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へっぽこ冒険者と虚無の魔法使い 第3話

第三話「世界トリステイン買物記」

イリーナは、日の出と共に目を覚ます。
規則正しい生活を常日頃から心がけているためか、目を覚ます時間は測ったかのようにぴたっと一致していた。
寝巻きを着替え、準備もそこそこにまずルイズを起こす。
寝起きでぐずる年下の主を着替えさせ、シーツを洗うシエスタに洗濯物を手渡し、シーツを干すのを手伝った後、早朝トレーニングを済ます。
そうして時間も丁度よくなった頃桶に井戸の水を汲み上げ、部屋に戻りまだボーっとしている寝ぼすけなルイズの顔を洗う。
これがギーシュとの決闘から六日間、変わらぬイリーナの朝であった。


あの決闘騒ぎから、周囲の目が変わったと、ルイズは思った。
決闘の発端がルイズを馬鹿にしたギーシュに、イリーナが謝罪を迫ったということが広まり。
「ゼロのルイズを馬鹿にしたらあの使い魔に決闘を迫られる」
という噂が流れたためだ。
それ以来、ルイズを馬鹿にするものは激減した。
ルイズは臆病な連中だとせせら笑う。その程度で怯えるのならば最初から言わなければいいのだ、と。
ただ、周囲の目が変わったのはそれだけが理由ではない。
メイジの実力を見るには使い魔を見よ。これはメイジの間では常識的なことだ。
事実、二年生のなかでたった二人だけのトライアングルメイジであるキュルケとタバサは、火竜山脈のサラマンダーと風竜の幼生体という見事な使い魔を呼び出した。
まぁどこぞの学院長は偉大なメイジと呼ばれている割りに、使い魔がただのネズミだったりするのだが……。
いずれにせよ、ギーシュのワルキューレを素手で圧倒した実力。
最後の人間離れした一撃。イリーナは生徒たちの間である存在として噂された。
メイジ殺し。
本来は覆らないはずの、魔法を使うものと使えないもの。その図式を脆くも崩す、人間離れした化け物だということに。
あのあとイリーナからあれこれ神聖魔法やらなんやら、実演を交えて説明を受けたルイズにとっては、彼らの見解は見当違いも甚だしかったが。
兎角、そんなものを呼び出したルイズは一体何者? ということとなった。
今までの馬鹿にする視線が、どこか探るような視線へと変化したのだ。
そんな視線に、ルイズはどこか居心地の悪さを感じていた。


「街に行くわよ」
虚無の曜日。休日でやることもなく、暇を持て余していたイリーナが室内で片手逆立ち腕立て伏せをしていると、ルイズが突然そう宣言した。
「街ですか? 構いませんけど、何しに行くんです?」
くりっとした目をイリーナはルイズへ向ける。
ちなみに逆さになったまま、上下運動を繰り返している。
「とりあえずその冗談みたいな筋トレはやめなさい、というか室内でやるの禁止。街に行くんだから買い物に決まってるじゃない。イリーナ、戦士なんでしょ? それなら剣でも買ってあげるわ」
感謝しなさいよ? とルイズが告げると、イリーナはこてんと転がり、一瞬呆けた顔をする。
そして凄い勢いで立ち上がり、ルイズに迫るとその目を輝かせた。
「いいんですか!?」
「近い! 顔が近い! ……必要な投資よ、私の護衛になるんだからきちんと武装してもらわないとね。
それに着替えとかも買わないと駄目でしょ? それ、もうずっと着っ放しじゃない。寝巻きは私の貸したけど」
目と鼻の先に現れたイリーナの顔を押し返し、ルイズはイリーナの服を指差す。洗濯をしたりはしているが、一着だけでは心もとないのも事実だ。
「でしたら、ヒース兄さんも呼んで来ます! ルイズは準備をしていてください!」
「あっ、ちょっと!」
そう叫ぶとイリーナはルイズが止める間もなく、部屋から走り出て行った。
ばんっ! と強く開けられた扉が悲鳴を上げる。
安普請ならば確実に破壊されていることだろう。
「……まったく、相変わらずね、あの子」
まるで子供だ、とルイズは強く思った。
話を聞く限り、相当な修羅場を幾度も潜り抜けているはずなのに、彼女の純粋で真っ直ぐな心は子供のようだ。
そんな天真爛漫で太陽のような元気な少女。
ルイズは、妹が出来たような気分になっていた。
実際はルイズが年下だったがその事実をルイズは知らない。
ついでにイリーナはルイズのことを14歳ぐらいだと思っている。
「さて……」
引き出しから金貨がぎっしりと詰まった袋を取り出す。
ルイズには浪費癖が無い、そのためそれなりの額が詰まっている。
なお、彼女は剣というのが意外に高いことを知らなかった。
「まぁこれだけあれば十分足りるわよね」
甘い考えだよそれ。


ルイズとイリーナは馬に乗って三時間掛け、トリステインの城下街へ辿り着いた。
ヒースは留守番……というよりお勉強だ。
決闘の後、寝床をどうするか悩んでいたヒースは、何故か意気投合したギーシュの部屋に転がり込んだ。
まるで幼い頃からの親友のように仲が良く、一部の女生徒たちの間で妙な噂が流れるほどだ。
そんなヒースは戻る手掛かりを探すために、まず文字を学ぶことを決意し、教師役としてギーシュを抜擢したのだ。
ギーシュの部屋を訪ねたイリーナは、机の前で絵本と格闘するヒースに街へ行かないかと告げたが、素気無く断られ、衣類や小物の買出しを頼まれた。
最近のヒースはおかしいとイリーナは思っていた。何せ真面目だ。
軽口や法螺、尊大で不遜な態度は相変わらずだが、率先して文字を学び、授業中は真剣な顔でメモを取っている。
さらにこそこそと何かをしていた。
一度イリーナが詰問したときには、なんでもないと言って誤魔化していたが……。
そんなわけでイリーナはあの兄と慕う青年は、きっと魔神か何かと入れ替わられたんです! とルイズに力説していた。
「いや、魔神が何か知らないけど、真面目なのはいいことなんじゃないの?」
「あのヒース兄さんが真面目さを六日も持続するなんておかしいです! 怪しいです!」
ルイズの正論に、イリーナがばっさりと切り返す。
彼女の中で兄と慕うヒースクリフ・セイバーヘーゲンの評価は一体どうなっているのであろうか?
「あー、まぁいいわ。兎に角、スリには気をつけなさいよ。意外と多いんだから、この通り」
ぎっしりと中身が金貨で埋まった財布はイリーナが持っている。
財布は使い魔が持つものだ、と言っていたが、単に重かったから持たせただけだったりする。
「スリですか、それはいけません、邪悪です。ですけど、こんなにずっしりしたもの、気付かれずに盗めるものなんでしょうか?」
「魔法使われたら一発よ。貴族崩れのメイジとかが、犯罪に身を窶すなんて結構あるんだから」
そういわれ、イリーナは懐の財布を握り締める。
下手なスリならば気付く自信はあるが、魔法を使われてはその限りではなかった。
「ええっと……ボルタック商店の近くだったから、この辺なんだけど……」
ただでさえ狭い通りから、さらに狭い裏路地へと入ったルイズは四辻に出た辺りであたりをきょろきょろと見回した。
「あれじゃないですか?」
イリーナが剣の形をした看板を指差す。
誰が見ても、間違いなく武器屋だと分かるほど、分かりやすい看板だった。
「ああ、あれね。早く済ませましょ、他に買うものも山ほどあるんだから」
ルイズが石段をあがり、扉へ手をかけ店内へ入る。その後をイリーナが追った。
店内はあまり採光が考えられていないのか、昼間だと言うのに薄暗くランプの灯りが点されている。
所狭しと様々な武器が並び、それを見たイリーナが嬉しそうに目を輝かせる。
「これはこれは貴族の旦那。うちは真っ当な商売をしてまさぁ。
お上に目をつけられるようなことなんざ、欠片もありませんや」
パイプを加えた店主と思しき中年の男が、入ってきたルイズを胡散臭げな目で見つめ、口を開いた。
「客よ」
「こいつはおったまげた! 貴族が剣を! おったまげた!」
大げさに驚く店主に、ルイズは苛立たしげにどうしてよ、と尋ねる。
「いえね、若奥様。農民は鍬を振る、娼婦は腰を振る、金貸しは首を振る、そんで貴族は杖を振ると、
相場は決まっておりますんで」
「使うのは私じゃないわ。使い魔よ」
下品な例えが混じった店主の言葉に顔をしかめながら、ルイズはイリーナを顎で指す。
「忘れておりました。昨今の使い魔は剣も振るうようで」
今更愛想を込めたところで印象がよくなるわけでもないというのに、店主はおどけてそういった。
そしてイリーナをじろじろと見る。
「剣をお使いになる方は、こちらで?」
小柄な少女が剣を振るうということに店主が笑いを我慢していると、ルイズは頷いた。
イリーナは店に並んだ武器をわー、わー、などと言いながら夢中だった。
「私には剣のことなんてわからないから、適当に大きな剣持ってきて頂戴」
「へぇ、ですがそちらのお嬢さんが振るうには、あれぐらいのレイピアが丁度良いかと」
そういって店主は、飾られていた煌びやかな模様が刻まれた、細身の剣を指差した。
華奢な剣だ。こんなもの、イリーナの怪力ではあっさりと折れてしまうだろう。
「そういや、昨今は貴族の方々の間で下僕に剣を持たせるのがはやっておりましてね。
その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」
「貴族の間で、下僕に剣を持たせるのがはやってる?」
また見栄の張り合いかと、ルイズは思ったが、店主に尋ねたところどうやら違うようだった。
「へぇ、なんでも、最近このトリステインの城下町を、土くれのフーケとかいう、メイジの盗賊が荒らしておりまして……。
貴族のお宝を散々盗みまくってるって噂で。貴族の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせる始末で。へえ」
物騒なことだと思ったが、ルイズは盗賊には興味が無かったので、それ以上は追求しなかった。
そして改めて指差された細身の剣を見る。
しかし、青銅とは言えあの大きな剣ですら一撃で壊したイリーナの力に耐えられるとは、とても思えない。
「もっと大きくて太くて硬いのがいいわ」
「お言葉ですが、剣と人には相性ってもんがございます。男と女のように、身分と職業のように。
分不相応の剣を持ったところで扱いきれやしません。見たところ、若奥さまの使い魔とやらには、この程度が無難なようで」
「大きくて太くて硬いのがいいと、言ったのよ」
ルイズがそういうと、店主は頭をぺこりと下げ、店の奥へと消えていった。
その際に、小さく舌打ちをするのを忘れない。
そうして、立派な剣を油布で拭きながら、店主は現れた。
「これなんかいかがです? 店一番の業物でさ。何せこいつを鍛えたのはかの高名なエルフの血を引くと噂される錬金魔術師ティエル卿で、魔法が掛かってるから鉄だって一刀両断でさ。貴族のお供をさせるには、このぐらいは下げて欲しいものですな。もっとも、こいつを腰から下げるのは、余程の大男でないと無理でさあ。あのお嬢さんなら、背中からしょわんといかんですな。もちろん、おやすかありませんぜ」
店内に並べられていた武器を見ていたイリーナが近寄ってきて、自分の身長ほどありそうな大剣を見つめる。
これでいいだろうとルイズは思った。
店主が店一番と太鼓判を押すのも納得できるほど立派で、所々に宝石がちりばめられた美しい剣だ。
するとイリーナが鏤められた宝石や鏡のような刀身を見つめ、うーとかむーとか唸り、大剣をこんこんと叩くと、顔を上げた。
「これ、いりません」
「何でよ? 立派な剣じゃない。確かに高いだろうけど、別に遠慮しなくても良いのよ?」
「だって……これ完全な儀礼用の装飾剣じゃないですか。こういうの、基本的に剣としてはナマクラなんですよ?
あと最低でももう一回りは大きなやつがいいです」
イリーナがそういうと、店主は一瞬びくっとした。その様子をルイズは見逃さない。
「な、ナマクラたあ失礼でさあ。こいつは確かに装飾がちりばめられとりますが……」
「別の、もっと大きくて硬くて太い剣を、持ってくださいませんこと?
オーク鬼が暴れて振り回しても、壊れないぐらい丈夫なやつを」
思わず女ですら見惚れかねないほど、満面の笑みを浮かべたルイズに、店主は慌てて店の奥へ引っ込む。
その様子を見てルイズはため息を吐き、やれやれと肩をすくめた。
「っけ、生意気言うんじゃねぇガキンチョ」
突然、低い男の声がした。
その声のほうにルイズとイリーナは顔を向けるが、視線の先には乱雑に積み上げられた剣があるだけだ。
「おめえ、自分を見たことがあるのか? その身体で剣を振る? おでれーた! 冗談がすぎて笑えねぇや! 大人しく家で裁縫針でも持ってるのがお似合いさ!」
「む! 失礼ですね! そんなこと言われたの初めてです!」
いきなり悪口を言われたイリーナが、大股で声のほうへ歩いていく。
しかし人影は無く、ただ乱雑に剣が積み上げられてあるだけだ。
「おめえもだよ! 貴族の娘っ子! 分かったらさっさと家帰って母ちゃんのおっぱいでも吸ってな!」
「なんですって!」
ルイズが怒鳴り、積み上げられた剣のうち、一本を手に取る。
「何しやがる! 放しやがれ!」
するとその剣が、刀身の根元についている金具をカタカタとさせ、声を発した。
「け、剣が喋ってる!?」
「インテリジェンスソードよ。誰が始めたか知らないけど、意思を持ち喋ることが可能な魔剣よ。それはそうと、随分と生意気な口利いてくれたじゃない。
溶かされたい? それとも砕かれたい? 好きなほうを選んでいいわよ」
「おもしれ! やってみろ! どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ! 溶かそうが砕こうが好きにしやがれ!」
その言葉を聞いたルイズが額に青筋を浮かべ、杖を振り上げると、イリーナがそれを止めた。
「何よ、私は今からこの生意気なインテリジェンスソードを完膚なきまでに徹底的に、
粉みじんになるまで壊すの。邪魔しないで」
「そんな……可哀想ですよ。剣とは言え、意思を持って生きてるんですから」
そう言ってイリーナはしゃべる剣を手に取ると、じーっと見つめた。
長さは先ほどの剣と比べると少々短い。イリーナでもぎりぎり腰に佩けるぐらいの片刃の長剣だ。
柄は長めに作られており、両手でも片手でも問題なく扱えるようになっている。
「私はイリーナ・フォウリーです。あなたのお名前はなんていうんですか?」
「俺はデルフリンガーさまだ! おきやがれ!」
突然、デルフリンガーと名乗った剣が黙りこくった。暫く無言の時間が続き、ルイズの苛々が頂点に達する前に金具が動く。
「おでれーた。てめ、『使い手』か。こんなところで会うとは本当におでれーた。てめ、俺買え」
「『使い手』?」
聞きなれない単語に、イリーナが小首をかしげていると、店の奥からゴロゴロという、車輪が回る音が近づいてきた。
二人が何事かと振り向くと、室内だと言うのに台車を必死な顔して押している店主がいた。
「はぁはぁ……お、お待たせしやした。ご所望の、大きく硬く太い、オーク鬼が振り回しても壊れない……って、やい!デル公! てめ、お客様に失礼なこと言ってないだろうな!」
イリーナがデルフリンガーを持っていることに気付いた店主が、声を上げる。
「うるせ! 俺はこいつに買われんだ!黙ってろ!」
「嘘吐くんじゃねえ!いっつもいっつも客に喧嘩売りやがって! 今日と言う今日はもう我慢ならねえ!貴族に頼んで溶かしてやらあ!」
「あ、あのー二人?とも落ち着いてください」
喧嘩を始めた店主とデルフリンガーを、イリーナがおろおろとしつつ仲裁する。
その隣で、黙っていたルイズの青筋は先ほどより一つほど増えていた。
「それで……持ってきた剣って、それ?」
怒りに耐え、ルイズが店主が台車に載せて運んできた剣を、顔を引き攣らせつつ指差す。

……それは剣というにはあまりにも大きすぎた。大きくぶ厚く重く、そして大雑把すぎた。それはまさに、鉄塊だった。


「へ、へぇ。何でもドラゴン殺しって名前だそうで、店一番……それどころか多分トリステインで一番、大きく太く硬い剣でさぁ」
ルイズは頭を抱える。なんだそれは、物には限度と言うのがあるだろう。
「あのねぇ……そんなもの人間が使えるわけないわ! 限度って物を知りなさい! 限度を!」
桃色の髪を激しく揺らし、ルイズは咆える。
あんなもの、振り回すことは愚か、持ち上げることだって並の大男ですら困難だろう。
しかし、そんな鉄塊をイリーナは真剣な顔で観察する。体がすっぽり隠れそうな幅広い刀身に触れ、巨大な割りにはしっかりと付いた刃を確かめる。
「これ……凄い。誰かが使って、戦った形跡があります。それも、物凄い数の戦いを……」
言われてルイズも注意深く観察してみる。
確かに、鈍く黒光りする刀身には無数の傷跡が存在し、柄に巻かれた滑り止めの布は使い込まれた形跡がある。
ルイズはまた頭を抱えた。
こんな冗談の塊のような、オーク鬼ですら持つのが精一杯であろう剣を、振り回し戦ってたものがいると言うことに。
「へぇ。確かにこれは何度か打ち直した形跡も見られやして、最初に気付いたときは何の冗談かと思ったりもしやした」
当然だ。こんなもの、倒れてきた日にはルイズなど脱出するどころか、重さで圧死しかねない代物だ。
「私、これがいいです」
「「は?」」
イリーナの言葉を一瞬、ルイズと店主は理解できなかった。
この少女は何を言っている? 欲しい? この剣を?
「……使えるの?」
「はい、私が前に使ってたグレートソードより一回りどころか二回りは大きいですけど……多分、あの力で何とか」
その会話を聞いた店主が、大声で笑い転げる。
「わははははは! 冗談を言っちゃいけませんぜ、お嬢さん! そいつは2メイル以上の長さがあるんですぜ? しかも恐ろしく分厚く幅広い!
お嬢さんがもし持ち上げられたらタダで譲って差し上げまさあ! わはははは……は……」
店主の笑いが止まる。イリーナが、んしょ、と鉄塊を少しだけ重そうに持ち上げたからだ。はっきり言ってその光景は、驚きを通り越してシュール極まりない。
「持ち上げられたらタダ、だったわよね?」
ルイズの言葉に、店主は首を人形のようにカクカクと縦に振る。
「……やっぱり武器を持つと、左手の紋章が光って力がもりもり沸いてきます。原理は分かりませんが、これなら問題なく扱うことが出来ます!」
嬉しそうにイリーナは鉄塊を掲げた。
ここが広々とした場所ならば振り回していそうだ。
「あー……やっぱ俺っち買うのやめてくれない? その力で振り回されたら折れそう、こうポキっと」
カタカタと金具を鳴らし、デルフリンガーが言葉を発する。
「あ、そうだ。ルイズ、デルフリンガーさんも買ってください。このドラゴン殺しは大きすぎて室内じゃ使えませんから、予備として小さめな武器が欲しいんです。
室内で使うには大きさもちょうど良いですし、それに何かあったときデルフリンガーさんなら相談出来ますから」
「あのー、俺っちの話、聞いてる? ねぇ」
ふむ、と顎に指を当て、ルイズは思案した。確かに24時間365日、四六時中自分の側にいるわけではないのだ。
そんなとき、ハルケギニアの常識を知らないイリーナをサポートするには、インテリジェンスソードは確かに最適だ。
幸い、イリーナが満足する武器はタダで手に入った。
「あれ、おいくら?」
「……へ? へぇ。新金貨で百で結構でさあ」
「あら、安いじゃない」
「こっちにしてみりゃ厄介払いみたいなもんでさ。へぇ」
ルイズは鉄塊を持ち、嬉しそうなイリーナの懐から財布を取り出すと、中身を適当に掴みカウンターに置いた。
店主は慎重にその枚数を数え、何枚か余分だったのか横に避けた。ルイズはそれを財布へと戻す。
「毎度」
デルフリンガーを手に取り、店主は鞘に収めるとルイズへと渡した。
途中、悲鳴が聞こえたが無視する。
「どうしても煩いと思ったら、こうやって鞘に収めればおとなしくなりまさあ」
さらに、ドラゴン殺しを背負うための革のベルトをイリーナに手渡すと、店主は何かぶちぶちと呟きながら店の奥へと消えていった。


ドラゴン殺しはでかい。兎に角でかい。
2メートルを超える長さを誇るのだから、持ち運ぶには誰であれ背負うしかない。
これが大男ならば兎も角、小柄なイリーナとなると、引きずらないためにもかなり斜めになる、相等斜めになる。
そしてブルドンネ街の通りは狭い。
トリステインで一番の大通りだが、それでも5メートル程度の幅しかなく、所狭しと人が歩いている。
そんなところをドラゴン殺しを背負って歩けば、恐ろしく通行の邪魔になるのは当然のことだった。
「皆さん親切ですね、道を開けてくれるなんて」
「いや、それ違うと思うわ……」
人々は冗談のように巨大な剣を背負うイリーナを見て、道を開ける。
モーゼの海峡のごとくざざざっ、と道が出来ていく。
ルイズは、悪目立ちというのはこういうのを指すのだろうか? と頭の片隅で考えていた。
そんなことを考えながら、次の目的地である服屋を探していると、視界の端から見知った赤毛の女が近づいてくる。
「ルイズと……イリーナじゃない。何してるのよ、何か傍から見てると無駄に面白いわよ」
「キュルケ! 何って、あんたこそ何でこんなところにいるのよ!」
赤毛の女、キュルケが笑いを堪えながら話しかけてきた。
イリーナがどうも、と頭を下げ挨拶をする。
ドラゴン殺しの刀身が少しだけ横を向き、通行人たちがさらに隅に寄っていく。
「買い物よ、それ以外の理由で街に出るわけ無いでしょ? に、しても……大きいわね、それ」
「当然よ。私の使い魔が持つんだからこれぐらいじゃないと」
フフン、と自慢げにするルイズ。
先ほど限度を知れ、と怒っていた人物の言う台詞ではない。
「分かったらさっさとどっか行きなさい。私たちも買い物するんだから」
しっし、とばかりにルイズは手を振り、キュルケを追い払おうとする。
しかしキュルケはニヤニヤと笑い。
「ふ~ん……ならたまには一緒に買い物でもする?」
「はぁ!?なんであんたなんかと買いもn「いいですね! 一緒にしましょう!」イリーナ!」
一緒に買い物しようと誘われ、即座にそれを拒否しようとしたルイズに、イリーナは割って入って賛同した。
「ちょっと! 決めるのは私よ! あんたが勝手に賛同しないでよ!!」
「でも、皆で買い物したほうが楽しいですよ。ほら、行きましょう!」
怒鳴るルイズをそういうとイリーナは引っ張っていく。
文句の声を上げるルイズと笑顔でそれを引きずるイリーナ。
その様子を見てキュルケは実に楽しそうに微笑み、二人の後を駆け足で追った。


その後の買い物は実に騒がしかった。
やはりイリーナも年頃の少女だ。
服屋では、ルイズやキュルケと一緒にあーでもないこーでもないと次々と服をとっかえひっかえした。
そして結局何も買わなかったと思ったら、次の店では何着も購入したりなど、年頃の女の子らしいことを満喫している。
ヒースの服を選んだときなんて適当だったと言うのに。
小物類の購入の際も、あれが綺麗だこれが可愛いなど、女三人寄れば姦しいを体現していたといっても過言ではない。
最後に鎧が欲しいと言い出したイリーナの要望を受け、防具屋によって鎧を購入した。
ただイリーナが要求するだけの板金鎧は流石に特注となり、仕方なく鎖帷子で我慢したときの「軽くて落ち着きません」というイリーナの言葉に凄い顔芸を見せた店員にルイズとキュルケは大笑いした。
そうして、買い物が全て終わる頃には、ルイズの財布はすっかりと軽くなっていた。


帰り道。
何だかんだでキュルケも一緒に帰ることとなり、微妙に嫌そうな顔をするルイズをニヤニヤと見ているキュルケに対し、イリーナは微笑んだ。
イリーナはこの赤毛の情熱的な女性に好意を抱いていた。
彼女は相変わらず、ルイズをゼロと呼び、以前と変わらぬ態度で馬鹿にしている。
キュルケが決闘の経緯の噂を知らないわけが無く、自分が居るのにも関わらず、だ。
キュルケが発する言葉に、ルイズは怒り噛み付くが、イリーナはそこに悪意を見ることが出来なかった。
彼女は、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールという少女を一人の対等な人間としてみている。
ゆえに、その口から出される言葉は辛辣でも悪意は無く、あくまで不器用なコミュニケーション手段だとイリーナは察したのだ。
素直じゃない兄を持つからこそ、イリーナはそれを理解することが出来た。
ルイズは相変わらずキュルケの言葉に怒りで返している。
彼女がこの素敵な友人の気持ちに気付くのは、一体いつだろうか。
イリーナは馬に乗りながら喧嘩する二人を、微笑んで見守っていた。


デルフリンガー
知名度=20
魔力付与者=不明
形状=片刃のバスタードソード
必要筋力=15(打撃力15、両手では20)
魔力=剣自身が知性を持つ。攻撃力、追加ダメージに+2。
攻撃魔法の吸収。ガンダールヴの操作(デルフリンガー自身が色々忘れているため知性以外の魔力は殆ど使えない)

かつて初代ガンダールヴが使っていた伝説の魔剣です。
意思を持ち喋ることが出来、うるさい場合は鞘に収めれば黙ります。
また攻撃魔法を吸収し、吸収した分だけガンダールヴの身体を操ることが可能です。
デルフリンガー自身の意思で刀身を錆び付かせることや、触れた戦士の力量や武器の情報を読み取ることが可能です。
なお、錆びた状態では切れ味が落ち打撃力が5下がります。
また魔力の殆どは使い方どころか存在をデルフリンガーが忘れているため、思い出さない限り使用は不可能です。

ドラゴン殺し
知名度=12
魔力付与者=なし(あえて言えばゴドー)
形状=2メートルを越す恐ろしく分厚く幅広なグレートソード
必要筋力=35(打撃力45)
魔力=強力な固定化

ドラゴン殺しは冗談のように巨大で分厚く、幅広なグレートソードです。
最高品質で必要筋力がマイナス5下がっています。
これを使いこなすことが出来ればその名のとおり、竜とて屠ることが可能と言われています。



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