あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

竜が堕ちゆく先は-7

 トリステイン魔法学院、ルイズの部屋は様々な種類の色に溢れ返っていた。
 赤、黄、緑、青、ピンクなどの丸めた毛糸玉が転がり、あちこちには
ちぎれた毛糸が落ちている。まるで猫の遊び場のようだ。
 けれど部屋にいるのは猫ではない。服のあちこちに毛糸を引っ付けたルイズである。

「何で、何でセーターを編むのがこんなに難しいのよ!」

 本日何度目かのルイズの大声が部屋に響く。いつもなら何か言ってくれる使い魔も今はいない。
 彼女自ら追い出してしまったからだ。
 以来ルイズは才人と話していない。見かけてもいない。
追い出してから三日以上経って心配になり学園中を探し回ったのだが、どこにもいない。
 それどころかキュルケ達と一緒にどこかに出かけたようだった。
 何だかルイズは一人だけ除け者にされた気分になり、
一層悲しみが募ってベッドでシーツを被り、声を殺して泣いていた。
 いつか泣き疲れて眠ってしまい、翌日腫れぼったい目をこすり
最初に見たのは、おかしな形のヒトデ型のぬいぐるみ。
 始めはこんなの買ったかな、と寝ぼけ頭のルイズは思ったがすぐに思い出した。
ヒトデのぬいぐるみは自分が編んだセーターだったことに。
 追い出す原因となったメイドと才人の抱き合う姿を見たときのショックで今まで放り出していたのだ。
 ボンヤリとセーターの様な物を眺める内にルイズははたと閃いた。
セーターをしっかり編んであげれば、才人は感激してもうあんなことしないんじゃないか。
アイツはきっと女の子の手編みのセーターなんか貰ったことなさそうだし。
 それに貴族が一度やり始めたことを放り出すのは良くない、そう自分に言い聞かせルイズは編み物に再び挑んだのだった。
 本で調べたり、メイドを呼んで聞いたり、努力家のルイズは精一杯頑張った。
 でも上手くいかないものは、上手くいかない。
 スラスラとメイドが編み物をこなしていくのを見ると、ルイズは何度頼んで編んでもらおうかと言う誘惑に駆られた。
 その度ルイズは首を振る。そんなズルはすべきじゃない。
 結局ルイズは今も一人で毛糸相手に奮戦している。
「ちいねえさまなら、きっと上手く出来るんだろうなあ」
 ルイズは優しい姉のカトレアを思い出し溜息をついた。ちいねえさまみたいに
自分が優しくおしとやかなら、才人はメイドとあんなことしなかったかも。

 編み物をしているとルイズは様々なことを自然と思い返していた。
召喚の儀式での出会い、フーケのゴーレムとの戦い、ワルドとの戦い、
いつでも最後には才人はわたしのそばに居てくれた。
 もし使い魔の眼を通して見れたら才人がどこにいるか分かるのに、
でも才人がもしメイドやキュルケにデレデレしていたらどうしよう。
だからルイズは使い魔の見た光景が見えなくて、良かったとも思っている。
 そんなことを考える内にセーターは仕上がっていく、ルイズの努力はゼロにはならずしっかりと積み重なっている。

「出来た……」

 ルイズは眼を輝かせた。少々不恰好だけれど、セーターは完成した。
やれば出来るのだ、ヒトデのぬいぐるみも青い色のセーターになった。
 その時である、不意に扉が開きキュルケが顔を出した。

「ルイズ……あらそれセーターね」
「な、なによ」

 ビクッと震え、突然のキュルケの訪問をいぶかしむルイズ。

「そんな警戒しなくても良いじゃない、それよりセーターが出来たなら早く使い魔さんにあげたら?」
「今……サイトどこにいるか分からないもん」

 悲しげに顔を伏せるルイズ。普段のルイズならキュルケにそんな姿は見せない。
 それを見ていられないのかキュルケはおもむろに一言告げた。

「バカねえ、あたしがここに居るってことは使い魔さんもここにいるってことじゃない。ちなみにアウストリの広場にいるわ」

 ハッと顔をあげ、次に急いで立ち上がるルイズ。けれどすぐに
そんな態度をキュルケに見せるのは恥だと思ったのか、服の毛糸を払い整え急がず歩き出す。
 キュルケは黙ってルイズの後ろ姿を見送った。ルイズと喧嘩し落ち込んでいた
才人を元気付けるためにキュルケは才人を学園から連れ出した。けれどギーシュ達とはしゃいでいるように見えて、
才人の顔にはどこか浮かないものがあった。それが何なのかキュルケは大体予想が付いている。
残してきたルイズが心配だったのだろう。
 だからキュルケは敵に塩を送る気分でお節介な行為に及んでみた。
 あーあ、あたしったら何やってるのかしら、心の中でつぶやきながらキュルケはうーんと両手を上げ、疲れた体の伸びをする。
 これから彼女は学院の掃除に向かうのだ。

 ゆっくりしっかり地面を踏み歩いているはずのルイズ。
けれど傍から見ると足の動きが次第に速くなっている。
 ルイズ自身は気付いていないし、人から指摘されたとしても決して肯定しないだろう。
 アウストリの広場、そこで才人はタルブの村から運んだ
『竜の羽衣』と呼ばれていた飛行機ゼロ戦をいじっていた。
 ガンダールヴの効果でゼロ戦の情報は手に取るように分かる。
 燃料のガソリンもコルベール先生のお陰で手に入る。
 何より自分の世界に帰る手がかりを見つけたのだ。
 もっと嬉しいはずだった。しかし才人はどこか素直に喜べない。ルイズのことが心に引っかかっている。

「サイト……なにこれ?」

 ゼロ戦に近づき、どうやって話しかけようか悩んだ末、
ルイズは才人の乗っている見慣れぬものに対して質問することにした。
 だがルイズに対する才人の答えは「ひこうき」という無愛想な答え。
 ルイズも才人も意地っ張りなところがある。現在喧嘩中の彼らは素直に言葉を交わせない。

「降りてきて」

 ついいつもの強い口調で言葉が出るルイズ。才人も「わかった」と答えゼロ戦から降りる。

「これ、あんたにあげるわ。たまには使い魔にもご褒美をあ、あげないとね……メイドに編ませたのよ。わたしが編んだんじゃないからね!」

 それだけ言うとルイズは投げつけるように抱えていたセーターを渡すと
クルリと向きを変え、逃げるように急いで歩き出した。
 ルイズは本当はもっと才人と話したい。でもあのメイドとの仲を、
才人自らの言葉で肯定されるのが怖い。
 そう考え始め、何も言えなくなったルイズは余計なことを言ってただセーターを渡すだけ。
 乱暴に渡された青色のセーターを才人は広げる。才人の服と似た色。
お世辞にも上手に出来ているとは言えない。
 それだけで学院のメイドが編んだとは才人には思えない。
 学院のメイドもっと上手なはず。シエスタを見ていれば分かる。
 それにルイズの桃色の髪にはセーターと同じ青色の毛糸が引っ付いていた。
 才人はルイズの後を追い駆けるために駆け出した。ちゃんとシエスタとの誤解を解いて、ルイズと仲直りをするために。
 ゼロ戦に取り残されたデルフリンガーはポツンとつぶやく。

「若いってのはいいねぇ……後で迎えに来てくれよ相棒」



「艦長、艦隊戦は君の方が経験しているだろう。君に任せるよ」

 隣に座る艦隊司令長官の殊勝な言葉を聞きボーウッドは驚いた。
 彼はアルビオン艦隊旗艦レキシントン号の艦長を務めている。
 こんな卑怯な作戦の総司令官に任命されるのは、功名心に焦った者か、
クロムウェルの子飼の連中だろうと思っていた。そのような輩は得てして仕切りたがるものだ。
 ホーキンスという将軍も陸軍のくせに、艦隊の行動に口を挟んでくるかと思ったが、そうではないらしい。
 このような上官ならば、大歓迎だ。自らの分をわきまえている者に悪い上官はいない。
 こうなっては艦隊指揮に一層の気合が入る。どのような条件下でも能力を惜しまないのがかつてのアルビオン王国空軍士官だ。

「君は、この作戦についてどう思うかね?」

 唐突にホーキンスは言った。独り言のようでもあり、ボーウッドに尋ねているようにも聞こえる。

「……」

 ボーウッドは答えに窮した。どのように答えれば良いのか。

「いや……やはりいい。おかしなことを聞いた。指揮を続けてくれ」

 それっきりホーキンスは黙り込む。この上官も、作戦について色々と思うところがあるのだろうか。
けれどボーウッドにそれを聞く権利はないし、聞いてはいけない気がした。
 左舷の向こうにはトリステイン艦隊が浮かんでいる。それらを眺めつつボーウッドは思う、
真っ向からやり合ったら向こうはどれほどの戦いぶりを見せるのか。
 トリステインは古い国だ。彼ら空軍の誇りをこれから我らは踏みにじるのだ。

「そろそろ旗流信号を送りますか、艦隊司令長官殿」
「良し、文面は『貴艦隊ノ歓迎を感謝ス、アルビオン艦隊司令長官』以上だ」
「サー」

 艦隊司令長官名義でも発信。相手の艦隊には提督が乗っているのだからこれくらいが妥当だろう。
ホーキンスは陸軍ながらその辺は理解している。
 ボーウッドは仕官を呼び、旗流信号の内容を伝えた。内容に特に文句はない。
 しばらくしてトリステイン艦隊からの返信の旗流信号が上る。
 内容を確認したボーウッドは礼砲準備の掛け声をかけた。

 レキシントン号から次々と放たれる礼砲。空砲とはいえ、新型砲はまさに轟音と称すしかない音である。
敵として聞くならば恐ろしいが、味方として聞くならばこれほど頼もしい音はない。
「凄いな艦長、我らのレキシントン号は。ハルケギニア一の船だ」
 素直に感心した様子でホーキンスは口に出した。その点に関してはボーウッドも同感である。
このような立派な船の艦長となれたことを名誉に思っている。

「左砲戦用意!」

 ボーウッドの命令を復唱し、砲甲板の水夫たちが慌しく動き出す。
 戦闘準備、いよいよ戦争の幕は切って落とされるのだ。

「艦長、頼んだぞ」

 ホーキンスはボーウッドに全てを一任してある。彼は艦隊戦に関しては経験が少ない。
彼の本分は兵が地上に展開してから始まる地上戦にある。
 やがてトリステイン艦隊から答砲が放たれた。数は十発。
レキシントン号の砲撃音を聞いた後では何とも貧相に聞こえる。
 答砲が打ち終わると共に艦隊の最後尾の旧式艦ホバート号が炎上していくのをボーウッドは確認した。
もちろん乗組員が脱出するところも。
 そしてボーウッドは冷徹に砲撃開始を指示した。
 無数の砲弾が一斉に放たれ、トリステイン艦隊へと降り注ぐ。
向こうは何が起こったのかまだ把握できていないのだろう。船が動く気配すらない。

「旗流信号を送れ、文面は事前に示した通りだ! 返信があっても送り続けろ。トリステイン艦隊からの先制攻撃だ! 全艦に通達、トリステイン艦隊の頭を抑える」

 トリステイン艦隊の二倍の数を誇るアルビオン艦隊がよどみなく動いていく。
 その統率された動きは一個の生物のようだ。

「トリステイン艦隊は今ごろ動き出したか、遅いな。総司令官でも仕留めたか」

 ボーウッドの言葉通りトリステイン艦隊もようやく動き始めていた。
しかし砲撃の混乱からまだ立ち直ってはいない。船と船との連携が出来ていない。
 ボーウッドの予想通りトリステイン側は総司令官が最初の砲撃で戦死したため、動きが遅くなってしまったのだ。
それがトリステイン艦隊の命運を分けたとも言える。初動で動き出せさえすれば、あるいは撤退することができたかも知れない。
 トリステイン艦隊から一定の距離を置いて冷静に砲撃を続けるアルビオン艦隊。
船の性能も数もアルビオンの方が上だ。もはやトリステイン艦隊に残された手段はない。
 じわじわと追い詰められ一隻ずつ炎に包まれ落ちていく。遂にトリステイン艦隊旗艦メルカトール号が落ちたとき完全に艦隊は崩壊した。
 旗艦が落ちたことで早々に白旗を揚げた船も存在するが、一隻で動き回り必死に戦おうとする船もいる。
 タルブ上空での艦隊戦はアルビオンの圧倒的勝利で幕を閉じた。



 フーケは戦士を連れ、上陸した艦隊を早々に後にした。
 クロムウェルから特務の権限を与えられていたフーケはある程度自由な動きが出来る。
 トリステイン軍が出てくる前に到来するであろう、タルブ領主の兵を押しとどめる役目をフーケは負っていた。
 周辺の警戒に先駆けて出撃した竜騎士二騎に分乗し、眼下の草原を視界に収めつつ飛ぶ。
 緑の草原に一点の染みが動いている。タルブ領主の貴族と鎧に身を固めた兵士だ。
馬にまたがり、突撃し始めていたタルブ領主の騎兵へと竜は近づく。

「二人では騎兵の集団は止められません。私たちもお供します!」

 竜騎士が心配そうに叫んだ。当たり前だ、騎兵の集団を二人で、しかも一人は平民の戦士が止めるのだ。
彼らを行かせたのではアルビオン竜騎士の名折れ。

「いや、あの戦士の力を見てみたいのさ」

 フーケは竜騎士の意を解さず言った。クロムウェルが太鼓判を押す戦士の実力を見てみたい。
これくらいの軍勢を止められないのでは狂戦士とは言えない。それに阻止できなくとも、竜騎士と自分のゴーレムで加勢すれば良い。
 騎兵の集団の差し掛かった瞬間、フーケは命令を与えた。敵と戦え、と。
 その命に答えるかのようにすぐに戦士は竜から飛び降りた。走る騎兵の真ん中に。
落下の力を剣に乗せ、狙い澄ました一撃を騎兵一騎の上に振り下ろした。
 上空から降ってくる者がいるとは予想できなかったのだろう。避ける間のなく騎兵は戦士に両断された。
 その光景に驚き、動きを止める騎兵の集団。それが彼らの命取り。戦士と相対した馬が突然狂ったかのように暴れ出す。
 本能的に馬は戦士に恐れを抱いたのだ。驚き騎馬をなだめようとした騎兵は、次の瞬間戦士の剣で馬ごと横に切断された。
 凄まじい斬撃を眼にして騎兵の集団に走る戦慄。空から戦士を眺めるフーケと竜騎士も予想を遥かに超えた光景に戦慄を隠せなかった。
 騎兵と騎馬を剣で一刀の元に断ち切る。人間業とは到底思えない。
 戦士の右手に炎が集まり、人と同じくらいの大きさの火炎弾が三つ放たれる。
 ブレイジングウィング、戦士の使える唯一の魔法。竜の火球を思わせる火炎。
それらは騎兵に直撃、または足元に当たり爆発する。騎兵の集団は一層の混乱におちいった。
 混乱で馬から落ちた騎兵は起き上がる前に戦士の剣を体に突き立てられ絶命した。

 そこから先は戦士の独壇場。
 貴族の領主から放たれる魔法、突き出される槍、振り下ろされる剣、
それらを全てかわし、あるいは剣で弾き戦士は着実に騎兵を切り殺していく。
 数分後、そこに立っているのは返り血に濡れた仮面の戦士ただ一人。
 しかし上空からは戦士の放った火炎弾によって草が燃え、煙によって様子が確認できない。
フーケはそのことに気付いていなかった。戦士に与えた命令が未だ続行されていることも。
 やがて煙が晴れる。草原には切り殺された兵士と馬、そして難を逃れた馬の嘶きが聞こえるだけ。
 仮面の戦士はどこにもいない。

「あいつはどこ!?」

 フーケは竜騎士に竜を上昇させると、眼鏡の位置を直し戦士の姿を探す。
 それらしき影は見えない。心に次第に焦りが募っていく。クロムウェルの眼を放すなとの言葉を思い返す。
 ふとフーケの目線は何本かの煙の柱を捉えた。あそこにあるのは確かタルブの村。
まさか戦士は次なる獲物を求めてタルブの村に向かったのか。
 戦士に戦闘員と非戦闘員の区別がつくだろうか。あんな状態の戦士に。ここからでは命令も届かない。

「タルブの村へ、早く!」

 フーケは不安に苛まれながら、竜騎士にタルブの村へ飛ぶよう告げる。
 彼女の不安を感じたのか、竜騎士は自らの騎竜に出せる最大の速度で空気を切り裂き進む。
 タルブは竜で向かえばすぐそこだ。けれどフーケには村に辿り着くまでの時間が酷く長く感じられた。

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