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宵闇の使い魔 第伍話

なんだ、このタイミングの悪さは。
まぁ、なんだかんだと機嫌を直したから良いものの――
まったく、子供のお守りも楽じゃない。


宵闇の使い魔
第伍話:錆びた剣


「あ――」
キュルケの部屋を出た虎蔵は、そのタイミングの悪さを呪った。
なにせルイズもまた、丁度自室から出て来たところだったからだ。

「――――よぉ」

そして尚悪いことに、ベッドに押し倒しながら緩めたネクタイはそのままだった。
ルイズは怒り狂った。


1時間ほどだろうか。
ルイズが延々とヴァリエール家とツェルプストー家の確執について語ったのは。
あまりに喋り続けてぜぇぜぇと荒い息になったルイズに、虎蔵が水を注いだグラスを差し出す。
ルイズはそれを受け取ると喉を鳴らして飲み干して「そういう訳だから、キュルケは駄目。絶対」と、
どこぞの標語のようなことを言い切った。

虎蔵は殆どを右から左に聞き流してから、
「まぁ、その辺りは置いておくとして、今日は何もして無いぜ」
と注げる。
キスはしたが、まぁあの程度は何もして無い範疇だ。
「ほんとかしら―――って、"は?"、"今日は?"って言った?」
「煙草吸いに出て行って、戻ってくるまで大体どんくらい掛かったよ」
と、後半は華麗にスルーして逆に問い返す。

ルイズはあっさりとそれに乗ってしまい、虎蔵が出て行った時間を思い出して――
「1時間はかかって無いと思うけど」
「だろう。実際になにかイタしてたら、そんなもんじゃすまんだろうよ」
といって肩を竦める。
ルイズはイタしてという物言いに僅かに顔を赤くして、「そんなの解らないじゃない」と口を尖らせる。
それを聞くと虎蔵は、ルイズの方に手をやり、ベッドの方軽く押しながら、
「んじゃ、試して見るか」
と注げた。
するとルイズはその言葉を咀嚼するかのように固まり、次には一瞬にして茹蛸のようになって、夜にも拘らず
「ッッ―――馬鹿ぁぁぁぁッ!このエロ犬ッ!」
と怒鳴って、ベッドに飛び込んでは頭から布団を被ってしまった。


翌朝。
キュルケは昼前に目が覚めた。
ガラスの無い窓を見ると昨日の失態を思い出して、軽く溜息をつく。
だが同時に、胸の情熱の温度が上がった気もする。
昨夜、フレイムを使って呼び出した時点では、彼女の情熱は微熱から変わったばかりのもので、
言ってみれば今まで他の男子生徒に抱いていた思いとそれほどの差は無かった。

――もちろん、それらの思いも立派な情熱ではあったのだけど――

心中でそう呟いて、ベッドから降りて化粧を始める。
ただ、今までのと決定的に違ったことが一つある―――彼の引き際だ。
あんなにあっさりと帰られたことは無い。
あの状況――キスを、契約の物よりも情熱的なキスを交わして、ベッドに押し倒されて――で、特に惜しくも無さそうに帰られたのは、屈辱でもあるが、それ以上に彼女の情熱に薪をくべてしまった。
もし、その時の表情がダブルブッキングを責めるような表情であったりすれば、こんなことにはなっていないだろう。
だが、

――そう、まるでふらっと入った喫茶店が満席だったから諦めた程度のような――

そんな表情であったのだ。
良いだろう、ならばなんとしてでも彼に思い知らせてやりたい。
このキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーが、そんじょそこらの喫茶店では無いということを。
彼女は生まれながら狩人なのだ。
そう心に決めると、姿見で完璧に彩った自らを確認して、意気揚々とルイズの部屋へと向かい、ノックした。
虎蔵が出てきたならば、抱きついてキスをしよう。
キュルケはそう決めて、なかなか反応の無いドアに《アンロック》を掛けて、ドアを開け放った。

結果として、キュルケは5分後には別の部屋のドアを叩くことになる。



キュルケが《アンロック》でルイズの部屋に乗り込んだ頃、タバサは自分の部屋で読書を楽しんでいた。
虚無の曜日は彼女が只管読書に没頭できる日である。
他人、自分の世界に対する無粋な闖入者を排除して、ただただ趣味に没頭して痛かった――が、
その降伏を打ち破るようにドアが激しくノックされる。
最初は無視を決め込んだが、しばらくするとさらに激しくなったので《サイレント》を掛けた。
しかし、その闖入者は諦めることをせず、《アンロック》を使ってまで部屋に入ってきた。
此処までするのは彼女――キュルケしかいない。
キュルケはタバサの本を取り上げてまで、切実に"恋"を訴える。
どうやらルイズと虎蔵がそろって出かけたのを目撃したらしく、シルフィードで追いかけて欲しいとのことだ。
なるほど、確かに馬で出て行ってしまったならば、ウインドドラゴンにでも乗らないと追いつけまい。
ならば仕方が無いかと、タバサはゆっくりと立ち上がる。
友人のキュルケが、自分にしか解決できない頼みを持ってきたのだから、面倒ではあるが受けるまでだ。
それに、キュルケとベクトルは違うが、あの使い魔に興味があるのは自分もなのだ。
「ありがとう!」と抱きついてくるキュルケを押しのけて、窓を開けて口笛を吹く。
そして彼女に「行く」と声を掛けると、椅子を踏み台に窓枠によじ登って、外に飛び降りた。
タバサが《レビテーション》で減速したのを見ると、キュルケもそれに続く。
その二人を「きゅぃきゅぃ」と鳴きながら受け止めたのはウインドドラゴンの幼生体。
タバサの使い魔、シルフィードである。
「どっち」
「んー、解らないのよね――慌ててたから」
そう言って肩を竦めるキュルケに対して、タバサは怒るでもなくシルフィードに告げた。
「馬二頭。食べちゃ駄目」
シルフィードは短く鳴いて了承の意を示すと、青い空へと舞い上がった。


その数時間後、虎蔵とルイズはトリステインの城下町を歩いていた。

事の起こりは今朝、着替えと朝食を終えたルイズが藪から棒に「街に行くわよ」と言い出したのだ。
なにやら、今日は虚無の曜日といって休日らしい。

――休みなのに虚無て――

と思った虎蔵だったが、この世界での虚無という物が、既に失われた伝説の呪文系であることを思い出して突っ込みを自重した。
なにやら武器を買ってくれるということらしいので、わざわざ機嫌を損ねる事も無いだろうと判断した為だ。
虎蔵の戦い方は、比較的刀を"消費する"ため、幾らあっても損は無い。
ルイズの思考としては、昨夜のキュルケとの件で幾許かの焦りを感じ、とりあえず何か主らしいことを――と考えたといったところなのだろうが。

そんな訳で、二人はトリステイン最大の通りであるブルドンネ街から汚い裏路地へと入っていく。
ルイズは顔をしかめながら歩いているが、虎蔵は慣れたものだ。
「ピエモンの秘薬屋の近くだったから、この辺りのはずなんだけど――」
まるでルイズの方がはじめて来たのでは無いかといった感じできょろきょろと辺りを見回す。
「アレじゃねえか?いかにもな」
虎蔵がルイズの肩を叩いて示したのは、剣の形をした看板の店だった。

昼間だと言うのに薄暗い店内には、壁一面に所狭しと様々な武器が並べられていた。
店の奥にはパイプを咥えた50がらみの店主。
彼はルイズを見ると
「うちは真っ当な商売してまさぁ。お上に目を付けられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」
と警戒心を露にしていたが、二人が客であるということを理解すると、突然商売ッ気たっぷりに愛想を使いだした。
ルイズは虎蔵を促して、「ほら、なんか好みとかあるなら言ってみなさい」と告げる。
壁の武器を眺めていた虎蔵が店主の前にやってくると、鍛えられた長身に見慣れない黒ずくめの服と隻眼という出で立ちに、
店主は僅かに怯みながらも「どういったものを――」と問う。
「あー、ま、これ位の長さで片刃の剣だな。反りは控えめのだな」
と、虎蔵は割りと適当な感じで普段使っている刀に近い物を求める。
すると、店主はいそいそと奥に引っ込んでいった。

「どうせならもっと大きくて太いのにすれば良いのに」
「大きければ良いってもんじゃないってのは、お前の持論だと思ってたんだがな」
呟くルイズに虎蔵はそう答えて肩を竦める。
思わず怒鳴り返そうとしたルイズだが、店主が戻ってきたため睨むに留めた。

――あいつのペースに乗ったら負け、負けなのよ――

心中で葛藤するルイズを尻目に、虎蔵は何本かの剣を手に取っては軽く振り回してみる。
刀使いとはいえ、虎蔵ならば剣を持ってもそこらの剣士に引けは取らない―――が、
「いかんね。強度も切れ味もわるか無いが、バランスが悪い」
そういって全て突っ返してしまった。
店主はどれも名のある錬金魔術師が――などと言って勧めてくるが、先程見事な太刀筋を見せた虎蔵に素人が、
などと言う訳にも行かずにすごすごと剣を倉庫へとしまいに行くのだった。

「全部駄目って、じゃなんなら良いのよ」
と、ルイズは不機嫌そうに虎蔵を睨む。
折角買ってあげようと言うのに、これでは意味がないではないか。
と、そこへ―――

「よぉ、兄ちゃん。好みのがねえなら俺なんてどうだい」


乱雑に積みあがった剣の方から、低い男の声が聞こえた。
なんだろうかと二人が視線を向けるが、誰も居ない。
すると店主が戻ってきて「あ、こらデル公。てめぇ何言ってやがんだ。てめぇはサイズとかバランスとか以前の問題だろうが!」と怒鳴って、
剣の山の中から1.5メートルほどの薄手の長剣を取り出した。

「ほぉ――」
「インテリジェンスソード?」

虎蔵が感心した声を、ルイズが当惑した声を上げた。
虎蔵は興味深げに「見してみ」と言って、店主から長剣を受け取る。
「へぇ―――お客様のお求めとはサイズも違いますし、なんせこんななりですが――」
なぜか興味を示した虎蔵に、今度は店主が困惑の声を漏らす。
なにせ表面には錆が浮き、お世辞にも見栄えが良いとは言えないのだから。
「ふむ――五尺の大太刀だと思えば――」
と言いながら店や他の品に傷を付けないように験し振りをしてみる。
すると、今度はその長剣が大げさな声を上げた。

「おでれーた。あんた《使い手》か!どおりでどえらい迫力――が―――いや、まて。なんだこりゃ―――あんた、一体何もんだ!?」

最初は単純に賞賛の響きがあったのだが、途中から何かに驚愕し、ともすれば怯えすら感じられる様子になった。
それにはルイズと店主も困惑するが、虎蔵だけがくくっと笑って、
「なぁ、これ。なんやら混乱してるようだが、黙らせる方法はねえのか?」
と店主に問う。
店主は「へぇ――鞘に収めればとりあえずは――」と虎蔵に鞘を手渡した。
虎蔵はまだ何か叫んでる様子の長剣を鞘に収め、黙らせる。
「気に入った。こいつは幾らだ?」

「よ、よろしいので?」
「そうよ。もっと綺麗で喋らないのにしなさいよ」
ルイズだけでなく、売りたいはずの店主までが当惑して問い返した。
「なに真っ当に使うとすると、此処の武器は相性が悪い。なら、ちぃとでも面白いほうが良いだろう」

結局、虎蔵とルイズはその長剣――名をデルフリンガーというらしい――を買って店を出た。

と、店を出るとタイミングが良いのか悪いのか、
「あ、いた」
という声が聞こえたかと思うと、路地の向こうからキュルケとタバサがやってきた。
ルイズはあからさまに「げッ――」と言って嫌そうな顔をする。
しかしキュルケはルイズの様子などお構い無しに「探したのよー、ダーリン♪」と虎蔵の腕に抱きついてきた。
そしてそれを「ちょっと、往来で人の使い魔に何してくれてんのッ!」とひっぺがそうとするルイズ。
虎蔵は面倒そうに肩を竦めると、タバサになんとかしてくれ――といった視線を向けるが、彼女は首を横に振るだけだった。

「で、何買ったの?」
暫くしてルイズによって虎蔵から離されたキュルケは、しぶしぶといった様子で虎蔵が手にしていたデルフリンガーを覗き込む。
「喋る剣をな。今は鞘に入れて黙らせてるが」
「インテリジェンスソード」
タバサが呟く。
だが、それほど興味を引いた様子はない。
キュルケにいたっては、そんなのよりもっと綺麗で強そうなのにすれば良かったのに、と言ってくるほどだ。
どうやら、この世界では喋る武器はそれほど珍しくもないらしい。
とはいえ、どうも虎蔵の中の何かに気付いた様子だった。
《使い手》という言葉も、多少は気になる。
「ま、あれだ。ありがとよ」
虎蔵は未だに「もっと良いのでも買ってあげたのに」とぶつぶつ言っているルイズの頭を撫でて、そういってやるのだった。

その後、キュルケが虎蔵がいつも咥えている物――すなわち紙巻の煙草に興味を示したり、それの残りが少ないので葉巻でも良いからほしいと言う虎蔵に、キュルケがやたら高級そうな葉巻を買ってきたりと、
四人で――正確に言えば、賑やかだったのはルイズとキュルケで、虎蔵とタバサは引っ張りまわされた感が強いのだが――街中を歩き回った。



そして帰り道。
シルフィードで飛んでいくキュルケとタバサを追う様に馬を走らせながら、
――やっぱり物じゃ駄目ね。魔法で、魔法を使えるようになってトラゾウに主としての威厳を示さないと――
ルイズはそんな決意をしていたのだった。

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