あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

T-0 02


「あ、あんた何言ってるのよ……?」 

 ルイズは立ち上がった男を見上げて、その迫力と威圧感にやや後ずさりしながら言った。
 全身黒尽くめのこの男は、立ってみるとその上背は2メイルにも達しそうなほど高く、
 それを足元から見上げるルイズには、男の頭がまるで天を衝いているかのようにも思えた。
 盛り上がった筋肉に広げられて大きく幅のある肩に、丸太のような太い腕がくっ付いている。
 また、胸板の厚さも半端ではなく、そこから上に生える――およそ顔より太い――首は大樹のようだ。
 しげしげと不思議そうにこちらを見下ろす目は、まるでガラス球のように綺麗なのだが、そこに生命の尊さは無いように感じる。
 「どことなく、悲しそうな目をしている」とルイズは思った。 

 それにしても、堂々と仁王立ちする姿はその体格もあいまってか、どこかの御伽噺に出てくる
 伝説の勇者や屈強な戦士を思わせる。……いや、黒尽くめな格好からして、もしかしたら悪役のほうだろうか?

 男はルイズの言葉に反応したのか、すばやく視線を落とすとルイズを見た。
 ルイズは大きな体からの鋭い視線に、反射的にびくっと体を震わせた。

「(この平民……平民の癖してっ。なんなのこの、威圧感は?)」

 威圧感を感じているのは、実はルイズだけではない。
 教師コルベールも、周りで茶化そうと構えていたギャラリー一堂も、その使い魔たちさえも、
 この場にいるほとんどのものが冷却施設にぶち込まれた食用の肉塊のように、見知らぬ圧力によって凍り付いていた。


「きゅる! きゅるッ!」
「どうしたの、フレイム?」

 ギャラリーの中で、周りと同様に凍り付いていた主の袖を一匹の使い魔が強引に引っ張った。
 使い魔の名は『フレイム』。一部の者たちから値段も付けられないと言われるほどに血統の良い、
 由緒正しき火竜山脈のサラマンダーにして『微熱』の二つ名を持つメイジ、『キュルケ』という女性の使い魔である。
 このキュルケも名家の生まれであり、生徒でありながらトライアングルクラスのメイジというその名に申し分ない実力を兼ね備えた存在だった。

「フレイム?」 

 キュルケはフレイムの様子を窺う、今のフレイムの状態はなんと言えばいいのだろう?
 下品に言うなら鼻息を荒げている、と言うのが当てはまるだろうか? フレイムはルイズが召喚した男に対し、明らかな敵意を向けていた。
 身を低く構え、そこから男を睨み上げる。口の端から漏れる声は、つい先程自分を覚醒させた可愛らしいものとは180度違っている。
 フレイムは、とにかく地を揺らすように重々しい威嚇をあの男に対して先程から繰り返していた。

 キュルケはフレイムの視線の先にいる男を改めて見た。 
 ……確かに、巨きい。ただでさえ小柄なルイズが、男の足元にいる事で余計に小さく見える。
 いかにも傭兵やらボディガードやらをしていそうな屈強な男。
 ついでに、こうして見ていると、遠巻きながらも意外と顔も悪くは無いことがわかった。

「(おしいわ。もう少し顔がハンサムなら、声をかけたかもしれないのに……)」

 ふぅと息を漏らす。残念そうに目を泳がすその顔やしぐさは、完全に何時ものキュルケに戻っていた証だった。



「きっ、きゃああっ!?」 

 ルイズの悲鳴が一閃した。
 男が突然左手を差し出し、ルイズの襟首を掴んで軽々と宙に持ち上げたのだ。 
 コルベールを含め、辺りに動揺が走った。ギャラリーたちはざわざわと騒ぎ出し、
 流石のキュルケも隣にいる青い髪の少女に慌てて振り向き、ややトーンの高い声で話しかけていた。

「ちょっと! 放しさいよっ!!」

 腕の先できーきーやかましく叫ぶルイズを無視し、男は興味の対象を変えたのか視線を左右に配らせた。
 一人一人確認するかのようにゆっくりギャラリーを睨んでいく男に、対象となった者たちはびくりと肩を揺らす。 
 そのうち全員を見送った男は、最後にまたルイズの方へと向きなおした。
 ルイズは何とか逃れようと必死に体を揺らして暴れているのだが、まるでオーク鬼にでも掴まれているように男と、男の腕はビクともしない。
 男が口を開いた。

「ここはどこだ。ここはどこで、西暦何年の何月何日なのか、教えろ」

 終始淡々としていた口調で言葉が終わると、男は強烈な力でルイズの襟首を締め始めた。 


「ミス・ヴァリエール!!」

 叫んだのはコルベールだった。
 彼はルイズの顔色が絞められる苦しみに変わる前に叫んでいた。
 とっさに杖を構え、ルイズを締め上げる男にその切っ先を向ける。
 そして、いざ呪文を唱えようとしたとき、自分の中にいる何かがそれを押しとどめた。

 確かにコルベールにはこの神聖な儀式の試験監督として、いざ――今のような状況――のとき、
 生徒たちを守らなければならない立場にある。しかし、本当にそれでいいのか――――?
 今ココで魔法を使い、あの男を打ち倒すのは容易なことではないだろう。あの男には、嘗て嫌と言うほど
 戦場で嗅いだ事のある独特のにおいがする。それも、その道を行くだろう極上のにおいが。
 ココで本気で戦っていいのだろうか? 
 オスマンのおかげで一教師として平凡な生活に移ることが出来た。
 大好きな研究に勤しむことが出来、生徒たちに信用されることも出来たという今まで築き上げてきたものが、
 戦う事で、嘗ての自分になる事で音をたてて崩れはしないだろうか?

 傍目から見れば愚かしい感情である事は彼にも十分わかっていた。
 だが、長い月日を戦場に縛られていた『炎蛇のコルベール』にとって、
 ようやく手にした幸せな日々はその愚かしい感情を生徒の命と天秤にかけさせるほど価値あるものだった。



「ここはどこだ?」 

 男は襟を絞める力を強めた。 
 木の枝のようにか細いルイズの首は、力に抗う事などできずに面積を減らし続ける。

「か……かはぁ……っ」

 息をするのもやっとになっていた。
 だがそれ以上に、動脈が絞められる事による血液の通行止めがルイズの意識をぼんやりとさせている。
 しかし、この男はルイズの意識が飛ぼうとしたときに、ほんの少しだけ締め付ける力を緩めて
 首と襟の間に指一本分ほどの空間をつくっては、一時的に呼吸と血液循環をさせていた。
 結果として、まさに生かさず殺さずの状態にさらされているルイズはその所業に苦しみ、使い魔(それも平民)相手に何も出来ない
 自分の無能さに心の中で涙していた――


「トリステイン……トリステイン魔法学院」


 ――そのとき、聞きなれない少女の声がルイズの耳に届いた。


 男が声に反応し顔を向けた。そのせいか、ルイズの首を絞める力が呼吸できる程度に緩んだ。
 息絶え絶えの有様で、ルイズが視線を巡らせた先にいたのは、青い髪の少女だった。
 青い髪に自分とそう変わらないだろう体型、整った顔立ちに備えられた眼鏡が彼女を理知的でミステリアスに彩っている。
 見た事ある少女だ。ただ、名前がわからない。容姿を頼りにルイズは即座に記憶を辿った。たしか……、キュルケの隣に何時もいる少女だった気がする。
 彼女は男ににらまれても表情の一つ変えなかった。
 それどころか、強面な男の顔を真っ向から堂々と見上げ、何食わぬ顔で話しかけている。 

「ここはトリステイン」

 彼女は再び、同じ事を同じ表情同じ声色で言う。
 男はしばらく少女の目を見つめると、思い出したように唐突にルイズを手から放した。
 思わぬタイミングでの開放に、尻から地面に落ちたルイズは「きゃん!」小さい悲鳴を上げる。
 両手で咽喉をこすると溜まっていた咳が一斉にあふれ出し、ルイズはむせた。
 苦しみながらもちらりと片目で男を見やる、男はルイズに背を向け、少女の元へと腰を下ろしていた。

「…………」 
「嘘ではない様だな」

 相変わらず無言の少女の目を覗き込んでいたいた男がポツリと呟き、立ち上がって踵を返した。
 ルイズの前で立ち止まると、さっき少女がやっていたように腰を下ろし、目を覗き込んだ。

「私をココに送り込んだのは、お前か?」 

 しかし、ルイズは男の話を聞いていない。俯いて、なにやらぶつぶつと呟いている。
 ターミネーターの聴覚機能はその言葉を聞き逃さなかったが、言葉の意味はデータの中にあるどんな聖書の文とも一致しない、
 完全に聞いた事の無い言葉、文章形態だった。
 ターミネーターがこのことについて聴こうかと口を開こうとした次の瞬間、

 目の前の少女の唇は、自らの偽の唇に重ねられていた。


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