あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無のゆりかご-1

 そこには光も闇も無かった。それだけでは無い。陳腐ではあるが、火水土風というこの世に遍く存在する全てが無かった。
 温度も無い。流れるものも無い。天地の区別も無い。大気も無い。時間さえも、あるのかどうか判別する術を持つ事が出来なかった。
 たゆたっているだけなのか、そこに止まっているだけなのか。
 他に生き物、いや石ころ一つあれば動きの比較が出来たのかもしれないが、生憎その世界にいたのは、長剣、ただの一本だった。
 黒い、どんな鉱石を使ったところでこんな光り方はしないだろう、あまり触りたくはない赤さが混ざった気味の悪い黒だった。
 身体の剣を這うように、血液としてほのかな赤が目立たぬよう混じり、剣が生きているようにも見えるだろう―――見えていれば。
 だがその色も、光と闇の区別があって見えるもの。世界の外から眺めるモノはともかく、中からでは見る事すら出来ない―――そんなものは居はしなかったが。
 いつからいたのか、いつ出られるのか、それをほぼ永劫な時間を、ただ一人ずっと過ごしてきた住人であるこの剣に聞いたところで、意識があればこう答えただろう。

 ―――眠い。

 つまりは、剣にはどうでもいい瑣末事だった。他に誰もいない事や、武器として使われない事など。


 しかし。無限の静寂は、突然の引力で終わりを告げた。
 世界に穴が開いている。誰が開けたのか、どうやって開けたのか、分からないが問題ではない。それも、眠さの前ではどうでもいい。
 光が、白一色のような虹色に眩しいような光が、剣に向けて照らされる。が、それだけでは無い。
 無数に伸びる眩しい帯は腕であるかのように剣に纏わりつき、いつの間にか少しずつ、だが確実に住人は穴に引き込まれていた。
 どうせ自分はただの剣、呼ばれ、求められれば使われるだけ。面倒臭いし、眠たいが、仕方が無い、剣なのだから。
 穴に近付く程引力は強くなる。何の引っ掛かりも無いまま、剣はスポンと穴から抜けて行く。穴が役目を終えたとばかりに閉じられ、消える。
 世界は、本当の意味で何も無くなった。


*******************


 場所は移り、トリステイン魔法学院。魔法使いの卵である生徒が輪になり、中心には一人の禿げた大人と、桃色の髪をした少女―――ルイズと言う名の少女が杖を構え、一心不乱に呪文を発していた。
 学院の進級試験―――使い魔召喚に現在挑む最後の受験者ルイズは、周囲の既に呼び出し終えた生徒達の飽きの視線を一身に受けながらも、何度もそれを繰り返す。
 見守る教師、コルベールは額と心が広い事で有名だが、失敗を重ねる事数十回、彼の顔にも飽きが生まれて来ていた。
 試験を諦める? そんな事は断じて出来ない。ゼロのルイズと蔑まれ、更に進級さえ落としたとなれば、ヴァリエール公爵家の名前を汚す事になる。
 それは、避けなければ!
 今までで最大級の気合いと意識と願いを込めて、これで決めるとばかりにルイズは呪文を唱えた。

「宇宙の果てのどこかにいる私のしもべよ! 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め訴えるわ! 私の導きに答えなさい!」

 想いの結果は、爆発。何度もこうして、失敗だった。
 また失敗なのかと誰もが思ったが、今回はそれからが違った。
 爆発が止み、煙が晴れ、そこには何かがあった。召喚はとうとう成功し、確かに、何かがあったのだ。

「剣……?」

 ルイズの呟きが答だった。大地に突き刺さって微動だにしない、黒一色の、少しボロボロな長剣。
 周りのどの色にも溶け込もうとしない、鈍い輝きを持つ剣にルイズは一歩、また一歩と近付き、手を伸ばせば届く場所で立ち止まる。

(剣が……使い魔なの?)

 拍子抜けし、次にがっかりした。竜とか獅子とか強そうなのじゃなくても、せめて生き物が出て欲しかった。更に剣なんて武器、メイジに不必要な武器ではないか。

「ミスタ・コルベール! やり直しを要求します!」

 そう訴えたものの、教師は首を横に振り、契約するのが伝統だと無情に告げる。それを遠巻きに見ている生徒達。まともでない使い魔を呼び出した同級生に向かい、侮蔑の色を隠そうともしない。

「所詮ゼロのルイズだよな!」
「剣なんか呼び出しても使えないだろ!」

 悔しい。心ない野次が悔しいのではなく、使い魔一つまともに呼び出せない事が悔しかった。魔法が使えなくても、これはと思っていたのに―――!
 仕方無く、本当に仕方無く、手を伸ばす。


 その様子を見ていた中で、明らかに他と様子の異なる者が二人居た。
 一人は生徒、タバサ。青髪の小柄な、しかし使い魔として竜を呼び出した優秀なメイジである彼女は、全身を強張らせ、脳内に警鐘をかき鳴らしていた。
 危険。
 何がなんだか分からないが、とにかくあの剣は危険だ。禍々しいとか暗いとかそんな次元を飛び越えて、人がそれに触れてはいけない何かを内包しているように感じていた。
 人ごみの中に隠れるように杖を構える。どんな事態が起きても対処出来るように。

 そしてもう一人は、契約の許可を出した男、コルベール。許可を出したとはいえ、本当なら生き物を呼び出すサモン・サーヴァントで出て来た剣。どのような特殊なものかとディテクトマジックを唱え、

(―――こ、これは!?)

 剣を見ているだけなのに、いつの間にか底無しの暗い井戸に引き込まれている錯覚に陥った。
 すぐさま魔法ごと凝視を中断し、そっぽを向く。それが周囲の生徒達にはルイズの使い魔に失望した様に見えたらしく、野次悪口が更に飛んだが、気にしている余裕は微塵もなかった。
 剣の奥底にある本質が闇の牢獄に思え、見入っていればそのまま囚われ、二度度出る事が出来ないような恐怖に襲われたのだ。
 そうして回避して心が落ち着いて、漸く気付いた。教師として守らなければならない生徒に、つい先程危険なそれと契約するよう告げたばかりではないか!
 一刻も早く止めさせなければならない。少し前の自分を殴ってでも止めたかった。あれは伝統とか何とかを無視しなければならない程、恐ろしい物だ!
 口を慌てて開く。が、パクパクと魚の様に開け閉めするだけで終わってしまった。生徒の群れにいたタバサも、マントの中で構えた杖の手を誰にも気付かぬように力を抜いた。
 ルイズは既に、契約を完了していた。そして、何事も起こる様子は無かった。コルベールとタバサの不安は、杞憂に終わったのだ―――ルイズの内面で起こった事を、何も知らないが故に。


 コントラクト・サーヴァント、即ち召喚した使い魔との契約は、口付け一つで完了される。そして契約の証明として、使い魔の身体にはルーンが刻まれるのだ。
 ルイズは大地に刺さった剣の柄に口付けをする。それで、お終い。その筈だったのだ―――。


 気がついた時、ルイズは何故か暗黒の世界に放り込まれていた。全周囲が、大地が、空が全て真っ暗で、ルイズはその中で浮いていた。
 少なくとも、トリステイン学院とは全く違うとは感じた。命とか、気配とか生きているモノの証明を、微塵も嗅ぎ取れない。
 どうしてこんなところに?契約しようとしただけなのに、こんな理解を超えた意味不明な目に合うなんて―――

「!? 誰!」

 そう思った矢先、何かから見られた気がして振り返る。
 その場所に浮いていたのは、くすんだ赤毛の髪を持つ男の青年。端整な顔だが、全てを失った後のような死んだ目に、ルイズは思わず息を飲んだ。
 その目にうっかり飲み込まれ、気押されそうにそうになるが、貴族としての誇りと自分がこいつを呼び出したという自信が背中から心を支えた。こいつが、私の使い魔になるべきモノだと直感で察知したのだ。
 いつの間にいたのか。何者か。そう問おうとして、意味がないことに気づく。剣の正体がこの男なのか、この男の正体が剣なのかも些細な事だ。
 私は、召喚した主として言わなければならない事がある。

「契約するから、じっとしなさい!」

 無言。男は挙動一つ見せない。それを了承と勝手に受け取り、ルイズは首を伸ばそうとして、

rア・……契約?

 一拍遅れて返事が来た。目が目なら声も特徴的で、感情の無い声という表現は聞くが、色の無い声、と表現できそうな声は初めて聞いた。
 めんどくさそうな声なのだが、言葉そのものを「そういう言葉を出してます」という風に頭の中に文章として叩きつけられているような気分だった。
 だが、喋れるのなら話は早い。ただの平民でも無さそうだし、早く契約してしまおう。

「そう、契約よ。あんたが私の使い魔になるの」
rア・…………。

 男は面倒な事になったと思った。償いの為の永い封印から覚めて何を求められるかと思ったが、自分と契約しろと、使い魔になれという。
 剣を通して感じられる空気も、知っているものとは全然違う。命の気配で溢れ、澄みすぎている。多分、ここは全く知らない世界で、自分と契約する事の意味を全然知らないんだろうなと思う。
 教えようかと思ったが、身体を久々に「持ちたい」とも、またはもう外に出るのも面倒くさいとも思っていた。
 けれど、決めなければそれはそれで、だろう。

 悲しそうな顔で別れを告げる、幼馴染の顔が浮かんだ。とうに昔、忘れたと思っていたのに。

rア○いいよ。
 ・……眠い。
 ※殺 神 遊 戯 。

 あの時、強制された事に反発したからとはいえ、たった一つの選択を選んだだけで、自分は世界の悪となった。
 もう一つの方を選んでいたら、どうなっていただろう? 相棒との関係も、変わっていたのだろうか?
 あんな存在になってから襲い掛かる虚脱感は未だ全身を覆っている。この少女に使い魔として手を貸すことで、あの時の、そして何より自分自身の償いにする事が出来るだろうか?
 そんな自分のエゴから、男は少女に従うことを決めた。

「じゃあ契約するわよ。目を瞑ってなさい」

 言われたとおりに閉じる。程無くして、ほのかに暖かい感触が、唇に浸透した。

「……あれ?」
 いきなり、目に光が飛び込んできて、ルイズは驚いた。前には剣、下には土の地面、そして上には青空と雲。戻ってきたのだ。
 契約は、出来たのだろうか。明らかにあの現実ではない空間で契約しても、こちらでは作用するのだろうか。
 そう思っていた矢先、契約証明となるルーンが刻まれた。

「……ッ!?」

 何故自分の身体に? 剣に刻まれるはずでは?
 ルイズの混乱の正しさを証明するように、確認に来たコルベールも、ルイズの左手の甲についたルーンを見て、言葉を失う。

「ふむ、コントラクト・サーヴァントは成功したようですね」

 だが流石は教師、コルベールは動揺を抑え、まず試験の進行を優先した。メモを取り出し、サラサラとルーンを記録して、続いて文章を書いてこっそりルイズに見せた。
『その剣を持って、試験終了後付いて来なさい』
 ルイズもまた錯乱しかけていたが、メモを認識してコクリと頷く。
 無理も無い。ルーンが自分に刻まれたというのは、自分が使い魔だと言っているようなものだ。まさか、彼女が剣の使い魔にさせられたとは思いたくはないが、それでも事情は聞いておきたい。

「ぼろっちい剣だから契約出来たんだろ?」
「幻獣じゃ出来なかっただろうな!」

 何が憎いのか、それともただ魔法が使えない彼女を下に見たいのか、心ない声が続く。
 彼等はこの事態に気付いていないようだが、ならば教師として、余計に彼女に不利となる材料にする事を気付かせる訳にはいかない。努力と知識は人一倍あり、ずっと頑張っている生徒が守られないなんて、教師として有り得ないと思ったから。

「これで試験は終了です。生徒はみんな、教室に戻りなさい」

 宣言して、場を終了させる。余計な事に「ルイズは飛べないから歩いて来いよ!」という空からの罵詈雑言を無視し、コルベールはルイズの手を取った。
「事情と詳細を聞かせて貰います。よろしいですね、ヴァリエール?」


**************


 コルベールに背負われて、やって来たのは何と学院長室。
 いきなり大袈裟な事態―――まあ確かに使い魔にしようと思ったら使い魔にされたかもしれないというのは、未だかつてないだろうが―――に驚きながらも、
学院長オールドオスマンの、「関係者や秘書はここにはいない。存分に話したまえ」との言葉を信用し、コルベールとルイズは詳細を話す。
 まあ迂闊に聞かせてはならないと思ったからコルベールは此処に連れて来て、オスマンもそれを承知しているのだが。
 まずはサモン・サーヴァントで剣を呼び出したところから、剣が怪しげだった事、ルイズの契約の事情に至り、そしてルイズ自身が使い魔になってしまったのだろうかとの不安までを事細かく話す。
「あの時、伝統に縛られずに止めておけばよかった」と懺悔するコルベールを、オスマンは落ち着きたまえと思いの外余裕な声で諭した。

「わしの見立てが正しければ、ミス・ヴァリエールは無事じゃ。恐らく、使い魔と正真正銘の意味で一心同体となってしまった為に、彼女自身に刻まれたのじゃろう。
 そうではないのかね?」

 確信に至っているようなはっきりとした問いが、ルイズでもコルベールでもない誰かに投げ掛けられた。

rア・うん。

 対する答は、やはり色のない言葉で返って来た。
 ルイズはさっきも体験した事だから耐性が付いていたが、コルベールは目に見えて分かるほどあたふたしていた。

「お、オールド・オスマン!? 今のは!?」
「みっともないですぞ、ミスタ・コルベール。使い魔の方から出て来てくれたのだ、疑問解消のチャンスではないか」
「そ、そうですな。ではまず、君は何者かな?」

何者か。その簡単な問いに一瞬だけ口ごもり、ボソッと答えた。

 ・…喰世主?
rア・魔王でいいや

「おい貴様ッ! でいい、とはなんだ!! でいいとは!!
 オレさまが魔王になるのに、どれだけあいつらに振り回されっ……苦労、したことかっ……!」

「今の、妙に実感こもった、子供みたいな声、何よ?」
rア・知らないよ。

 ずっと同じ色無しの声の筈なのに、ルイズは初めて言葉の奥に何かが含まれている気がした。


 一時間程経っただろうか、声が協力的だったのもあり、質問は順調に進んだ。
 剣の中の男は、この世界とは違うハーフニィス界から来たと言った。ボロボロで、滅びそうな世界だったと言う。
 そこで、大きな、とても大きな罪を、前に剣の中にいた相棒と犯し、相棒は償いの為に生まれ変わり、自分は悪の帝王として相棒の代わりに剣に封じられ、異空間に封印された。
 が、契約によって封印が解け、剣を通してルイズの身体の中に入ったのだと言う。ちなみに、剣を壊しても殺すことは出来ないのだとか。
 また、彼はギグと名乗った。説明しなかったが、思い入れのある名前のようだった。

「あまりミス・ヴァリエールを拘束するのもなんじゃ。今日の質問は最後にしよう。
 ―――君は、その身体を使い、どうするつもりなのかね?」

 突き刺すような眼光。自分が見られている訳でもないのに、射抜かれたルイズは思わず後ずさった。
 秘書や教師達からオールド・オスマンはスケベだのサボるだのボケてるだのという噂を多少なりとも聞いてはいたが、所詮噂だと思い知る。そこには確かに、トリステイン学院を引っ張るリーダーの姿があった。

rア・……分からない。
「ふむ?」
rア・でも……今は何もする気はない。
「今は……か。まあ、いいじゃろう」

 目が緩む。ルイズは漸く、視線の縛りから解放された気がした。
「悪かったの、ミス・ヴァリエール」
「い、いえ……こちらこそ、ご迷惑をかけました。では、失礼します」
「うむ」

 静かに学院長室を出るルイズ。足音が消え去ったのを確認して、オスマンが口を開いた。

「ミスタ・コルベール。この事は他言無用……とまではいかんが、ミス・ヴァリエールの使い魔は彼女の剣で、喋ると教師達には言っておいてくれんかの。
 むしろ問題、他言無用なのは、あのルーンじゃ」
「あのルーン……確かにどこかで見たことがあるのですが」
「記憶が正しければ、あれはかのガンダールヴじゃ」
「あの、ですか!」
「うむ。特に王宮には知られてはならんぞ。奴等は戦争の道具として、嬉々として使いかねん。これは、わしとおぬしの秘密じゃ」
「承知いたしました。……しかし」
「何じゃ?」
「秘密の共有は、やはり女性としたいものですな。老人としても何の感慨も生まれませんな」
「ほっとけ」


***************


 重い剣を背中に背負い、ひいこら言いながらルイズはやっと自室についた。
 剣を力なくドサッと床に落とし、えーいとふわふわのベッドに身を投げ出す。疲れた身体をゆったりと受け止めてくれて、気持ちいいなあと夢心地。

rア・重かった?
「当然よ。ただでさえメイジは剣なんて持たないのに、背丈より長いから時々引きずって大変なのよ、あれ」
rア・ごめん。
「いいわよ、別に。何とか考えるわ」
rア・必要無かったら、剣は持たなくてもいいと思う。
「そうはいかないわ。メイジは使い魔をちゃんと管理しておくものよ。
 使い魔が剣だからと言って、重いので持って来ませんでしたとか言ったら、笑われちゃうわよ」
rア・……無理してない?
「してないわよ。もう寝るわよ、おやすみ」

 話は終わり、余計な心配するなとばかりに、ルイズは服を寝巻きに着替えようともせず、放置した剣に背中を向けて目を閉じた。
 目を閉じて、寝息のようなか細い息を立て、本格的に夜になるような時間。剣はもう主は寝てしまったのかな、と自分の意識を断つ事にして。

「……おやすみ、ギグ」

 分かる。自分の時とは違って、今回の『持ち主』はいい人だ。
 確かに世界状況は違うけど、このいい人と一緒に、いたいと思う。
 全てに面倒くさくて興味を持てなくて眠ってばかりで無茶苦茶ばかりしていた自分に、笑いながらついて来てくれた元の相棒を思い出しながら、新たな主に眠りの挨拶をかけた。

rア○おやすみ、相棒。

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