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気さくな王女-3

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「わかってくれた? ならこの自転車もらっていくね」
「ちょおっと待てえ!」
 さっさと無くなってほしいと思っていたハズレ使い魔だけど、元の持ち主に取り返されるとなれば話は別よ。
「この……ええと……ジテ……ンシャ?」
「自転車?」
「そうそう、その自転車よ。この自転車はね、わたしが召喚したわたしだけの使い魔。もうお前のおじさんとはこれっぽっちも関係ないんだよ」
「ええー!? それはひどいよー、ドロボーと同じじゃない」
 泥棒上等。ふん、誰がくれてやるもんか。他人が欲しがるとなればゴミでも惜しくなるのがわたしのサガ。
「お姉ちゃんひどいよ。持って帰らなかったらおじさんに怒られちゃうよー」
「ひどいのはあんたの言葉遣いよ。誰があんたのお姉ちゃんですって? 誰が?」
「お姉ちゃんがダメならなんて呼べばいいのさ?」
「そうねぇ。あんたみたいな下賎なガキがわたしに直接声かけるだなんて、それだけで大罪よね。間に誰かを介しなさい」
「ふーん。外の人達を呼んでくればいいの?」
 侍女達を呼んでくる。するとこいつが消えている。となればわたしがまたおかしな目で見られることになる。なんて三段論法。却下。

「……一億五千万歩譲って言葉遣いは許すとしましょう。わたしは高貴なだけじゃなく心が広いからね」
「うんっ、ありがとう」
 わたしの寛大な振る舞いに対し、こいつが真っ当に感謝しているかは非常に怪しい。子供は自転車を立て、鞍に腰掛けて足をぶらぶらさせている。
「ちょっと幽霊! なんでわたしの使い魔に座っているの! お前の物じゃないって言ったばかりじゃない!」
「ボク、幽霊じゃないんだけど……」
「ふん、人を馬鹿にして。魔法も使わずに消える。宮殿の最奥に侵入する。いると思えばいない、いないと思えばいる。幽霊以外のなんだっていうのよ」
 大いに納得できるってもんよね。この世界に無い物質を使っているのも、意味の分からない機構をそなえているのも、幽霊世界の物だからだ。
 幽霊世界の物が使い魔か。これってけっこうすごいかも。未だかつてそんな使い魔召喚したメイジなんていないだろうしね。役に立つ立たないはともかくとして。
「そんな意地悪言わないでよー……ね、おねがいっ」
 すがる目で両手を合わせて頭を下げてるけど……馬鹿な子だね。頭を下げる人間がいれば踏みつけてやりたくなるのがこのわたし。
「やだね」
「頼むよー」
「断る」
「おねがいします!」
「いや」
「ボクにできることならなんでもするから。だから、ね。おねがいっ」
「なんでも……?」
 頭から足の先までざっと見下ろす。最初の印象通り、ちっぽけな平民の子供にしか見えない。
 幽霊だから隠れたりするのは得意みたいだけど……こいつ使って人形娘脅してみるとか?
 いやいやいや、こんな子供に怯えるようなタマじゃないでしょ。あの鉄面皮じゃ子供の幽霊なんて怖がりそうにない。
 わたしだって幽霊相手なら逃げ出したいけど、こいつなら全然平気。まったく怖くない。怖いというかいらつく。

「お前何ができるんだよ」
「ええーっと……絵を描いたりとか。お花に水をあげたり、お風呂やお料理のお手伝いもできるよ」
 なーんだ、見たまま子供じゃない。期待して損した。
「そんなことじゃ使い魔を手放すわけにいかないわね」
「意地悪言わないでよ。ほら、ボクの描いた絵と交換するとかさ」
「ああん?」
 幽霊の差し出した紙を受け取る。ふん、生意気にいい紙使ってるわね。で、肝心要の絵はどうかというと……。
「……」
「どう? うまく描けてるでしょう。ボクとおじさんが笑ってるところだよ」
「……周りに書いてある字。これどういう意味?」
「ボクとおじさんは仲良しって書いてあ」
 はい、ビリビリビリのビリビリーっと。
「ああああああああ!? ひ、ひどいよー」
 何このヘッタクソな絵! ああ見るだけで不愉快になる! はい、もっとビリビリビリビリー! ついでに足でグシャグシャグシャー。ふん。ざまあ見ろ。
 年端もいかない子供がこんなことをされれば、たとえ幽霊だって泣き出すだろうと思っていた。だからこそ破いてやったのに。
「やっぱりなぁ……」
 幽霊の反応は少しというかかなり予想と違っていて、むしろわたしが戸惑った。
 怒るとか悲しむとかそういう単純なのじゃなくて……何これ?
「ちょっと。やっぱりって何?」
「やっぱり破かれちゃったかぁ……って」
「は? 破かれると思って差し出したの?」
 幽霊は力なく、でも少しだけうれしそうに笑った。
「お姉ちゃんってさ、ちょっとだけおじさんに似てるから。おじさんと同じでボクの絵を破くんじゃないかなぁって思ってたんだ」
「むっ……お前の叔父ごときと一緒にするな! クソ平民、どうせゴキブリみたいな奴なんだろ」
 こいつも同じだ。王女を王女と思っていない……いや、そもそも王族がどういう存在なのか理解さえしていないような気がする。幽霊だから?

「やだなぁお姉ちゃん」
 またわたしの予想を裏切るリアクション。なんでこんなこと言われて笑うんだよ。あんた身内馬鹿にされてんだよ?
「おじさんはボクの叔父さんじゃないよ」
「はあ? 血ぃ繋がってないの?」
「ううん。おじさんはボクのお兄ちゃんなんだ」
「はあああ!?」
 えっと。ちょっと待ってよ。叔父さんがお兄ちゃんということは? 母か父の兄弟が自分の兄? つまり自分の母親が父親で叔父の叔母があれでそれでええと……ああ、うう、頭が……。
「おじさんには秘密なんだ。しゃべっちゃダメだからね」
「あ、え、う、うん」
 と、とりあえず複雑であるということは理解できた。それが分かれば充分よ。この問題は触れないことにする。
「ま、まぁお前のゴキブリおじさんはどうでもいいわ」
「お姉ちゃん……」
 おおっと今までになく真剣な表情ね。さすがに怒ったか? ふん、せいぜいいい声で泣き喚いてみせなさい。鞭で黙らせてやるから。
「……なんでおじさんがゴキブリみたいって知ってるの?」
 ……どんなおじさん? さっきの絵を見る限りじゃ、うちの親父の百倍くらいは優しそうな感じだったけど……。
「ああ、いや、だからそれはいい、どうでもいい」
 これ以上考えたら本当に頭が破裂する。わたしはそんな原因で死にたくない。
「とりあえず自転車から離れて。離れないとひどいよ」
「はーい」
 幽霊は使い魔の鞍から降りて、元気よく寝台に飛び乗った。わたしは一秒経過する前に幽霊の襟をつかんで床に投げ捨てた。
「いたーい!」
 はっはー、尻から着地してやんの。いい格好ね。ふかふかの絨毯に感謝するといいわ。
「何するんだよー」
「平民でしかないくせに態度が大きいのよ。床に座らせてもらえるだけでもありがたいと思いなさい」
「へー、そうなんだ。どうもありがとう」
 ……何よこいつ。馬鹿にされても投げられてもニコニコニコニコ……形を変えた人形娘ね。ああやだやだ。
 腹が立ってるという旨を表情で伝える努力をしながらわたしは寝台に腰掛けた。

「ヘッタクソなポンチ絵なんていらないけど、返してほしいから代わりの物を出すって考え方はありね」
「何か代わりの物を置いていけばいいの?」
 『自転車』はマジックアイテムでも何でもなかったけど、幽霊なんだからその手の品物を持っていて然るべきよね。
 で、そんなにすごいものが王女であるわたしの物になるってのもやぱり然るべきよね。
「くだらない物出したら鞭で叩くからね」
「うーん……このぬいぐるみはあげられないし」
「いらないわよそんな不細工な鳥」
「えーっ、かわいいペンギンなのになー」
 どこが? ていうかペンギンって何。
「あとは、クレヨンと、ペンと、紙と、風鈴と、タオルと、石鹸と、セロテープと、お茶碗と、シンナーと」
 また次から次へと、ろくでもない物から使い方のわからない物まで出てくるわ出てくるわ。
 どこから取り出したっていうかいつの間にかそこにあるっていうか。こういうところはきちんと幽霊しているのね。
 なんだか難しい顔で絨毯の上に雑多な品物を並べていく。このままだと、わたし寝台の上から降りられなくなるんじゃないの?
「これとこれは違うでしょ、これはおじさんのだし、これはあげたらダメだし……」
 ん? あれはひょっとして……。
「くじの箱はここに置いて、たんぽぽの鉢植えはこっちで、木の棒は地面に絵を描く時便利だから……」
「これは……」
 わたしは一冊の本を手に取った。そう、本だ。見たことも聞いたこともない言語らしき文様が並んでいる。

 異世界の書。召喚されし書物。
 話には聞いていたけど実物を見るのは初めて。パラパラとめくって……挿絵も何も無いから本格的に分からない。
 いや、でも幽霊の本だからねぇ。分かったら頭おかしくなっちゃったりとか。……いくらなんでもそりゃ無いわね。
「ちょっとお前。これ何て書いてあるの」
「え? この本? これはね、えーとね……いとうけ……でんらい……きちくどうみきわめのしょ?」
「は? なんですって?」
「えーとえーと、伊頭家伝来鬼畜道見極めの書」

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