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戴天神城アースガルズッ!-2

第二話:『ぼうやはよいこだ寝ていれば』
 トリステイン魔法学院には多くのメイジが存在し、そのパートナーである使い魔もまた多い。
 召喚に応じた使い魔は基本的にそのメイジの特性に合わせたものであり、その種類は実に多種多様である。
 そんな彼らは、主人の授業中も付き従うことができるもの以外の平日の日中は、暇そのものなのだった。
 彼らは思い思いに過ごし、そしてそれぞれ思い思いにひとつの場所に集まるのが常であった。
 学院のヴェストリの広場には、先日から奇妙な光景が広がるようになっているのである。
 竜が巨大な肩の上できゅいきゅいと鳴き、フクロウが巨大な頭のてっぺんでホウと鳴き、大蛇が巨大な膝の上でとぐろを巻き、カエルが巨大な足元に張り付き、その巨大な日陰では火蜥蜴とモグラが寝転がり、ネズミやらなにやらその他大小様々な獣たちが集合している。

「まるで使い魔のバーゲンセールですねえ……」

 毎度毎度ここに訪れるたびに律儀にぽかんと口を開いて、シエスタという名のメイドの少女はモップとバケツを抱えてその光景を見上げた。
 シエスタの呟きを音声センサーで認識し、続いてシエスタの姿を首をめぐらせて二つのカメラアイの光学センサーで認識し、かつては神々の砦と謳われたゴーレム、アースガルズ動物園はちかりと眼を瞬かせた。家族サービスに疲れた父親のようだった。

「みなさんすいませーん、少しどいていただけますかー?」

 シエスタが声をかけると、のそのそと名残惜しげに使い魔達はまた思い思いの場所に移動していった。タバサという名の生徒の風竜が、親しみを込めて鼻先でアースガルズをつつき、どこかへと飛び立っていく。
 それを確認したあとで、シエスタは小さな溜息と共に巨人の足元にかがみ込んだ。最後に残ったピーチブロンドの髪の少女を揺する。

「ほら。起きてくださいな、ミス・ヴァリエール。お昼休みが終わってしまいますよ」
「う、ん…………もう朝?」
「まちがいなくお昼です」

 ちいさな頭をアースガルズの脚部装甲に預けて寝入っていたルイズが、ゆっくりと眼を開いた。彼女が軽く頭を振るうと、陽光が桃色に反射しながらさらさらと弾けた。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは使い魔を呼び出して以来、その錆の匂いの中で寝入ることを好むようになっていたのだった。

「また夢を見ていらしたんですか――――ほら、お手を上げてください」

 すこし微笑ましいものを感じながら、シエスタはルイズの制服のシワを伸ばしてやる。素直にシエスタの指示に従うルイズをクラスメイトが見れば驚愕するかもしれない。
 普段は周囲に威嚇せずにはいられない気質のルイズも、使い魔が傍にいる時だけは歳相応の素直な少女になるのだった。
 シエスタはくすりと笑い、ルイズの手を引いて立たせた。そして思う。もしかすると私はとんでもない不敬者かもしれないわ。公爵家のご息女を、まるで手のかかる妹のように扱っているのだから。
 ルイズは眼をこすりながらシエスタの質問に答えた。

「うん……悪いわねシエスタ……。こいつの近くで眠ると、こいつのことが解るような気がするの……」
「解る、とは」
「えっと、夢っていうか、夢じゃないのかも。おかしな言い方だけどね、寝ている間は夢の中ではっきりとした意識があるのに、起きちゃうと――――」

 ルイズは目の前に持ち上げた己の掌をそっと握り締めた。何かを逃がすまいとするかのようだった。

「消えちゃうの」

 僅かに眉を下げて、ルイズは呟くようにそう言った。己がそのことを悲しんでいるのだと気付いていない声だった。

 シエスタは軽く首を傾げると、優しく微笑んだ。実家に伝わる昔話を思い出したのだった。

「もしかすると、ミス・ヴァリエールは《夢見》かもしれませんね」
「ゆめ、み?」
「ええ。夢を通じて世界を知り、夢を通じて未来を知り、夢を通じて守護獣(ガーディアン)と語らう、そんな術を持つ人のことをそう呼ぶのです」
「ええと、がーでぃあん?」

 シエスタから飛び出す聞きなれぬ単語に目を白黒させながら、ルイズが鸚鵡返しにその意味を問うた。
 くすくすと笑いながらシエスタはすみませんと謝った。

「風にも水にも土にも火にも、山や花にさえ、あらゆるものにはそれを守り司る存在があるというお話です」
「……精霊みたいなものかしら?」
「私はそういった話に詳しくはありませんが、おそらくそれに近いと思います。ただ、存在するものばかりではなく、ヒトの強い感情や『未来』にすらガーディアンはいるそうですけど」

 ふうんと頷いたルイズはまじまじとシエスタを見つめた。慌てたように赤面したシエスタが何事かとおそるおそる訊ねると、ルイズはこう言った。

「あなた、やっぱり変わってるわねシエスタ。聞いたわよ、アースガルズを洗ってっていう私の言葉を伝えられた時、一人だけ自分から進んで手を上げたそうじゃない」
「え、ええと。それは……」

 恥じ入るようにシエスタは俯き、そしてちらりとアースガルズに眼を向けた。

「私の村にも、アースガルズさんに似た護り人形があるのです。時々お掃除してあげてましたから、そういうのは慣れてるな、って」
「護り人形? あなたの村にもアースガルズとおんなじゴーレムが?」
「ええ。私の曾お爺様といっしょに東からやってきたそうです。村に着いたときにはもう、うんともすんとも言わなくなっちゃったらしくて、曾お爺様はそうして村に住みついちゃったんですけど」
「へえ、じゃあ夢見だとかガーディアンだとかっていうお話は、その人から伝えられたのね」
「あら、おわかりで?」
「この国にそんな伝承は伝わっていないもの」

 東、かあ。とルイズは呟き、アースガルズをかえりみた。

「ねえアースガルズ。あんた、東から来たの?」
「――――――――――――――――」

 巨人は答えず。きしん、と軋みだけで返した。

「シエスタ。そのゴーレムと曾お爺さんってどうやって来たの? どうしてここに来たの? ううん、そもそもどの国から来たの?」

 ルイズはもう一度シエスタに振り返ると、好奇心と興味に彩られた瞳でシエスタに訊ねた。無理もない。彼女は己の使い魔に纏わる情報に飢えていた。
 どの文献を紐解こうが、アースガルズと同系統のゴーレムはどこにも見つからなかったのだった。次の長い休みにはシエスタの村へ行こうとすら思っていた。
 そんなルイズの様子にシエスタは思わず微笑んだ。お話をせがむ弟や妹たちを思い出したのだった。そしていけないいけない、不敬だわ、と思い直す。

「ミス・ヴァリエール、曾お爺様のホラ話でよろしければ、お聞かせしましょう。
 曾お爺様はファルガイアという国の兵士で、そのゴーレムといっしょに戦っていたそうです」
「ううん、知らない国ね。…………いっしょに? メイジだったのかしら」
「いいえ、違いますよ。普通の平民でした――――ああ、そんな顔をしないでください。ホラ話なんですから。
 そうして敵と戦っているうちに傷を負って、ゴーレムを不時着させようとしたそうです」
「ちょい待ちッ!」
「はい?」
「不時着? ゴーレムが?」
「ええ、不時着です。ゴーレムが。空飛ぶゴーレムですね――――ですからホラ話なんですってば。
 そうして地面に降り立ったらトリステインだったそうですよ」

 うーん、と唸るとルイズは両手を挙げた。降参と万歳のちょうど中間であった。心中もそれとまったく同じだった。

「確かに、ホラ話ねえ」
「ええ。でも、空を飛んだっていうのは本当かもしれませんよ」

 どうして、と訊ねるルイズに、シエスタは片目を細めて微笑んだ。悪戯をしかけた少女のような笑みだった。

「――――だって、足がありませんもの」


 ■□■□■□


 思いの他話し込んでいたらしく、鳴り響いた予鈴の鐘にルイズはびくりと飛び上がると、慌てたように駆け出した。足は止めぬまま振り返る。

「 それじゃあね、シエスタ、アースガルズッ! またあとでッ!」
「――――はい。お励みくださいませ、ミス・ヴァリエール」
「――――――――――――――――」

 深々と頭を下げるメイドと無言のままのゴーレムを残して、ルイズは校舎の中へと消えていった。
 頭を上げたシエスタは微かに息を吐いた。やっぱり貴族さまの相手をするのは緊張しちゃう。ミス・ヴァリエールは普通の貴族とは違うみたいだけど。
 強い風が吹き、シエスタの髪を揺らした。フェンガロンが駆け抜けたのかしら、と彼女は思った。
 彼女は曽祖父の教えが好きだった。敬うべきものが多いことは幸せなことだと思っていた。人には何か無条件で信じられるものが必要だと彼女は信じていた。
 よいしょ、ともう一度モップとバケツを抱えると、アースガルズを振り仰ぐ。

「じゃあアースガルズさん、昨日は右の肩を洗いましたから、今日は左の肩を洗いましょうか」
「――――――――――――――――」

 ゆっくりと手を差し伸べる巨人の手にためらいもなく乗り込んで、シエスタは故郷を脳裏に描いた。
 故郷でもこうやって――無論ゴーレムは動かなかったが――ゴーレムの肩に乗り、見渡す限りの草原を眺めるのが好きだった。
 あの光景を見ながら育ったからかもしれない。曽祖父の教えを自然と受け入れていたのは。
 アースガルズの掌が肩にたどり着いた。シエスタは魂を故郷の草原から目の前のゴーレムに引き戻し、彼の肩に危なげなく足をかける。慣れ、というやつだ。

「ぜんぶ洗い終わったら、今度は錆を落としましょうか。ぜんぶ錆を落としたら、今度はもう一度洗いましょうか。もう一度ぜんぶ洗ったら、今度はピカピカに磨きましょう」

 鼻歌のように今後の遠大な計画を呟きながら、ごしごしとモップを動かす。
 ああ、錆を落とす前に油を差すのもいかもしれない。それはあの子にしてあげたことはなかったから――――倉庫のミシン油を全部使っても足りるかしら?

 ■□■□■□

 仕事に没頭し始めたメイドに気付かれぬように、そろそろと使い魔たちがまた巨人に近付いてきていた。
 足があるものは草場に足を擦りつけ、蛇のような長い体のものはごろごろと寝返りを打つ。

 なにしろ。泥だらけの体でゴーレムに体をこすり付けると、ご飯を食べさせてくれる――つまりご主人様より偉い――メイドに怒られてしまうのだった。


 ステア・ロウが天で働き、フェンガロンの息吹が心地よい、グルジエフに抱かれたある日の話である。



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