あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのノブレス・オブリージュ-7

 今や学院中は使い魔品評会一色に染まっていた。
 使い魔品評会とは、春先に行われた召喚の儀式で呼び出された使い魔を学院の教師や生徒全員の前にお披露目するという、
トリステイン魔法学院の二年生にとって最も重要な行事である。
 何しろ、メイジの実力を見るには使い魔を見ろ、と格言に言われるように、強力な使い魔を召喚するということはその実力を
知らしめることにつながる。
 そのため、二年生は学院のそこかしこで召喚したばかりの使い魔と芸の練習に励んでいる。
 それはここ、女子寮の一室も例外ではなかった。

「あんた、何かできることはある?」
 ベッドに腰掛け、ツルギと目線を合わせたルイズはいきなり問いかけた。
「何を言う。俺は全ての頂点に立つ男だ」
「……あんたに聞いた私が馬鹿だったわね」
 立ち上がったツルギは立ち上がり、こともなげに言った。それを聞いたルイズは、こめかみを押さえながら呻くように呟いた。
「何故そんなことを聞く?」
「……品評会があったことをすっかり忘れてたのよ」
「品評会だと?」
「そういう、毎年恒例の催しがあるのよ。生徒たちが召喚した使い魔を学院中にお披露目するの」
「人をペットのように言うとは失礼な奴だ」
「とにかく、恥をかくのだけは避けたいのよ。けど……」
 そう言ってルイズはツルギを横目に見た。そして、ため息を突くように言う。
「無理かしら」
「どうして恥をかくというのだ?」
 相変わらずの自覚ゼロ。本人が把握していないのが、一番たちが悪い。
 ルイズは、ツルギを召喚してから何度目かも分からないため息を吐いた。
「まあ、剣捌き当たりで無難に終わらせておけば……大丈夫かしらね」
 優勝はまず無理だろうが、恥をかかないのが第一だ。珍しく後ろ向きな考えで、ルイズは言う。
「それだけか?」
「他に何かできることでもあるの?」
「当然だ。ステージで発表するのに向いた派手なもの、……そうだな、ピアノあたりはどうだ?」
「えっ、できるの!?」
 ルイズは驚いて聞き返した。ピアノを習うなど、そこらの平民にできることではない。
「当たり前だ」
 自信たっぷりな答え。もし本当にピアノが上手ければ、絶好のパフォーマンスになりえる。何しろ、他の使い魔にピアノを弾くなど
まず不可能だ。人間ならではのことではある。しかし……
 ふとルイズはあることに気付き、顔をうつむけた。
「でも、やっぱりダメね」
「何故だ?」
「お披露目はステージでやるのよ。そこまでピアノを持ってくるなんて無理よ。第一、使い魔になんて学院がピアノを貸してくれるわけがないわ」
「そうか。ならば……歌ならどうだ?」
「歌、ねえ」
 ルイズは極めて疑り深い目つきで、ツルギを見た。
「何だその目は」
「だって、ねえ。ためしに何か歌ってみなさいよ」
「少し待て」
 何にするかと思案していたツルギは、一つ咳払いをしてから、ルイズの聞いたことのない歌を歌い始めた。

「♪~~FULL FORCE誰より~も早く、明日~を見~続け~る」



 歌も終わったらしく、ツルギはどうだとばかりにルイズのほうを見た。
「驚いたわね。結構上手いじゃない。けど、聴いたことのない歌ね。なんて歌?」
「俺にもよく分からん。なぜか耳に残っていたのだ」
「そう。まあいいわ」
 おそらく異国の歌だろう。これなら目立つこと請け合いだ。意外といい線いけるかもしれない。
 そこでツルギが口を開いた。
「ところで、歌うのは俺だけか?」
「何よそれ」
「ル・イーズも歌った方がいいのではないかと思ったのだが」
 ツルギの言葉に、ルイズは考え込んだ。
 品評会は使い魔の質はもちろん、どのようなパフォーマンスをしたかも重要視される。どれだけ使い魔と絆を深めたかが
試されるからだ。使い魔と共に異国の歌を歌うというのは、彼一人に歌わせる以上にかなりの好印象が期待できる。
 使い魔の質で勝負できない以上、パフォーマンスで差をつけるしかない。ルイズはツルギの両手を掴み、目を輝かせて言った。
「それよ! ツルギ、今すぐ私にあなたの知っている歌を教えなさい!」
「いいだろう。俺は歌を教えることでも頂点に立つ男だ」

 どんな歌を歌うかでも多少もめたが、そこは二人用で、ツルギが「なんとなく親近感が沸く」ということで決定した。
 しかし、歌を教え込む時点でもかなりの困難がのしかかった。何しろ、こういった歌を知らない人間に歌わせるのだ。その苦労は
並大抵のものではない。
 悪戦苦闘の末、かろうじてルイズは歌詞と一通りのリズムを覚えることに成功した。
 そして、ついに二人で合わせる。
「よし、行くぞ」
 ツルギの合図と共に、二人はリズムを取って歌い始めた。楽器がないので曲はなしだ。
「いつの間にか忍び込む正体! 謎過ぎて落ち着いていらんない! ~~」
「邪魔な奴は倒して構わない!? 言ってみただけ答えはいらない! ~~」
 かなり間の取りにくい、難しい歌だ。二人は互いに熱唱するが、全くといっていいほど息が合っていなかった。
 ツルギは一流の家庭教師たちから最高の教育を、マンツーマンで受けてきた。
 一方ルイズも学院ではゼロと馬鹿にされ続けてきたおかげで友達がなく、他人と共同作業をするという機会はほとんどなかった。
 つまり、二人とも他人に合わせるということがものすごく下手だった。
「ル・イーズ! 音がずれてるぞ!」
「うるさいわね! あんたの方が外れてるのよ!」
 この調子で二人の息が合うことはないまま夜も更ける。結局眠くなった二人は、険悪な空気を保ったまま就寝した。
 品評会まで後二日。



 翌日、いつもどおりルイズに外に追い出されたツルギは、いつもどおり学院内を散歩していた。
 そこら中で使い魔と共に訓練に励む生徒たちの姿が目に入る。
「ほお、品評会の練習か? ご苦労なことだ」
 手にデルフリンガーを下げ、優雅に散歩する。その折、後ろの方から肩をぽんと叩かれた。
「ツルギさん」
「おお、メイドか。どうした?」
 ツルギは振り向いてうれしそうに言った。彼女に対して、なんとなく親しみを感じているのだ。
「今日からやっと仕事ができるようになったんです。だから、ツルギさんにも挨拶しておこうと思って」
 シエスタも満面の笑顔で返した。布に包まれた長い物を大事そうに抱えている。
 モット伯が王宮の勅使であったために、王宮でかなりの問題になった。犯人も未だに捕まってはいない。それでシエスタに関しても
色々とごたごたが起こり、職場復帰が遅れたのだ。
「そうか。それは良かった」
「はい! ツルギさんも、色々とありがとうございました」
 シエスタは深々と頭を下げた。
「当然だ。ショ・ミーンを守るのは高貴なる者の義務、ノブレス・オブリージュだからな」
「ふふ、そうですよね。……そうだ! これ、お返ししますね」
 もはやツルギの物言いにも慣れたシエスタは軽く返す。そして、長い包みをツルギに手渡した。
「何だこれは?」
 言いながらもツルギは包みを開ける。そこから覗いていたのは、いつかなくしたと思っていたサソードヤイバーだった。
「おお、これは!」
「ツルギさん、前に厨房に忘れていったんです。それでいつか返そうと思っていたんだけどなかなか返せなくて……ごめんなさい!」
 シエスタはまたも頭を下げるが、ツルギはそれを見ていない。布をシエスタの手に返して、サソードヤイバーをまじまじと眺める。
「この俺のサソードヤイバー、よくぞ戻ってきた。感謝するぞ、メイド!」
 ツルギはシエスタの左肩に手を置いて言った。シエスタは謙遜するように目を伏せるが、手を叩いて思い出したように言った。
「そんな……。それよりツルギさんも品評会に参加するんですよね。頑張ってください!」
「任せておけ。俺はツ・カイマーの頂点に立つ男だ」
「すごい自信ですね。やっぱりツルギさんはすごいです」
 応援してます、とシエスタはサポーターよろしく両腕を胸の辺りまで持ち上げて言った。そのまま一礼して仕事に戻っていく。
 そろそろ授業も終わる時間だ。シエスタを見送ったツルギは、ルイズを迎えに行った。

 その夜も、ルイズとツルギは息の合わないデュエットを練習した。合わないなりに何度もしつこく続けていったおかげで、
少しは聞ける程度になった。
「こんなところかしら。仕方ないわね」
「俺はデュエットでも頂点に立つ男だ」
 妥協したルイズと相変わらず根拠のない自信をもったツルギは、歌と同様かみ合わない思いを抱いて眠りについた。
 品評会はもう明日。



「ただいまより、本年度の使い魔お披露目をとりおこないます」
 コルベールの開会の挨拶により、ついに品評会が始まった。
 この日のために練習を重ねてきた生徒と使い魔たちはステージに上がり、ここぞとばかりに思い思いの芸を披露していく。
 キュルケはフレイムに火炎のブレスで舞を舞わせた。
 モンモランシーのバイオリンの音色に合わせ、カエルの使い魔ロビンは見事な踊りをする。
 マリコルヌはフクロウの使い魔クヴァーシルと共に、手品を披露。
 ギーシュは自らが溺愛するジャイアントモールの使い魔、ヴェルダンデの美しさを強調するためか、共にバラに囲まれて優雅
に寝そべった。しかし、彼の使い魔の美しさは観客にはうまく伝わらなかった模様で、ギーシュはいたく落胆した。
 タバサが風竜の使い魔、シルフィードを披露したところでは一際大きな歓声が上がった。彼女はシルフィードの背に乗って、
会場の空を一周した。その美しい姿は、観衆たちを魅了した。

 ステージの脇で順番を待っていたルイズは、ツルギに目配せをして言った。
「さあ、行くわよツルギ」
「任せろ、ル・イーズ。俺はツ・カイマーでも頂点に立ってみせる」
 ツルギはいつものように、自信満々の様子で応える。
「いいこと? 私が合図するまで大人しくしているのよ」
 やけに決闘を挑みたがる彼の性格から、念のためにデルフリンガーを取り上げている。今日は挨拶をして歌を歌うだけなので、
ツルギのほうも了承した。あとはいつもの奇行と発言にさえ気を付ければ、とりあえず無事に済む、とは思うものの不安でしょうがない。
 ツルギの行動はいつもルイズを驚かせる。幾度、寿命の縮む思いをした河からないほどだ。何を言っても通用しない上、
ギーシュに決闘を挑んだり、モット伯の屋敷に乗り込もうとしたり……彼女の想像を絶する。
 今度ばかりは大丈夫と思うけど……どうにか無事に済みますように。
「続きましてルイズ・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
 ついにタバサのパフォーマンスが終わったらしく、名前が呼ばれる。
「行くわよ」
 ツルギは自身ありげに頷く。ルイズはそれを見て、祈るような気持ちで壇上に上がった。

 ルイズはステージの上で、満場の観衆を見渡した。彼女が平民の使い魔を呼び出した、というのは学院中に知れ渡っており、
誰もが馬鹿にするような目をしている。
「紹介いたします。私の使い魔、神代剣です。種類は……」
「ガンバレー、ゼロのルイズー!」
 マリコルヌが野次る。と、同時に会場全体から、どっと沸きあがるような嘲笑の渦が巻き起こる。
 恥ずかしさに顔を赤くさせながらも、ルイズは叫ぶように言った。
「種類は……平民です!」
 再度、さらに大きな嘲りの野次と馬鹿にするような笑いがステージを包んだ。
「そりゃ種類じゃなくて身分だろうが!」「さすがはゼロだ!」
ルイズは目をつぶり、必死で耐えるが、耐えられない者もいた。彼女の隣から鋭い声が上がる。
「無礼な奴らめ!」
 一瞬、会場が静まり返った。
 一歩前に出たツルギは、どこからともなくサソードヤイバーを取り出して会場に向かって構える。
「今笑った者、前に出ろ。貴様らの侮辱は許しがたい。決闘を申し込む!」
 使い魔とはいえ、平民が貴族に剣を向けていた。信じられない蛮行に教師、生徒問わずに一瞬時間が止まり、そしてざわめき始めた。
 あまりの事態に呆然としていたルイズははっと我に返った。臨戦態勢となったツルギに横から怒鳴りつける。
「ちょっと、ツルギ! 何やってんのよ!」
「案ずるな。俺は決闘でも頂点に立つ男だ」
「そうじゃないでしょ! 大人しくしているように言ったのに!」
 ルイズはツルギの手からひったくるようにしてサソードヤイバーを奪い取り、耳を思い切り引っ張った。さすがのツルギも
これには堪えたのか、耳を押さえて苦痛を訴える。
「くっ! 何をする、ル・イーズ!」
「勝手なことしないでよ! あんたは引っ込んでなさい!」
 耳を引っ張ったまま、ルイズは強引にツルギをステージの外まで連れて行った。想像を絶する展開に、教師でさえも唖然としている。

 その後、もう一度ステージに戻ったルイズは、ほとんど泣きそうになりながらも貴族としての誇りでかろうじて耐え、気丈にも
使い魔の蛮行を謝罪した。
「申し訳ありませんでした。……使い魔の無礼を、心より謝罪いたします」
「何やってんだよ!」「ゼロのルイズは使い魔も最悪だな!」「貴族に剣を向けるなんて、殺されたいのか!」
 謝罪の言葉に、観衆はやっと我に返った。そして、口さがのない連中はさらにひどい侮辱と嘲笑をルイズに浴びせる。
 彼女はじっと堪えるが、ついには目元を押さえ、逃げるようにして会場を後にした。

 とにかく人の目から逃れたかったルイズは、一人で会場から遠くはなれた本塔の中庭まで走ってきた。
「何よあいつ、何なのよ!」
 最悪だった。こんなことなら欠席した方がまだましだ。そうすれば、いつもどおり馬鹿にされるだけですんだかも……。
 よりによってあんなこと! それにあの態度!
 ルイズは先ほどのツルギとのやり取りを思い出す。

「何であんなことしたのよ!」
 嘲笑と罵倒の渦から逃れるように、ステージの脇に引っ込んだルイズは掴みかかるようにして問い詰めた。するとツルギは
こともなげに答えた。
「当たり前だ。あのような侮辱、許せるものではない」
「おかげで大恥かいちゃったじゃない! どうしてくれるのよ!」
「あんな屈辱を受けて黙っていろというのか!」
 ツルギの反論に、一瞬言葉が詰まった。
 何を言っても無駄だ。ついにルイズは、彼に愛想を尽かすように怒鳴りつけた。
「もういいわよ!」
 ルイズは肩を怒らせ、ツルギに背を向けた。彼が追いかけようと歩を進めるが、
「付いて来ないで!」
 彼女は一蹴し、そのまま荒い足取りでその場を後にした。

 一人になったところで、ルイズは会場の方を見た。歓声が湧き上がっている。
 そろそろ一番が決まった頃だ。多分、タバサのシルフィードだ。
 あのツェルプストーだって立派なサラマンダーを召喚して、その友達というタバサにいたっては風竜。いつもからかってくる
マリコルヌでさえ、フクロウというまともな使い魔を召喚している。
 それに比べてなんで私は……ハア。
 下を向き、ため息を吐いたところでルイズは、いきなり目の前が暗くなるのを感じた。何か巨大な影がかかっている。
 驚いて顔を上げた彼女の目に飛び込んできたのは、全長30メイルにも及ぶ巨大な土の巨人、ゴーレムだ。それが突如出現し、
ルイズ、正確には本塔の方まで歩いてくる。
 ゴーレムは彼女の目の前で、本塔に向かって巨大な拳を打ち下ろした。

「物理的な衝撃なら……もしやと思ったけど」
 ゴーレムの肩の上で、フーケは悔しげに言った。先ほど扉の前でアンロックを試してみたのだが、びくともしなかった。
 固定化以外の魔法はかかっていなかったが、それ自体が極めて強力。おまけに壁がハンパでなく厚かった。
「ゴ、ゴーレム!?」
 小さく声が上がる。見れば、ゴーレムの足元に生徒が一人いる。マントの色からすれば、二年生だ。
 今は品評会の最中のはずの二年生が何でこんな所にいるのか知らないが、仕方ない。
「運が悪かったねぇ!」
 邪魔者を排除せんと、フーケはゴーレムの腕を振り下ろさせた。

 ルイズは震えながらも杖を構えてゴーレムを見据え、その場を一歩も引かなかった。
 いや、身体がすくんで動けなかったのだ。目の前に、巨大な拳が迫り来る。
 押し潰されるかと思った瞬間、ルイズの小さな身体は誰かに抱えられるようにして、地面に横たわっていた。
「ル・イーズ! 何だあれは!?」
 顔の上の方から声がかかる。
 ツルギだ。彼女の使い魔がとっさにルイズを抱え上げ、ゴーレムから救ったのだ。
「わかんないけど、巨大な土ゴーレム? ……ちょっと、離してよ!」
 言ってからルイズは、思い出したようにツルギを突き放して立ち上がり、杖を構え直す。
 このゴーレムは明らかに賊だ。
 ルイズはルーンを詠唱、ファイアボールを放とうと杖を振る。
 しかし、杖の先から火の玉が出ることはなく、それどころかなぜか本塔の壁が爆発した。

「あはは、何をしようって……」
 無様な失敗魔法を笑おうとしたフーケは本塔の壁、ちょうど宝物庫の辺りにひびが入ったのを見て息を呑んだ。
 ゴーレムで殴りつけても何ら通用しなかったこの壁が……、第一、あんな風に物を爆発させる呪文なんて聞いたことがない。
「まあいいわ」
 チャンスだ。これを逃す手はない。
 ゴーレムにもう一度壁を殴らせる。直撃の寸前で鉄に変えられた巨大な拳は、轟音を立てて壁にめり込む。そして、壁が崩れた。
 それを確認したフーケはゴーレムの腕を伝い、宝物庫に侵入した。
 目当ての品の位置は既に把握している。さまざまな杖がかけられた、壁の一角。
 果たしてそれはそこにあった。『竜巻の杖 持ち出し不可』鉄製のプレートの上に、細長い黒い箱が置かれている。
 フーケは中身があることを確認し、箱ごと竜巻の杖を持ってすばやくもとの場所まで戻り、ゴーレムの腕に乗った。
 地面にいるメイジと平民、いつのまにかウィンドドラゴンまで来ていたが、大した問題ではない。
「感謝するよー!」
 巨大な腕を伝い、肩まで移動したフーケは眼下にいる二人を見下ろして捨て台詞を残す。
 そしてフーケは杖を振ってゴーレムを学院の外へと移動させた。

 首尾よく黒いケースに入った竜巻の杖を強奪したフーケは、別の場所までゴーレムだけを移動させることでそちらに注意を向けさせた。
フーケ自身は既に遠く別の場所、どこにでもあるような寂れた小屋にまで逃げている。ゴーレムも今はただの土くれにと姿を変えており、
もはや証拠も残っていない。
 ここに逃走用の馬が隠されている。
 小屋に入ろうと小さな扉――ただの板といったほうが正しいかもしれないが――にフーケが手をかけたその時だった。

 ギャリギャリギャリッ! 

 金属をこすり合わせるような激しい音が辺り一帯に鳴り響く。誰もいないと思っていたフーケは慌てて、杖を構えながら音のした方
へと振り向いた。
「な、何!?」
 左袖しかない黒いコートを着た男が、左足の金属を地面の岩とこすり合わせていた。
 フーケの視線に気付いたその男は立ち上がり、うらぶれた視線を向ける。
「メイジか、いいよなあ……お前は」
「魔法だなんて、素敵だよね」
 さらに、小屋の影から似たような服装をしたもう一人の男が現れる。二人はフーケの方へゆっくりと歩み寄ってきた。

 フーケは呪文を詠唱し始めた。ここまで来て、こんなおかしな奴らに邪魔をされるわけにはいかない。
 すぐに詠唱が完成、杖を地面に向かって振る。
 土が盛り上がり、巨大なゴーレムが姿を現した。とっさのことであったので先ほどのゴーレムほどに精神力を込めることはできず、
10メイルほどとなってしまったが、フーケは薄く笑った。
 こいつらは見たところメイジには見えない。せいぜい、傭兵崩れといったところであろう。なら、このゴーレムで十分のはずだ。
「魔法か……」
「やっちゃおうよ、兄貴」
 どこからともなく金属でできた虫のようなものがぴょんぴょんととびはねながら出現し、彼らの手に収まった。
 彼らはベルトのバックルを開き、そこに金属の虫をそれぞれスライドさせた。
「「……変身」」『Change! Kick Hopper!』『Change! Panch Hopper!』
 呟くと共に、うつむいたままの彼らの身体は鎧に包まれたような姿に変わった。

 振り下ろされるゴーレムの拳を、姿の変わった二人は難なくかわした。
 気だるそうな雰囲気とは裏腹に、この男たちはゴーレムと互角以上に渡り合う、どころか完全に翻弄している。
 またもゴーレムの踏み付けをかわした黒い方の男が正面に、緑色の男が背後にと一直線に挟み込むような位置関係になったところで、
両者は腰を下ろした。
「「……ライダージャンプ」」『『Rider Jump!』』
 やる気ない口調とは対照的に、二人は高く跳躍する。
「……ライダーキック」『Rider Kick!』
「ライダーパンチ!」『Rider Panch!』
 空中からの拳と蹴りが挟み込むように炸裂、ゴーレムは砕け散った。

「な、何よあいつら! ……こうなったら」
 自らのゴーレムがあえなく敗れ去ってしまったのを見たフーケは、黒い箱から竜巻の杖を取り出した。
 いっそ、威力を試してみるのもいい。
 竜巻の杖は、杖というには奇妙な形をしていた。甲虫をかたどったような姿で、杖というよりはむしろ剣に近い。
 持ち手、と思しき部分を掴んだフーケは、自らの杖を扱うときのように振った。
 しかし、何も起こらない。
「な、使えない!?」
 何か特殊な使い方でもあるのだろうか。しかし、調べている暇などあるはずがない。
 焦るフーケのもとに、緑色の方の男が近寄ってくる。
「お前今笑ったか? ……笑いたきゃ思い切り笑え」
 そして男は竜巻の杖を蹴り上げた。竜巻の杖は後ろの方に弾き飛ばされる。
 呪文を詠唱する暇もない。追われるようにして、フーケは後方に逃げていく。こうなっては、メイジも非力な平民と変わりはしない。
 背中に木が当たってしまった。ついに追い詰められた。
「しまった!?」
 緑の男は足を回し蹴りを喰らわせようと、左足を思い切り跳ね上げた。が、寸前でそれは止まる。 

 この女、瞳の奥に闇が見える。俺と同じ、地獄を見たか。
 ヤグルマはフードの奥のフーケの顔を見て、そう断じた。
 彼が足を止めた一瞬の隙を見計らって、フーケは短く詠唱。土の塊を緑の男の顔にぶつけた。
「兄貴!」
 黒い方の男にも土塊をぶつける。
 二人が気付いたときには、フーケは竜巻の杖と共に姿を消していた。

 ヤグルマはいつになく穏やかな表情で草原に寝そべっていた。視線の先には小さな花が咲いている。
「兄貴、何で足を止めたのさ」
 カゲヤマはヤグルマに問いかける。あそこで完全にとどめをさせたはずなのだ。
「まさか、あの女に惚れたんじゃないよね」
 ヤグルマは無言のまま答えない。
「まさかね」
 カゲヤマは最後に、吐き捨てるようにして呟いた。

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