7スレ目 私メリーさん。あの日一緒に見た夕焼けが一番好きです。

77 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/22(金) 23:58:49.91 ID:VuOrYTvB0
「はい!」
ずっとそこにいたメリーさんが
傘を投げる、親父の傘を。
僕はそれを受け取った。
先生が驚いていた。
そうだろう、いきなり傘が出現したのだから。
世の手品師は案外幽霊と友達なのかもしれない。
傘を手にした僕。傘対ナイフ。
迫ってくる先生に向かって
僕は渾身の力で傘を振るった。
リーチでは僕が勝ち、先生の顔面へと当たる。
怯む先生。チャンスと言わんばかりに傘を振り上げた。
先生は手を交差し上部にガードを固めたが
それはフェイント。
傘では無く傘の柄を握った拳で顔を殴る。
先生が体勢を崩す。

100 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 00:13:23.56 ID:lopreZb60
ふらついたかと思ったが
その瞬間ナイフで突いてきた。
僕はとっさにボタンを押し、傘を広げる。
ビリッ!と音がし、ナイフが傘の布を突き抜けた。
だが僕には届かない。
傘を手放し、先生の懐へと回りこみスーツの襟を掴んだ。
体育の授業ではメリーさんに見せられなかったが
今ならいける。
バランスを崩した先生は軽い。
僕は最大の力で背負い投げを仕掛けた。
どうやら僕は女の子が見ていると力が出るらしい。
空中で手を離し、先生が宙を舞う。
そのまま資材置き場へと頭から突っ込む先生。
誰がどうみても一本。
第2段階、奇襲攻撃。
成功。

127 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 00:26:38.57 ID:lopreZb60
一矢は報いた。
作戦は最終段階へ。
最後は逃亡。
勝ちは確定したようなものだ。
今がチャンスとメリーさんと共に扉へと走る。
先生が起き上がってきたが
僕が扉へと辿り付く方が早かった。
ドアノブに手をかける。
ガチャ…ガチャガチャ!と、激しく
ドアノブを回転させるが開く気配はない。
鍵――!
しまったっあの時鍵をかけられて!
相手は教師なのだ。
学校の鍵を入手する事なんて簡単じゃないかと。
今更ながらに気づき、愕然とする。
ざわっと後ろに気配がし振り向くと、
頭から血を流し鉄パイプを持った先生が立っていた。

174 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 00:47:38.32 ID:lopreZb60
「危ない!」
と、メリーさんが叫んだ。
その声に反応し、咄嗟に右手で顔を守る。
振り下ろされた鉄パイプ。
ゴンッ!と鈍い音がして、僕の腕に激痛が走った。
かはぁっ!っと息が吸えなくなるほどの痛み。
腕が上がらない。
骨折れたか、ヒビが入ったのはまず間違いない。
再び鉄パイプが振り下ろされる。
横に跳びなんとか避けるが
そこは逃げ場の無いブロック塀。
やばい、次は逃げられないし左手だけじゃ
防ぎ切れない。
先生の無愛想な顔が見たことも無い
怒りの表情をしている。
「死ね!」
そう言って鉄パイプを振り降ろす先生。
あ、ダメだ死ぬ。そう感じた。
辺りがスローモーションのように見えた。
振り下ろされる鉄パイプがゆっくりだ
その向こうでメリーさんが何か叫んでいる。
メリーさん、ごめん。僕は目を閉じた。

210 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 01:05:07.06 ID:lopreZb60
ガン!と音が響いく。
だが僕に痛みは無い、ゆっくり目を開けた。
そこには傘。
さっきまで向こうに転がっていたはずの黒の大きな傘。
それが振り下ろされた鉄パイプを止めていた。
「なん…で…?」
先生の顔がある方向を向いて青ざめている。
その方向に目をやると傘の芯の部分が鉄では無く。
足。
人間の足だった。
「危なかったな、あとちっとであの世逝きだったぞ?」
がはははは!と豪快な笑い声。
メリーさんでも先生でも、もちろん僕でも無い。声。
傘が…しゃべっていた。
懐かしい声、だけど2度と聞けなかったはずの声。
忘れようにも忘れられないその声は。
「親…父…?」

259 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 01:30:19.99 ID:lopreZb60
呆然としている先生に傘が片足で
ドロップキックをかます。
先生は吹っ飛び2回転してやっと止まった。
突然、傘がスーっと人の形へと変っていく。
下駄に黒い浴衣、一箇所大きな穴が開いてるのは
さっきのナイフの穴だろうか。
そして顔はまぎれもない僕の親父だった。
「親父…成仏してなかったのか?」
「まぁな、なんの因果か今は唐傘やっている。
 人生何があるかわからないな。がはははは!」
懐かしい、耳に付く豪快な笑い。
「そんな事より、あのお嬢さんに感謝しな」
と、いきなり真面目な顔をして言った。
お嬢さんとはメリーさんの事か。
「オレは日のある内は外にでれねぇ
 だが、こうしてオレが息子の大一番に
 出てこれたのはあのお嬢さんが
 滞在期間をすべてオレに譲歩したからだ。」
なんだって…。
「あのお嬢さんは今日の0時で消える」
メリーさんの方を見ると安堵の表情をしていた。
なんでそんな顔ができるんだ。
自分が消えるって言うのに。
また、僕のせいで…。

301 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 01:42:52.39 ID:lopreZb60
「う、うわぁぁぁあ!!!」
と、いきなり叫び声と共に起き上がった坂井が
鉄パイプを持って迫ってきた。
標的は親父。
だが親父は振り返ろうともしない。
振り下ろされる鉄パイプ。
親父はぎりぎりの所でかわす。
そしてそのままぐるんと周り、遠心力付きの
回し蹴りが炸裂した。
腹部にけりを受けドアの所まですっ飛ぶ坂井。
「親子水入らずだ!黙ってろ!!」
と、言い放った。
「つ、強くなったな…親父」
「はっ!おまえもな!」
がははは!と笑い声が響く。
ガチャン!と言う音と共にドアの方を見ると
坂井がいなかった。

331 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 01:58:04.36 ID:lopreZb60
一気に辺りが暗くなってきた。
夕日が沈むと共に、親父の体が透けていく。
「親父!?」
「ああ、オレにとって日の出のうちに出るのはタブーだ
 滞在期間をすべて使っても間に合わないほどのな
 まぁそんな事はどうだっていい」
親父は本当に自分の事はどうだっていいような口ぶりで続ける。
「逃げたあいつの事はオレにまかせろ、知り合いに頼んである。
 お前はあのお嬢さんの果たせなかった事を果たせ
 お嬢さんは気づいてるはずだ」
そうなのと、メリーさんの方を見ると
静かにうなずいた。
親父の体はどんどん見えなくなっていく。
「時間か…。いいか、絶対に女は泣かすなよ?」
何度も聞いたセリフを久々に聞いた。
僕は強くうなずく。
「それと、母さんによろしく言っといてくれ
 …じゃあな、元気で暮らせよ」
「親父も…元気で」
がはははは!と握手を交わしたところで夕日が沈み。
手からあのがっしりとした感触がゆっくりと消えていった。
残ったのは黒く、大きな傘。
袖で目を擦り、それを拾い上げた。
「行こう!メリーさん」

360 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 02:18:27.10 ID:lopreZb60
はぁはぁと荒い息使いが暗い校舎に響く。
俺は幽霊なんて今まで信じてなかった。
でも、さっきから見えるあれはなんだ?
青白い顔の暴走族のような服装の男達。
腕がなかったり、足が無かったりと生きてる人間は
ありえないほどの致命傷。
そいつらが行く手を遮り、後ろから追いかけてくる。
階段を上がり、上がり、上がり。
逃げても逃げても追いかけてくる。
はぁはぁと、どんどん呼吸が乱れ、
何度も何度もつまずいては起き上がり。
必死で逃げた。怖い、外へ出たい。
今度は後ろからだけではなく、前にも見えた。
なんとかやりすごすそうと
とっさに横の扉へと入る。
息を整えようと深呼吸をする。
と、タバコに匂いがした。
顔を上げるとそこには
バケツを裏返しにして座っているポニーテールの女の子。
その子がタバコを口に咥え紫煙を吹かしていた。
「な、なんでこんな所に小学生が…?」
するとその小学生の顔つきが変わり
突然ジャンプし、さらに窓の枠の突起に足をかけ、より高く。
そのまま空中で一回転した。
重力と遠心力のついた強力な踵落しが坂井の延髄に決まった。
そのままトイレの床に倒れる坂井。
そしてそのポニーテールの小学生は言い放つ。
「私しゃ20だ!」

390 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 02:38:52.44 ID:lopreZb60
親父の言葉を信じ後はまかせ、
メリーさんと共に学校を出る。
どこへ行くのかと聞いたところ事故現場らしい。
もうすぐメリーさんとはお別れ。
そう思っただけで胸が苦しくなった。
「あ、あの!…いや何でもないです…」
と、メリーさんが言って来た。
「何?気になるけど」
「いや、たいした事じゃないんですけど…」
もじもじと下を向くメリーさん
「あの!手…繋いでもいいですか?」
僕は何も言わずメリーさんの手を握った。
「手、小さいね」
「手、大きいですね」
そんな事を言いながら歩いていった。
空を見上げればすっかり夜。
星が輝いていた。

406 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 02:52:42.91 ID:lopreZb60
僕達は手を繋いだまま、事故現場へと来た。
そして、メリーさんが倒れていた河原へと降りる。
川が流れる音以外が静かだった。
メリーさんが言った。
「私、嘘ついてました。
 本当は昨日の朝には記憶は全部戻ってたんです。
 でも、あなたと一緒に居たかったから…」
メリーさん曰く、あの三箇所はデートで行きたかった場所
なのだと言う。
僕は何も言わない。
メリーさんは続ける。
「1ヶ月前の事故の日。雨が降っていて私は傘が無く
 バス亭で雨が止むのを待ってました。
 そんな時に私に傘を貸してくれた男の子がいたんです」
それって、まさか…
「その人の事は知っていました、たまにバスで一緒になる時が
 あったので、それに…かっこいいなぁと思って」
えへへっと照れくさそうに言うメリーさん。

420 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 03:02:41.62 ID:lopreZb60
「その人が傘を貸してくれて…もしかして
 私に気があるのかな~なんて思いあがちゃって
 でもこの1週間一緒にいて気づいたんですけど
 その人にとって傘を貸すのが当たり前だったんですね」
僕が中山 准の制服姿を知っていたのは
一度見たことがあるから…話したことがあるから…
その先は。
「そんな事知らずに私は好きな人に傘してもらって
 うれしかったんです。そして、傘を返す時に
 思い切って告白してみようと思ってました
 その時に事故で…」
僕が…傘を貸さなければ
中山 准は生きていたかもしれない。
僕が殺したも同然だ…。
「ごめん、謝って済む問題じゃないけど…」
「やめてください!そういう意味でいったんじゃないですから!」
と、本気で起こっていた。
メリーさんが歩きだす。

437 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 03:09:27.06 ID:lopreZb60
向かった先は、橋の下
不法投棄やゴミが散乱する場所。
たしかこの辺に、と言ってメリーさんが何かを
探している。
そして、見覚えのある柄のボロボロになった
傘を見つけ出した。
青色のチェック模様の傘。
「あの人が私を河原に落とした後、傘をそこに隠していったんです。
 それを見ていた私はそればっかりが心残りで…」
そして、メリーさんはこの世に残った理由。
メリーさんとなった理由を言った。
「私はあなたに傘を返す為にここに残りました」

460 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 03:22:13.75 ID:lopreZb60
そう言って、僕に傘を手渡そうとするメリーさん。
これを受け取ってしまったら…メリーさんとは。
この1週間の事が甦るように頭の中で再生されていく。
礼儀正しい電話で。
初めて僕の家に来たときはびしょ濡れで
バスタオルと紅茶を出してあげた。
ベットの下を覗いていた事もあった。
母親とも再会することもできた。
ちょっといじめるとすぐ拗ねて。
甘い物が大好きで、
僕の作った料理をおいしいと言って食べてくれた。
夕日が似合うメリーさん。
そして、僕の大好きなメリーさん。
僕は…傘を受け取った…。

491 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 03:43:13.58 ID:lopreZb60
瞬間、メリーさんの体が透けていく。
「人生で一番楽しい一週間でした。その中でも。
 あの日一緒に見た夕焼けが一番好きです。
 絶対に忘れません
 ホタルの約束、守れなくてごめんなさい。
 そして…あなたの事が大好きです!」
僕は涙をこらえ、最後になるであろう
メリーさんの言葉へ返事を返す。
「僕もあの日の事を絶対に忘れない。
 メリーさんの事大好きだよ!」
メリーさんが満面の笑みを見せる。
その目には涙が溜まっているけど。
うれし泣きは笑顔なんだ。
そして、最後に深々とお辞儀をして
メリーさんは消えていった…。
川の流れる音だけが静かに聞こる。
僕はその場でしばらく泣いていた。
なんとかメリーさんには涙を見せずにすんだ。
と、視界に光が横切った。
薄い緑色の発光体。
ふわふわと飛んでは優しい光を放つ。
今の時期では珍しい。
ホタル。
「なんだ、約束…守ってくれたじゃん」

526 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 03:54:39.61 ID:lopreZb60
週が明け、学校が始まる。
いつものようにバスへと乗り込む。
浩平の元へ行く。
「おはよう」
「やぁ、その腕はどうした?」
「ちょっと転んだ」
結局僕の右手にはヒビが入っていた。
石膏で固められた僕の腕。
「それはそうと、坂井教諭が
 逮捕、と言っても自首したらしいが」
さすがの僕もそのニュースだけは見ていた。
すべて自白し、賄賂を受け取った警察官も
芋ズルのように逮捕されていった。
坂井は精神が不安定で近々精神病院へ移されるとか。
浩平には色々と世話になった。
少しだけ話すとしよう。

544 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 04:02:59.94 ID:lopreZb60
あの日からトイレへ行っても
花子さんに出会うことは無くなってしまった。
はじめの頃は成仏してしまったのかと思ったが。
浩平が最近タバコがよく減ると言っていたので
おそらく健在なのだろう。
僕はトイレに出向き裏返しのバケツに
ありがとうと誰と無く感謝の言葉を口にした。

563 :efficus ◆3dGTQi3jXk [] :2007/06/23(土) 04:11:17.79 ID:lopreZb60
僕の携帯のメモリーには
今でもメリーさんの電話番号が入っている。
ある日突然。
「すみません、今からお伺いしてもよろしいですか?」
なんてかかって気そうな気がする。
そして家の玄関の傘立てには青と黒のボロボロの
傘がちゃんと今でも置いてある。
これがあの1週間の証拠なのだから。
僕は生涯あの一週間を決して忘れないだろう。
メリーさんと過ごした日々。
あの夕焼けを僕は決して忘れない。



                終わり

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年06月23日 07:49
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。