あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのガンパレード 5

「朝だぞ、ルイズ。起きたまえ」

聞いたことの無い渋い声に目を覚ましたルイズの視界に入ってきたのは、それはそれは巨大な肉球だった。

(……なんだろう、これ?)

しばらくぼうっとしていると、肉球がひたひたひた、と額を叩いて来る。

「あ、ちょっと、やめて、起きるわよブータ」

その言葉に、満足げに鼻を鳴らして寝台から降りる大猫を見ながら現状を把握する。
はて、昨日は確か使い魔関係の文献を漁っていた筈なのだけれど……。
寝台に寝転がった記憶は無いが、自分がここに寝ていたのは事実である。
あるいは机で寝ていて、寝ぼけて動いたから憶えてないのだろうか。
まぁいいかと思いながら着替えをする。
胸のボタンを外そうとすると、礼儀正しく後ろを向くブータの姿が見えた。
意外と紳士なんだな、とも思うが、彼が猫であることを思い出して苦笑する。
猫を被ってる淑女ならよく知っているけれど、猫の紳士ってなんなんだそれは。

「はい、いいわよブータ」

声に振り向く猫の頭を撫で、ごろごろと音を立てる喉をくすぐってやる。
そう言えば、さっきの声は誰だろう?
見回すが誰もいない。
寝ぼけたか夢でも見たのだろうと思うことにした。



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『微熱のキュルケ』ことキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは、寮の隣人であるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの事が好きではない。
少なくとも彼女自身はそう公言してはばからない。
もともと二人の実家はその領地すらもが隣り合っているものの、属している王家はゲルマニアとトリステインであるし、両家は色恋沙汰に関しては、盗った盗らないの間柄である。
そんな仲の両家にあまり変わらない年齢の娘が生まれたらどうなるか。
答えは簡単で、比較されるのである。
事あるごとに比較され、ヴァリエールの娘には負けるなと言われ続けながらキュルケは育ったのだ。
もっともそんな生活はルイズが生まれてから数年で消えた。
なにしろヴァリエールの三女は魔法が全く使えない落ちこぼれだったのだから。
これでは魔法が使える自分が負けるはずも無いではないか。

その認識が狂ったのはキュルケが十二歳、ルイズが十歳の時に開かれたある夜会である。

ツェルプストーの屋敷で開かれたそれに、父である公爵と共に小さなルイズの姿もあった。
おそらくは魔法が使えぬ分、社交界での経験を積ませようとした公爵の計画もあったであろうし、国境を接してお隣さんであるツェルプストーがなにか良からぬことをするわけもないと言う見通しもあったのだろう。
しかしそれは、酒に酔ったキュルケの叔父の一言で露と消えた。

「ルイズ姫は魔法が使えぬそうですな。どんな気持ちなのですかな? 貴族に生まれながら魔法が使えぬと言うのは」

華やかな会場が、まるで氷に閉ざされたのかのように静まり返った。
ルイズの父の額に血管が浮かび、逆にキュルケの父の顔は蒼褪める。
この上も無い侮辱であり、この場で決闘になってもおかしくは無い状況だった。

「それがどうかしましたか?」

だと言うのにその桃色の髪の少女は怒りに震える公爵の手を握って落ち着かせると、なんでもないことのように口を開いたのだ。

「あなたは一つ考え違いをしておられます。
 貴族として生まれる者など誰一人としておりません。
 人は自分の意思で貴族になるのです。
 魔法という力を、権力を、自らの意思で正しく使える者こそが貴族と言われるのです」

その声は小さかったが、しかしこの上もなく大きくキュルケの胸に響いた。
それは確かに建前だったが、今では誰も信じていないことだった。
現実と言う壁の前に吹き散らされる虚言でしかないはずだった。

「魔法が使える者を貴族と言うのではありません。
 その力を万民のために、名も顔も知らぬ領民のために、
 どこかの誰かの笑顔のために使える者こそが貴族と言われるのです」

けれど桃色の髪の少女は胸を張り、堂々と虚言を口にした。
かつては真実であった嘘を堂々とついた。
物理法則も曲げられず、物理力も行使できず、主観にしか影響を及ぼさない筈のそれは、しかし万能にて不可能を可能にする魔法となってその会場を支配した。

「わたし、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは確かに貴族ではないかもしれません。
 しかし、いつの日にか貴族となることをこの場で皆様にお約束したいと思います」

まばらな拍手が起こった。
小さな音だったそれは燎原の火のように力を増し、やがて万雷となって会場を包み込んだ。

キュルケの生活が一変したのはそれからだった。
帝王学や経済学の授業が増え、父も母もヴァリエールの娘に負けるなと言いだした。
遊ぶ時間は減ったし嫌いな授業も増えたがそれを辛いとは思わなかった。
キュルケの生来の気性が敗北を認めることを許さなかったからだ。

だがそれ以来、キュルケはルイズに勝てたと思ったことなど一度も無かった。

ルイズは魔法が使えず、キュルケは魔法が使える。
もともとの出発点が違うのだ。
例え同じ10の評価を受けていたとしても、その実際はルイズの方がより多くの成果を上げていることに他ならない。
そんなことを気にすることは無いと言う声もあった。
魔法が使える分キュルケの方が優れているのではないかと言う声もあった。
けれど彼女はそんな声に耳を傾けようとはしなかった。

なぜなら、あの日、あの時、キュルケは決めたのだ。

ルイズのようになるのだと。

魔法が使えぬことを認め、その上で自分が貴族であることを満場に認めさせたあの小さな少女のようになるのだと。



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これはルイズも知らないことだが、もし学院内で彼女が使い魔の召喚に成功したことを喜んでいる者に順位を付けるとすると、一番はもちろん彼女本人だが、二番手に来るのはキュルケである。
故に、大猫を従えて姿を現したルイズに、キュルケは惜しげもなく満面の笑顔を振り撒いたのだった。

「おはよう、ルイズ。昨日は召喚おめでとう。その大猫があなたの使い魔なの?」
「おはよう、キュルケ。これがわたしの使い魔、猫のブータよ」

嬉しそうに笑い、ブータの前脚を握手のようにぶんぶんと振るキュルケにルイズは首をかしげた。
なんか企んでいるのかしら。それともおかしくなったのかしら?
猫の前脚を握りながら、しかしキュルケは本当に嬉しかった。
なぜなら、これでようやくルイズと自分は同じスタートラインに立てたのだから。
使い魔を召喚したという事は彼女が魔法を成功させたと言うこと。
魔法が使えないルイズと魔法が使えるキュルケではなく、魔法が使えるルイズとキュルケで競い合う日が来たと言うこと。
ようやく、彼女に勝てる日が近づいてきたということなのだから。

「ねぇ、ルイズ。使い魔を召喚したからっていい気にならないでね。あなたが落ちこぼれなのには変わりないんだから」
「ふん、そんなことを言えるのは今のうちよ。これからどんどん魔法だって成功させてやるんだから」
「あら怖い。そんな日がいつか来るといいわねぇ」

いがみあいながら、しかし互いを無視しようとはせずに毒を吐きあう二人に、ブータはやれやれと首を振った。
横を歩く火蜥蜴のフレイムと視線を見交わし、器用にも肩を竦める。
おたがい、素直でない主人を持った使い魔の間に友情が生まれた瞬間だった。



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