あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

S-O2 星の使い魔-03


 クロードが目を覚ましたのは既にすっかり日も落ち、二つの月が空に昇った頃のことだった。
 なお、勢いに任せてクロードをKOしたはいいものの、結局一人では自室まで運ぶことが出来ず、
 見かねたギーシュが『レビテーション』でルイズの部屋まで連れて(運んで?)きたことを余談である。
 その際に気障ったらしい美辞麗句を無駄に繋げた口上を延々と聞かされたことはさらに余談である。

 そして、目を覚ましたクロードに、ルイズが使い魔の何たるかを講義するという現在の場面に至る。


「で、あんたには使い魔として働いてもらうわけだけど、
 使い魔は主の目となり耳となり……って、あんたは出来ないみたいね。
 本来なら、あんたが見たものは私も見えるようになるはずなんだけど」
「は、ははは……」

 心底ほっとした。
 そんなことになっては、迂闊に通信機も使えなくなるところだ。


「まあ、それはいいか。他には、主の望むものを見つけてくるのよ。秘薬とかね」
「秘薬?」
「硫黄やコケとか、ね。魔法を使うときに触媒になるものよ。
 他には、必要に応じて鉱石とかも取って来るの」
「う~ん……ある程度内容を指定してくれれば、何とかなるかな?」

 薬草学や鉱物学には多少の心得が有る。あとはこの星の知識次第で何とかなるだろう。
 なお、クォッドスキャナーというご都合な代物が開発されるのは、もうしばらく先の話である。


「で、これが一番重要なことなんだけど、使い魔は主を守る存在なの。
 その能力でもって、主人を敵から守るのが一番の役目! ……で、腕に自信は?」
「まあ、人並み程度には」

 流石に父から預かった『アレ』は使えまい。
 仕官学校時代に白兵戦の訓練を受けている以上、及第点くらいはもらえるだろう。


「……40点ってところかしら」
「……厳しいなぁ」

 落第じゃないだけ感謝しなさい、とルイズは付け加える。
 それを聞いてクロードは頭を掻くしかなかった。
 こりゃ、母さんよりよっぽど厳しいや。


「そうね、あとは掃除に洗濯、その他諸々の雑用とかもやってもらおうかしら」
「そんなことまでやるのかよ!?」
「寝床と食事はこっちで出すのよ、当然でしょう。
 その程度で養ってあげるんだから、むしろ感謝してもらいたいくらいだわ」
「う、それを言われると……って、何で服脱いでるの!?」
「何って、着替えてるのよ。今日は色々と疲れたから早く寝たいし」
「いやいやいや、だからってお、お、お、男の目の前で着替えるってどーなんデスカ!?」
「ガタガタうるさいッ! 第一、貴方は平民でしょう。
 何で私がそんなことに気を使う必要があるわけ?」
「ぶぶぶぶぶ部下の精神衛生管理も主の務めであると思われます、サー!」
「あんたは部下じゃなくて使い魔でしょうが!」





    ……十数分後。





「すー……すー……」

 ルイズが安らかな寝息を立てていることを確認し、クロードは盛大に溜息を吐く。
 邂逅初日からこの騒ぎ、先が思いやられる。
 この星に胃薬はあるか、メディック。やさしさも半分ブレンドしておいてくれ。

 とはいえ、何時までも頭を抱えているわけにもいかない。
 今のうちに確認しておかなければいけないことがある。
 クロードの顔つきはこれまでの年相応の穏やかな少年のものではなく、
 冷静で明晰、現実的な地球連邦軍少尉のそれに変わっていた。

「ええっと、通信機は……反応無しか。相当な辺境の星系に飛ばされたんだな」

 覚悟はしていたが、突きつけられた現実にクロードは落胆を隠せない。
 宇宙は広い。あまりに広い。
 辺境とは言うものの、地球連邦そのほかの技術を持ってしても把握出来るスペースは所詮ほんの一握り。
 未知の空間の方が遥かに広いのである。
 出来る限り早いうちに、地球連邦関係者の艦が周辺空域を通りがかることを祈るしかない。

 Gや大気の組成は地球とほぼ同じらしい。
 どのくらいの期間を滞在するのかわからないこの状況で、
 運動能力や体調管理等に特別な制限がかからないのは、正直言ってかなり助かる。

(当面は、この星で生活していくしかないか)

 一つ大きく息を吐いて、通信機をジャケットのポケットに収納する。


 そして、最後に。


「フェイズガン……使うことにならないと良いんだけど」

 父から預かった、地球の生んだ科学の結晶たる携帯兵器が、ニつの月光を浴びて鈍く煌く。
 目標の位相空間を相転移させ、分子レベルから破壊する小型光線銃。
 直撃させれば、対策を施していない戦闘マシン程度なら一撃で吹き飛ばす破壊力を有する。
 この世界において、紛うことなきオーバーテクノロジーである。

 こんなもので、人を撃ったら?

 クロードは唇を噛む。
 当事者の命に関わる事態に限定して、現地民を含めた原生生物を抹殺する権利は保障されている。
 魔法が文化としてここまで一般に浸透しているこの世界において、
 武器として魔法が利用されていることは当然と考えておいたほうがいいだろう。
 対紋章術師を想定した訓練も受けてはいるが、それもどこまで役に立つかは甚だ怪しい。

(……だけど、僕だって死にたくない)

 軍に入った以上は覚悟していたはずのことだが、改めて考えると身が震える。
 死にたくなければ撃つしかない。

 誰かが言った。
 戦場とは誰もが等しく生と死の狭間をたゆたう、この世で最も平等な世界であり、宇宙を貫く真実にして神聖なる空間であると。
 性別も、人種も、特定の器官の有無も、生まれた星も、何も無い。
 力のあるものが生き残り、力の無いものが死んでゆく。
 それは時に腕力であり、技術であり、魔法であり。
 或いは時に知恵であり、肝っ玉であり、運であり─────

(……駄目だな、考えが嫌なほうばかりに行ってしまう)

 今はせいぜいそんなものが必要な事態が起こらないよう、
 この世界の神とやらに平和を祈らせていただくしかあるまい。
 祈りで世界が平和になるなら、そもそもこんなものは不要だろうが。

 頭を振り、よろよろと立ち上がって窓を開き、窓辺に肘をもたれかけさせる。
 吹き込む風は少し冷たく、腫れた顔にはむしろ心地よい。
 夜の帳の下りたハルケギニアの空には雲一つ無く、赤と青、二つの月が静かに輝いている。


 いつだっただろうか、両親とともに見上げた空を思い出す。
 あのときの月は一つきりだったけれど。

(父さん、母さん……心配してるだろうな)
 誰よりもクロードを愛し、大切に思っている両親。
 学者としての見栄や提督としての世間体ではなく、親として心から心配しているはずだ。
 二人は、そういう人間だから。
 能力が優れているだけでなく、心から尊敬出来る人格の持ち主でもある。

 だからこそ、重い。
 己の心がひどく醜く思えてしまうほどに。

(……やめよう。きりが無いし、意味も無い)
 口の中で呟き、窓を閉める。
 明日からは使い走り……もとい、使い魔としての生活が始まる。
 今更どうしようもないことを今更ぐじぐじと悩んでいても、睡眠時間が無駄に削られるばかりである。
 朝っぱらから小さくも横暴なご主人様の機嫌を損ねるのは、精神衛生上たいへんよろしくない。

 手を枕にして石の床に横たわる。
 皮膚には冷たく、骨格には堅いその感触は、お世辞にも快適とは言いがたい。
 だが、ルイズと同様に色々あって疲れていたのか、クロードもじきに夢の世界へと誘われていった。

 長い一日が終り、新しい生活が始まる。


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