あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのノブレス・オブリージュ-6

 ペンを動かし、署名をする。それを確認した王宮の勅使、ジュール・ド・モット伯は満足げに頷いた。
「ふ……学院のご理解とご協力に感謝します」
「王宮の勅命に理解も協力もないでな」
「では」
 慇懃無礼に一礼して、出口に向かう。王宮がバックについているということをかさにきた、傲慢な態度だった。

 扉を開けたモット伯は、外で控えていたミス・ロングビルに好色な視線を向けた。
「今度食事でもどうです。ミス・ロングビル?」
 ミス・ロングビルは慌てて胸元を両手で覆い直し、完璧な来客用スマイルを浮かべた。
「それは光栄ですわ、モット伯。素敵なブレスレットですわね」
 モット伯が左腕につけた黄色い腕輪に気付いたミス・ロングビルは完全な社交辞令でそれをほめた。甲の部分に黒い円形の
くぼみが開いている。
「分かりますか。さすが、お目が高い。これは以前手に入れたマジックアイテム『闘士の輪』でしてな。今度じっくりお話しましょう。
では、楽しみにしているよ」
 自慢げに言ってから、モット伯はそのまま部屋を後にする。その説明を聞いたミス・ロングビルは感心したように相槌を打ち、
彼が見えなくなってから嫌悪もあらわに首を振った。

「王宮は今度はどんな無理難題を?」
 興味本位でミス・ロングビルは尋ねた。オスマンは大したことない、とでも言うように軽く応える。
「なあに、くれぐれも泥棒に気をつけろと勧告に来ただけじゃよ」
「泥棒?」
「近頃フーケとか言う魔法で貴族の宝を専門に盗み出す賊が世間を騒がしておるらしいからの」
「それがフーケですか?」
「我が学院には王宮から預かった秘法、『竜巻の杖』があるからの」
「竜巻の杖?」
 聞きなれない名前だ。オスマンに背を向けたミス・ロングビルは聞き返した。
「フーケがどんなに優れたメイジかは知らぬが、学院の宝物庫はスクウェアクラスのメイジが幾重にも魔法をかけた特製。取り越し苦労じゃよ」
 言いながらオスマンは置物をレビテーションで動かし、ミス・ロングビルの背筋をつつつ、となぞる。
 彼女は「うひゃあ!」と驚き、のけぞった。
 満足げな様子でそれを眺めたオスマンは、報復として完璧なフォームで置物を投げつけられ、顔面に直撃を食らって昏倒した。


 学院の去り際、モット伯は一人のメイドを見込み、いつものように屋敷に買い入れた。
 ついでに帰り道の道中、あまりにもみすぼらしい身なりをした黒ずくめの二人組みの平民を笑った。


「う~む、また追い出されてしまったか。あんなに照れて、可愛い奴だ」
 またもルイズを怒らせてしまったツルギは、デルフリンガーと共に廊下に追い出された。今度もまた教室で騒いでしまい、
他の生徒たちに笑われたのだ。
「なあ相棒」
 手に持ったデルフリンガーが口を出す。ツルギは背中や腰に帯刀する、というようなことはせずに鞘に入れたまま持ち歩いていた。
「なんだ?」
「俺はただの剣だから人の気持ちなんてよくわかんねえが……あれ、怒ってたんじゃねえのか?」
「案ずるな。あれはただの照れ隠しだ」
「……俺にはとてもそう見えねえぞ」
 客観的に見て、デルフリンガーの方がよほどツルギよりも常識的な思考をしていた。

 そこを通りかかった、というよりツルギに会いに来たシエスタは彼に声をかけた。
「ツルギさん、誰かいるんですか?」
「おお、メイドか。こいつだ」
 相変わらずメイドとしか呼んでくれないツルギに落胆しつつも、ツルギの差し出したものを見て、怪訝そうな顔をした。
「あの……これって剣、ですよね?」
「そうだ。デルフリンガーという」
「よろしくな」
 剣は鎬の金具をかちゃかちゃと動かしながら、シエスタに挨拶した。インテリジェンスソードというものをはじめて見たシエスタは
目を丸くした。
「この剣はル・イーズが買ってくれたものでな。なかなかに面白い奴だ」
「……そうなんですか」
 嬉しそうに言うツルギに対し、シエスタは顔を曇らせた。あわよくばここでツルギが忘れていった剣を返そうと思っていたのが
無駄になってしまったからだ。目に見えて、シエスタは落胆した。
「どうした? メイド」
 このツルギに気付かれるくらいだ。シエスタは慌ててそれを否定し、どこか遠いところを見るような目をした。 
「い、いえ、なんでもないんです。それより、あの……ツルギさん。ありがとうございます」
「ん? 何のことだ?」
「何があっても前向きで自信満々で、平民なのに貴族に立ち向かったり。そんなツルギさんにたくさん勇気をいただきました。
ツルギさんのおかげで、これからも頑張れます」
「当然のことだ。俺は神に代わって剣を振るう男なのだからな」
「ふふ、そうですね。おやすみなさい」
 ツルギの物言いにもだいぶ慣れたシエスタは、最後に微笑んでから一礼した。
 ここも明らかに様子がおかしかったのだが、ツルギはもちろん気がつかなかった。


 翌日、授業の直前で、いつものように教室に行こうとしたツルギの襟首を掴んだルイズは大またで外まで引っ張っていった。
 そして押さえつけるように命令する。
「今日からは、よその使い魔と一緒に外で待ってなさい」
「何故だ?」
 その言葉にルイズは唇の端を引きつらせた。あれだけ授業中にうるさくしていたのを、心当たりがないというつもりなのだろうか。
「あんた……それ、本気で言ってるの?」
「俺はいつも本気だ」
 確かにツルギは冗談は言わない。いつも信じられないようなことを本気でやらかす。それだけにたちが悪い。
 日ごろのいらいらも込めて、ルイズは頭ごなしに怒鳴りつけた。
「あんたを連れてくと、いらない恥ばっかかくからよ!」

 他の使い魔と共に外に取り残されたツルギに、デルフリンガーは文句を言った。
「ほら相棒、やっぱり怒ってんじゃねえか。また朝飯も抜かれて、どうすんだ」
「何、気にすることはない。食事なら……」

 ツルギはその足で厨房に向かった。マルトーはツルギを見ると大喜びで食事の用意をしてくれた。
「いつも助かる。ル・イーズの飯は少々量が少なくてな。すぐに腹が減ってしまうのだ」 
「遠慮はいらねえよ、どうせ貴族連中の残りもんだ!」
 うまいうまいと言いながら、食事を平らげていく。満腹になって辺りを見回したツルギは、あることに気がついた。
「そういえば、あのメイドはどうした? 今朝から姿を見ていないが」
 彼の質問に対し、マルトーは意外そうな顔をした。
「お前、シエスタから聞いてないのか?」
「何かあったのか?」
「急遽モット伯っていう貴族に仕えることになってな。今朝早く、迎えの馬車でいっちまったんだ」
「何? どういうことだ、それは」
「結局平民は、貴族の言いなりになるしかねえのさ。さ、仕事仕事」
 マルトーはまるで何かを振り切るように明るく言ったが、ツルギはどうにも居心地の悪さを感じて厨房を後にした。

 夕方、授業も終わりルイズの部屋に戻ってきたツルギはモット伯のことを彼女に尋ねた。彼女は髪をいじりながら、気のない様子で
応える。
「モット伯爵は王宮の勅使でいつも学園に来るわよ。いつも偉ぶってて私は好きじゃないけど」
「それが何であのメイドを……」
「貴族が若い娘を名指しでって場合は普通、自分の妾になれってことだ。おめえ、そんなことも知らねえのか」
 デルフリンガーの発言に、ツルギは目の色を変えた。ルイズにも声を荒げて確認する。
「何だと! それは本当か、ル・イーズ!」
「そういう話も聞くわね。貴族も色々いるし」
 ルイズの話を聞いたツルギは、怒りを込めて小さく呟いた。
「権力をかさにきての横暴というわけか許しがたい」
「言っとくけどツルギ、勝手な真似はしないでよ! 伯爵ってくらいなんだからギーシュなんかとは比べ物にならないくらい強いはずだし、
貴族の屋敷で剣なんか抜いたら平民は問答無用で殺されちゃうわよ! それにモット伯は王宮の勅使なんだから、何かしたら

あんただけじゃなくて私の家も危なくなっちゃうんだからね。命令よ! 絶対、絶対、絶対にモット伯のお屋敷に乗り込んだり
しちゃダメなんだからね!」
 ツルギの呟きを聞いたルイズは、厳しく釘を刺した。機関銃にような小言に、ツルギは完全に圧倒されていた。
「ほら、早く来なさいよ!」
「すまない、少し用事があって遅れる」
 ルイズは少し疑問に思うが、いくらなんでも、あれだけ言えば大丈夫だろうと思い、そのまま部屋を後にした。
 しかしルイズはまだツルギに対しての認識が甘かったことを、後に後悔した。

 ルイズの後から部屋を出たツルギは、デルフリンガーを下げながら食堂とは別の方向へと向かっていた。
「こっちは食堂じゃねえぞ。どこ行くつもりだ?」
「モット伯とやらの屋敷だ。高貴なる者として、そ奴の横暴は許しがたい」
「ちょっと待て相棒。あれだけ言われて、それでもまだ行くつもりなのか!? 大体おめえ、貴族じゃねえだろ。高貴なる者って
どういうことだ」
「魔法など関係ない。俺は神に代わって剣を振るう男だ。お、あいつは」
 デルフリンガーに答えたところで、ちょうど彼はギーシュを見つけた。歩いている途中の彼に追いつき、声をかける。
「おい」
 ツルギに声をかけられたギーシュはビクッと身体を震わせた。先日の大敗が相当応えているらしい。
「な、何だい! まさかまた決闘を……」
「そうではない。ちょっと聞きたいことがある」
 ツルギの質問に対し、いぶかしみながらもギーシュは正直に答えてしまった。


 一足先にルイズは食堂に着いたが、ツルギはなかなか顔を出さなかった。
 あれだけ言っておいたんだから、よもやとは思うけど……
 胸騒ぎがしたルイズは、とりあえず近くにいた生徒たちに聞いてみた。
「ねえ、うちの使い魔知らない?」
「ツルギ? さあ、見てないわよ」
「知らない」
「ああ、彼ならさっきモット伯のお屋敷の場所を聞いてきたよ」
 三人目に訊いた、ギーシュが答えた。彼の言葉を聞いたルイズは一瞬目の前が真っ暗になり、顔面蒼白となった。
「ま……まさか、あいつ」

 その通りだった。
 ツルギは学院の馬にまたがり、ギーシュに聞いたモット伯の屋敷を目指して疾走していた。
 腰の辺りから、ぼやくような声が聞こえてくる。
「まったく、今度の相棒はとんでもない奴だ。まさか貴族にケンカ売りに行くなんてな」
「お前は黙っていろ」
「へいへい。けど、何でそこまでするんだ?」
「どういう意味だ?」
「だってよ、相手は貴族だぜ、貴族。それも王宮の勅使だ。下手すりゃ王宮まで敵に回すことになっちまうぜ。そのメイドってのを
そんなにまでして助けたいのか?」
「あのメイドにはいつも世話になっている。高貴なる者として、当然の義務だ」
「はぁ~、何を言っても無駄みたいだね。ま、勝手にやってくれ」
 デルフリンガーは呆れたように言い、鞘の中に引っ込んだ。

 地平線の先に大きな屋敷が見える。あれがモット伯とやらのお屋敷だろう。
 そう思ってツルギが急ごうとしたところ、空中から怒鳴り声が聞こえた。
「ツルギィーっ!!」
 その声に驚いた馬が足を止める。
「な、何だ!?」
 ツルギは手綱を引き、馬を落ち着けさせて空を見上げた。

 一匹の風竜、その上に乗った三人の少女たちは彼を見下ろしている。
「あらら、本当に来てたわ」
「良かった……手遅れになる前に間に合って、本当に良かった」
 心中穏やかならずとも、ルイズはほっと胸を撫で下ろした。
「あれがモット伯の屋敷、危なかった」
 タバサは前方の建物を指して、淡々と言った。あと五分も遅れていたら、完全に手遅れになっていたことだろう。
「タバサ、ありがとう!」
 ルイズはタバサに心から感謝した。馬で飛び出していったツルギに追いつくには、タバサの風竜、シルフィードしかなかった。
 ツルギが死ぬのを嫌がったキュルケも一緒に頼み込んで、出してもらったのだ。
「別にいい。それより」
 タバサは杖で地面を指差した。一度は止まったツルギの馬が、またも走り出している。
「ああーっ! ツルギ、待ちなさい!」
「そうはいかん! ショ・ミーンを助けるのも、高貴なる者の務めだ!」
 叫ぶが、ツルギは止まらない。ルイズは目の前の小さな両肩を掴み、がくがくと揺らした。
「タ、タバサ! あれ止めて!」
 振られるままになりつつも、タバサは杖を振った。
 レビテーション。ツルギの身体が宙に舞い、シルフィードの高さにまで持ち上げられる。
「ル・イーズ、何をする!」
「それはこっちの台詞よ! 何してんのよ、あんたは!」
「あのような横暴、許してはおけん! 神に代わって剣を振るいにいくのだ」
「あんた、ヴァリエール家を潰すつもり!?」
 ツルギの襟首を掴んだ、そのときだった。辺りに轟音が響く。
「……?」
 四人は轟音のした方向へと顔を向ける。大きな屋敷からの一部が崩壊し、火の手が上がっていた。
 それを見たルイズの顔色が、見る見るうちに青くなっていく。ルイズはツルギの襟首を締め上げながら、前後に激しく振る。
「あ、あんたはーっ! 今度はいったい何をしたのよ!?」
「ちょ、ちょっと待て! 俺はまだ何もしていないぞ!」
 締め上げられながらも、ツルギは弁明する。これからその何か、をしようとしていたのは事実だが、まだ無実ではある。
「じゃあ何でモット伯の屋敷が燃えているのよ!」
「知らん! 第一俺はここにいただろ……ぐえ。これでは何もできん!」
「そういえばそうね。何があったのかしら」
 ルイズはやっと手を離す。ツルギが咳き込んでいるが、お構い無しに前方の少女に頼み込む。
「タバサ、ちょっと見に行ってくれる?」
 無口な少女はこくんと頷き、自分の使い魔に指示を下した。


「……何よこれ!」
 モット伯のお屋敷に着いたルイズは、開口一番そう叫んだ。
 屋敷の門は破壊され、衛兵たちは一人残らず気絶している。野党はおろかオーク鬼の集団に襲われてもこうまではなるまい、と思わせるほどの
ひどい有様だった。
 四人はシルフィードと馬を門の外に待たせ、屋敷の中へと入っていく。
 中はさらに凄まじい様相を呈していた。
 豪奢なシャンデリアは地面に落下して砕け散っている。
「王宮付きで伯爵ともなれば、メイジも護衛にいるはずなのに」
 タバサと一緒に屋敷の中を見て回ったキュルケが呟く。メイジと思しきマントをつけた衛兵も、誰一人として無傷のものはいない。
全員大怪我をした上、気絶している。これだけのメイジが全滅するとは、エルフにでも襲われたのだろうか。
「おい、こいつがモット伯か?」
 先の方まで行っていたツルギが呼びかけ、倒れている貴族と思しき人物を指差した。
「多分……何度か見たことがあるけど」
「ここまで顔が変わってると……分からないわね」
 ルイズとキュルケは自信なさげに言った。
 何しろ立派な衣装はズタボロとなり、顔面は原形をとどめないまでに変形している。杖も叩きおられており、これでは目を覚まさない限り、
判別するのは至難の業だ。
「いったい、何があったのよ」
 ルイズが呟くが、そればかりはここにいなかったものには想像のしようがなかった。


 シエスタも無事見つかった。彼女はただ、目をまわして気絶しているだけだったようで怪我はない。
 新しい雇い主であるモット伯がこの有様では働けまい、ということで結局学院に連れ戻すことにした。それに関してはツルギが
うるさく言うことから、ルイズやキュルケたちで学院の方に話をつける、ということになった。
 それで学院に帰るため、シエスタをレビテーションでシルフィードの上に乗せたところで、彼女が目を覚ました。
「あれ、ここは?」
 シエスタは辺りを見回す。彼女は学院の生徒二人、すなわちルイズとキュルケに取り囲まれていた。なお、タバサは自分の仕事は
終わったとばかりに一人無関心そうに読書をしていて、ツルギは乗ってきた馬でひとり先に帰らせている。
「やっと目を覚ましたのね」
「何があったのか、話してもらうわよ」
 二人に詰め寄られ、わけも分からぬままにシエスタは知っていることを白状させられていく。
「あ、はい。私にも何があったのかよく分からないんですけど……」


 モット伯の屋敷に来た日の夜、自分を勇気付けるようにシエスタは紫色の剣を胸に抱いた。結局返せなかったツルギの剣を、
ついここまで持ってきてしまったのだ。
 シエスタはモット伯の寝室に呼び出されていた。これが意味するところは、もはや明白だった。

 書斎に呼び出されたシエスタに対し、モット伯は好色な笑みを浮かべた。
 シエスタは嫌悪感を表に出さないように、必死で耐える。
「どうだ、仕事は慣れたか?」
「はい、大体は……」
 シエスタの返答に満足したように、彼女の首筋に手を伸ばす。耐え切れずにシエスタはビクッと全身を震わせた。
「そうかそうか。まああまり無理はせぬようにな。私はお前をただの雑用に雇ったわけではないのだからな、シエスタ」
 その折、屋敷中に爆発音が轟いた。一瞬、巨大な屋敷全体が振動する。
 急場に対し、モット伯は滑稽なほどにうろたえた。
「な、何事だ!」
「侵入者です!」
 駆け込んできた衛兵の一人が答える。
「何を……衛兵たちは何をしているのだ!?」
「いえ……それが、外にいる兵は全滅です」
「何だと!」
 さらに、もう一度爆音が轟く。モット伯は書斎を飛び出した。


 豪奢なシャンデリアのある広間で、侵入者たちは取り囲まれていた。
 侵入者はたったの二人、それぞれ片袖のない、奇妙な衣服を纏っている。別に何か強力なマジックアイテムを装備している様子もない。
いかれた傭兵崩れか何かだろう。やられた衛兵たちは、油断でもしていたに違いない。
 自らの優位を確信したモット伯は、悠然と言い放つ。
「貴様ら、何者だ? 貴族の屋敷に乗り込むとは、何のつもりだ?」
 二人の男は質問に答えることなく、非常に低いテンションでわけの分からないことを言った。
「お前か……、俺たちを笑ったのは……いいよなあ」
「まったくね……、俺も一度でいいから、そんな偉そうにしてみたいよ」
 モット伯はもったいぶって杖を構える。
「ふ、何者かは知らぬが、魔法が使えない衛兵を倒したくらいで調子に乗らないでもらおう。私の二つ名は波涛! 波涛のモット。
トライアングルのメイジだ」
 それと同時に、彼らを取り囲んだ衛兵が一斉に動いた。
 二人の侵入者は顔をうつむけた。やっと自らのおろかな行いを悔いたのか、と思ったところで、どこからともなく二匹の金属で
できた虫のようなものが飛び跳ねながら、彼らの手におさまる。
 彼らはそれぞれの手に構えた金属の虫を、スライドさせるように腰の辺りにはめ込んだ。
「……変身」『henshin! change! kick hopper!』
「……変身」『henshin! change! panch hopper!』
 奇妙な音声と共に、二人の侵入者は鎧に包まれたような姿に変わった。


 緑色に変わった男は、腰を落とした。
「……ライダージャンプ」『rider jump!』
 声と共に跳躍。右足を下に向け、腰の辺りに手をかける。
「……ライダーキック」『rider kick!』
 そのまま右足が衛兵の一人に直撃。同時に右足についたジャッキが下がり、その衛兵を跳ね飛ばす。反動で緑色の男はもう一度跳躍し、
また別の衛兵を踏みつけた。そしてまたジャッキが下がり……
 これの繰り返しで、衛兵たちは全滅した。

 モット伯は杖を振るった。すると花瓶の中の水が舞い上がり、二人の侵入者に襲い掛かる。
 今度は黒い方の男が、腰を落とす。
「ライダージャンプ」『rider jump!』
 そして跳躍。力を溜めるように右腕を引き、左手を腰に当てる。
「ライダーパンチ」『rider punch!』
 右腕が水の固まりに振り下ろされる。水の固まりは一瞬で四散した。
 飛んできた水の塊が目の前ではじける。猫だましの要領で、シエスタは目を回した。


「……わけが分からないわね」
 シエスタの話を聞いたルイズは、顔をしかめた。世の中広い。ツルギ以上にわけの分からない人間がいるとは思わなかった。
「はい、その……申し訳ありません」
「仕方ないわ。後でモット伯も王宮に報告するでしょうけど、とりあえず学院には強盗に襲われたって言っとくわね」
 キュルケがまとめるように言った。まあ、そうとしか言いようがない。
「は、はい! ありがとうございます!」
 これでまた学院で働ける。シエスタは感激したように頭を下げ、荷物を取りにいったん屋敷の方に戻る。
 戻ってきたときには、彼女は小さな荷物を下げ、布で巻いた長いものを大事そうに抱えていた。


 モット伯の屋敷を襲撃したものの一人、左袖のない黒い上着を羽織り、右腕に金属のジャッキを装備するという奇妙な格好をした男、
影山瞬は上着のポケットから取り出したものを見て、顔をにやけさせた。
 ザビーブレス。なぜかあの男が持っていたもので、かつてのカゲヤマの栄光の象徴。追い詰められたあの男も使おうとしていたが、
何も起こらなかった。カゲヤマは兄貴に気付かれないように男をぼこぼこにして、ザビーブレスを取り上げたのだ。
「これで……これで俺は」
 そこに、地面に金属がかすれるような独特の足音。それが聞こえたカゲヤマは、慌ててザビーブレスを隠した。
 右足に金属ジャッキ、右袖のない黒いコートと独特の衣装を身に着けた男、矢車想だ。
 ヤグルマはカゲヤマの隣に座ると彼の顔も見ることなく、耳元にささやくように言った。
「お前、まさか光を掴もうなんて思ってないよな」
 まるで彼の心の中を見透かしたかのような言葉。カゲヤマは慌ててそれを否定する。
「お、俺は別に」
「俺たちのようなろくでなしが少しでも光を掴もうとしたら、手痛いしっぺ返しを喰うぞ」
 ヤグルマはそう言うが、カゲヤマは上着の中のザビーブレスを手放そうとは思わなかった。

新着情報

取得中です。