あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

竜が堕ちゆく先は-8

竜に焼かれた村。燃え盛る家々を尻目にシエスタは弟たちを連れて、森の中に逃げ込んでいた。
 父や母は一旦は森に避難したが、竜騎士が去っていくと村に戻り火の消化や怪我をした村人がいないか探している。
 シエスタは恐怖に震えていた。けれど彼女には弟と妹がいる。彼らはもっと怖いはずだ。
 実際、弟や妹は家を焼いた竜と竜の炎に怯え愚図りだしている。シエスタはそんな妹、弟を懸命にあやし、
抱きしめているがとうとう父や母の名を呼び、泣き出してしまった。
 父や母にかなわない、と思いつつシエスタは村の方を見る。新たな火の手が上がらない。
やはり竜騎士は引き上げて行ったようだ。
 シエスタは行かないでと泣く弟たちをなだめ、両親を手伝うために森から抜け出し村へと入った。
 まだ村は炎の熱気に包まれていた。パチパチと炎の爆ぜる音だけがする。
人の声はなくシーンと静まり返っている。誰の声も聞こえない。
おかしいとシエスタは思った。戻って行った村人は多いはずなのに。
 恐る恐るシエスタは歩き出す。誰かに会えることを願って。
 数十歩進んだ先でシエスタは人を見つけた。彼女の家の向かいの住人だ。
けれど地面に倒れている。どうしたんだろう、疑問に思いながらシエスタは一歩を踏み出してヌルヌルした液体を踏んだ。
 地面が血に濡れていた。倒れている人から流れ出している。
 ヒッと驚きと恐怖であげそうになった悲鳴を寸でのところでシエスタは抑えた。
父と母を探さないと、必死で祈るようにシエスタは先に進む。進むほどに血の匂いがすることに気付かずに。
 そして見てしまった。剣を手にした父と母が地面に倒れ、そこで赤く濡れた剣を無造作に持っている仮面を着けた一人の戦士の姿を。
 今度こそシエスタは悲鳴を上げた。叫びながら闇雲に走り出す。父と母の倒れている光景から逃げるように。
 後ろでは戦士の足音がする。追ってきているのか、後ろを向き確認する暇はない。
咄嗟にシエスタは弟たちを守らなければと、森とは反対方向に向きを変えた。
 懸命に走る。弟たちのところに行かせないように、追いつかれないように。
 突然シエスタの眼に、祖父が故郷の様式で作った寺院が飛び込んだ。村から出てしまったのだ。
この先には身を隠せる場所はない。あの寺院に隠れるしかない。
 それにシエスタの大好きだった祖父は言っていた。あの寺院は神聖な場所だ、神々が守ってくださると。
神々とは誰かは分からなかったけれど、今のシエスタはその言葉にすがった。
 シエスタは中に入り息を潜める。『竜の羽衣』は学院に運ばれたため狭くはない。
 ふと奥に飾られている剣が眼に入った。祖父が故郷のものにそっくりだと大枚をはたいて買ってきたものだ。
長い反りの入った細い剣。

「……タカマサ」

 祖父は剣をそう呼んでいたとシエスタは思い出した。剣を取り胸に抱く。
 こうすれば祖父が自分を守ってくれる。
そんな淡い希望を抱きながら息を潜めシエスタは見つからないことを願う。
 けれど、シエスタの望みは叶わない。
 両刃の長剣が紙の張られた薄い横開きの扉を突き破り、破壊した。
 シエスタは声の限り叫んだ。戦士はそんなシエスタの姿に何も感じないのか、
動きを止めもせず情けもかけず、剣を突き刺そうとした。
 戦士は戦場では誰にも容赦はしない。それが少年でも少女でも、背を向けた途端に刃を突き出される。
長い長い戦いの果てに開花し醸成された凶戦士の本能。仮面によって操られている今もその気性は失われていない。
逆に研ぎ澄まされ先鋭化されている。

「やめろ、止まれ!」

 戦士は突然響いたその声に呼応し剣を止める。シエスタの柔らかい体に刺さる本の少し手前で。
 指輪の持ち主が現れたのだ。仮面を着けた者を操れる指輪の持ち主が。
 土くれのフーケが竜に乗って駆けつけてきた。

「剣を収めて、私について来い」

 先ほどまでの動きが嘘のように戦士は静かに剣を二三度振ると鞘に収めた。
 そのままフーケは立ち去ろうとするが、何を思い立ったかしゃがみ込むシエスタに近寄り、
膝を地面に付かせて同じ目線でシエスタの眼を眺めた、
 シエスタの瞳は何も写してはいない。虚ろな眼だ。
 意識を失っているか、それとも心を失ったのか。
 フーケには分からない。

「……すまない」

 それはフーケの後悔を表したものだった。フーケは戦士を追い駆ける道すがら
タルブの村人が殺されていたのを見てきた。もし戦士の近くで行動していたらこのような事態を避けられたかも知れないのだ。
所詮謝罪の言葉など自己満足だ。けれど彼女は言わずにはおれなかった。
 そして、その言葉がシエスタの心を呼び戻す。虚ろな眼に光が灯る
 映像として再生されるかのように、シエスタの心にあの光景が蘇ったのだ。
炎の中倒れている父と母、村人、ただ一人立つ仮面の戦士。
 許さない。
 シエスタは腹の底から叫んだ。悲鳴ではない。あえて言うのならそれは咆哮だ。復讐の咆哮。
 眼の前の、ローブのメイジをシエスタは突き飛ばす。突然のことにフーケは反応できず、床に倒れる。
 シエスタは立ち上がりながら駆け出す、外と中の境界線に立つ戦士目掛けて。
 剣を、貴正を抜いた。鞘を捨てる。
 片刃の剣、反りの入った刀身を戦士目掛けて突き出す。
けれどシエスタの渾身の一撃は難なく戦士の鉄の籠手に止められ、弾かれる。
 次の瞬間シエスタの腹に衝撃が走る。もう片方の手を戦士はシエスタの腹に当てたのだ。
 シエスタの意識が遠くなる。体を動かせず、倒れてしまう。

「止めろ!」

 トドメを刺そうと剣を抜きかけていた戦士はその声に動きを止める。フーケが痛む頭を振りながら戦士に近づいた。

「……行こう」

 フーケは倒れた少女を一瞥し、背を向けた。アルビオン艦隊の合流する。
もう良いだろう、早くアルビオンに帰りたい。気楽な盗賊時代が酷く懐かしかった。
 視界が暗く狭まり意識が失われていく中、シエスタは背を向ける仮面の戦士とローブのメイジの姿を強く記憶に刻み付けた。
タルブの人達を何より、父と母を殺した戦士の姿を。


「何か見えましたか、韻竜殿」

空中から舞い戻ったアンヘルを迎えたのはマザリーニだった。珍しいとアンヘルは思う。
 魔法衛士隊や、アンリエッタが庭に居る時は多い。けれどトリステイン王国の政治を司るマザリーニにはそんな暇などない。
とくにトリステインとゲルマニアの同盟締結を控えたこの時期は。

「あの浮遊大陸、アルビオンと言ったか。あそこから艦隊が進むのが見えた。守りは万端か? 枢機卿」

 格別興味を持っていない様子でアンヘルは空中で見たことを告げた。アンヘルは常に王宮にいるわけではない。
一日の半分以上を空中にいるときもある。空からは様々なものが見える。それはどこでも同じだ。

「あれは結婚式に出席する大使を乗せた船。不可侵条約が結ばれた今、アルビオンとの戦争は有り得ません。それにもうすぐゲルマニアとの同盟が結ばれる」

 マザリーニは今までの苦労を思い返しながら答える。肩の荷が降りた思いだった。
 今回のアンリエッタの結婚は同盟の為のもの。マザリーニは散々苦心してゲルマニアとの同盟まで漕ぎ着けた。
今同盟を結べばアルビオンとの戦争は回避できる。
 クロムウェルとて馬鹿ではない、トリステインとゲルマニアの二国を敵に回すと言うことが何を意味するか分かっているはず。
 故に今回の婚礼を失敗する訳にはいかない。
 そして同盟をまとめることでマザリーニはアンリエッタから失われた信頼も取り戻そうとしていた。
 ワルドの裏切りがあってから、アンリエッタはワルドを腹心の部下にしていたマザリーニのこともあまり信頼しなくなっていたのだ。
 マザリーニ自身は王国を裏切る気などさらさらない。ただワルドの裏切りに気付かなかったのは愚かだったと思っている。
 例えアンリエッタの独断で行われたアルビオン行きであっても、直前にアンリエッタにワルドを紹介したのはマザリーニなのだ。
彼はそのことで自責の念を感じていた。
 だからこそ一層精力的にゲルマニアとの同盟締結に取り組んだ。それがトリステインと王家を守る道だと信じて。

「故に韻竜殿、あなたの力を借りる時は来ないでしょう」

 もう少しで同盟が成るという時に、マザリーニはアンヘルの所を訪れたのだ。
トリステインとアルビオンの間にはもう戦争は起こらないという事を伝えに。
 マザリーニはアンヘルに借りを作りたくはなかった。
 戦争になれば十中八九アンヘルの韻竜としての力を借りることになる。
 だが、あの何者かも分からぬ韻竜を頼りすぎるのは如何なものか。
どれだけの年月を重ね人間以上の知識を持とうが、所詮竜は竜なのだ。人と竜は違う。
 しかし今の所、アンヘルは何の動きも見せていない。せいぜい自分のドラグーンを探してくれ、と王国への協力の交換条件を示しただけだ。
 マザリーニはアンヘルをどの程度信用して良いか計りかねていた。

「ふむ、そうであると良いがな。我はもう一度飛ぶ、放れておれ」

 気のない返事をしマザリーニが数歩下がるのを待って、アンヘルは翼を動かす。
 空へと体を浮かすアンヘルを静かに眺めるマザリーニ。
 未だ誰も気付いていなかった。王国全土を震撼させる報せを携えた使者が、今まさにトリスタニアに入ったことに。


「タルブにアルビオン艦隊が降下、占領行動に移ったとのことです」

 次々もたらされる報告に緊急招集された会議はいちいちざわめいた。
当然である、すでに艦隊は打ち破られ、制空権はあちらに握られている。
 トリステイン国内に残っている船は非武装艦か旧式艦のみ。これでは制空権を奪うなどできそうにもない。
竜騎士だけでは戦艦は落とせない。慌てていないのはアンリエッタとその横のマザリーニくらいである。

「竜騎士はどうした?」
「これは事故だ、今ならまだ止められる」
「韻竜と共に迎撃に出るのだ、そのための韻竜だろう」
「いかに韻竜と言えどあれだけの艦隊を相手にはできまい」

 実に様々な意見が交わされる。けれどそれらは不毛な議論をいたずらに進ませるだけにすぎない。

「アルビオンの貴族会議に特使を派遣しろ。ゲルマニアにもだ、援軍を出させろ」

 マザリーニ枢機卿はそれら雑多な声をかき集めて、様々な指示を出していた。
彼は悔しさに手を握り締め、それを打ち消すために一層声を張り上げる。
 彼は自分が重大な読み違えをしていたことを覚った。今のアルビオンはアルビオン王国ではなく、神聖アルビオン共和国なのだ。
 六千年の伝統を誇るアルビオン王家を倒した連中が建てた国。
そんな国家が不可侵条約をしっかり遵守すると考えていた前の自分を張り倒してやりたい。
 だがそれは叶わぬ願いだ。だからこそマザリーニは今、戦争を止めようと奮起している。
 貴族たちのあわてふためく姿を見るうち、アンリエッタの心にはふつふつと怒りが沸いてきた。
彼らはなぜ焦りを表に出すのだろう。私には悲しみを押し込めて、笑うことを強いたのに。このような時こそ理性で動くべきではないのか。
 静かにアンリエッタは心を決めた。あなた方が焦りを隠さないのなら、わたくしも怒りを隠さない。
アンリエッタは突然立ち上がると、机を両手で思いっきり叩いた。こんなことをするのは初めてだ。それが何故か心地良い。

「今ここで話している間にも、我々貴族が守るべき者たちの血が流されているのかも知れないのですよ。
今こそ貴族としての責務を果たすときです。あなたたちはそんなことも忘れてしまったのですか!」

 アンリエッタの剣幕に会議室は静まり返っている。
誰も何も言わない。ただアンリエッタの声だけが部屋に響いていた。

「あなた方がやらぬというのなら、私は率います!」

 強引にドレスの裾を引き裂き床に捨てる。自由になった足でアンリエッタは駆け出した。
 アンリエッタを縛るものはもう存在しない。

「お待ち下され! 殿下!」 

 沈黙から抜け出たマザリーニは咄嗟にアンリエッタを制止する。けれども王女は止まらなかった。
 それ以上に声をあげることが出来ない。アンリエッタの語ったことがマザリーニの胸の内に響く。
貴族の義務。マザリーニ自身が昔、アンリエッタに語った言葉だ。民を守るからこそ我々貴族は統治することを許される。
 幼き日の王女は瞳を丸くして、大きくうんうんと頷いていた。
 庇護してきたはずの王女はいつの間にか成長し、自らの力で走り出している。
ならば、老いた自分は王女の後に従おう。
 王女の破り捨てたドレスの裾を拾い、ギュッと握り締める。

「各々方、殿下の後に続きますぞ!」

 そう言い放つと枢機卿の球帽を外し、マザリーニは頭にドレスの裾を巻き付けた。
 背後から聞こえてきたマザリーニの制止の声も気に留めず、アンリエッタは長い廊下を駆ける。
思えば王宮内を走るなど何年ぶりだろう。幼き日々、ルイズと共に遊んだとき以来かも知れない。
 向かうのは王宮の中庭。アンリエッタは聖獣ユニコーンにまたがる。その後ろに赤竜が舞い降りた。

「艦隊が燃えて落ちている。戦争か王女よ?」
「ええ、その通りです。お力を、お貸し下さい」

 竜と向き合う王女の後ろには魔法衛士隊が集まってくる。グリフォン隊、マンティコア隊、ヒポグリフ隊それぞれが自らの騎獣に乗りながら。
その数は次第に増している。先ほどの会議に出席していた貴族の姿もあった。マザリーニもアンリエッタのすぐ後ろにいる。

「いいだろう、行こうぞ」

 アンヘルは全身の力をみなぎら、翼を上下に動かしながら思った。我が契約者カイムも戦場にならフラリと現れるかもしれぬ。

新着情報

取得中です。