5スレ目 私メリーさん。今あなたの車の前にいるの

33 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/17(日) 21:35:03.53 (p)ID:TCmNTYtA0(22)
翌朝、起きて台所へ向かうと朝食だけが
用意されており。
母の姿はなかった。
「ああ、今日は木曜日か…」
何年も前から母は木曜日の早朝からでかけ
泊りがけで仕事をする。
金曜の夕方まで帰ってこない。
冷めた朝食を食べ、学校へ行く準備をする。
昨日の後遺症だろうか、肩少し凝っている
コリを感じながら制服に袖を通し、玄関へと向かった。

36 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/17(日) 21:42:18.65 (p)ID:TCmNTYtA0(22)
玄関のドアを開け、鍵を閉めて植木鉢の下へと隠す。
バス亭へ向かう途中、着信があった。
メリーさんからだ。
おそらく、後ろにいるんだろうなと一瞬振り返ろうと
したが、前それでスネられた事があるのを思い出し。
電話に出る事にした。
「もしもし私メリーさんですが。今、あなたの後ろにいます」
相変わらず、おかしなセリフだよなと思いながら振り返ろうとしたが
ちょっと僕の心にイタズラ心が芽生えた。
「おはよう、昨日はよく眠れた?」
「え?あっはい、おかげ様で」
振り返らないと言う、メリーさんの存在意義を全否定するような
行動にでる。

46 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/17(日) 21:56:25.65 (p)ID:TCmNTYtA0(22)
世間話で間を持たせ、僕は決して振り返らない。
僕の後でてくてくと足音が聞こえる。
バス亭に着いた所で、メリーさんの声が涙声になっていた。
「お願いですから、振り向いてください…」
これ以上やったら本当に泣いてしまいそうだったので
僕は観念して振り向いた。
そこには半べそかいているメリーさんがいた。
「いじわる…」
む。しまったやり過ぎた。
メリーさんは本格的にスネ始めた。
僕はどうにかしようとあの手この手を使い。
結局は放課後にクレープを奢る事で和解した。
イタズラはほどほどに。
そんなやりとりをしていると定刻通りにバスが来た。

54 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/17(日) 22:05:35.50 (p)ID:TCmNTYtA0(22)
「今日は乗ってくの?」
メリーさんにそう聞きいた。
「そうしますでも…無賃乗車じゃ…」
と、お金の心配をしていた。
どこまでも律儀な子だった。
まぁ、それがメリーさんのいい所なのだが。
バスへ乗り込むと、いつものように一番後ろの席へ。
案の定、一人で5人分の席を占領する浩平の下へ
「おはよう、昨日はありがとな」
「やぁ、いいって事よ。お前の頼みだ
 いつでも手を貸そう」
そうさわやかに言いのける浩平。
「あの…この方が浩平さん?」
メリーさんが耳元で話しかける。
当たる息がくすぐったい。
僕以外に声は聞こえないのだからヒソヒソ話の意味はないのだが。

63 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/17(日) 22:19:31.29 (p)ID:TCmNTYtA0(22)
うん、そうだよ。と小声で言う。
怪訝そうな顔で浩平がこちらを見ている。
突然メリーさんが言った。
「はじめまして!私メリーと申します。
 このたびは協力していただいてありがとうございました!」
深々と頭を下げる。
無論、聞こえるはずは無いのだが。
この子の律儀さときたら。
と、浩平が見えるはずの無いメリーさんの方を見ている。
「まさかとは思うが、そこに誰かいるのか?」
一瞬僕は心臓が跳ね上がり、メリーさんは頭を上げ目を
パチクリさせている。

70 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/17(日) 22:29:28.22 (p)ID:TCmNTYtA0(22)
「信じてもらえないかもしれないけど…いる
 ありがとうだってさ。」
僕は包み隠さずそう言った。
「ふむ、お前がいると言うならいるのだろう」
そう言うとバス中に響き渡る声で浩平は言った。
「俺は浩平!こいつの友達ならば俺にとっても
 友達だ、何か協力する事があったら言ってくれ!」
バス乗客全員が全員浩平の方を見ている。
メリーさんはポカンとした表情をしていたが
「はい!」
と、言ってもう一度深々と頭を下げた。
浩平。こいつはいったい何者なんだろうか。
浩平がすごいのかメリーさんの熱意が伝わったのかはわからないが
僕は少し嬉しくなった。
5人用の席を3人で占領し、
いつも通りの浩平のニュースの話と
世界の車窓からの話を聞きながら
学校へと向かった。

76 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/17(日) 22:37:22.28 (p)ID:TCmNTYtA0(22)
バス亭に着いてからも話は続いた。
意外だったのがメリーさんが
世界の車窓からのファンだった事。
浩平の話に興味深々だった。
時折、メリーさんが合いの手を入れるが
聞こえるはずが無い。無いはずなのだが
話が噛み合っている。
どこまでも恐ろしい男浩平。
僕はまたもや蚊帳の外だったのだが。
メリーさんの楽しそうな顔を見れただけでよかった。
でも少し嫉妬。
僕も世界の車窓から見ようかな。
そんな事を考えながら学校へと歩いていった。

86 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/17(日) 22:58:06.87 (p)ID:TCmNTYtA0(22)
下駄箱付近でメリーさんと別れる。
まぁ、また散策か花子さんと談笑なのだろう。
浩平と教室に着いた時には遅刻寸前だった。
席に着いた瞬間、担任が入って来てSHRをはじめる。
今日のSHRいつもよりさらに短かった。出席だけとって終わり。
別にいいが。
そして1時間目が始まる。
僕は読みかけの昨日の本の続きを読むことにした。
主人公に自分の姿を重ね合わせて読み進める。
やはりなかなか面白い本だ。
気がつくと本の残りも授業時間も残りわずかだった。

93 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/17(日) 23:21:16.91 (p)ID:TCmNTYtA0(22)
昼休みとなり、僕は読書をやめ
恒例のカレーパンタイムへと移る。
どんなに遅く食べても5分で無くなるのが
欠点だが今日もおいしくいただいた。
トイレへ行こうかと思ったが、連日トイレへ
入り浸っていると言う噂が流れたら
友達が減りそうだ。
どうせ、掃除で行かなければならないので
後回しにする事にした。
僕は本を手に取り残り3分の1を
消化する事にした。
物語もいよいよ終盤。
主人公がどう動くのかが見ものだ。

151 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 00:11:49.22 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
掃除開始のチャイムが鳴る。
いい所なのにとしぶしぶトイレへと向かう。
この調子なら6時間目まで読めば終わるだろう。
早く続きが読みたいが読んでしまえば物語が
終わる。すこし悲しい。
トイレのドアを開くと花子さん、
今日はメリーさんもいた。
「よぉ!」
「どうも」
なんだか機嫌がよさそうだ。
「まぁ、あらかたメリーに聞いたが
 その貼り紙作戦とやらはうまく行きそうか?」
「確証は無いけど少しでもアクションがあれば
 僕はそれを見逃さない。」
おうおう、頼もしいね~と花子さんがにやにやしながら言う。
僕は馬鹿にされているんだろうか。

332 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 20:18:07.25 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
「まぁ、気が向いたら私も手伝ってやる」
と、花子さんは言った。
なんだろう、さっきからやけに機嫌がいい。
どうかしたのだろうか。
「小学生に頼るほど困っちゃいないよ」
「20だ!」
トイレットペーパーが飛んできた。
根本的な部分はいつもの花子さんらしい。
いや、トイレットペーパーなら軽い方か
やっぱり今日の花子さんはどこか優しい。
「よくわからない…けど、最後まで協力するってか」
かはははは、と花子さんは笑う。
このせいか!なんだか無償に恥ずかしくなってきた。
と言うか、メリーさんちょっと口が軽いんじゃないのか?
メリーさんの方を見ると白々しく窓から外を眺めていた。
僕、いじられっぱなし。

338 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 20:41:53.63 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
その後もいじられっぱなしだった。
メリーさんに助けを求めたが。
相変わらず外を見ている。
僕が恥ずかしさで死にそうになっていると
いつもの予鈴。
掃除終了のチャイムに救われた僕。
さっさと、トイレを後する事にした。
ドアを開いたとき花子さんは言った。
「協力してやるのは本当だ。
 どうしても困ったら呼べよ」
僕は手を上げるだけのジェスチャーで答えた。
放課後まで後少し
後でメリーさんに文句言ってやる。

348 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 21:19:17.37 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
メリーさんをトイレは置き去りにして
教室へと向かう。
授業が始まるが当然僕は本を読む。
残り少ない物語を読み進めるために。
ゆっくりと時間をかけ
僕は読み終わらせた。
その物語を。
マジかよ…と、読み終わった僕の胸には
わだかまりが残った。
結局、この本の主人公は幼馴染の女の子を救えなかった。
さらに言うと最後の一押しを押したのは主人公自信だった。
自分の姿を重ね合わせて読んでいたので、
正直精神的なダメージは大きかった。
まるでこれからを暗示しているような。
だが、この本の物語は終わったが
僕は続いている。
僕はこの主人公のようにはならないと心に誓った。

371 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 22:05:35.38 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
放課後になり、いつものように校門へ向かう。
下校していく生徒達に混ざって校門の隅にメリーさんが
たっていた。
メリーさんは僕に気づき、気まずそうな顔をしている。
僕はメリーさんの下へと近づき、言った。
「話があります」
「…はい」
メリーさんはしょんぼりと素直に聞き入れた。
「とりあえず言い訳は?」
「え、えっと…そ、そう朝のお返しです!
 全然、振り向いてくれなかったじゃないですか!」
しどろもどろにメリーさんは言った。
「じゃあクレープは無しで、これでお相子って事で」
「…ごめんなさい、言い訳しません」
メリーさんの中では怒られるより
クレープが食べられない事の方が一大事らしい。

379 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 22:16:14.47 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
そんな素直なメリーさんを見たら可笑しくて
笑ってしまった。
そんな僕をメリーさんはきょとんとした顔で見ている。
他にも下校途中の生徒がこちらを白い目で見ていたが
最近じゃもう気にしなくなった。
「まぁいいや、クレープ食べに行こう」
きょとんとした顔が笑顔に変わる。
「はい!」
そう、元気よく返事をするメリーさん。
僕達は繁華街へと歩き始めた。
貼り紙というタネは蒔いた。
だが、犯人探しはメリーさんの果たせなかった事ではない。
果たせなかった事は別にある。
今日は、初めて出会ったときに言っていた
断片的な記憶の中で出てきた場所へ行ってみる事にする。

387 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 22:34:58.07 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
この位置から行けば
川、神社、クレープ屋、屋上の順番だろうか。
曖昧な所もあるが、そこはメリーさんに案内して
もらう事にしよう。
最初に川に行くことにする。
この街を流れている川は一級河川でなかなかに広い。
とりあえず、川が見えるところまでメリーさんと行って見た。
流れる川を眺めていると、メリーさんは言った。
「知ってますか?この川って結構綺麗で
 夏になれば蛍も見れるんですよ」
「へぇ、それは知らなかった。」
長年この街に住んでいるが、初めて得た情報だった。
この川周辺に蛍の光が無数に飛んでいるのを想像する。
「あのさ」
「はい?」
「いや…ごめんなんでもない」
蛍を一緒に見に行こう。そう言いかけたがやめた。
蛍が飛んでいるのを想像した時、隣にはメリーさんがいた。
叶うはずも無いのに。

392 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 22:44:12.23 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
でも、願う事ぐらいしてもいいだろう?。
僕は誰となく話しかけた。
ここに手がかりは無さそうだ。
気を取り直し、次の場所へと向かう事にした。
神社、と言っても漠然としていて
この街で一番大きな神社かと思っていたが
メリーさんが言うには違うらしい。
メリーさんに案内されるがまま僕は街外れへと向かった。
そこには、細く長い階段。
その先にはさびれた境内があった。
「ここ?」
「そうです」
そう一言言ってメリーさんはずんずんと階段を上っていった。
僕も後を追う。
小さな森の中にいるような気分だった。
木々が太陽の光を遮り、薄暗かったがなぜだか不気味な
感じはしない。

398 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 22:56:45.73 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
階段を上りきると、小さな社があった。
ちゃっちいなんて思わない。
小さいが、厳かな雰囲気があった。
無神派な僕でさえ、神様がいるような気分になる。
この社に用があるのかと思ったがそうではないらしい。
少し先の木製のベンチにメリーさんは座って手招きをしている。
近づいていくとポンポンと、ベンチの空いている部分を叩く。
隣に座れとの事らしい。
とりあえず、座ってみた。
「ここは、私が思い悩んだりした時によく来てたんです。
 目を閉じると結構気持ちいいんですよ」
まぁ、そのまま寝ちゃう事が多かったんですがと
メリーさんが笑う。
僕は目を閉じてみる。
辺りが静寂に包まれ、車の騒音などは一切聞こえない。
木々の葉が擦れる音だけがする。
そして、涼しい風がどこからか吹いてきて
僕の頭を透明にする。

405 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 23:10:05.47 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
月並みだが清々しい気持ちになれた。
確かにここはいい場所だな。
僕も思い悩んだら、ここへ来よう。
目を開けると隣でメリーさんが目を閉じていた。
僕も、もう一度目を閉じる。
二人の間を駆ける風が心地よかった。
結局、ここにも手がかりは無かった。
僕達は、繁華街の中にある公園前へと向かう
次はメリーさん待望のクレープ屋だ。
このクレープ屋は移動式で街の人間なら誰でも知ってるほど有名。
僕が中1頃にできた老舗だ。
今日も女子高生達でにぎわっている。

410 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 23:20:06.24 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
メリーさんに何味がいいか聞くと
スタンダードなストロベリー味を所望した。
僕は新発売のパイン味を食べて見る事にした。
正直、男一人でクレープ屋に並ぶのは恥ずかしかった。
クレープ屋のおっちゃんが何故かおまけして
クリームもソースも多目に付けてくれた事が
気にかかるが、まぁ得したのだからいいだろう。
どで食べようかと悩んでいたが
メリーさんの提案で、最後の屋上で食べる事にした。
クレープを持ったまま、メリーさんの学校へと向かう
この屋上とはメリーさんの学校の屋上らしい。
中からは入れないが、外の非常階段から行けば入れると言う
秘密を教えてもらい。
その通りに行くと本当に屋上へ入れた。
ここで何をするのかメリーさんに聞いたが
先にクレープを食べてかららしい。
僕はメリーさんにストロベリー味を手渡し、
座って給水塔へとよりかかった。

418 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 23:29:56.02 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
「いただきます!」
と、行儀良く食べる前の感謝を忘れない。
口にクリームをいっぱい付けてメリーさんは
クレープを食べ始めた。
正直言って行儀は悪いが、その笑顔を見たら
誰が責められるだろう。
僕は普段あまり甘い物は食べないのだがこれはうまい。
角切りのパインがいい味を出していた。
ふと、気がつくとメリーさんは
はむはむと自分のクレープを食べながら
僕のクレープへと目が釘付けだった。
まぁ言いたい事はわかる。
「…ちょっと食べる?」
「いいんですか?」
待ってましたと言わんばかりに大きく1口、
クレープ全体で言うと3割を攫っていった。
もぐもぐとメリーさんは満面の笑みで
おいしいを表現していた。

437 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/18(月) 23:43:32.34 (p)ID:Uc1dGiiD0(39)
なんだかデートみたいだな。
そう思った途端、なんだか照れてきた。
メリーさんが齧った部分を見つめる。
なんだか変な感情が沸く前に食べきる事にした。
やはり甘い。
クレープタイムもフィナーレを向かえた
「ごちそうさまでした」
二人で声を揃え、言った。
メリーさんが名残惜しそうにごみを片付ける。
と、メリーさんが指を指し、こう言った。
「そろそろですよ」
指差す先には夕日。
あの大河に反射して、二つの太陽が沈もうとしていた。
自分の街にもこんな絶景ポイントがあったのか。
僕の好きなテレビ番組、世界の絶景100選に応募してみようかな。
いや、みんなに教えるなんてもったいない。
ちょっとした独占欲が働いた。

484 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/19(火) 00:09:45.78 (p)ID:zyEFlBf30(28)
「綺麗…ですよね…
 この風景を誰かに見せたかったんです」
メリーさんフェンス越しには夕日を眺めていた。
夕日に照らされたメリーさんの顔がいつもより大人びて
それでいて儚げに見えた。
これほど絵になっている風景もなかなか無いだろう。
そんなメリーさんにドキッっとする。
だけど、同時に悲しくもなった。
メリーさんからこの日常を奪った犯人を僕は許さない。
だけど、今はこの景色を目に焼き付けておこう。
もしかしたら、二度と見れないのかもしれないのだから。
やがて、2つの太陽は地平線へと消えていった。
一気に辺りは薄暗くなる。
「帰ろっか」
メリーさんは目を袖でゴシゴシと擦り
いつもの調子でこう言った。
「はい!」

517 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/19(火) 00:51:08.50 (p)ID:zyEFlBf30(28)
自宅の前に着く。
「ここで、お別れですね」
と、メリーさんが言ったが僕はその気はなかった。
「今日、親が帰ってこないんだ
 よかったら晩御飯一緒に食べない?
 何か作るよ」
そう、勇気を出してダメ元で言って見た。
メリーさんはしばらく考えていた。
困った顔になったり赤面したりしていたが
やがて、それじゃあと言って承諾してくれた。
植木鉢の下から鍵を取りだし、ドアを開ける。
「お、お邪魔します!」
メリーさんが高らかに言った。
いつもは無断で入って来ていたのに
何をかしこまっているのだろうか。
台所へ直行し、冷蔵庫を開けると
たいした食材は入っていなかった。
ここはアレしかないだろう。
男の料理、チャーハン。

522 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/19(火) 01:00:36.29 (p)ID:zyEFlBf30(28)
メリーさんを椅子に座らせ。
調理に取り掛かる。
まず、ご飯を皿に敷き冷凍庫に入れる。
これがポイントだ。これでご飯がパラパラになる。
親父から受け継いだ技だった。
親父曰く、チャーハンの作れない男は男では無いらしい。
それからというものチャーハンの作り方だけはマスターした。
いつものように調理する。
何百回と繰り返した事なので特に支障はない。
フライパンを振り、
パラパラとしたご飯が宙を舞った時
メリーさんが、おぉ~!と歓声を上げた。
これで完成。
付け合せのインスタントスープと
適当に盛り合わせたサラダで食卓を彩った。

529 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/19(火) 01:06:51.50 (p)ID:zyEFlBf30(28)
「いただきます!」
二人で手と声を合わせる。
メリーさんがチャーハンを口に入れると
おいしい!と言って喜んでくれた。
「料理お上手なんですね」
「チャーハンだけだけどね」
ちょっと得意げに言う僕。
女の子に食べさせるのは初めてだった。
ひそかな夢が一つ叶い、素直にうれしかった。
それがメリーさんであった事がさらに嬉さを引き立てる。
楽しい食卓だった、これ以上無いくらい。
メリーさんとの思い出がまた一つ増えた。

532 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/19(火) 01:12:59.33 (p)ID:zyEFlBf30(28)
食べ終えた食器を洗った所で
メリーさんはそろそろ帰りますと言った。
僕は玄関に出て見送りをする。
「それじゃ、今度こそこれで、ごちそうさまでした。
 今日はいろいろと楽しかったです。」
頭を下げるメリーさん。
いつもならそれじゃあ、また明日というのだが、
僕はずっと考えていた事を
思い切って言うことにした。
「今度、蛍…見に行かない?」
メリーさんは一瞬さみしそうな顔をしたが
「ええ、かならず行きましょうね」
と、いつもの調子で言ってくれた。
「それじゃあ、また明日」
「はい、また明日」
いつものあいさつを交わし、メリーさんは帰っていった。

540 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/19(火) 01:23:07.65 (p)ID:zyEFlBf30(28)
僕は上機嫌で風呂へ入った。
その後も顔のニヤけが収まらなかった。
布団へ入って電気を消す。
オレンジ色の光の中
メリーさんと蛍を見に行ける日の事を願い。
僕は寝ることにした。

夢の狭間をさまよっていると
突然の水の音で現実へと引き戻された。
ザーっと言う屋根に雨が当たる音が響く。
「…雨!」
僕は飛び起きた。
しまった、貼り紙が
なんの加工もしていないただの紙なので
ほとんどが水にやられるだろう。
なんでこんな事考えられなかったのか。
ガチャリ。
と、突然玄関のドアが開く音がした。
親かと思ったが、今日は泊まり込みの仕事だ。
時計を見ると2時を過ぎている。
お客さんって時間でもないだろう。
そもそもお客さんはインターホンというものを使う。
つまりお客ではない誰か…誰だ。

733 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/19(火) 21:02:19.19 (p)ID:zyEFlBf30(28)
ギシギシと音を立てて「誰か」が2階へ上がってくる。
音を立てないように気をつけているようだが
この家の古さから言ってそれは不可能だ。
僕の部屋の前で足音が止まる。
そしてガチャリ…と、小さな音を立ててドアがゆっくりと開いた。
オレンジ色の光の向こう。皮手袋に覆面、手に持っている中型ナイフを持っている人間。
誰が見ても強盗、もしくはそれに順ずるものだとわかるだろう。
けれど僕は違った。こいつこそ中山 准を殺した犯人だと直感で判断した。
だが、なぜ家の場所が?。貼り紙には電話番号しか書いていない。
それになんでこうも親がいないタイミングで…。
僕はこの突然ぎる状況に混乱する。
真っ直ぐベットの方へ歩み寄る覆面。
そして、一気にナイフを布団に突き立てた。

739 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/19(火) 21:19:18.60 (p)ID:zyEFlBf30(28)
ドスン!っと言う音が部屋に響いた。
驚いた事に僕を殺す事に躊躇も迷いも一切ない。
車で跳ねた中山 准を河原へ落とす奴なのだから当たり前か。
見つかれば、確実にこいつは僕を殺すだろう。
心臓が跳ね上がり。冷や汗が吹き出る。
手ごたえの無い感触に覆面があせり始めた。
僕はこいつが来る前に布団の中にタオルケットを詰めて
偽装し、別の場所へと隠れた。
だが、タオルケットを入れたのがミスだったと
今更後悔する。
元から居なかった。と言う偽装をすればよかったのに、
危険を察知し自ら別の場所へ逃げた。
と言う事を知らせてしまったのだ。
この狭い部屋、隠れられる場所は限られてくる。
状況を把握しようと少し開けていた隙間。
それに覆面が気づく。
そしてゆっくりと近づいてきた。
僕が潜んでるクローゼットへ。

753 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/19(火) 21:57:50.48 (p)ID:zyEFlBf30(28)
まずい、さすがにこれは。
近づいてくる覆面。
このままで開けられた瞬間殺される。
こんな所で死ぬわけにはいかない
メリーさんとの約束が残ってるんだ。
ここは一か八か賭けに出た。
目いっぱい引き付けたところで
僕はクローゼットを蹴破る。
バン!っと勢いよく開かれる扉。
「!?」
覆面がひるんだ。
そのまま勢いにまかせ突進する。
こいつを転ばせてその隙に逃げる作戦だったのだが。
その作戦は失敗に終わった。
僕の体は受け止められてしまっていた。
身長差が結果に大きく響いたのだろう。
そのまま僕の力は受け流され
ベットの上へと投げ飛ばされる。
やばい。と、思った時にはもう遅い。
覆面が迫ってくる。
とっさに僕はこう叫んだ。
「待て!取引だ!」
これがダメだったら僕は死ぬ。

760 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/19(火) 22:12:51.85 (p)ID:zyEFlBf30(28)
覆面の動きが一瞬止まる。
僕は考える暇を与えず、すぐさま続ける
「僕はあんたが犯人だって言う証拠を持っている。
 それを渡すから命は助けてくれ。
 それに二度と犯人探しなんてしない」
証拠。と言葉に反応したのか
覆面が考えるそぶりを見せる。
そしてゆっくりと首を縦に振った。
おそらく、証拠を渡した後で僕は殺されるだろう。
だが時間は稼げた。この時間で状況を整理する。
ドアは遠い。走ってもドアノブに手をかけたところで
後ろから刺されるだろう。
窓は近いが鍵がかかっていて開けている間にやられる
それにここは2階、ジャンプした所で
足をやられ動けなくなった所をグサリだ。
と、なるとこれに賭けるしかない。
覆面が顎をしゃくる。
証拠はどこだと言う意味らしい。
「証拠は…その机の鍵付の引き出しの中だ」

777 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/19(火) 22:27:22.58 (p)ID:zyEFlBf30(28)
覆面はこちらの方を向きながら
ゆっくりと下がっていく。
ガチャガチャと引き出しを開けようとするが
鍵がかかっている。
「鍵はそこの猫の貯金箱の中だ」
と、素直に鍵の位置を教えた。
言われた通りに鍵を取り出し
ロックを外す覆面。
表向きの中身は文房具だ。
バラバラと中身を床に投げ捨てていく。
どこだ!っと言わんばかりに強く睨まれた。
「一枚、板が敷いてあるその下だ」
僕はタイミングを見計らう。
なかなか外れない板にいらだつ覆面。
と、瞬間一気に辺りが明るくなり、
火が勢いよく燃え上がる。
僕の仕掛けたトラップが発動した。

876 :efficus ◆3dGTQi3jXk :2007/06/20(水) 00:06:54.17 (p)ID:/iIPo7Fs0(9)
覆面の腕に炎が回り、声にならない悲鳴を上げる。
この隙を見逃さない。
ベットの上から
僕は渾身のドロップキックをかました。
わき腹にヒットし、壁まで吹っ飛ぶ覆面。
僕も床に叩きつけられた
ごろごろと床に転がりながら火を消そうとしている
覆面に追い討ちをかけようと、僕は起き上がったが
火が消える方が早く、逃げ出す覆面。
つかさず追いかけようとしたが
カーテンに火が引火していた。
ドタドタと階段を駆け下りる音を尻目に
僕はカーテンを引きちぎり。
窓の外へと投げる。
幸い外は雨なのですぐに消えるだろう。
窓から覆面が走って逃げていくのが見えた。
今からではもう間に合わないだろう。
間に合ったところでおそらく返り討ちだ。
はぁはぁと、乱れた息を整える。
僕はなんとか生き延びた。

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最終更新:2007年06月22日 23:47
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