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Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-41


「ウーン……、」

深夜のトリステイン魔法学院、本塔上部の外壁。
ディーキンは窓枠に腰かけて、先程ミス・ロングビルが応急処置として『錬金』で穴を塞いだ宝物庫の壁のあたりを見つめながら、物思いにふけっていた。

宝物庫を襲った巨大ゴーレムをキュルケらが破壊した、あの後。
コルベールとロングビルに合流して事情を聴き、皆で宝物庫の確認に向かったところ、残念ながらすでに宝物が盗まれていることが判明した。
また、残されていたサインから、大方の推測通り犯人は近頃世間を騒がせている『土くれ』のフーケという盗賊らしいことも分かった。

手分けして周囲を捜索しては見たものの、既に夜とあって暗闇に紛れて逃走したと思われる犯人を見つけ出すことはできず……。
これ以上捜索しても無駄だと判断したコルベールが、学院長に報告して翌朝緊急対策会議を開くということで方針をまとめ、ひとまず解散となったのだ。

その際にディーキンは、自分は夜目が利くから念の為に宝物庫の見張りをしよう、と申し出たのである。

当然のようにルイズも、使い魔にだけ頑張らせるわけにはいかないと一緒に見張りをすることを主張した。
しかし、実際問題としてルイズがいても役に立つわけではないので、十分睡眠をとって翌日に備えた方が有益だと説き伏せて休んでもらった。
ディーキン自身は、短時間の睡眠でもしっかりとリフレッシュできる魔法の寝袋を持っているので問題はない。
一応、朝日の上る少し前あたりの時間にはコルベールが見張りを交代してくれることになっているので、それから休めば十分だろう。

さて、申し出はしたものの、ディーキンは別に、盗賊が今更また戻って来るだろうなどと思っているわけではない。
翌朝の会議までにいろいろと考えをまとめて行動の方針を決め、必要な準備などを済ませておきたかったのである。
見張りは一人で静かに考えをまとめる、そのついでのようなものだ。

「ンー……、一体、そのフーケって人は、どうやって逃げたのかな?」

あの時は巨大なゴーレムに注意が引きつけられてしまい、本来ならばより重要な犯人の捕縛よりもそちらの破壊を優先してしまった。
それについては、自分たちの失態だったと思う。

しかし、一応宝物庫の方にも常に注意はしていたつもりなのだ。
自分たちが学院に戻ってきた時、ちょうどゴーレムが宝物庫の壁を殴り抜いたのが見えた。
理屈から考えれば、犯人が宝物庫に入り込み、宝を持って逃げ去ったのはその後のはずだ。

だが、自分はそういった不審な人影にはまるで気付かなかった。
現場の回りを後で調べてみたが、足跡などの痕跡は近くには見当たらなかった。
空を飛んである程度離れた場所まで逃げたとすれば、その様子が目に付かなかったというのは不自然だろう。
遥か高空から獲物の姿を捉える優れた視覚を持つシルフィードにも聞いてみたが、やはり不審な人影などには全く気付かなかったという。

犯人は一体、どんな方法で気付かれずに宝物庫に入り込み、そして逃げ出したのだろうか?

透明化の呪文?
いや、ハルケギニアではその手の呪文は一般に知られていないようだ。
第一、仮に特殊なマジックアイテムなどで透明化していたとしても、自分にはちゃんと見える。
ハルケギニアでは簡単な変装の呪文でさえ極めて高度な代物で、幻覚を作る魔法は殆ど知られていないようだから透明化も含めて幻術の線はまずあるまい。

変身の呪文は、ハルケギニアでは先住魔法にしかないようだ。
そうなると、フーケの正体が亜人かなにかでない限りは小さな動物などに変身して逃げたというのもありそうにない。

瞬間移動……これもハルケギニアでは遺失しているようだ。
そもそも瞬間移動が使えるなら、壁に穴を開ける必要自体あるまい。
エーテル界に移動しての壁抜けも、それと同じ理由からまずありえないだろう。

そうすると、他にはいったいどんな手が考えられるだろうか?

「ええと、ディーキンなら……?」

試しに、フーケという盗賊の立場に立って考えてみる。
もし仮に、自分がこの宝物庫から盗むとしたなら、どんな手を使うだろうか?

まあ普通に考えれば、おそらく《次元扉(ディメンジョン・ドア)》のような呪文で宝物庫の中へ直接瞬間移動するか。
あるいは《明滅(ブリンク)》のような呪文で宝物庫の壁を抜けるか。
いずれにせよ、そもそも穴など開けずに密かに侵入するだろう。

ただ丈夫な壁で囲ってあるだけで瞬間移動やエーテル界を利用しての侵入等に対する備えのまったくない宝物庫など、フェイルーンではナンセンスである。
少しばかり気の利いた術者にとっては、そんなものは何の障害にもなりはしないのだ。

無論、こちらの世界ではそういった呪文が知られていない以上、それは仕方のないことではある。
フーケが取った手段もそのようなものではないだろうから、今はそういった方法を考えても仕方がないだろう。

「じゃあ、もしも穴を開けて盗み出すとしたら……、」

実際にはフーケは宝物庫に穴を開けたのだから、穴を開けて盗む場合を考えよう。
ディーキンはそう呟きながら、翼を羽ばたかせて宝物庫の傍へ移動する。
そして、まだ崩れていない外壁をじっと眺めたり、こんこんと叩いたりして検分してみた。

見たところ、ただ分厚いだけでごく普通の石材でできた壁だ。
内部には金属なども入れられているかもしれないが、いずれにせよ破壊できないようなものではない。
先程ミス・ロングビルが壁を修繕する前に見て大体の壁の分厚さも把握している。

この程度の分厚さなら、エンセリックのようなアダマンティン製の武器を使って、出せる全力で叩きまくれば、おそらく1分と経たずに破壊できるはずだ。
人が寝静まった夜を狙って、《静寂(サイレンス)》の呪文で音を消して手早く作業すればどうとでもなるだろう。

いや、しかし、ハルケギニアにはアダマンティン製の武器はないかもしれない。
まあその場合には少々余計に時間がかかるだろうが、せいぜい十数秒程度壊れるのが遅くなるだけで大差はないだろう。

とはいえ、フーケのように巨大なゴーレムを使うとなるとそうもいくまい。
物凄く目立つし音や地響きの起こる範囲も大きくなり過ぎるので、たとえ深夜でも隠密な作業は不可能だろう。
まあそれでも、1分以内で作業を終えられれば、余程警戒が厳しいか運が悪くない限りはどうにか……。

(……ン? そういえば、あのゴーレムは壊すのにどのくらいかかってたのかな?)

あのゴーレムにはどのくらいの力があったのだろうかと、ディーキンはふと考えた。

自分がサポートしたとはいえ、キュルケの呪文とタバサの竜巻の連発であっけなく壊れたところを見ると、そんなにすごい強さがあったとも思えない。
仮に超巨大サイズのアニメイテッド・オブジェクトと同程度のパワーだったすると、数十回は殴らなければならなかったはずだ。
それだと、壊すのに数分はかかる。下手をしたら、十分以上かかるかもしれない。

だがコルベールによれば、彼はゴーレムの出現に気が付いてすぐに飛び出したものの、宝物庫を破られるのには間に合わなかったという。
正確なところはわからないが、その話からすればあのゴーレムは1分と経たずに宝物庫の壁を殴り壊したのではないだろうか?

そうすると、あのゴーレムは強さの割に異様にパワーに特化していたのか……。
あるいはフーケが事前に密かに学院に忍び込んで、人目を盗んで壁に細工でもして脆くしていたのか……。

「……ンー、わかんないね」

様々に可能性は考えられるが、今は当て推量しかできないし、あまり深く詮索してみてもしょうがないだろう。
ディーキンは頭を振って、その考えを一旦脇へ追いやった。

それよりも今、大事なのはフーケがどうやって逃げたかだろう。
それがわかれば、足取りを追う手掛かりになるかも知れないのだから。

ディーキンは頑張って、それについて色々と考えてみた。

この世界にどんな魔法があるのかについては、ここしばらく本を頑張って読んだりして、大体学んだつもりだ。
それらの魔法をあれこれ頭の中で組み合わせてみて、自分やシルフィードに気付かれずに手早く作業を終えて逃げ去る方法を模索する。

「ウウ~ン……、」

しかし、どうにもピンとこなかった。

風の奥義である『偏在』とやらだろうか?
いや、フーケは巨大ゴーレムを使うところからして『土』のメイジらしい。『風』のスクウェアスペルが使えるとは思えない。
それに第一、偏在では見つからずに跡形もなく消えることはできても、それでは宝を盗み出すことはできないではないか。

逃げたふりをして宝物庫のどこかに隠れ、ほとぼりが冷めてから立ち去るという手も考えてはみたが、まず無理だろう。
先程宝物庫に入った時、中に隠れている者がいる様子はなかった。みんなで手分けしてちゃんと調べたので、見落としがあったとは思えない。
扉には外から閂が掛けてあったから、内側から扉を開いて逃げることはできないし……。

あるいは、例えば一回限り瞬間移動ができる使い捨てのマジックアイテムとかを持っていて、宝を手にした後の帰りにはそれを使ったのだろうか?
ありえなくはないが、そういった希少なマジックアイテムの可能性まで考慮し出すと、きりがなくなってくる。
それではどうとでも考えられすぎて、調査の手掛かりにはならない。

「……ダメだね、やっぱり」

ディーキンはしばらくあれこれと考えた後、ついに諦めてそう結論した。

これはやはり、推測だけでは如何ともしがたい。
信頼できる結果を得るには、呪文を使って調べるべきだろう。

そうなると、どんな呪文を使うのがよいか?

真っ先に考えられるのは、《念視(スクライング)》ないしはその上位版である《上級念視(グレーター・スクライング)》であろう。
実際、ディーキンは宝物が盗まれていることが判明した際、すぐにフーケに対してそれを用いることを考えた。
フーケの姿を捉えられれば、その場に直接瞬間移動して彼または彼女を叩きのめし、宝を取り戻すことさえも可能なのだから。

しかし、冷静に思案した結果、それを試してみるのは翌朝以降でもよいだろうと結論したのである。

念視系の魔法は目標のことを詳しく知らない場合、抵抗されやすくなる。
今の場合、ディーキンはフーケのことを噂程度しか知らず、姿も見ていないので、抵抗される可能性はかなりあるだろう。
そしてもし抵抗されれば、この呪文の性質上、24時間の間は再び念視を試みることはできない。
そうでなくとも自力修得していない呪文なので、発動はマジックアイテムに頼らねばならず、そうそう何度もやり直してみるというわけにはいかないのだ。

そのような不確実な呪文に頼るのは、他に手がないと分かった時の最後の手段にしたい。
今は深夜なのだし、フーケだって手に入れた宝をすぐに換金するというわけにはいかないだろう。しばらくは手元に持っているはずだ。
それならば、翌朝の会議とやらの結果を待ってからでも遅くはあるまい。

もし、宝物の杖を事前に見たことがあれば、《物体定位(ロケート・オブジェクト)》の呪文も使えたのだが……。
見たことがない物は探せないので、どうしようもない。

そうなると、他には何があるか……。

「……ウーン。あの呪文が使えれば、間違いないんだけど……、」

今頭に思い描いている、あの呪文さえ使えれば。
フーケの正体も、宝物をいかにして盗み出しそして逃げたのかも、間違いなく明らかになるはずだ。

唯一の問題は、ディーキンは今のところその呪文を習得しておらず、発動可能なマジックアイテムも持っていないということだが……。
そうすると、ここは。

「……よし。ディーキンはこの機会に、ボスに連絡を取るの」

そろそろ落ち着いて、この世界のこともだいぶわかって来たことだし。
いい加減にボスに連絡を取り、事情を説明して協力を求め、こちらで不足したものがあれば最低限は調達できるようにもしておかねば。
翌朝の会議までに調達が間に合うかは、少し怪しいが……。

ディーキンはそう決心すると、本塔の最上部、誰にも見られない屋上の片隅にまで、翼を広げて飛んで行った。
そして、スクロールケースの中から一枚の巻物を取り出す。

「ええっと……、よし。これを使えばいいね」

そうひとりごちると、ディーキンは《他次元界の友(プレイナー・アライ)》の巻物を広げて、ひとつ咳払いをする。
この呪文は本来バードの用いられるものではないが、<魔法装置使用>の技能によって、いわば気合いで無理矢理使うことは可能だ。

ディーキンは気を引き締めると、普段に似合わぬ厳かな声で、長い詠唱を開始した。

「《アーケイニス・ヴル…… ビアー・ケムセオー……  ア・フ・ラ、マ・ズ・ダ……》」

最初はゆっくりとした低い声で、歌うように。
それから進むにつれて次第にトーンが上がり、詠唱には熱が篭っていく。

合わせて、ディーキンの目の前の床に仄かに白く輝く召喚の魔方陣が浮かび上がり、詠唱が進むにつれて輝きを増していった。

「――――― 来たれ、次元の果て、永遠の楽土から! 星幽界のデーヴァ、我が友ラヴォエラ、ジラメシアよ!!」

10分にも及ぶ長い詠唱の果てに、叫ぶようにして最後の言葉が紡ぎだされた。
その声に呼応するように、魔方陣は眩い光を噴き上げ、その光が輝く純白の羽根の渦になって、天界からの召喚の門を形作る。
その位相門を通って、自身の名を呼ばれた眩く輝く神々しい存在が、この世界へと近づいてきた。

やがて姿を現したのは、身の丈2メイルを優に超える、非常に長身の美しい女性だった。
羽毛のある純白の翼を持ち、柔軟でしなやかそうなその体は、内なる力によって仄かに光り輝いている。

「……ディーキン? ディーキンよね、私を呼び出したのは?」

「オオ、そうだよ。お久し振りだね、ラヴォエラ。翼は、ちゃんと直ったの?」

「ええ、もうすっかりね。また会えて嬉しいわ、ディーキン。
 なんだかここは、ずいぶんと……、変わった世界みたいね。私は天界とレルムの物質界以外の世界には、あんまり行った経験がないけど……」

その女性は微笑んでディーキンの傍に歩み寄ると、膝をついて彼と握手をした。

彼女の名はラヴォエラ。
ディーキンがボスと共にアンダーダークを旅していた途中に出会った天使……、天上世界に住まうアストラル・デーヴァ(星幽界の天人)である。


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