教えてほしいんだけど」
「本当!? 本当に返してくれるの!?」
 よしよし、かかったぞ。この調子でいけば、こいつをわたし専属の間諜にすることができるかも。
「それじゃわたしの悪口を言っていた人間を教えなさい」
「えっ……どうしてさ」
「そんな不心得な人間に生きている理由なんて無いでしょう。残らず首を切ってやる」
「でも、そんなことしたら宮殿の人がみんな首を切られちゃうよ」
「……」
「あっ……」
 『あっ……』ってあんた……何よその「言っちゃった」って顔は。

「あのね、そう意味じゃなくてね、あのね……」
 こ、このガキィ……! どこまで人を馬鹿にすれば……!?

「……えっと……あ、あのね」
 予定変更、こんな間諜は必要ない。続いて呪文詠唱、開始。

「元気出してね。泣かないでね」
「誰が泣くかあっ!」
 エア・ハンマーが大理石の机を吹き飛ばした。コンマ一秒早く絨毯の上に転がり落ちて幽霊は難を逃れた。ちっ。

「逃げるな!」
「逃げるよう!」
「数々の無礼、もはや捨て置けぬわ!」
「ボクが悪口言ったんじゃないってばー!」
 ウィンド・カッターが寝台を切り裂き、中から無数の羽毛が舞い散った。幽霊はすでに寝台の影に潜り込んでいる。
 ええい、ちょこまかと。逃げた先にもう一発撃ち込んでやりたかったけど、わたしの精神力が限界に近い。
 魔法を二回行使しただけで、目は泳ぎ、膝が笑い、息がきれて、背筋が嫌な汗でぬめる。前日の徹夜がこんなところで祟るとは。
「イザベラさま、いったい何事でございますか!?」
「うるさい! 部屋に入ってきたやつは順に首をはねるからそう思え!」
 外はうるさいは中は逃げるわで……あああああああもう! 魔法がダメなら物理的に殴ってやる! ガキの一匹や二匹、疲労困憊していたとて相手になるか!
「ま、待ってお姉ちゃん! 落ち着いて! 暴力はんたーい!」
「断じて暴力賛成! 生かして帰さん!」
「聞いて! お姉ちゃんのことをほめてた人たちもいたんだよ!」
 む? わたしをほめてた人たち……? 適当なこと言って命乞いするつもりか?
「嘘じゃないだろうね。もし嘘なら……」
「本当だって! 嘘じゃないよ! ボク、嘘なんかつかないもん!」
「なら言ってみなさいよ。それが本当なら半殺し程度で済ませてやってもいいわよ」
「え……半殺しはやだな」
「全殺しとどっちがいい?」
「う……あ、あの、えっとね。お姉ちゃんこそが王様だって言ってたよ」

 ふむ。聞いてみれば案外つまらないことね。ごく当たり前のことを言ってただけじゃない。
 ま、それなりに感じるものはあったけど。多少は怒りも収まってきたし。
「もう少し具体的に言いなさい。どうしてわたしが王だと言っていたの?」
「あのね、お姉ちゃんがメシツカイにハリガタ買ってこさせたって言ってたの」
 ……は?
「とってもおっきなハリガタだったんだって」
 ……いや、その通りではあるけど。
「あんなハリガタ使うなんてイザベラさまは下の器が本当に大きいって」
 ……こ……こ……こ……。
「あっちの方はご立派なキングサイズだって笑って……お姉ちゃん、聞いてる? ね、ハリガタってなぁに?」
 ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……。
「あ、あのー……お姉ちゃん、ひょっとして怒ってる?」
 が、ががががが、ががが、ががががが、が、ががが……!
「ボクちょっと用事思い出し……」
「うっがああああああああああああああああああああああああああ!」


 わたしが自分を取り戻したとき、目の前には破壊されつくした寝台……正確には、かつて寝台だった物があった。
 侍女どもがさめざめと泣き、屈強な騎士が三人がかりでわたしを羽交い絞めにし、わたしはそれでも暴れようとしていた。
 ……あ、鼻血出てる。


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