あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

竜が堕ちゆく先は-10

 両側の翼に据え付けられた二十ミリ機関砲と機首の七・七ミリ機銃が唸り、
爆発的な加速を与えられた機関砲弾と機銃弾の群れが空を切る。
 それらは一つ一つが必殺の威力を持つ。
 何人ものメイジが集まり作り上げる空気の壁ならば止めることもできよう。
 だが鉄の群れが襲い掛かるのは一人のメイジと一匹のドラゴン。
空気の壁など存在せず、回避しようにもそれを見ることは出来ない。見た瞬間には無数の死が降り注ぐ。
 才人は手の震えを抑えるため、再度操縦桿を握り締めた。機関砲と機銃の振動が機体に伝わる。
 腹の底から吐き気がこみ上げてくる。唾を飲み込み無理やり飲み込む。
 操縦桿の発射把柄を握りこむ。その小さな動作一つで才人は名も知らぬ竜騎士の命を奪ったのだ。
 学院をゼロ戦で出発し、タルブの村の上空に着いてから才人は
我を忘れる勢いで空中戦を演じ、すでに五人の竜騎士を落としていた。
 タルブの様子は先日訪れた時とは一変していた。質素で素朴な家々から立ち上るのは煙と火の粉。
村は炎に覆われ、風も吹いているのかシエスタと一緒に見渡した草原にも火の手が上がっている。
 村の南に広がる森はすでに大半が全焼している。
 そして何より才人の心に怒りの炎を灯したもの、それはタルブの村に倒れた人々だった。
 時間に表わせば一瞬のこと、けれど才人の眼にはビデオのコマ送りのようにゆっくりと写った。
 それが才人の心を怒りで震わせる。震えた心に突き動かされるまま、
才人はタルブの上空を飛ぶ竜騎士目掛けてゼロ戦の機首を向けた。
 無我夢中、その言葉が先程までの才人には最も当てはまる。
 しかしタルブ上空の竜騎士を全て落としたとき才人は唐突に自覚してしまった。自分が人を殺してしまったことに。
 今までもそれを思う時はあった。宝探しのオークとの戦い、オークの首をはね血の付いたデルフリンガーを眺めた時。
皆は言っていた、オークは人間を喰う害獣だと。
 事実オーク達の首に巻かれていたのは人間の頭蓋骨を繋げた首飾り。
 ここは自分の常識は通じる場所ではないと、自身に言い聞かせ納得したはずだった。
 けれどそれは相手がオークだったから、人間とは似ても似つかぬ生き物だったから。
 今、空中を燃えながら落下していくのは正真正銘の人間。
 人を殺す覚悟は合ったはずなのだ、ルイズを守るためアルビオンで貴族派の軍勢五万人の地響きを聞いた時から。
 なのに今の自分はこんな有様だ。
 またも才人の体が震える、クソッと才人は毒づいた。もう後には引けない。生き残って。

「無事に戻ると約束したんだ!」

 操縦席の中で才人は叫んだ。自分に勇気を与える為に。
 その叫びは誰も聞いていないはずだった。本来ならば。

「そ、そうよ。早くやっつけて戻るのよ!」
「ルイズ! 何でここにいるんだ?」

 才人は突然聞こえたルイズの声に驚き、背後を振り向いた。
ルイズは口論の末に学院に残してきたはずなのに。

「使い魔が主人と一緒にいるのは当たり前のことでしょ! だ、だけどあんたはすぐに一人でどっか行っちゃうから、
わたしを置いてどっか行っちゃうから! だからわ、わたしが付いてきたんじゃない、ともかく主人と使い魔は一緒にいなきゃダメなのーっ!」

 ルイズの手には『始祖の祈祷書』が握られている。
口論の後すぐにゼロ戦に乗り込んだのだ。ほんとうに大した行動力だ。

「相棒、右から来るぜ!」

 それまでルイズと才人の会話に我関せずな態度を取っていたデルフリンガーが、
言葉通りの警告を才人に向かって叫んだ。
 才人は顔を前に向ける。何発もの火竜のブレスが迫っていた。
 それらを避けるため才人は強引に操縦桿を左に倒す。
 操作通りゼロ戦は急に方向を変え旋回する。
 その動きを予想していなかったルイズは体ごと大きく動きゼロ戦の装甲に頭をぶつけた。
 いたた、とルイズは頭をさする。酷くぶつけた訳ではなく、傷も出来ていない。

「大丈夫か! ルイズしっかりつかまっててくれよ」

 ゼロ戦の機動に文句の一つでも言いそうになったルイズだが、
それよりも早く才人が気遣いの言葉を投げかけたため、出鼻をくじかれた。
 才人は真剣な表情で周りを見回している。必死でアルビオンの竜騎士と戦おうとしている。
それが声からも滲み出ている。ルイズは邪魔をしてはいけないと思い、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
 衝撃でポケットからこぼれ落ちた指輪をルイズははめた。これなら失くさない。

「竜騎士十騎とは豪勢だねぇ、やつら集団でかかるつもりだぜ」

 デルフリンガーが茶化すような口調で言った。

「……勝てるさ、こいつは殺すために作られた機械なんだ、生き物じゃない」

 才人はグッと操縦桿を握り込んだ。先程とは違い震えが小さくなっている。
不思議に固い感触が才人の手に馴染んだ。シエスタの祖父も六十年以上前に守るべきもののためにこの操縦桿を握ったのだろうか。
 人を殺すことへの忌諱は未だ心に残っている。だがそれ以上に才人は後ろに座っているルイズを守りたい。
 ゼロのルイズの使い魔にゼロ戦、出来すぎなくらいに舞台はそろっている。
 その様子を静かに見守っていたルイズははたと気付いた。
先程の衝撃で膝の上に置いた『始祖の祈祷書』のページは開き光を放っているのを。

「サイト、今からそっちに行くわ」
「え、今からってどういう……」

 才人の返事を聞く前にルイズは隙間をゴソゴソと通って前の座席に出る。
 そのまま座席に座る才人の足の間に、ちょこんと座る。

「何やってんだ、後ろにいろよ」

 すでに竜騎士は全て落としたから大丈夫だったが、才人はルイズの体によって視界が塞がれたときは焦りを感じた。

「ねえサイト、わたし選ばれたのかも知れない……信じられないけど、やるしかないの、
無茶なのはわかってるわ。でもやって欲しいの。このひこうきをあの戦艦に近づけて」

 思わず才人はハァ? と声に出して言いたくなった。けれどその言葉は飲み込んだ。
ルイズの思いつめたあまりに真剣な表情を見てしまったから。

「……途中で落とされるかも知れないぞ」

 ボソッと才人は言った。遠目に見える戦艦は巨大だ。数多くの砲台を載せているだろう。
 いくらゼロ戦でも落とせない。

「いいから行って!」

 しゃあねえな、とつぶやいて才人はゼロ戦の機首を戦艦に向け、加速させる。
 いつだって才人はルイズの無茶に付き合ってきた。時には文句を口にし、時には自ら乗り気で。
不思議と才人はそのことが嫌いではない。
 才人の前に座るルイズは小さく言った。

「……あんたのこと、し、信じてるから」

 その普段とあまりに違う言葉に才人は面食う。頬が自然と赤くなる。

「……あ、ああ」

 照れた才人の口は、たったそれだけの言葉しか紡げなかった。
 そして以後無言の二人を乗せたゼロ戦は加速しながら、赤い竜の襲撃が始まった艦隊に向かう。

 アルビオン艦隊の到達した才人とルイズ。ゼロ戦の風防ごしに見る眼下の様子は、
予想とは全く違っていた。既にトリステイン軍とアルビオン軍はぶつかっていた。
傍目にはどちらが優勢なのか、戦争を眼にするのが初めての二人には判断が付かない。
 才人らと同じ空にいるのはアルビオン艦隊を除けば竜が一騎のみ。
 赤い竜は散発的に鳴き声をあげながら艦隊に向けてブレスを放っている。
 対する艦隊は地上の軍勢に当たらぬ角度で砲撃を竜に加えている。どちらも未だ決定的な打撃を加えてはいない。

「なあ、あの竜、学院に落ちてきた奴じゃないか?」

 才人は赤い竜に見覚えがあった。学院で少しだけ才人は赤い竜と会話をしている。
 竜と話すという行為自体が才人には驚きの連続だったため、印象に残っていた。
 あの頃の竜は傷だらけだったが、燃える溶岩の如き肌は見間違えようがない。

「多分な、違うにしても艦隊を攻撃してるんだから味方には違いねえ、この隙に行こうぜ」

 脇に置かれたデルフリンガーが答えた。単機で突破しなければならないと思っていたが、思わぬ味方がいた。
 更にゼロ戦は艦隊の奥へ、一番大きな戦艦へと飛ぶ。
 アンヘルは艦隊への攻撃を繰り返しながら、自らの存在を示すように咆哮をあげ続けていた。
もしカイムがこの戦場にいるのならきっと気付く。念話が届かなくとも、耳は聞こえているだろう。
 しかし今の所それらしい人影を眼にすることもない。
 カイムを探すため広範囲を見回しながら飛ぶアンヘルは、ふとおかしな竜が飛んでいるのを見かけた。
 それは一直線に艦隊の中央を目指している。
 気になったアンヘルはそれに近づく。おかしな竜はこちらにかかっては来ない、少なくとも敵ではない。
 あちらもアンヘルを味方と認識したのかそのままだ。
 おかしな竜の乗り手をアンヘルは知っている。学院で傷の治療をしていた頃話した平賀才人と言う少年だ。
 その事をアンヘルが確認した途端、竜の先端を覆っていた透明な部分が開き、長細い物が投げられた。
 反射的にアンヘルは足でそれを掴み取る。
 それっきりアンヘルとおかしな竜は放れた。
 艦隊の砲台の大部分はアンヘルに向いている。狙われないようにおかしな竜はアンヘルとの接触を最小限に留めたのだ。

「おい、韻竜! 手短に説明するから良く聞きやがれ!」

 受け止めた物、それは喋る剣、平賀才人の持っていた魔剣か、アンヘルはそう判断した。

「相棒と貴族の嬢ちゃんを援護してくれ。ひこうきがでかい戦艦にたどり着ければいい!」

「……何か当てがあるのか?」

 単騎で艦隊の中央に行くのに何か意味があるのか、いぶかしむようにアンヘルは答えた。

「俺は知らねえよ、でもどうせお前さんだって攻めあぐねていたんだろ」

 砲撃を四方に動いて避けながら、アンヘルは考え込む。
 確かに今の自分は艦隊相手に攻めきれていない。
 大魔法ならあるいは何とかなるかも知れないが、あれは消耗が激しい。簡単には使えないすべだ。

「……良いだろう、どの道このままではどうしようもない」

 一度アンヘルは大きく羽ばたくと先を行くおかしな竜の後を追う。
 艦隊もようやくもう一匹の竜の存在に気付いたのか砲台を向け、砲撃を開始し始める。
 だが砲弾は全てアンヘルの弧を描き飛ぶ火球が迎撃する。
 何度砲撃と迎撃が繰り返されたか、いよいよアンヘルと才人達は艦隊の中央に達しようとしていた。
 だが次の瞬間彼らを今まで見たこともないものに襲われた。
 それは言うなれば、羽と竜の顔が付いた深緑色の卵。それがいつの間にか無数にタルブの空に浮いていた。

 才人とルイズは突然の衝撃に激しく体を揺らした。
才人のちょうど膝の上とも言える位置にルイズは座っている。
その体勢の結果ルイズの後頭部と才人の額はぶつかった。
 いたた、とうめき声を出すルイズ。
 しかし次の才人の行動にルイズは何も言えない程心を乱された。
 いきなり才人はゼロ戦の風防を全開にすると、ルイズを抱きかかえ空へと飛び出したのだ。
 全身に強い風を受ける。髪が巻き上げられる。ルイズと才人は空中を落ちていく。
誰も乗り手がいなくなったゼロ戦、機体の後ろの部分は炎を上げ、左の翼は折れたのか存在しない。
 ルイズを抱いて空に出る、それは咄嗟の行動だった。衝撃を受けた瞬間、
才人のガンダールヴの力がゼロ戦の状況を伝えたのだ。すなわち翼は吹き飛び、爆発が近いということを。
 だから才人は風防を開け、ルイズを連れて空へと飛び出した。けれどここから先はもうどうしようもない。
一筋の希望を込めて赤い竜を見たが、赤い竜は無数の何かに全身を群がられていた。
ゼロ戦を落としたことで標的を変えたのだろう。
 赤い竜は必死に振りほどこうとしているのか、加速しでたらめな機動で飛んでいる。
 才人とルイズの体を背後から抱えた。ルイズの体を放さない様にと。そして大地に向かって落ちていく。
 ルイズはこの瞬間程強く魔法の力を願った時はない。
レビテーション、せめてフライでも使えれば落ちるのを止められるのに。
 手に持つ祈祷書がルイズの眼に入った。『始祖の祈祷書』には選ばれし者にしか文字は発現しないと記されていた。
 なら、なら、とルイズは思う。私がゼロでなく虚無のメイジなら、今ここで魔法を使わせて!
 ルイズは杖を取り出す。体が落ちる感覚、耳に入る風の音、すべてを心から追い出す。
ただ感じるのは才人に抱きかかえられている感覚だけ。
 成功を願いながらルイズはフライの呪文を唱えた。
 一回、二回、なんどもなんども。爆発は起こらないが体が浮くこともない。
 ちょうど十回目を唱えた辺りだろうか、ルイズは確かに感じた、祈祷書に記されていた物質を司る小さな粒が動くのを。
 あるいはそれは実際にはない、幻の感覚だったのかも知れない。
 けれど、次の瞬間一瞬フワッとルイズと才人は重力に逆らい浮遊した。
 ルイズの努力と才能と願いが一つに身を結んだ、小さな小さな魔法、けれどルイズにとってはとても大きな魔法。
 落下は止まらない。けれど本の少しではあるが緩やかになっている。
 それは落下のスピードからすれば微々たるものだった。しかし、無意味ではなかった。
 ようやく深緑色の卵を振り払ったアンヘルが落ちる二人を容易に見つけることが出来たのだ。
 落ちる二人にアンヘルは追いつき背中に乗せる。

「サイト、わたし、わたし魔法が!」
「あれは、ルイズお前がやったのか」

 才人も先程の浮遊感を感じていた。ただその原因が何であるかは分からなかったが。
 二人は場所も状況も忘れて喜び合っていた。ルイズが魔法を使えた事に、落下から生還した事に。

「つかまっていろ!」

 突然のアンヘルの警告に才人とルイズはごつごつしたアンヘルの岩の様な肌につかまる。
 明るい緑色をした光線がアンヘルがついさっきまで飛んでいた場所を塗りつくす。
 無数の羽ばたきというよりは虫の羽音に近い音、その中で一つだけ力強い翼の羽ばたきが聞こえる。
 天の、それこそ雲上とでも言い表される場所から降りてくるのは深緑色の体色を持つ竜。
 アンヘルや普通の竜とは違い立ち上がったままの姿でそれは空を飛ぶ。
周りに三十匹以上の羽の生えた深緑色の卵を引き連れて。
 それはかつてミッドガルドでアンヘルと炎を交えた。
伝説の存在、最強の生物、聖なるドラゴンと称されるそれ。

「エンシェント・ドラゴン……」

 アンヘルは知らず知らずつぶやいていた。一度は怯えた心をカイムによって暖められ、
死闘の末にそれは帝都に落ちたはずだった。
 エンシェント・ドラゴンは何も言わず、三連の炎のブレスを吐きかける。
 難なくそれを避ける。しかし確かな違和感をアンヘルは感じた。
炎が以前の戦いよりも明らかに熱いのだ。

「エンシェント・ドラゴン、奴の背に人が乗っておる……契約したか」

 アンヘルの言葉通り、エンシェント・ドラゴンの背には一人の人間が乗っている。
 鍔広帽子にマント、その姿を才人とルイズは良く知っていた。
 才人はルイズを殺そうとした裏切り者として。
 ルイズはかつての憧れの婚約者として。
 聖なる竜の背に乗り不気味に笑みを浮かべる青年。
 名前をジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドと言う。

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